現場の経験を通して考える、国際協力とキャリア
イラストやクイズを交えながら、学生たちに語りかける内山さん
2025年12月9日(火)、多摩キャンパス グローバル館7階のホールにて「JICA海外協力隊セミナー2025」を開催しました。本セミナーは、JICA海外協力隊の活動や国際協力の現場について理解を深めることを目的に、2009年から実施されています。講師には、JICA(独立行政法人 国際協力機構)より内山華世さんと、本学OBでJICA海外協力隊の隊員としてガーナで活動した薮下拓紀さんを講師に迎え、約70名の学生が参加しました。
セミナーは、JICA職員の内山さんによるスワヒリ語での元気な挨拶から始まりました。
内山さんは高校理科の教員免許を取得後、総合商社で機械・電気分野の設計や営業職として勤務した経歴を紹介。「誰かのためになることをしたい」という思いから、JICA海外協力隊としてケニアに派遣され、2年間にわたり理科教育隊員として活動した経験を語りました。
世界には約200か国あり、そのうち約150か国が開発途上国で、世界人口の約80%がそうした国々に暮らしています。内山さんはこの割合を、会場に集まった参加者の人数に置き換えながら説明し、学生が実感をもって理解できるよう工夫しました。
テーマ「言葉が届くってどういうことだろう?」
中大OB 薮下さんによるJICA海外協力隊の体験談
Republic of Ghana
薮下さん(経済学部 国際経済学科 2019年卒)は、JICA海外協力隊としてガーナに派遣され、経営管理隊員として活動しました。大学卒業後は建設機械メーカーに入社し、調達業務を担当。会社に籍を置いたまま参加できる「現職参加制度」を利用し、2023年7月から2025年3月までの約1年8か月、ガーナでの活動に取り組みました。
協力隊参加のきっかけは、大学時代に林光洋ゼミで開発経済学を学び、4年生の卒業前にケニアで1か月間NGOボランティアを経験したことでした。異文化の中での生活は楽しかった一方、思うような成果を出せなかった悔しさから、「思いだけでなく、ビジネスやモノづくりの視点が必要だ」と感じたといいます。就職後は、仕事を通じて専門を高めることやチームで課題に向き合う面白さを学び、再びアフリカで挑戦したいという思いが強まりました。
派遣先のマンポンは、西アフリカ・ガーナのアシャンティ州に位置する人口約11万人の地域で、主な産業は農業です。薮下さんは、地域のビジネス支援を行うビジネスリソースセンター(BRC)に所属し、企業支援の質の向上や中小零細企業の経営支援に取り組みました。農業中心の経済や小規模な家族経営が多い現状、若者の高い失業率など、地域が抱える課題についても紹介しました。
「言語の壁」を体感するワークショップ
続いて、言語の壁による情報理解の難しさを体感するワークショップが行われました。
日本語または英語の資料がランダムに配布され、学生たちは助成金制度に関する内容を読み取り、制限時間内に3つの質問に答える課題に挑戦しました。結果として、日本語の資料を読んだ学生の正解率が高く、英語では理解に苦戦する様子も見られました。
その後の意見共有では、「英語の資料を読むことに不安や負担を感じた」、「日本語でも難しい行政情報が、英語だったらなおさら」といった声が上がり、言語の壁が行動の妨げになることを参加した学生たちは実感しました。
これを受けて薮下さんは、ガーナでは学校に通うことのできない人ほど、公用語である英語ではなく生活言語であるTwi語での支援を望んでいる現状を紹介しました。言語の壁によって、高い能力や技術を持っていても、チャンスを失ってしまう可能性があることについても触れました。
また、薮下さんが現地で実践したアプローチとして、実演による説明やラジオ出演による現地語での情報発信、アートを取り入れたワークショップなどが紹介されました。支援には時間と費用がかかるからこそ、「どこまで寄り添い、どこから現地に委ねるか」というバランスの重要性を強調しました。

ガーナの配属先で、現地スタッフと共に活動する薮下さん

日本語と英語、2種類の資料を読み比べる学生たち

言語の壁を乗り越えるため、薮下さんが現地で実践したアプローチを紹介
JICA海外協力隊とは
内山さんからは、JICA海外協力隊の概要や、隊員に対する支援制度について説明がありました。
JICA海外協力隊では、計画・行政、商業・観光、社会福祉、農業、工業、教育・スポーツ、保健・医療、環境など9分野177職種が用意されています。専門性だけでなく、これまでの経験や得意分野、趣味を生かした活動も可能であり、職種選びでは、「やりたいこと」と「できること」を整理し、自身の強みと現地のニーズを重ね合わせることが重要だと紹介されました。
また、帰国後の進路支援も充実しており、就職や転職に向けた相談、求人情報の提供、起業支援、大学院進学のための奨学金制度など、多様な選択肢が示されました。
現職参加に関するサポートとしては、派遣期間選択制度や現職参加促進費が用意されているほか、公立学校や私立学校などの現職教員を対象とした現職教員特別参加制度もあり、将来のキャリアを見据えながら協力隊への参加を検討できることが説明されました。
[JICAとは?]
JICA(Japan International Cooperation Agency)
= 独立行政法人 国際協力機構
・政府開発援助/ODA(政府による開発途上国の社会・経済の開発に向けた協力)の実施機関
・JICA海外協力隊はJICAが実施する政府開発援助のひとつ
・海外96か所に拠点あり
[JICA海外協力隊事業の目的]
| ①開発途上国の経済・社会の発展・復興への寄与 |
| ②異文化社会における相互理解の深化と共生 |
| ③ボランティア経験の社会還元 |
[JICA海外協力隊の活動]
| 対 象 | 自らの意思で参加を希望する 20~69歳の日本国籍を持つ方 |
| 派遣先 | 開発途上国や中南米の日系社会 |
| 期 間 | 原則2年間 |
| 内 容 | 現地の人々と共に 経済・社会の発展、復興に向けた協力を実施 |
[派遣前訓練]
| 期間 | 73日間程度 |
| 時期 | 派遣の約2週間~2か月前までに修了 |
| 場所 | JICA二本松青年海外協力隊訓練所(福島県) または JICA駒ケ根青年海外協力隊訓練所(長野県) |
| 形態 | 合宿形式 |
| 内容 | 語学、異文化理解、安全研修、その他 |
学生の声
質疑応答
質疑応答では、国際協力を学ぶ学生たちから様々な質問が寄せられました。
「ガーナでのJICA海外協力隊の経験は、現在働いている企業の仕事にどのように生かされているのか、また、どのような価値があったのか教えてください」という質問に対し、薮下さんは、渡航前から英語学習に取り組んでいたものの、協力隊として2年間、英語と現地語の両方で生活したことで、語学に対する抵抗がなくなったと述べました。また、「きれいに話すことよりも、伝えたい内容を確実に伝える姿勢が身についたことが、現在ブラジルを担当する業務にも生きている」と語りました。
さらに、「現職参加でよかったと思った経験は?」という質問に対しては、「4年間の実務経験で身につけた在庫管理など、仕事の進め方を現地の状況に合わせて応用できた」と回答しました。「要請内容も自身の業務と一致しており、日本で培った経験をそのまま生かして活動できた点が、現職参加の大きなメリットだった」と振り返りました。

薮下さんに熱心に質問する学生

セミナー終了後、薮下さんに直接質問する学生たち

文系の学生にも幅広い職種の選択肢があることを説明する林教授
セミナー後のアンケート
言語の壁という観点から、途上国の貧困層が置かれている状況や、その壁を乗り越えるために、実際に手を動かし、地元の人と関わりながら解決に取り組んでいくというお話が印象的でした。実際に海外協力隊に参加した方の体験談を聞くことで、国際協力の意欲が高まりました。
特に印象に残ったのは、薮下さんが現地で立ち上げたカイゼン活動に関する地域の情報交換会・交流会についてのお話です。30社の応募があったものの、実際に参加したのは3社にとどまったという点から、思い通りにいかない現実を知りました。そのような状況の中でも、まずは「きっかけ」をつくることに貢献することが重要だと感じました。
JICA海外協力隊というキャリアがとても魅力的だと感じました。将来、海外で働いてみたいと考えているため、今後の進路の選択肢の一つとして、前向きに検討していきたいと思いました。