キャリアセンター(理系)
AIの力で医療現場の未来を切り開く
富士通株式会社
水谷 林太郎
1997年生まれ。2021年に中央大学理工学部情報工学科を卒業後、2023年に同大学大学院理工学研究科情報工学専攻博士前期課程を修了。同年、富士通株式会社に入社。自社開発のチャットボット開発を経て、現在は富士通Japan 株式会社にてヘルスケア領域のAI開発およびシステム設計に従事。副業として中央大学理工学部共同研究員、株式会社サイアス主任研究員も務める。趣味はヴァイオリン、カラオケ、博物館・美術館、温泉巡り。

ハードからソフト、そしてAIの世界へ
私のテクノロジーへの興味の原点は、幼少期にさかのぼります。祖父母の家にあった古いパソコンを眺めては、「この大きな箱の中身はどうなっているのだろう」と不思議に思っていたのです。その好奇心が高じて、中学生の頃には自分でパーツを集めてパソコンを組み立てるようになりました。ハードウェアの仕組みがわかると、次は「中身」を動かす仕組みを理解し、いつか自分の手で人工知能(AI)を作り上げたいと考えるようになり、中央大学の理工学部情報工学科への進学を決めました。学部生時代は、「気合」で乗り切る多忙な毎日でした。所属していた体育会の洋弓部(アーチェリー部)は、3日に1回以上の練習が必須。学業との両立は想像以上にハードでしたが、引退までやり抜いたことで、精神的なタフさを身につけることができました。また、社会の多様な側面に触れたいと考え、幅広いアルバイトやインターンにも挑戦しました。PC修理から教育のTA(ティーチング・アシスタント)、さらには将来自分には縁がないと思っていたベンチャー企業での営業まで。ビジネスの現場を肌で感じたこの経験が、後のキャリアの視野を大きく広げてくれました。
「傾聴」するAIを追求した研究室時代
研究面では、鈴木寿教授率いる知能・情報制御研究室に所属し、「傾聴対話型」チャットボットの開発に一貫して取り組みました。一般的な情報提供型のチャットボットとは違い、相手の心理に寄り添い、好印象を与える心理学的効果を取り入れることをめざしたシステムです。大学院では、テキストだけでなく表情や身振りなどの非言語情報も扱う「マルチモーダル対話システム」へと研究を発展させ、3Dアバターを用いたチャットボットの自然なリアクションを追求しました。また、研究室の仲間とチームを組み、自律走行の速度を競うAWS Japan開催のロボコンにも出場。決勝ラウンドまで進出し、理論を形にする楽しさを再確認しました。
鈴木先生は学生の自主性を尊重してくださり、自由な探求が可能でしたが、その分、みずから課題を設定し、スケジュールを管理する責任も伴いました。研究が滞る時は早めに相談し、状況を共有する。この研究生活で培った「自走力」と「報連相」の力が、現在の仕事でも大いに役立っています。
「不安」を払拭すべく準備を徹底した就職活動
大学への入学当初から将来への焦りがあった私は、就職活動において「徹底的な準備」を心掛けました。大学のキャリアセンターを活用するのはもちろん、学生としては珍しいかもしれませんが、ハローワークにも通って面接練習を繰り返しました。最終的には、逆求人型のサービスを通じてご縁のあった富士通への入社を決意。やりたい仕事(チャットボット開発)ができる部署への配属が確約されていたことに加え、フルリモートワークという柔軟な働き方に魅力を感じての決断でした
「生の声」が届く現場へ医療AI開発への挑戦
入社当初は希望通り、ウェブサイトなどで使われる汎用的なチャットボットの開発部署に配属されました。しかし、開発に専念する中で、次第にある「物足りなさ」を感じるようになりました。それは、自分が作った製品が実際にお客さまにどう喜ばれているのか、あるいはどのような課題があるのかという「生の声」が直接届かないことによるもどかしさでした。
そこで私は、社内のポスティング制度(公募制度)を利用し、よりお客さまに近い現場でAI開発に携われる部署への異動を希望しました。現在は富士通Japanに出向し、ヘルスケア領域でAIの開発に取り組んでいます。具体的には、医師と患者さんの会話を音声で記録し、文字起こしから電子カルテの適切なフォーマットへの変換までを行うAIと、その運用を支えるシステムを設計・開発するのが主な業務です。
医療業界には、医療従事者の人手不足や働き方改革への対応など、多くの課題があります。AIの力でこうした課題の解決を支え、医療現場に貢献できることが、この仕事の醍醐味です。一方で、人の命に関わるからこそ、AIには極めて高い精度が求められます。AIが事実と異なる情報を生成してしまう「ハルシネーション」をどう防ぎ、信頼できる情報を届けるか――。責任は重大ですが、展示会などでお客さまから直接期待の言葉をいただけることには、大きな手応えを感じています。これからも、より良い製品やサービスづくりを通じて、日本の医療に貢献していきたいと思っています。
「Chu活ボット」を通じた母校への恩返し
会社員として働く傍ら、副業として中央大学理工学部のキャリアセンターで活用されている面接練習AI「Chu活ボット」の開発・運営も手掛けています。これは、私自身が学生時代に「面接を客観的に見てもらう機会が少ない」と苦労した経験から生まれたものです。
研究室で培った3Dアバターや非言語情報の解析技術を駆使し、カメラ越しに学生の表情や声のトーンを読み取って採点したり、企業の採用方針に基づいた深掘り質問を投げかけたりする機能を実装しています。最近では、理系学生に人気の高い企業のデータを蓄積し、より本番に近い練習ができるようアップデートを重ねています。
この活動には、「水谷林太郎」という自分自身の名前で勝負できる面白さがあります。自分が手間暇かけて作ったプロダクトで学生の皆さんに喜んでもらえることがうれしく、それが開発を続ける大きなモチベーションになっています。
オンオフの切り替えも大切に
普段はフルリモートワーク中心の生活だからこそ、オンとオフの切り替えを大切にしています。趣味のヴァイオリンは、カラオケボックスに通って練習しています。歌うことも好きで、練習のついでに歌い続けていたら、いつの間にかカラオケも上達しました(笑)。また、社内の部活動(メタバース部、eSports部、麻雀部など)にも積極的に参加しています。仕事だけでは接点のない他部署の方々や異なる年代の方々との交流は、リモートワークで不足しがちな「人とのつながり」を補うだけでなく、新たな視点を得る貴重な機会になっています。
就職活動を焦るより今ある興味や研究を優先に
就職活動の早期化が進み、「研究よりも就活を優先すべきか」と焦る学生も多いかもしれません。しかし、私はあえて「今取り組んでいる研究にこそ真摯に向き合ってほしい」と伝えたいです。学部や大学院で一つのテーマを深掘りし、自分の言葉でその面白さや価値を語れるまで突き詰めた経験は、社会に出てから必ず強力な武器になります。どうか目の前の課題に誠実に向き合い、充実した大学生活を過ごしてください。そして、就職活動の面接の準備には、ぜひ「Chu活ボット」も活用してもらえるとうれしいです
Chu活ボット_チュー王子
著者が説明員として参加したヘルスケアの展示会
富士通eSports部
洋弓部の同期と卒業式にて
研究室の同期



