GO GLOBAL

グローバル・パーソンメッセージ vol.065 浅岡 恵さん

 

海外の文化に憧れて入学した大学。
音楽や文学、女性史、人文学、様々な分野へ
興味が広がり夢中になった。
その学びが、企業の会社員を経て目指した、
写真家という生き方のベースを築く。
 
~写真というツールを用いて、世の中に広く関わる~
 
世界中の「日の当らないところ」に光をあて、
力強く生きる女性の姿を、人間の弱さや切なさを、
大きなものに翻弄されて移り変わる自然や街の姿などを……
言葉に表すことのできないものを写真を通じて伝える。

そこには、きっと未来への大きなヒントがあることを信じて
 

モノを動かす仕事から、モノを生み出す仕事へ

 大学卒業後は、洋服・雑貨を扱うアパレル関係の企業でバイヤーやマーチャンダイザーなどの業務に就きました。やりがいもありましたが、「方向転換するなら今かも!」と、物を動かす仕事よりも、物を作る仕事をしたいという気持ちが芽生えてきたのです。
 そして、会社を辞めて数年後、一念発起して、写真の専門学校に入学しました。

  なぜ「写真」か、というと、とても身近な存在だったのです。会社員時代に、商品の撮影に関わったり、長期休暇にカメラを手に何度もフランスに通っていました。さらに、カメラ好きの父と8ミリカメラを愛用する祖父がいて、祖父の撮影した動画を家族で楽しんだりと、子ども時代からカメラが身近にあったことも影響したかもしれません。

 「写真」というツールを用いて、世の中に広く関わることにも興味を抱いてこの道に進みましたが、仕事に就いたというより、写真家になったというほうが正解かもしれません。カメラの道を進んだのは、自然な流れだったように思います。
 
 雑誌の連載を頂いたものの、写真専門学校に入る前は写真だけでは生活できない状況でした。そのときは、写真のほかに、フラワーデザイナー・1級と講師、そして図書館司書の資格を生かし、三足のわらじで切り抜けていました。卒業後は、様々なカメラマンの仕事と講師をすることにもなり、幸いにも、いろいろなご縁に助けられながら仕事の依頼も増えていき、職業カメラマンとして雑誌、映画、広告などを手掛け、写真家としてドキュメンタリーフォトなどを発表できるようになったというのが現実です。   

大学で夢中になったことが、
作品のコンセプトに

 高校時代から外国に興味を持っていましたが、現在のように国際関係の学部がなかった時代です。当時、そういう学部があれば迷わずに入学していたと思いますね。フランスは憧れの国でもありましたし、アメリカやイギリスの文学よりも奥深さを感じるフランスの文学に興味を惹かれて、文学部のフランス文学専攻を選びました。
 
 入学してからは、あまり目立たない学生だったと思います。吹奏楽部やハワイアン部にも所属していましたが、家庭の事情あり、後半は部活動よりもアルバイトに時間を割いていました。授業では、映画や音楽、民俗学、もちろんフランス文学など、様々な分野へ興味が広がっていきました。
 特に、フランス文学からは、人間の本質といったもの、生死など、深くてとても哲学的なことを学びました。井原先生が研究室で講義の合間に話してくださった「路地裏の話」がおもしろくてよく覚えています。肝心な研究では、取り組んだネルヴァルの研究に、かなり苦戦させられたように記憶しています。授業の合間には、図書館で戦中・戦後の女性史の書物を夢中になって読みました。女性の生き方に興味を持ち、娼婦、生と死、ジェンダーなど……。
 
 井原先生から聞いた話、女性史に関する書物、大学で夢中になって学んだこと……それは今になって思うと、私の作品のコンセプトにも繋がっているようにと思います。

撮影を通じた出会いや交流がモチベーションを高めてくれます

「世の中の光の当らないところ」に光を

 近年は、世界的に女性が活躍する社会になってきていますが、世界に目を向けると、女性が生きずらい国がまだまだ多いです。そのような環境で頑張る女性たち、女性の生き方に注目しています。さらに、街の姿、変わりゆく街や自然、そこで暮らす人々。言葉や文字にできない表情や景色から感じ取れるものを撮りたいと思っています。人間の力強さであったり、弱さや切なさだったり…。きっと答えの出るものではなく、見る人に感じとっていただくというのかな。「答えを出さない」ということでは、フランスの文学や映画に近いものがあるかもしれません。

 職業カメラマンとしての仕事では、雑誌などで俳優さんやモデルさんたちを撮るという華やかな撮影が多いのですが、時として厳しい現実を直視するドキュメンタリー撮影もあります。どのように引き受け、どう伝えられるか? など、撮影によって向き合うモードやスタンスを変えています。
 
 宣伝スチールを担当した宍戸大裕監督・飯田基張監督のドキュメンタリー映画『犬と猫と人間と 2』は、とても心に残っています。
 舞台は、東日本大震災後の福島県浪江町です。宮城県出身の宍戸監督が故郷に戻り、甚大な被害を受けた震災後の被災者の日常やボランティア活動に打ち込む人たち、さらに人間だけでなく、動物たちにも光をあてている作品です。震災の翌年に、まだ放射能のホットスポットが点在し、すれ違う車はパトカーだけ……、汚染された町で被爆しながらの撮影でした。被災地に残された動物たち、救おうとするボランティアや関係者、住み慣れた街に帰れない住民に寄り添う作品でした。ローポジション、ローアングルな姿勢で制作する様には、とても共感し、勉強になりました。
 

撮影という仕事を通じて、国際交流に貢献できる喜び

 海外や国内で様々な方にお会いし、取材し、撮影することを通じて、世界観は広がり、とてもやりがいを感じています。

 撮影地で出会う皆さんには助けられることが多く、「暑いから昼寝しなさい」ってハンモックでの昼寝を勧めてくれたり、スコールの際に雨宿りさせてくれたり。SARSが流行していた時期に40℃の発熱で寝込んだときには、1週間宿に籠らざるを得なかったのですが、オーナーさん家族をはじめスタッフの方々に親切にしてもらい、ベトナム式治療法のおかげもあって回復が早まったようでした。しかも毎日部屋に様子を見に来てくれ、食べられるものを用意してくれたのです。少し回復すると、ロビーで「ベトナムの新聞を読んで!」と、毎日ベトナム語教室になりました。従業員のハンさんは、妹さんのために都会で働き、大学の授業料を仕送りしていました。現在、妹さんはベトナムでドクターをしています。病気になったことによって距離が縮まった気がします。今、話しているベトナム語は、その時に教えてもらったものが多いように思われます。

 そして撮影をしたら、できる限り写真を届けて再び撮影するようにしています。再会を喜び、子どもたちの成長に感嘆し、高齢の方は亡くなっていることもありますが、その家族の方にも出会えることも、写真ならではのことに思えます。
 
 また、外国政府のプロジェクトに参加すると、世界中の写真家の方々と交流することもあります。2年前には、タイ王国シリキット王妃の誕生日をお祝いするプロジェクト「Thailand Through Her Eyes 2016」に呼ばれました。このプロジェクトは、世界各国から33人が招かれ、女性写真家の視点を通してタイの風景を写すというものでした。私はタイ北東部ルートチームに属し、プロジェクトを記念した晩餐会にも招待され、世界で活躍する女性写真家の皆さんと交流できただけではなく、撮影することを通して多くの出会いができたことは、本当によい経験となりました。
 
 プロジェクトへの参加、たびたび撮影でうかがう街での交流は、微力ですが国際交流に貢献できることであり、人生の貴重な思い出にもなるでしょう。また、本当に多くの方からサポートしていただけることは、自分が生かしてもらえること、写真家としての表現性に対する応援なのだと感じ、心から感謝しています。

 

未来に向かって挑戦しよう ~ 夢が広がります 

撮ることを通じて、社会と関わる面白さを味わう

 現在は、撮影の傍ら大学や専門学校等の講師として、若い方に技術指導を行っています。自分のゼミ生が卒業後に活躍してくれることも喜びのひとつです。
 そして、これから挑戦してみたいと考えているのが、子どもたちに撮影技術を教えることです。シャッターを切ること、撮影の技術を遊びながら楽しく教えてみたいですね。
 また、「写真を撮る」ということは、「写真教育」に繋がるのではないかと思っているのです。被写体ひとつを撮影するにも、角度や背景、明るさを変えれば、別の見え方があることに気づきます。それにより、写真の撮影に限らず、物事をいろんな目線で見る力が身につくと思うのです。撮影を通じて社会と関わっていくことの面白さも伝えられたら、なおうれしいですね。子どもたちの夢も広がりそうな気がしています。

 つい先日は、写真界の巨匠・山岸伸さんからお話しを頂き、ご自身の番組「山岸伸 世界の光の中で」※にゲスト出演させていただきました。山岸さんは、これまでにパーティ等でお見かけしたことがありましたが、自分から声をかける勇気も出ないほどの巨匠です。その番組にゲストで出演させていただけるなんて、本当に光栄でした。また、日ごろ取材する側に立っているので、取材を受ける側は決して得意とは言えないのですが、勇気を出して対応するよう心掛けました。自分が取材の対象になった時に、「視聴者や読者にどのように伝わっているか?」ということも、今後の課題になりそうです。

 そしてもっと積極的に、様々な表現方法で国内外で作品発表を継続していきたいし、海外と日本のアソシエーションを繋いだり、グループ展を開催して文化交流もできたらよいなあと考えています。関係者の方々との出会いにも感謝しつつ、今後も取り組んでいきたいです。
「山岸伸 世界の光の中で」
(2018年7月2日配信・TOKYO FM・エフエムサウンズ配信)
CAPA8月号(2018年7月20日発売・学研プラス)にも同時掲載

後輩の皆さんに伝えたいこと

 海外と交流のある仕事や活動をする上では、語学力がある方がbetterです。私の場合は、この仕事を始めた頃に、雑誌の海外取材や打ち合わせで英語の必要性を痛感し、英会話学校に3~4年通って勉強しました。
 しかしながら、海外に撮影に行く場合、英語が通じない場所が多いのも事実です。そのようなときは、片言の現地語と身振り手振りでどうにかなりますが、時には英語ができる学生さん等を見つけたりして現地語に通訳してもらうこともあります。英語は、学生のときに勉強して身につけておくと何かと役に立つと思います。
 
 また、日本でも海外でも仕事をする上で必要となるのが、コミュニケーション力や人間力です。異文化や人の多様性を受け入れられるようになると世界も広がります。そのためには、まずは嫌われない、好かれるようにすることも大事だと思います。
 
 また、卒業後の自分の職業を決めつけずに、興味を持ったことに集中してみてください。そのことの中に役に立つ何かがあるかもしれないし、無駄だと思うことの中にも大切なことがあったりします。いろいろな業種を経験してみて視野を広げるのもいい。回り道をしても、結果的に納得できるおもしろい人生になるかもしれません。
 
   いろいろなことに挑戦してみる
 
   焦らずに
   その時々を精一杯に生きる

 
   努力し、チャンスを逃さない
 
   失敗を恐れずに、勇気をもって頑張ってください

   研究も、遊びも、恋も!

PHOTOGRAPH  by Megumi ASAOKA

◇以下の画像をクリックすると、大きな画面で画像をご覧いただけます
大好きな南フランスにて
 大学に入学してすぐの頃、フランス語入門の授業で「君のフランス語は南仏訛りがあるね」と、先生に指摘されたことがあります。だいぶ後になって初めて南フランスを訪れたときに、とても馴染む場所でホッとするような感覚になったことを覚えています。
 長年旅をしながら、出会った人と犬や猫とのストーリーを写真と文章で紹介してきました。カメラ片手に猫気分で行く気ままな旅は止められません。                                   写真展『鷹巣村猫散歩』より

『西貢』Saigon
ドイモイ(刷新)政策の中で、急速に変化を遂げるベトナム。2003~2015年にかけて、ホーチミン市の移り変わり、街が丸ごと消えようとしている様子等、発展の向こう側にあるサイゴンの光と色と人の織り成す世界を撮っています。
                   日本外国特派員協会メインバーギャラリーにて作品展を開催(2018年4月28日~6月1日)

『Thailand Through Her Eyes 2016』に参加して
 タイ国政府観光庁は、シリキット王妃の誕生月である8月を女性月間として、Thailand Women's Journeyプロジェクトを立ち上げ、2016年に世界から女性写真家33名を招聘しました。各自の視点を通してタイを撮り下ろすミッションに、私も参加しました。8か国の写真家とタイ政府のスタッフが、1週間ともに過ごし、タイ北東部ルートの山間部の村々を回り、撮影し、会話をしたことは、貴重な体験になりました。雑誌掲載や写真展で発信できるのも、写真家ならではの醍醐味です。

                               写真展『Colors of the day in Northern Thailand』より
■プロフィール■ 

浅岡 恵(あさおか めぐみ)さん(旧姓:簑島)
フォトグラファー、ライター、アトリエメグナム主宰
大学・専門学校・NHK文化センター講座・広告会社等の講師、
写真コンテスト審査員

1963年生まれ、神奈川県平塚市出身。
1987年中央大学文学部フランス文学専攻卒業。
名古屋ビジュアルアーツ写真学科卒業(旧東京写真専門学校名古屋校)。
公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員・国際交流委員
公益社団法人 日本写真協会(PSJ)会員

<主な活動>
エディトリアル/英語取材、撮影、ライティング(約30か国100都市以上を訪問)、ドキュメンタリー、雑誌・書籍撮影、広告、動物写真など。

アトリエメグナム ホームページ

<浅岡さんの主な作品、作品展示など>
2003『Blue Sky Blue』出版
2004『Blue Sky Blue』~エーゲ海から猫だより~ ポストカード文庫出版
2009『地球横断 犬猫ものがたり』写真展とスライドトークショー:YHIギャラリー 青山
2010『地球横断 犬猫ものがたり』飯田基晴監督とコラボレーション:シネピピアめふ
2009『BEYOND』写真展:アーツギャラリー名古屋
2010『昨日いた場所』写真展:名古屋の7人の写真家によるグループ展:アーツギャラリー名古屋
2011『JPS新入会員展』実行委員、チャリティー写真展参加
2013『鷹巣村猫散歩』写真展:ニコンフォトプロムナード(新宿・大阪・福岡)
2013『JPS展 プロフェッショナルの世界』写真展参加:東京都写真美術館
2014『JPS展 プロフェッショナルの世界』写真展:横浜みなとみらい
2015『写真家大集合』写真展出品参加:オリンパスプラザ
2017『Colors of the day in Northern Thailand』写真展:ニコンフォトプロムナード(新宿・大阪・名古屋)
2018『Saigon』写真展:外国特派員協会メインギャラリー(有楽町)

<そのほか>
●『猫の手帖』海外レポート連載、カレンダー(1999~2001)●『Cats』『Wan』『猫生活』『ハッピートリマー』(2003年~現在)/ペットライフ社、緑書房、海外グラビア、カバー、国内レポート、取材撮影 ●舞台『マクベス シェイクスピア』(Rシアター)/ポスター・チラシ・当日撮影(中日新聞) ●映画『犬と猫と人間と2』(宍戸大裕監督・飯田基晴監督)/宣伝スチール撮影(ポスター、パンフレット) ●Everyday English/英語教材スチール広告/セインカミュ氏撮影(2012) ●『猫生活』緑書房/大石静氏の企画・撮影 ●『散歩の達人』うどんBOOK/交通新聞社(2011) ●『横浜・鎌倉・湘南お洒落グルメ案内』日本出版社(2011) ●『散歩の達人』ザ・東京さんぽ/交通新聞社(2012)   ●『ねこ』ネコパブリッシング「フォトグラファー浅岡恵さんのー世界ねこ紀行連載」 ●『もう一度ハッピーになった車いす犬の物語』光文社(2014) ●『居酒屋『西尾さん』のぬくもり酒』光文社(2014) ●『東京おさんぽ マップ』(2015) ●「東京エキマチ」取材撮影(2016) ●『CAPA10月号』 ~Thailand  through HER EYES~グラビア・ルポ ●『薬膳茶のすべて』緑書房 ●長野県飯島町観光課のホームページ(http://machisen-iijima.org/the_iijima/) ●Professional Lady Photograpfers-Thailand through HER EYES /タイ政府招聘(2016)