
ワークライフバランス、QOL…
就活を目前に、人生設計の重要な部分を考えるチャンスを得ました

留学中、イタリアに旅したときの一枚
倉塚 凜々子さん|国際経営学部4年
私は2023年9月から2024年7月まで、南デンマーク大学への交換留学生としてオーデンセに滞在しました。デンマークという国に興味を持つきっかけは、高校時代の英語の課題で、たまたま「hygge」(ヒュッゲ=心地よく安心感のある楽しい雰囲気のことを表すデンマーク語)という文化を知ったことです。同時に国連が発表した世界幸福度ランキング2位の「幸せの国」であると知り、どのような国なのかを実際にこの目で見たいと思い、留学先に選びました。
【南デンマーク大学】
オーデンセ大学と南デンマーク商工大学、南ユトランド大学の3校が合併し、1998年に設立された。人文学部、自然科学学部、工学学部、人文科学部、健康科学部の5学部がある。デンマークの大学としては最も新しい大学。
南デンマーク大学 交換留学体験談
「意見を持つこと」「主体的に何かを導きだすこと」に重きを置いたカリキュラム
南デンマーク大学では「Faculty of Business and Social Sciences」という名前の学部に所属し、政治心理学や法学、環境経済学、スカンジナビアの歴史と福祉など、幅広くさまざまなジャンルの講義を受けることができました。授業は英語で行われましたが、中央大学でも国際経営学部で大半の授業を英語で受講していたため、特に苦にしたことはなかったです。
授業では、大人数クラスでも毎回のように行われるディスカッションの中で、視野を広げながら答えを導くという、知識を咀嚼(そしゃく)し、アウトプットして理解するまでの過程がひと通り行われていた印象があります。試験レポートでも、正解を書き連ねるよりも自分の視点や経験から意見を述べたことが高く評価されたという感覚を持ちました。
自分の意見を述べさせるレポートを課すクラスが多く、「意見を持つこと」「主体的に何かを導きだすこと」に重きを置いたカリキュラムでした。
「ビジネスの歴史」というクラスがとても興味深い内容で、ほとんどの大国が工業化で経済発展を遂げる中で、デンマークは農業で発展を遂げた数少ない国の一つであることから、途上国の発展に資するような“秘訣”など、酪農大国だからこそ学べる新しい視点を知りました。後継難などに直面する日本の農業の打開策を考えるきっかけになるかもしれないとも思いました。
日本茶の普及活動で日本文化をアピール
大学から自転車で30分ほどの寮に住み、ルームメイトの女子学生は、秋学期がメキシコ人と台湾人、春学期はイタリア人と中国人でした。それぞれの国や地域の就活事情や大学生活の様子を語り合い、面白かったです。
寮生活は初めてで、それぞれバックグラウンドが異なるため、衛生観念の違いなどに戸惑いもありましたが、その都度、話し合って、互いに快適に生活できるように努めました。彼女たちが作る故郷の家庭料理の味も楽しみました。
日本茶の素晴らしさを世界に広める「国際日本茶協会」のプロジェクトとして、留学先で日本茶の普及活動をする「日本茶エバンジェリスト」の活動にも取り組み、デンマークに留学に来ている他の日本人学生のエバンジェリストと一緒に、「コペンハーゲン桜フェスティバル」に出店。週末の2日間で日本茶に加えて、お団子1300本を売り上げたことも楽しい思い出です。日本文化について多くの人にアピールできたと思います。
緑茶や抹茶のことを全く知らなかったルームメイトにも、和菓子とともに楽しんでもらったり、食事会でお茶を提供したりしました。
さまざまな活動や、留学中の出来事を通して、以前は見過ごしていた日本文化の魅力や日本の細やかな技術力を再認識できたと感じています。
「個人主義の国」での気づき
デンマークは良い意味で「個人主義」の国であり、他人に干渉しすぎず、私自身も周りの目を気にしすぎることはなく、日本で暮らす以上にリラックスして日常生活を送れました。仕事を大事にするのと同じくらい、あるいはそれ以上に家族や趣味を楽しむことを大切にする文化や暮らしぶりに触れて、留学後に就職活動を控える私は、働き方に関する固定観念を捨て、一から考え直す良い機会になりました。
留学を通じて、「ワークライフバランス」「QOL(Quality of Life)=人生の質、生活の質」という漠然と捉えていた概念を、より明確化できたように感じます。就活を目前にして、人生設計の重要な部分を考えるチャンスを得られたことは大きかったです。観光ではなく、現地に住む人として「幸せの国」に身を置いて有意義な時間を過ごし、高校時代からの夢を実現できて満足しています。
留学を迷っている人には、「現地に滞在すると想定内のことも想定外のこともあり、とても刺激的で楽しい」ということを伝えたいです。学生生活の選択肢の一つとして、留学を考えてみてほしいと思っています。
童話作家、アンデルセンの故郷・オーデンセに暮らし、学ぶ

オーデンセのトラム(路面電車)と
隈研吾さんがデザインを手がけたアンデルセン博物館
デンマークは、首都コペンハーゲンがあるシェラン島、第2の都市オーフスがあるユトランド半島、滞在した第3の都市、オーデンセのあるフュン島を含む440以上の島からなっています。オーデンセは童話作家、アンデルセンの出身地としても有名で、新国立競技場のデザインを担当した建築家、隈研吾さんが設計したアンデルセン博物館があります。10カ月の留学生活は、新鮮な発見の毎日でした。
[幸せの国の四季]
晩秋から冬は晴れの日が減り、日没も早まるため太陽の光が恋しい時期です。街がきらびやかに彩られたクリスマスが過ぎ、日の光に当たれなかった1週間は、精神的にかなり堪えた記憶があります。晴れの日の多い日本の冬が恋しくなりました。冬が長く厳しいからこそ、暖かな春を感じたときの喜びはとても大きかったです。幸福度の高い国ながら、うつ病の発症率が高い要因の一つに、この冬季の日照時間の縮小があるといいます。
春から初夏は心地よい気温の日が続き、夜11時頃まで明るい地平線や青空、一面に花が咲き誇った牧草地などの光景に、「幸せの国」を感じました。
[趣味の時間、家族との時間]
オーデンセは、大都会のような気ぜわしさはなく、平日でもランニングなどのスポーツやひなたぼっこを楽しむ人の姿が目につきました。レストランなどの店が土曜日夕方には店じまいして、日曜日も営業していないという光景に驚き、ヨーロッパ圏外から訪れた留学生の友人と「稼ぎ時なのにね」と言葉を交わしました。
ただ、デンマーク人の友人から、「稼いだお金を使って家族と過ごしたり、趣味に当てたりする時間がなければ意味がない」と言われ、なるほどとも思いました。日本以上に、趣味や家族と過ごす時間を仕事と同様に大切にしている社会ということに気づかされました。
[自転車社会]
治安の良い北欧の国ですが、「デンマークで唯一盗まれるものは自転車」という言葉がありました。頻繁に盗まれるほど生活に欠かせない移動手段として普及しています。幅の広い自転車道や自転車専用の信号機の整備、手信号や二段階左折などのルールがあり、安全で快適に運転する環境が整っていました。自転車と一緒に乗る人専用の国鉄車両や、自転車で遠足に出かける幼稚園児の姿も目にしました。冬場の道路の除雪は自転車道が優先されます。
[デンマークと移民]
オーデンセに来て初めての感想はアジア人は少数派で、中東にルーツを持つ人たちが随分と多いということでした。街中にトルコの代表的な料理である「ケバブ」の店が多く目につき、大学でも中東出身のクラスメイトがいました。暮らしている人の出身国は、想像以上に多様です。
中東での紛争への人々の関心も高く、パレスチナ問題に対する大規模な抗議デモや、武装した人たちが交差点で通行を妨害するような光景も目にしました。治安や身の安全への漠然とした不安を覚えたこともありましたが、宗教や文化の持つ重要な意味と、オンラインが普及した現代において、実際に足を運んだ場で見たり聞いたりすることの価値や重要性を再認識する機会になりました。

初夏のオーデンセ

自転車社会のデンマーク

アンデルセン壁画