社会・地域貢献

受賞論文【佳作】森のシンボル「オオタカ」との共存

お茶の水女子大学附属高等学校 1年 鈴木 ひとみ

 千葉県流山市、自宅から程近くにある公園で、数年前からオオタカが繁殖している。私は10年前からここに住んでいるが、当時はオオタカの存在すら知らなかった。なぜ今、オオタカはこの公園で繁殖を始めたのだろうか。

 そもそもオオタカは1992年に市内の「市野谷の森」という場所で初めて確認されている。この森は鬱蒼として外敵から卵を守りやすく子育てには適していた。オオタカが雛を育てて生きていくには、畑・水田・森林を含む広い環境があること、そしてそこに多種の餌となる生物が大量に生息していることが必要である。故に、この森でオオタカが繁殖していたということは、この森の自然が豊かであったということを意味していた。しかしながら、2005年に開通した常磐新線(つくばエキスプレス)の大規模開発による森林の伐採で、オオタカの繁殖できる環境が失われてしまった。かろうじてNPOなどの保護活動により、当初の計画であった約50ヘクタールすべての伐採から一部の伐採に変更になったものの、結果的に約25ヘクタールの森林が失われた。その後もオオタカの生息は確認されているものの、2015年から繁殖が確認されておらず、伐採が影響を与えたことは言うまでもない。森を追われたオオタカは住みやすい環境を探し、似たような条件の揃う自宅近くの公園へたどり着いたのだと考えられる。オオタカが繁殖し始めたことは、実は、大規模開発により市内の豊かな自然が一つ破壊されたことを物語っていたのだ。

 市内では、TX流山おおたかの森駅や、流山おおたかの森S.Cなど、オオタカの名を使った施設が多い。また、オオタカの保全運動を行っているNPOもある。私はそれらに興味を持ち、オオタカについてもっと詳しく調べて見ることにした。

 環境省のHP 1) によると、現在オオタカは「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」に基づく国内希少野生動植物種に指定されている。オオタカは東日本や中部の里山に生息するが、開発などの影響で1984年には全国で300~480羽まで減ったと推定され、93年に捕獲が原則禁止となる希少種に指定された。オオタカは、水田や畑、森林が混在する里地里山が主な生息地で、食物連鎖のピラミッドの頂点に立つ。オオタカの個体数の減少は、その土地の栄養分の循環サイクルの崩壊に繋がり、自然環境を悪化させる。それ故に、オオタカの生息は、人間と自然の共存を表し、オオタカが自然環境保護(里山保全運動)の象徴的な存在として、保全の対象となってきた。

 オオタカの果たしてきた役割は大きく、希少種に指定されることで里山の乱開発に歯止めをかけている。例としては、2005年に開催された愛知万博で、会場候補地の里山にオオタカの営巣が確認され、会場計画が変更されたことなどがあげられる。その他、八王子市の「天合峰」、宇都宮市の「宇都宮美術館」および「文化の森」などの例がある 2)。

 しかし、近年オオタカの個体数が回復し、環境省は今年7月、指定解除の方針を決めた。指定が解除されれば、遅かれ早かれ里山の開発は加速するだろう。未だ指定解除後の保全策については言及されていない。里地里山の自然を守る法制度はなく、乱開発が進むことは必至だろう。

 では具体的にどう対策をしていけばよいのだろうか。

 まずは、オオタカの住む環境を確保することから考えたい。前述の通り、街の開発により、今も森林の伐採は続けられている。自宅近くの公園も民間地である為、一部の森林が伐採され、老人ホームとなってしまった。いずれは、残っている公園部分の売却、あるいは森林の伐採の可能性がある。これ以上の伐採をなくす1つの方法として、保護区設定を積極的に行うことが大切であろう。オオタカが繁殖可能な森林においては保護区の設定をする、というのは一番効率的な解決策である。しかし、現在の法律では、土地所有者による自発的な申請のみでは保護区に設定することはできない。そこで、日本自然保護協会は「種の保存法改正に向けた提案」3)を政府にしている。その内容とは、「種の保存法第36条の生息地等保護区とは別に、土地所有者や管理者の自発的な意志に基づき環境大臣が指定する認定生息地等保護区の制度を創設」することである。

 また、協会はその中で「生息地等保護区の税制優遇措置の追加」3)も提案している。これは土地の所有者が保全に協力するインセンティブに繋がる。イギリスでは、「環境スチュワードシップ制度」が制定されており、環境保全・再生などに協力する農業従事者(土地所有者)が、「その取り組みにおいて負担せざるを得ない費用」などが公的な支出で補完される。この「環境直接支払」という制度により、イギリスでは、環境保全・再生への取り組みが拡大されている4)。そのため、自主的に保全活動に意欲のある農家が大勢参加しているという。

 このように、オオタカの住む環境を確保するためには、法律の改正、公的資金による補完など、公的機関の協力が必要である。

 次に、国内希少野生動植物種の指定解除後の対策について考える。

 現在、NGOの提案・働きかけによって、国民が「種の保存法」で指定する希少野生動植物種を提案することができるようになった。将来的に、オオタカが再度指定されるためには、まず人々にオオタカの存在の重要性を知ってもらうことが大事であろう。そのために、「オオタカについての教育の充実化」を図ることが必要だと思う。私の通学していた小中学校で市内のオオタカについて学んだ記憶はほとんどない。そこで、私は小中学生を対象とした、「市野谷の森」におけるフィールドワークを授業の一環として取り入れることを提案する。オオタカの住む場所、その場所の生態系を肌で感じ、学ぶことで、オオタカに対する興味、理解が深まり、オオタカを取り巻く環境保全問題の現状に対する危機意識が生まれるのではないだろうか。現在残った「市野谷の森」は、県と市により、県立公園と市の近隣公園として整備される予定だ。市のホームページでは市民の意見を投書することができるので、個人でできる保全対策の一つとして上記の意見を提案しようと思う。

 また、法律改正の提案など、個人で成しえない行為に対しての対策として、自然保護協会のような団体へ保全対策運動のための寄付をしていきたい。

 以上のことを踏まえると、オオタカを守るためには公的機関が対策をすることが必要不可欠であることがわかる。しかしながら、そのための資金源がないのが実情だ。

 そこで、私は「オオタカブランド」を作ることを提案したい。流山市では、今年6月、「オオタカ」を「市の鳥」にする方向で検討していることを明らかにした。前述の通り、流山市にはオオタカの名前を利用した施設が数多くある。そのような施設で、オオタカをモチーフとした商品を開発・販売し、その売上げの一部を保全のための資金に充てる仕組み作り、店頭での募金箱の設置、自治会単位での募金活動の推進、全国にファンの多いオオタカをモチーフにした「ゆるキャラ」作り、「ふるさと納税」制度を利用した寄付金集め等の活動を行っていくことで、オオタカの知名度をアップさせると同時に保全のための資金を集めることができると考える。このような活動を行うことによって、市民あるいは市内企業にオオタカ=里山保全の機運が高まるに違いない。さらには、全国に「オオタカ」の存在を知ってもらう良い機会となり得るだろう。

 流山市は、2010年全国の市町村に先駆けて「生物多様性地域戦略」を策定し、オオタカをシンボルに生物多様性の保全に取り組んでいるという。今年、環境省はオオタカを国内希少野生動植物種から解除するとしているが、解除後も保全の手を緩めることなく、「かつておおたかのいた森」とならぬよう、市独自の施策で、街のシンボル「オオタカ」を守っていく必要がある。そのために私は、一個人としてできる環境保全運動として、今後も市への積極的な働きかけを行っていこうと思う。

引用・参考文献

・1)環境省 オオタカの国内希少野生動植物種解除と解除後の対策についての検討
ホームページ
http://www.env.go.jp/nature/kisho/domestic/otaka.html

・2)オオタカの森
一都市林「市野谷の森公園」創生への道
新保國弘 崙書房 2000年2月20日発行

・3)日本自然保護協会
ホームページ www.nacsj.or.jp

・4)環境省 自然再生に関する基本となる計画[自然再生事業における諸外国の事例]
ホームページ https://www.env.go.jp