大学院

【究める vol.147】見学・実態調査報告(総合政策研究科)

2024年10月18日

「究める」では、大学院に携わる人々や行事についてご紹介しています。今回は、総合政策研究科博士前期課程1年の大川 航生(おおかわ こうき)さんによる見学・実態調査報告をお届けします。 

今回の見学・実態調査について

今回の見学・実態調査の目的は、東南アジアの発展途上国におけるスポーツの実態と、スポーツによる国際協力の実態を調査することでした。ラオスに9日間、タイに3日間滞在し、スポーツをテーマに様々な方からお話を伺いました。

具体的には、まずJICAのラオス事務所とタイ事務所を訪問して、職員や隊員の方からスポーツを通じた国際協力のリアルな様子と展望をお聞きしました。また、ラオスでは障がい者の支援の一環でゴールボールや卓球バレーなどスポーツを活用した生きがいの獲得やパラスポーツ選手のサポートを行っているADDP(アジアの障害者の活動を支援する会)という団体を訪問させていただき、日本とラオスでのスポーツ環境の違いやスポーツを取り巻く地域社会との関係性についてお伺いました。そして、タイではスポーツスクールを開かれている元サッカー選手の方や建設業をしている日系企業の方などからお話を伺い、スポーツの持つ国際性や普遍性に加え、タイで働くことや活動をしていくことの大変さとともに、異国で働くことの面白さも教えていただきました。

現地で行った活動の中で印象に残っていることについて

印象に残っていることは、ラオスにて障がい者を支援する組織であるADDP(アジアの障害者の活動を支援する会)へのヒアリング調査の一環で、パラ・ウェイトリフティングの選手の自宅兼練習所を見学させていただいたことです。その際に、プロスポーツ選手であるにもかかわらず、日本とは違ってコーチという存在がいないということを伺いました。しかしながら、そうした状況を嘆きつつも、自分で積極的にメニューを考案し仲間とトレーニングにいそしんでいる姿が印象的でした。その気概や前向きで笑顔の絶えない姿からは、選手としての強さと同時に人としての強さが垣間見えました。また、トレーニングをするにあたっては自宅にトレーニング場を設け、地域のスポーツ施設からウェイトバーや重りを借りてきて使用していることや、地域のスポーツジムの方との信頼関係でジムを使用させていただいているなど、スポーツを通じて、地域でのコミュニケーションが行われ、コミュニティが構築されている姿を間近で見ることができました。また、トレーニングと並行して、内職のような形で洋服の刺繡やアクセサリーの作成に取り組み、その販売で生計を立てていることを知り、日本におけるプロスポーツ選手像とは異なるスポーツ選手としての在り方を知ることができました。こうした経験は、日本のスポーツ空間を研究対象とする自分にとって、今までにない視点やアプローチを提示していただいたように思います。また日本で一般的に捉えられているプロフェッショナリズム・アマチュアリズムとは違う、その土地やそこで生きている人それぞれにスポーツの在り方があるということに気づくことができました。

今回の見学・実態調査とご自身の研究活動の関わりについて

今回の調査と自身の研究とのかかわりは3点あります。

1点目はスポーツと地域の関係性についてです。ラオスにおいて、パラ・ウェイトリフティングの選手のインタビュー時に地域の方から協力を得ながらトレーニングを行っていることを伺ったことや、スタジアムがスポーツをするだけでなく、地域の方々の憩いの場になっていること、また、タイにおいて、日系企業として地域に根付いていく際の葛藤や心がけをお聞きしたことが、自身の研究である「スポーツのもつ力を地域のために活用するためにはどうしていくことができるのか」ということにつながり、スポーツで人々がいかに地域と関係を持ち、生活を変化させ、地域の社会課題の解決を目指していくのかということを考える上で大きな気づきとなりました。

2点目はスポーツへのアプローチ方法についてです。一般的に、スポーツに携わると言うと、選手やサポーターとして、またはクラブのスタッフとして携わるということをイメージしがちですが、今回の調査で、障がい者支援の一環としてスポーツを活用している方とお会いしたり、礼儀作法や人間形成の手段のひとつとしてスポーツを活用している青年海外協力隊の方からお話を伺うことができ、スポーツの力を最大限に発揮するための地域とのかかわり方やその活用方法において、アプローチや視点を増やすことができました。

3点目はスポーツのもつ国際性です。街中では、スポーツのユニフォームをきた人々を多く目にし、またスポーツ施設は必ずしも設備が整っているとは言えないものの、現地の人々が思い思いにスポーツに取り組んでいる姿を知ることができました。また、ラオスでは夕方ごろ、メコン川沿いをスポーツウェアではなく普段着のままランニングする人を多く目にしたりと様々な場所、形態でスポーツと接している姿を目にしました。こうした経験からは、先進事例や成功事例を真似することよりも、むしろその場所ごとにその土地の歴史や伝統を受けたスポーツの在り方があることを学び、研究においてもこの視点を大切にしていきたいと思いました。

見学・実態調査に参加して

今回の実態調査を通じて、環境を大きく変えて自身の研究テーマや自分自身を振り返ることができたため、研究テーマに関する視点を増やすことができ、また自分に変化をもたらすことができたと思います。自身の研究テーマであるスポーツに関して、自分が想定している研究のフィールドとは違う形で行われているスポーツの在り方を知ることができたのは、研究の方向性をより深く吟味することにつながり、また共に行動をする方々との研究に関する話は、それぞれの専門や興味関心を基にした活発な議論となり、その時間は非常に濃密で、自身の研究の在り方を何度も考えさせられました。そして、今回は日本とは国家体制が大きく異なる社会主義圏の国や日本とは違う発展の仕方をしてきた国を訪問したことで、スポーツのすそ野の広さを知ると同時に、これまで考えていたスポーツの捉え方が凝り固まっていたことに気づかされました。大学院の2年間という短い期間のうちに、日本の外へ出て自身のテーマを振り返ったり、より広い意味で言えば、異国での日々を通じて日本社会について思考を巡らしたりすることができたのは、とても貴重な経験でした。この経験が、研究に変化をもたらすとともに、自分の人間形成、将来の進路選択においてもつながるよう、これからも勉学に励みたいと思います。