大学院

【究める vol.155】大学院の授業をのぞいてみよう! リサーチ・ワークショップ

2025年01月23日

「究める」では、大学院に携わる人々や行事についてご紹介しています。今回は「大学院の授業をのぞいてみよう!」の一つとして、「リサーチ・ワークショップ」の授業の様子をお届けします。本授業はオムニバス形式で開講されており、計9名の教員が担当しています。本記事で取り上げる授業の担当教員は、文学部の澁川 幸加(しぶかわ さちか)特任助教です。

授業概要

リサーチ・ワークショップについて

本授業は、博士学位の取得を目指して博士後期課程に進学した学生を対象に、将来、博士後期課程の学びを活かした「研究職」につくにあたって必要な知識とスキルに関する学びの場を提供するものです。ここで「研究職」というのは、大学教員のみならず、社会の多様な場所で専門知識を活かして科学技術振興や社会的イノベーション活動に従事する人を含みます。

多摩キャンパスでの様子。スクリーン越しに後楽園キャンパスとつながる

授業内容は、多様なテーマにわたります。経験者との対談を通して博士号取得に至る道のりをイメージするための回、研究を進めるための発想法やさまざまな手法について学ぶ回、大学教員として求められる最低限の知識や倫理を学ぶ回、実際に授業を行ったり、プレゼンテーションを行ったりする際の技術を修得する回などです。

全体を通して出来るだけ、ワークショップ方式を取り入れて、他分野の研究者とも交流する機会を作ります。また、学際的研究を行っている研究者をお招きして研究内容を発表していただき、ディスカッションを行います。自身の研究内容を他分野に開いていく可能性について感じてもらいたいと思っています。

授業は多摩キャンパスと後楽園キャンパスの2拠点をオンラインでつなぎ、実施しています。

本日(12月13日)の授業について

今回の授業では、教員になったのち学部1・2年生向けのオンデマンド教材を作成する想定で動画教材を作成しました。

まず授業担当の先生から、よく練られた過去の履修生の動画教材を教示いただき、更に教授法の段階を学びました。先行事例や先行研究をもとに、実際に自身の研究領域に近い分野の内容を5分程度にまとめた動画教材を作成しました。

当日は数名の他の履修者の動画を拝見し、長所や短所をフィードバックしていきました。それぞれ履修者の専門分野は異なりますが、理解しやすい動画には、動画を見る学生さんの動機付けを促したり、学習目標が明示されていたり、重要な部分が強調されているといった共通点がありました。5分の動画でしたが、内容も濃く他分野を学ぶという意味でも勉強になりました。さらに、他の履修者の方からのフィードバックも勉強になりました。たとえば、動画で用いたイラストと学習内容の関連性をさらにわかり易くするとよいとのご指摘をいただきました。加えて、先生からは学生に批判的思考を身に着けてもらうための働きがけがあるとさらに良いとのコメントもいただきました。今後、実際に教員になった場合には、学生さんが学びやすくかつ批判的思考を培えるような授業展開ができると良いと考えました。

(中尾 友香さん 文学研究科 博士後期課程 教育学専攻)

履修者の声

朴 シウンさん(法学研究科 博士後期課程 政治学専攻)

 授業動画の概要

学部1年生を対象とした行政学・公共政策学の入門講義を想定し、5分間の動画を制作しました。テーマは基本概念の一つである『公共財』を選び、その特徴の一つである『非排除性』を中心に、日常生活に身近な例を交えながら説明しました。前回授業で『公共財』の概念を学んだことを前提にし、前回の復習と『非排除性』の概念・特徴・具体例・関連する社会問題・復習課題という順で構成しました。

動画作成を終えての感想

初めて授業動画の制作と録画の取り組みだったので、当初は5分間という時間制約の中で内容や説明方法の選定に不安を感じていました。しかし、授業で学んだADDIEモデルや探究的学習の理論を参考にした事前準備を進めると同時に、受講学生同士のフィードバックを活用し、改善点を適宜反映することができました。動画の対象者である学部1年生に分かりやすく伝えることを目標に、具体例をコンパクトにまとめ、視覚的にわかりやすいスライド作成を工夫しました。短時間で効果的に説明する難しさを痛感しつつも、授業設計の要素を意識しながら進めたことで、動画制作を完成させることができました。今後もこれらの経験を活かし、さらなるスキルアップを目指したいと考えます。

リサーチ・ワークショップを履修して

本講義は博士後期課程の学生である私にとって、非常に有益な学びの機会となりました。研究倫理や研究計画書作成といった実践的スキルから、中央大学の博士課程で利用可能な支援制度まで幅広く学び、漠然としていた部分を具体化する助けとなりました。特に、これまで知識として持っていた研究倫理や研究計画書の作成方法などを改めて学び直すことで、自身の研究姿勢や方法を再確認するとともに、学びを深める契機となりました。また、他研究科の学生とのフィードバックやディスカッションを通じ、多角的な視点を得ることができたことも大きな学びとなりました。今後もリサーチ・ワークショップで学んだものを基に、自分の研究に責任をより一層深め、学際的な視点を取り入れながら、研究を進めていきたいと考えます。

郭 訳臨さん(経済学研究科 博士後期課程 経済学専攻)

 授業動画の概要

「家庭経済学―ライフサイクルから見る家計貯蓄行動―」をテーマに、全学部1年生向けの授業動画を作成しました。経済学を初めて学ぶ学生が家計を通じて経済学に興味を持ち、ライフサイクルに基づく家計貯蓄行動の仕組みを理解することを目指します。本授業動画を通じて、家計の経済主体としての役割、家計貯蓄の目的、幸せな人生を送るために必要な要素について学習します。理解を深めるために、動機づけ、図表提示、応用問題を設けています。

 動画作成を終えての感想

澁川先生の授業設計に関する講義を受講し、座学だけでは得られない実践的な授業設計のプロセスを学べたことは貴重な経験でした。非同期双方向型オンデマンド授業動画の作成において、学生ひとりでも効果的に学習できるよう、学習目標の明確化、動機づけ、時間配分を考慮して教材を作成しました。そして、他分野の受講者との相互評価を通じて、理解しにくい部分があることに気づき、動画を磨き上げることができました。また、他の受講者が作成した多分野の動画を視聴し、新しいアイデアを得ることができました。この講義を通じて、深い学びを促進する教授法を体系的に学ぶことができ、将来、大学教員を目指す自分にとって非常に有益な内容でした。

リサーチ・ワークショップを履修して

この講義では、博士学位を取得するために必要な知識や、博士学位取得後に研究職として働くために役立つスキルを細かく修得することができます。各回の講義では、多様な分野の専門家が資料を基に分かりやすく説明し、質疑応答の時間も設けられているため、博士号取得の道のりがより具体的に思い描くことができました。さらに、自分と異なる専攻分野の先生方や受講者との交流機会が豊富にあり、他研究科の実験場所の見学などを通じて、幅広い知見と新たな仲間を獲得することができました。座学とワークショップの両方から学習することで、研究活動をより効率的に遂行するための知識を身につけることができ、実地応用の力を深化させることができました。

大島 悠さん(理工学研究科 博士後期課程 ビジネスデータサイエンス専攻)

 授業動画の概要

“数式を使わずに理解する画像生成AI「Generative Adversarial Networks(GANs)」”というタイトルの下、GANsで何が出来るかやその仕組みついて解説しました。授業の目的としては、本授業にプラスしてPCでの実装方法を理解すれば研究やビジネスでGANsを使用できるようになること、と設定し学習する動機付けを行いました。到達目標は、GANsを1分程度の自分の言葉で説明できるようになること、と設定し受講者が自己評価をできるよう工夫しました。

動画作成を終えての感想

良かった点としては、講義内で学んだ知識である(1)学習者の学習プロセス(2)到達目標に行為動詞を使用すること(3)シラバスの役割と授業との整合性を活かすことで、スムーズに動画作成ができました。学習者の学習プロセスを意識することで授業作成時に学習者の目線に立つことができ、授業動画作成に限らずあらゆる学習活動へのサポートに有用であると感じました。また、これらの知識は、将来教員として講義を行う際の良い基盤になると感じました。改善点としては、グループワークを通じて、(1)話す速度が早すぎる点や(2)全学部向けの授業としては前提知識が欠如している点を認識しました。受講者が聞き取りやすい音量・速度で話すことの重要性、前提
知識の抜け漏れの精査の重要性は肝に銘じました。

リサーチ・ワークショップを履修して

講義の前半パートでは、博士課程のキャリアや現代社会といったテーマから、具体的な論文投稿の方法・計画書の書き方・受けられる支援の数々について学びました。その中には自身が認識していない制度や情勢もあり、例えば論文執筆指導を受けられるライティングラボやリサーチマップによる研究者間の交流は、専攻内の他の学生にも広めたいと思いました。後半パートはプレFDであり、教員になった自分の姿を想像しながら、知識習得およびその実践ができました。授業内のスケールダウンされたケーススタディを元に、多角的にスケールアップをするような想定をすることで、実際の大学での講義の準備ができると思い、自信になりました。

倉野 靖之さん(文学研究科 博士後期課程 東洋史学専攻)

 授業動画の概要

今回作成した授業動画では、初期イスラーム時代(イスラームの誕生からアッバース朝期までの期間)におけるイスラーム世界の拡大過程と、イスラーム世界の中で暮らした非ムスリム(イスラーム教徒以外の人々)について扱いました。ジズヤやハラージュ、ズィンミーなど、イスラームの歴史やイスラーム世界の非ムスリムに関連する基本的な用語を解説しながら、イスラーム世界の拡大を説明しました。

動画作成を終えての感想

授業動画を作成するにあたり、学部1、2年生がイスラームの歴史や世界史についてどの程度の前提知識を持っているかという点に配慮して、説明を行うように工夫しました。現代社会と直結すると捉えられがちな近代史や現代史に触れる機会が多い中、「現代から遠い過去」である初期イスラーム時代の歴史を扱うにあたり、当時と現代との繋がりを見出せるように動画内容を構成しました。また、概説書等で用いられるアラビア語由来の歴史用語について、世界史特有のカタカナ用語の暗記にならないよう、適宜、図を用いて説明を行いました。授業動画の作成を通じて、わかりやすく伝えることの重要性を再確認しました。

リサーチ・ワークショップを履修して

リサーチワークショップでは、授業動画の作成だけでなく、研究者のキャリアパス、日本の高等教育政策、研究倫理などについて、さまざまなバックグラウンドや経験を持つ学内外の先生方から学ぶことができました。私の専門が人文学(近現代中東史)ということもあり、社会科学系や理系の研究者のキャリアパスについて、非常に新鮮に感じました。また、日本の高等教育政策について、これまで自ら進んで学ぶことがなかったため、リサーチ・ワークショップの受講を通じて、新たな気づきを得られたと思います。今年度のリサーチ・ワークショップは、研究者として必要な知識であるものの、私が触れてこなかった情報に触れることができる機会だったと実感しています。

担当教員(澁川 幸加 特任助教)からのコメント

大学教員の仕事には、研究、教育、管理運営、社会貢献の4つの側面があるといわれています。この授業では、普段は自身の研究に没頭している大学院生が、研究者や教育者として必要な知識やスキルを学ぶ機会となりました。私が担当した授業では、短い制作時間ながらも、クイズを盛り込んだり意外な事例を示したりするなど、工夫を凝らした力作の動画が揃いました。
本日の授業では、まず同じキャンパス同士で相互フィードバックを行い、その後、オンライン上でキャンパスをまたいだグループを組み、再度意見を交わしました。ハイフレックスという難しい環境の中でも熱心に活動に取り組み、受講者同士で大学院生活について情報交換をする場面も見られました。異なる分野の人々と知り合うことができるのも、この授業の醍醐味です。
この授業での学びが、学際的なつながりや将来のキャリア形成に役立つことを願っています。