広報・広聴活動

使用済みRO膜を活かし、電気化学フェレートで挑む次世代の省エネ海水淡水化 ~NEDO「先導研究プログラム(国際共同研究開発)」に採択 サウジアラビア・KAUSTと連携~

2026年07月10日

 中央大学理工学術院社会理工学部人間総合理工学科の山村寛(やまむら ひろし)教授は、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公募する「先導研究プログラム/エネルギー・環境分野における革新的技術の国際共同研究開発」に採択されました。採択課題名は、「使用済みRO膜の化学修飾による適応型スマート脱塩技術の国際共同研究開発」です。中央大学を代表機関とし、株式会社明電舎、東レ株式会社、一般財団法人造水促進センター、およびサウジアラビアのキング・アブドゥッラー科学技術大学(KAUST)と連携して、世界的な水不足の解決に資する省エネ・低コストの海水淡水化技術の国際共同研究開発に取り組みます。

本研究のポイント

・廃棄されていた使用済み逆浸透(RO)膜を化学修飾により再生・多段利用し、膜交換コストの削減を目指す。
・山村教授グループは、電気化学フェレート(六価鉄, Fe(VI))とセラミック膜を組み合わせた新しい前処理プロセスを開発。海水中のバイオポリマー(膜づまりの原因物質)を分解し、RO膜のバイオファウリング(微生物による目づまり)を抑制する。
・薬品の輸送・貯蔵が不要で、消毒副生成物も生じないため、途上国や離島などでの分散型の水インフラへの展開が期待できる。
・世界最大級の海水淡水化市場を有するサウジアラビアのKAUSTと連携し、実海水環境での技術実証を行う。

研究の背景

 気候変動に伴う世界的な水不足の深刻化により、海水を真水に変える海水淡水化の需要が急増しています。現在主流の逆浸透(RO)膜法は、薬品費・エネルギー費・人件費が大きな運用負担となっているうえ、使用済みのRO膜の多くは埋め立て処分されており、再生・再利用の技術が確立していません。特に、海水中の微生物やその代謝物(バイオポリマー)がRO膜表面に付着して起こる「バイオファウリング(生物由来の目づまり)」は、透水性の低下やエネルギー消費の増大を招く最大の課題の一つです。本研究は、これらの課題を統合的に解決し、省エネルギーで持続可能な海水淡水化技術の実現を目指すものです。
 山村研究室では、これまで使用済みRO膜の有効利用と普及拡大に向けた研究を段階的に進めてきました。環境省の環境研究総合推進費「使用済み海水淡水化膜を活用した途上国工業団地での工場排水再利用システムの開発」(課題番号3K153006、2015~2017年度)では、使用済みRO膜を途上国工業団地の工場排水再利用に活用するシステムを開発しました。また、東レ株式会社とは、NEDO「脱炭素社会実現に向けた省エネルギー技術の研究開発・社会実装促進プログラム」(インキュベーション研究開発フェーズ)の支援のもと、研究開発テーマ「RO膜エレメントリユース技術の開発」(2023~2025年度)として、使用済みRO膜の洗浄および再生技術に関する研究開発を進めてきました。さらに、再生RO膜の普及拡大に向けて、一般財団法人造水促進センターを事務局とする委員会・作業部会に参画し、再生RO膜の性能評価試験方法の国際標準化(ISO化)を推進しています。2026年6月には新規規格提案(NP)がISOに提出され、現在、加盟国による投票が行われています。本研究は、これらの研究実績を基盤として、国際共同研究へと発展させるものです。

研究の内容

 本プロジェクトは、中央大学を代表機関として、企業・研究機関・海外大学が役割を分担して推進します。全体では、①使用済みRO膜の化学修飾による再生(東レ)、②省エネ型の前処理技術(中央大学・明電舎)、③ライフサイクル評価と国際標準化(造水促進センター)、④実海水でのバイオファウリング可視化・実証(KAUST)を統合し、膜・エネルギーコストの大幅な削減を目指します。
 このうち中央大学 山村研究室が中核として取り組むのが、「電気化学フェレート(六価鉄, Fe(VI))+セラミック膜」による新しい前処理プロセスです。
 フェレート(六価鉄)はオゾンを上回る強い酸化力を持ち、海水中でバイオポリマーを分解すると同時に、反応後は水酸化鉄となって凝集剤としても働くため、「酸化」と「凝集」を一剤で実現できます。山村教授グループは、フェレートで海水中の膜づまり原因物質を分解し、続くセラミック膜で確実に除去することで、後段のRO膜のバイオファウリングを大幅に抑え、淡水化にかかるエネルギーとコストを下げることを狙います。

山村 寛 教授のコメント

 水不足は、いまや世界共通の待ったなしの課題です。本研究では、これまで捨てられてきた使用済みの膜を資源として活かし、さらに薬品に頼らず太陽光で駆動できる前処理技術を組み合わせることで、エネルギーとコストを抑えた海水淡水化を目指します。世界最先端の淡水化研究拠点であるKAUSTと力を合わせ、日本発の技術を実海水で実証し、途上国や離島も含めて誰もが安全な水を得られる社会の実現に貢献したいと考えています。

NEDO 先導研究プログラム(国際共同研究開発)について

 NEDO「先導研究プログラム」は、将来の産業や社会に大きな変革をもたらす革新的な技術シーズの創出を目的とする事業です。本課題が採択された「エネルギー・環境分野における革新的技術の国際共同研究開発」(通称:先導国際)は、日本の企業・大学等が海外の優れた研究機関と連携し、エネルギー・環境分野の革新的技術を国際共同で研究開発する取り組みを支援するものです。

実施体制・研究期間

・代表機関:学校法人中央大学(研究開発責任者:山村 寛 教授)
・共同研究機関:株式会社明電舎、東レ株式会社、一般財団法人造水促進センター
・海外連携先:King Abdullah University of Science and Technology(KAUST/サウジアラビア)
・研究期間:2026年度~2029年度(実質36か月。開始後およそ18か月時点でステージゲート審査を実施)
・事業規模:総額約1.5億円(NEDO委託事業)

用語解説

注1)RO膜(逆浸透膜):水は通すが塩分などは通さない極めて微細な孔を持つ膜。海水に高い圧力をかけて真水を得る海水淡水化の中核技術。
注2)バイオファウリング:膜の表面に微生物とその分泌物(バイオポリマー)が付着・増殖して膜がつまる現象。透水性の低下やエネルギー消費の増大を招く。
注3)フェレート(六価鉄, Fe(VI)):鉄が通常より高い酸化状態(6価)まで酸化されたもの。オゾンを上回る強い酸化力を持ち、有機物を分解した後は水酸化鉄となって凝集剤としても機能する。
注4)前処理:RO膜に海水を送る前に、膜づまりの原因となる濁りや有機物をあらかじめ除去する工程。
注5)セラミック膜:セラミック(陶磁器)製の丈夫なろ過膜。薬品や高温に強く、繰り返し洗浄して長く使える。
注6)KAUST:サウジアラビアのキング・アブドゥッラー科学技術大学。膜・海水淡水化研究で世界トップクラスの研究拠点で、実海水を用いた試験環境を有する。
 

【お問い合わせ先】

<研究に関すること>
山村 寛(やまむら ひろし)
中央大学 理工学術院社会理工学部教授(人間総合理工学科)
TEL:03-3817-7257
E-mail:yamamura.10x[アット]g.chuo-u.ac.jp
研究室HP:https://water-chuo.jp

<広報に関すること>
中央大学 研究支援室
TEL:03-3817-7423
E-mail:kkouhou-grp[アット]g.chuo-u.ac.jp


※[アット]を「@」に変換して送信してください。