学生起業家としてメディアから注目を浴びた後、
新規事業を見いだす嗅覚、立ち上げる力を活かして
ソニー、楽天と大企業を渡ってきた本間氏。
昨年、住宅業界にイノベーションを起こすべく
シリコンバレーで新たな会社を立ち上げた。
20歳の頃より時代の最先端を歩み続けてきた彼が、
次世代を担う今の若者たちに、メッセージを送る。
大学在学中に起業。英語の壁を乗り越え、海外展開の基礎を身に付ける
大学に入った時のモチベーションは、「何か自分で起業したい」でした。大学2年生の時にインターネットが商用化され、若い私は「インターネットで世界が変わるんじゃないか」と思ったわけです。三軒茶屋のバーの2階を借りて改装し、パソコン1台でネットベンチャーを起業しました。珍しいということもあって学生起業家としてメディアにも取り上げてもらい、当時は「自分、かっこいい!」なんて思っていましたけれど、今思い返すと中途半端でしたね。
5年くらい経つと日本にインターネット・バブルがやってきて、25歳で4億の投資を受ける50人規模の会社になりましたが、バブルが弾けて上場が出来ず、2003年に会社を売却。しかし、まだ若かったので今度は違うことがやりたいと思い、たまたまお声がけ頂いたソニーの社員になりました。サラリーマンになるのが初めてだったのでどんなものかと思いましたが、楽しかった。
ここで初めて、英語を使って仕事をすることを覚えました。それまではドメスティックで、海外出張に行っても旅行のような視察程度でしたから。
ソニーでは社内で新規事業を立ち上げていました。いわばイントレプレナーです。動画共有サービスの立ち上げでは、会長兼CEOだったハワード・ストリンガーに認めてもらえ、発表記者会見に一緒に登壇もしました。とても楽しく仕事をしていたんですが、「そろそろいいかな」と、他にも色々あって辞めようかなと思っていると、それをストリンガー会長が察して、これからどうしたいのかと聞いてくれた。なんでも自分がやりたいと思ったことは、口にしてみるものですね。カリフォルニアへ行きたいと言ったら、行かせてくれました。住んだことはもちろん、留学したこともありませんでしたが、サンフランシスコに赴任したんです。
ところが現地に行ってみると、アメリカ人上司の英語が半分くらい分からない。上司の言っていることが半分理解できなくて、仕事になると思いますか? 結局、サンフランシスコに行ったはずなのに、サンディエゴに移動になりました。ここの上司に半年間、週2回の英会話教室に放り込まれて、仕事をしつつみっちり英語の勉強をさせられたわけです。それが功を奏して今は英語を使って仕事ができていますが、そんな時代もあったんです。
日本の未来を支えるため、若者の起業を支援。自らも新規事業を展開
IDEO社の創業者トム・ケリー氏と
アメリカに行って分かったのは、日本企業の存在感がないということ。日本は海外に出ていかないと、未来は明るくないと思っています。
2050年、日本の人口は現在より約25%減少すると言われ、これに比例しマーケットは縮んで労働力は減ってくる。GDPランキングはインドやブラジルに追い越されると予測されていて、そうなると国際社会で日本の発言力も弱くなってくる。この国はどうなっていくんだろうって。
自分に突き付けられた選択は「グローバルに行くか、死を待つか」。極端な言い方をしましたけれど、簡単に言えばグローバルに出ていかないと日本に未来はないんじゃないかと自分なりに思ったわけです。そこで、アメリカのソニーで仕事をしながら、渡米してきた日本の若者の起業支援をボランティアで始めました。
この活動がマスコミに取り上げられ、ビジネス誌で「次代を創る100人」に選出して頂きました。
そんな時に、当時出始めだった電子書籍をグローバル展開するということで、事業戦略担当を任されたんです。電子書籍の端末のことはもちろん、出版社への交渉、オンライン販売など、電子書籍にまつわることならすべてを理解しなければいけませんでした。この事業に携わるなかで、楽天の会長である三木谷浩史さんから、楽天が電子書籍サービス「kobo(コボ)」を始めるタイミングで誘われ、アメリカに在住したまま楽天に転職。楽天では紆余曲折を経てKoboの日本事業を立ち上げる副担当役員になりました。
2012年7月にkoboがリリースされると、不具合によるトラブル対応に追われることに。こんなこともありながら、楽天はデジタルコンテンツのベースを作り、日本やアメリカ、アジア、ヨーロッパのマーケットで、グローバルデジタルコンテンツを積極的に展開していきました。
私はその後、再びシリコンバレーに移り、明日のビジネスの種、スタートアップ事業を探す日々が始まります。すごく楽しかったです。だって、毎日が未来。起業家はエネルギッシュな人が多いですから、前向きな話を熱く語り合いました。
グローバルビジネスのため、“アメリカ”で住宅業界にイノベーションを起こす
そうするうちに、アメリカ在住9年。腑に落ちないことが出てきました。アメリカって家が、いまひとつなんです。デザインはいいのですが作りや仕上げが粗く、未来のテクノロジーがない。電話は100年かかってスマートフォンになり、自動車は100年かかって自動運転自動車になりました。でも、家は家です。技術革新を起こすことによって、生活がもっと便利で豊かになります。そういう部分に自分の経験を活かしたい、挑戦したいと思い、楽天を退職しました。
2016年5月、HOMMAという自分の名前を付けた会社をシリコンバレーで起業。なぜアメリカかというと、アメリカは人口が増え続けており日本よりもマーケットが大きいから。
また、アメリカにはさまざまな人種、バックグラウンドを持つ人が集まっているので、アメリカで受け入れられたなら、他国でも受け入れられるモノが作れているということです。アメリカでの事業展開は、グローバルビジネスの近道であると思います。
HOMMAのメンバーはテスラモーターズジャパンやApple 、LEGO、amazon、Disneyなどでの経歴を持つ13名です。アメリカの電気自動車メーカー、テスラモーターズは、IT業界のバックグラウンドを持った人が起業し、自動車業界に革新をもたらしました。今度はITのバックグラウンドを持つ私たちが、住宅業界にイノベーションを起こしたいと思っています。
起業をしたいなら、個性を伸ばして人に、社会に貢献すること
環境にやさしく、快適で、価値のある、「未来の住生活を実現する」。
これが、私たちHOMMAのミッションです。ミッションがないと、柱が立たない。それをこの十数年で学びました。20代の頃の起業を振り返ると、動機が不純でしたね。有名になりたい、金持ちになりたい、成し遂げたい……。主語は自分。それよりも、人に喜んでもらい、その対価としてお金を払ってもらう。自分のことばかりだと相手にされなくなりますが、人のことを思いやって頑張っていると、いつか誰かが助けてくれます。
アメリカは「世の中を良くしたい」と起業する人が多い。日本では出る杭が打たれ、人と同じであることを良しとする傾向がありますが、多民族国家であるアメリカでは、そもそも同じであることが難しいせいか、「あなたはこんな所が素晴らしいね」という具合に、それぞれ違う部分を褒めてくれます。
出る杭は人と違う良さがあるということ。私は学生の皆さんに、それを曲げて欲しくありません。日本では生きづらいことがあるかもしれませんが、その違いが自分の人生を変えるような変革に繋がると思っています。
もし起業に興味があるのなら、学生のうちにベンチャー企業へインターンに行くのもいいでしょう。学生時代の起業のいいところは、たとえ失敗したとしても軌道修正しやすいところ。起業は自分なりに手法を習得していくことが必要ですが、いろんな人に出会って意見を聞くのもいいと思います。机の上にプランを描いても誰とも出会えませんから、行動を起こしてください。ただし、単位を落としてまで起業することは勧めません。学生時代にもっと勉強しておけばよかったと思うのが、社会人の常です。
未来は自分の力で創り出すもの。変化を恐れず行動せよ
仕事を選ぶときに心がけていることは、以下の3つが重なる部分であるかどうか。
「好きでやりたいこと」「得意なこと」「世の中の役に立つこと」
この3つが重なる部分の仕事を選択できれば、人は幸せに仕事ができるのではないかと思います。
もうひとつは、「怒り」「恐れ」「悲しみ」の3つの負の感情に振り回されないこと。この感情に支配されると、本来のパフォーマンスが発揮できません。気持ちを素早く切り替えるようにしています。
私が好きな言葉は、パーソナル・コンピュータの父と言われるアラン・ケイの「未来を予測する最善の方法は、それを発明すること」。未来は予測するものではなく、作り出すもの。大学生の頃、自分の将来はどうなるだろうと思っていました。でも、いくら考えても未来は見えてこない。そんなことをしている暇があったら、なりたい姿を想像してそれを創り出すことが一番やるべきことだと、今は思います。夢は待っていても来ないので、もし、何か思うものがあれば、自分で掴みに行くのが一番。自分の場合は、変化に対してリスクを取ってでも「やるぞ!」と行動を起こした時が、人生の転機になっています。それが自分の人生を作り出そうとしていた瞬間だったんだと思います。
第一線で活躍している人は気持ちが前向きで、「やり遂げられる!」と自分を信じている。自分の目標に向かって行動し続けています。学生時代は私も「今日の授業は寝てよう」とかありましたが、目標が本当に大切なら何を優先して日々を過ごすか考えるべきです。一生懸命に取り組んだことは、何年か後に必ず返ってきます。やらなければ、何も返ってこない。同じ毎日を生きているなら、頑張った方がよくありませんか⁉
■プロフィール■
HOMMA Inc.
本間 毅(ほんま たけし)さん
1974年生まれ、鳥取県出身。中央大学在学中にネットベンチャー、イエルネットを起業。2002年に同企業の全営業権を譲渡後、2003年にソニー株式会社に入社。東京本社でネットメディアの新規事業開発等を経て、米国カリフォルニアに赴任。2011年にソニー株式会社を退職し、楽天株式会社執行役員に就任。電子書籍事業の推進、デジタルコンテンツのグローバル戦略担当役員を経て、米国の事業開発責任者に就任。カリフォルニアのシリコンバレーにて、新規事業を開拓する。2016年5月に楽天株式会を退社し、シリコンバレーを拠点にHOMMA Inc.を創業。