広報・広聴活動
消費者がウナギに求めるのは「国産」「無投薬」そして「持続可能性」 ~離散選択実験による日本市場での実証研究~
2026年03月16日
概要
中央大学国際経営学部准教授の楊川および法学部教授の海部健三は、中国・西北農林科技大学の研究者との国際共同研究として、日本市場を対象に、ウナギ製品の産地表示(日本産/中国産)、認証ラベル(持続可能性認証/無投薬認証)、および価格の4属性が消費者の購買選択に与える影響を、離散選択実験(Discrete Choice Experiment: DCE)注1)により実証分析しました。推定結果に基づき、各属性に対する支払意思額(Willingness to Pay: WTP、ある属性が付くことで追加で支払ってもよい金額)注2)を推計し、さらに潜在クラスモデル(Latent Class Model: LCM)注3)により、消費者を複数のタイプに分類しました。
日本市場では「日本産」が最大の価値要因である一方、認証ラベルも消費者の選択に影響し得ます。本研究は、無投薬や持続可能性といった情報が、消費者にとって「追加で支払う価値のある情報」として受け止められ得ることを示す結果となりました。認証付き製品の普及がウナギの持続的な利用への一助となる可能性が示唆されます。
<本研究のポイント>
・オンライン調査により、日本市場におけるウナギ製品に対して消費者が追加で支払ってもよい金額(WTP)を定量的に分析した。
・消費者が示した最大のプレミアムは「日本産」であり、中国産に対して、日本産プレミアムは平均+1,102円であった。
・「無投薬」(+280.7円)および「持続可能性」(+262.1円)も、「国産」ほどではないものの、いずれも数百円規模のプレミアムとして評価された。
・「無投薬」「持続可能性」は認証ラベルとして提示され、実験内では一定のプレミアムが確認された。
・消費者はその選好に従って、低価格選好型(28.9%)、国産志向型(27.7%)、健康志向型(19.7%)、高価格追求型(12.9%)、ウナギ回避型(10.8%)に分類された。
研究内容
1. 背景
2025年11月から12月にかけて開催されたCITES(ワシントン条約)締約国会議(CoP20)では、ウナギ属(Anguilla spp.)を附属書Ⅱに掲載し、国際取引を許可制の枠組みに組み込む提案が議論されました。提案は採択されませんでしたが、規制の是非や制度設計をめぐる議論は継続しています。仮に今後、取引規制が強化されたなら、輸入・流通の手続きやコストが変わり、供給量や価格を通じて日本の食卓にも影響が及ぶ可能性があります。こうした不確実性があるからこそ、規制が本格化する前に、市場や消費者がどのように反応し得るのかを事前に検討しておく必要があります。なお、本研究の調査・分析は2025年7月に実施しており、CITESにおける議論(2025年11~12月)に先行する形で行われています。
2.研究内容と成果
1)研究の方法
本調査は2025年7月4日~7日に、株式会社ネオマーケティングのオンライン調査パネル(国内在住、n=400名) を対象に実施しました(回答のほか、性別・年代・居住地域の属性データも取得)。事前に、小売店で販売されている蒲焼(1尾)について、①産地(日本産または中国産)、②「無投薬認証」(認証ラベルの有無)、③「持続可能性認証」(認証ラベルの有無)、④価格(926円、1,500円、2,074円、2,648円)の計4つの製品属性を設定しました。DCEでは、個々の調査パネルに対して属性の組み合わせの異なる3つの商品を提示し、最も買いたいと思う1つの商品か、または「購入したい商品はない」(オプトアウト)を選択することを12回繰り返します。得られた結果から、産地表示・認証ラベル・価格などの属性が購買選択に与える影響を推定しました。また、LCMでは、同じ実験より得られた結果を用いて、消費者選好の異質性により、グループ分けを行いました。
商品は、産地(日本産/中国産)、「無投薬認証」(認証ラベルの有無)、「持続可能性認証」(認証ラベルの有無)、価格の4属性を、いずれも蒲焼のパッケージ表示として提示しました(下図参照)。無投薬認証と持続可能性認証については、実験上の認証マークを提示する形で示しています。調査では、これらの認証制度は信頼できるものとして回答するよう事前に説明しました。
2)研究の成果
DCEにより、日本市場におけるウナギ製品の産地表示(日本産/中国産)および認証ラベル(持続可能性認証/無投薬認証)に対する消費者選好と、WTP(追加で支払ってもよい金額)を定量化しました。推定結果では、日本産表示のプレミアムが最も大きく、+1,102円でした。これに対し、無投薬認証(+280.7円)と持続可能性認証(+262.1円)も、日本産ほどではないものの、いずれも数百円規模のプレミアムとして評価されました。つまり、日本市場では「日本産」が最大の価値要因である一方、認証ラベルも消費者の選択に影響し得ます。無投薬や持続可能性といった情報が、消費者にとって「追加で支払う価値のある情報」として受け止められ得ることを示す結果となりました。制度整備が進むことで、認証付き製品の普及がウナギの持続的な利用に一助となる可能性が示唆されます。
また、LCMにより、消費者選好の異質性を5セグメントとして推定したところ、構成比は、低価格選好型(28.9%)、国産志向型(27.7%)、健康志向型(19.7%)、高価格追求型(12.9%)、ウナギ回避型(10.8%)に分類されました。低価格選好層が厚い一方で、国産志向もほぼ同規模であり、根強い国産人気が伺えます。
本研究によって、日本市場において、産地表示および認証ラベル(持続可能性認証・無投薬認証)が消費者の選択に与える影響とWTPを推計し、消費者の選好は多様であることが明らかになりました。重要な点として、本研究が示す差別化の方向性は単に売上拡大を意図するものではなく、消費者が安全性や環境配慮といった認証ラベルの示す社会的価値を認識し、それらを積極的に選択することを後押しし得る点にあります。この結果は、認証付き製品の普及や消費者意識の向上に向けた施策、ならびに差別化マーケティング戦略を検討する際の判断材料となる可能性を示すものです。
3.今後の展開
CITES等の国際取引規制の議論が継続する中、規制導入前に市場・消費者の反応を事前評価(予測)しておくことが不可欠です。今後は、CITESを含む国際取引規制の制度設計や運用の変化が、消費者の認証ラベル評価や購買選択に与える影響を検討します。あわせて、実在する認証制度・表示制度(例:水産エコラベル等)との整合性や、情報提供の方法(表示の分かりやすさ、信頼形成)を含め、規制と市場を接続するために必要な実務上の設計条件を整理していきます。
<研究者コメント>
国際取引規制(CITESを含む)は資源保全の観点で重要ですが、市場に導入されると供給制約、価格変化、消費行動の変化という連鎖が起き得ます。だからこそ、規制が本格化する前に、消費者が持続可能性情報をどのように評価し、どの程度なら持続可能性を実現するためのコストを受け入れるのかについて、数量的に把握しておく必要があります。本研究成果は、日本市場において認証ラベルが一定の価値として受け取られ得ること、また、規制と市場を接続する設計(認証・表示など)の重要性を示唆するものです。
●この研究成果のもととなった研究経費
本研究は外部資金の支援を受けておらず、中央大学基礎研究費により実施しました。ここに記して感謝申し上げます。
【研究者】
楊 川(中央大学国際経営学部 准教授)
甄 世航(Shihang ZHEN、西北農林科技大学経済管理学院 大学院生〔現:ドイツIAMO在学中〕)
海部 健三(中央大学法学部 教授)
任 彦軍(Yanjun REN、西北農林科技大学経済管理学院 教授)
【論文情報】
雑誌名: 国際経営学論纂(Journal of Global Management)
巻号:(5)
刊行日: 2026年3月10日
編集兼発行者:中央大学国際経営学部
論文名: 「持続可能性認証付きウナギに対する消費者選好と支払意思額の分析―離散選択実験による日本市場の実証研究―」
英文題: Consumer Preferences and Willingness to Pay for Sustainably Certified Eel Products: A Discrete Choice Experiment Analysis in the Japanese Market
著者:
楊 川(中央大学 国際経営学部 准教授)
甄 世航(Shihang ZHEN、西北農林科技大学 経済管理学院 大学院生〔現:ドイツIAMO在学中〕)
海部 健三(中央大学 法学部 教授)
任 彦軍(Yanjun REN、西北農林科技大学 経済管理学院 教授)
用語解説
注1)離散選択実験(DCE)
複数の選択肢(属性の組み合わせが異なる商品案)を提示し、選択結果から各属性の影響を推定する調査・分析手法。
注2)支払意思額(WTP)
ある属性(例:認証ラベル)のために追加で支払ってもよい金額。
注3)潜在クラスモデル(LCM)
好みの近い人々を複数のセグメントに分けて推定する手法。
お問い合わせ先
<研究に関すること>
楊 川 (ヨウ・セン)
中央大学国際経営学部 准教授(国際経営学科)
E-mail: yangc.17b[アット]g.chuo-u.ac.jp
海部 健三(カイフ・ケンゾウ)
中央大学法学部 教授(法律学科)
TEL: 03-5978-4248
E-mail: kkaifu001t[アット]g.chuo-u.ac.jp
<広報に関すること>
中央大学 研究支援室
TEL: 03-3817-7423 FAX: 03-3817-1677
E-mail: kkouhou-grp[アット]g.chuo-u.ac.jp
※[アット]を「@」に変換して送信してください。
