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半導体カーボンナノチューブで冷却不要の高感度赤外線センサを開発 ― 従来比11倍の感度で、パッケージ内部の非破壊観察を実現 ―

2026年02月06日

本プレスリリースは、京都工芸繊維大学、中央大学との共同発表です。

1.発表者

野々口 斐之(京都工芸繊維大学 材料化学系 准教授)
山雄 健史(京都工芸繊維大学 材料化学系 教授)
稲田 雄飛(京都工芸繊維大学 材料化学系 助教)
河野 行雄(中央大学 理工学部 教授)
李 恒(中央大学 理工学部 助教)

2.発表のポイント

◆半導体カーボンナノチューブによる高感度赤外線センサの実現
p型・n型注1)に制御した高純度半導体カーボンナノチューブを用い、プラズモン共鳴注2)と熱電効果を組み合わせることで、冷却不要で動作する高感度赤外線センサを開発。
◆従来材料比で約11倍の感度向上を実証
赤外線の強い吸収(プラズモン共鳴)、高い熱電変換性能、ドーピング注3)による低熱伝導化を同時に最適化することで、金属型ナノチューブを含む従来材料に比べ約11倍の検出感度を達成。
◆非破壊・非接触イメージングへの応用可能性
衣服やプラスチック、パッケージ越しに内部の金属構造を画像化できることを実証し、セキュリティ検査、製造検査、医療診断、テラヘルツ・赤外線通信などへの展開が期待される。

3.発表概要

 京都工芸繊維大学 材料化学系 野々口斐之准教授、山雄健史教授、稲田雄飛助教、中央大学 河野行雄教授、李恒助教らは、産業技術総合研究所センシング技術研究部門 製造センシング研究グループ 鈴木大地主任研究員らと協力して、電気の性質が異なるp型およびn型に制御した半導体カーボンナノチューブ(CNT)を用いた高感度赤外線センサを開発しました。本センサは、赤外線がカーボンナノチューブ中の電子の集団振動(プラズモン共鳴)によって効率よく吸収・熱化され、局所的に温度が上昇します。その温度差を電気信号に変換する「熱電効果」を利用して動作します。金属型CNTが混在する従来材料と比べ、感度が約11倍向上することを実証しました。本技術により、衣服やプラスチックを透過する赤外線を用いて内部構造を非破壊で観察できるため、セキュリティ検査、品質管理、医療診断、次世代通信分野など幅広い応用が期待されます。
 本研究に関する研究論文は、2026年2月2日(現地時間)に独国Wiley-VCH発行の学術雑誌「Small Structures」にオンライン掲載されました。

4.発表内容

研究の背景

 赤外線は、衣服やプラスチックなど多くの有機材料を透過する性質を持ち、非破壊で内部の様子を調べるための重要な光です。しかし、赤外線はエネルギーが低いため、高感度に検出するには冷却が必要な装置が多く、低コストで簡便に使えるセンサの開発が課題となっていました。

研究内容

 本研究では、半導体型の単層カーボンナノチューブ注4)を高純度に分離し、さらに電気的性質の異なるp型とn型にそれぞれ化学的に制御した薄膜を組み合わせることで、赤外線センサを作製しました(図1)。赤外線がナノチューブに照射されると、電子の集団振動であるプラズモン共鳴が励起され、光エネルギーが効率よく熱に変換され、p型とn型の境界部分に温度差が生じます。この温度差は「熱電変換」注5)により電圧として取り出され、赤外線の強さを電気信号として高感度に検出できます。

 実験の結果、金属的性質のナノチューブが混在する従来材料を用いたセンサと比べて、今回開発した半導体ナノチューブのみからなるセンサは、約11倍高い感度を示すことが明らかになりました(図2)。これは、半導体ナノチューブが熱を電気に変える能力(熱電性能)に優れ、さらに赤外線を電子の集団振動(プラズモン共鳴)によって強く吸収して効率よく温まるためです。加えて、化学的なドーピング処理によって熱が逃げにくくなり、より大きな温度差が生じることも示唆されました。従来材料では、これら三つの性質を同時に制御するという発想がなく、今回初めてその同時最適化を実現したことが、高感度化につながりました。
 本研究では、半導体型カーボンナノチューブの高純度分離、熱電性能を最大限に引き出す薄膜形成、p型・n型ドーピング、さらにそれらの電気特性を長期間安定に保つ封止技術までを一体として確立しました。その結果、赤外線吸収、温度上昇、熱電変換の各過程を切り分けて評価でき、感度向上の要因を定量的に議論することが可能になりました。
 さらに本センサを用いることで、パッケージ内部の金属物体の形状を赤外線で画像化できることも実証されました(図3)。このような非破壊・非接触での観察技術は、空港などのセキュリティ検査、製品内部の欠陥検査、医療・バイオ分野での診断、さらには次世代のテラヘルツ・赤外線通信の受信素子としての応用が期待されます。

今後の展開

 本研究成果は、冷却を必要としない小型・低消費電力の高感度赤外線センサ実現に向けた重要な一歩であり、柔軟基板への実装やウェアラブルデバイスへの展開など、将来の社会実装に向けた応用研究が今後進められる予定です。

5.発表雑誌

雑誌名:Small Structures
論文タイトル:Synergistic Plasmonic-Thermoelectric Enhancement in Semiconducting Carbon Nanotubes for Infrared Light Detection(半導体カーボンナノチューブにおけるプラズモン共鳴と熱電変換の相乗効果を利用した高感度赤外線検出)
著者:Masayuki Ishihara,# Daichi Suzuki,#* Kazuhiro Yoshida, Kanae Oi, Kou Li, Yuhi Inada, Takeshi Yamao, Yukio Kawano,* Yoshiyuki Nonoguchi*(*責任著者、#共筆頭著者)
DOI番号:10.1002/sstr.202500834
アブストラクトURL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/sstr.202500834

6.用語解説

注1)p型・n型
 半導体において、電気を運ぶ粒子が主に正孔(p型)か電子(n型)かによって分類される性質の違い。両者を組み合わせることで、電圧を効率よく取り出すことができる。
注2)プラズモン共鳴
 電子が集団で振動する現象で、特定の光を強く吸収して熱に変換する性質を持つ。金属やナノ材料で起こり、赤外線やテラヘルツ波(電波と光の中間に位置する周波数帯の電磁波で、物質透過性と分光特性を併せ持ち、次世代通信や非破壊検査への応用が期待されている。)の高効率吸収に利用される。
注3)ドーピング
 材料に不純物や化学物質を加えて、電気的性質や熱の伝わり方を制御する処理のこと。
注4)単層カーボンナノチューブ
 炭素原子が六角形に並んだ一枚のシート(グラフェン)が筒状に丸まった、直径数ナノメートルの極細の中空構造体。電気の流れ方が構造によって金属的にも半導体的にもなり、電子デバイス、センサ、エネルギー材料など幅広い分野で高機能材料として注目されている。
注5)熱電変換
 熱のエネルギーを直接電気に変える仕組みのこと。物質の両端に温度差があると電圧が生じる「ゼーベック効果」を利用しており、工場や自動車、電子機器などから出る未利用の排熱を電力として回収できる技術として注目されている。

7.添付資料

問い合わせ先

< 研究に関すること >
京都工芸繊維大学 材料化学系 准教授
野々口 斐之(ののぐち よしゆき)
E-mail:nonoguchi[アット]kit.ac.jp

中央大学 理工学部 教授
河野 行雄(かわの ゆきお)
E-mail:kawano[アット]elect.chuo-u.ac.jp

< 報道担当 >
京都工芸繊維大学 総務企画課広報係
TEL:075-724-7016  E-mail:kit-kisya[アット]jim.kit.ac.jp
※京都工芸繊維大学では、メールによるリリースを行っております。メールによるリリースを希望される場合は、kit-kisya[アット]jim.kit.ac.jpまで①社名、②氏名、③登録するメールアドレスをご連絡ください。

中央大学 研究支援室
TEL:03-3817-7423または1675   E-mail:kkouhou-grp[アット]g.chuo-u.ac.jp


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