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最古のタコは巨大な頂点捕食者だった ~捕食の痕跡とAIが解読する古代海洋の捕食関係~

2026年04月24日

※本プレスリリースは、北海道大学、モルゲンロット株式会社、大阪公立大学、新潟大学、中央大学との共同発表です。

ポイント

・タコの顎化石をAI手法で高精細に可視化し、表面の痕跡から詳細な生態復元に成功。
・1億年前のタコが、最大19 mに達し、高度な知性を持つ獰猛(どうもう)な肉食動物であったことを解明。
・強靭な顎と柔軟な身体が海洋における頂点捕食者への進化のカギであったことを発見。

概要

 北海道大学大学院理学研究院の伊庭靖弘准教授、同大学大学院理学研究院の池上 森学術研究員、同大学大学院理学院博士課程の杉浦寛大氏、ルール大学のヨーク・ムッターローゼ教授、高輝度光科学研究センターの竹田裕介研究員、モルゲンロット株式会社のメフメト・オグズ・デリン氏、同社の原田隆宏博士、大阪公立大学大学院理学研究科の久保田彩講師、新潟大学脳研究所の田井中一貴教授、中央大学の西田治文名誉教授の研究グループは、大規模3Dデータを可視化可能にするAIモデルを開発し、約1億~7,200万年前(白亜紀後期)のタコ類の顎化石を解析することで、体サイズ及び生態を詳細に復元しました。
 従来の研究では、過去約4億年間の海洋において、脊椎動物が頂点捕食者として生態系の変化をコントロールし、無脊椎動物は小型の獲物として進化してきたと考えられていました。これに対して本研究では、白亜紀後期に生息した最初期のタコが、白亜紀の海洋で最大級の肉食動物に進化し、無脊椎動物でありながら頂点捕食者となったことを明らかにしました。化石から推定された全長は7~19 mに達し、彼らが地球史上最大の無脊椎動物となりうることが示されました。また、本研究で開発したAIモデルによって、獲物を噛む際に顎の表面にできる摩耗の痕跡が高精細に可視化されました。これにより、彼らが硬い殻や骨も噛み砕いて獲物を捕食する、獰猛な捕食者であったことが解明されました。さらに、この摩耗の度合が左右で大きく異なることを発見し、高度な知性を示唆する「利き手」があったことを明らかにしました。上記の発見により、脊椎動物とタコに共通の進化である、強靭な顎と、体表を覆う殻や骨がない柔軟な身体が、海洋における頂点捕食者への進化に必要な条件であることが示されました。
 なお、本研究成果は、日本時間2026年4月24日(金)公開のScience誌にオンライン掲載される予定です。

背景

 食物連鎖の最上位に位置する頂点捕食者は、捕食対象となる周囲の生物を通じて生態系全体に影響を及ぼします。過去約4億年間の海洋における頂点捕食者は、これまでサメや魚竜、クジラなどの、巨大な身体と高い身体能力を持った脊椎動物が独占してきたと考えられてきました。一方で、無脊椎動物は、防御のための殻などを進化させた小型の被食者であったと考えられてきました。これに対しタコを含む頭足類というグループは、殻を失うという無脊椎動物では例外的な進化により運動機能を向上させ、現在は高度な知性を持つ中位の捕食者として繁栄しています。中生代(約2億5,100万~6,600万年前)に多様化したタコとその祖先グループでは、全長2 mを超える大型の種も知られており、強大な捕食者であった可能性があります。しかし、そうした種においては、胃内容物などの食性*1を示す証拠が発見されておらず、過去の生態系における役割は未解明でした。一方で本研究は、捕食者であった証拠として、タコが硬い殻や骨を噛み砕く際に形成される、顎表面の摩耗痕に注目しました。

研究手法

 本研究は、モルゲンロット社が中心となって開発した大規模なデータセットを処理可能なAIを組み込むことで、北海道大学大学院理学研究院伊庭研究室で開発されたデジタル化石マイニング手法*2をアップデートし、高精細なデジタル3Dモデルによる摩耗痕の詳細な観察を可能にしました(【関連するプレスリリース】参照)。
 本手法を用いて、これまで知られていなかった幼体を含む12点のタコの顎化石を新たに発見しました。これに先行研究で北海道及びカナダのバンクーバーから報告された顎化石15点を加え、白亜紀後期(約1億~7,200万年前)の大型タコ類の分類、体サイズ、及び生態を検討しました。体サイズ復元では、近縁な現生種12種の計測に基づいて、顎のサイズから体のサイズを高精度に逆算する式を作成しました。

研究成果

 分類の結果、これまでタコ以外とされていたものを含む5種が、ヒゲダコ亜目*3の2種に統合されました。また、新たな標本には、これまでより約500万年古い、タコ類最古の記録が含まれます。体サイズ推定からは、より古い種が最大全長で約3~8m、より新しい種は約7~19mに達したことが示唆されました(図1)。これは、彼らが現生ダイオウイカ(最大12m)を超える地球史上最大の無脊椎動物であり、さらに同時期の頂点捕食者とされてきたモササウルス(最大17m)などを上回るサイズであった可能性を示します。また、新たに発見された幼体から、成長速度がより新しい種で向上しており、彼らが急速に巨大化したことが明らかになりました。
 顎化石表面には大きな欠けや傷などの摩耗痕があり、その積み重ねで失われた部分は顎の全長の10%近くに達することが分かりました(図1)。さらに、噛む部分周辺に、強い負荷により形成された多数のヒビが発見されました。これらの痕跡は、白亜紀のタコが非常に強い噛む力を持ち、硬い殻や骨を持つ貝やアンモナイト、魚などを活発に捕食していたことを示唆します。また、この摩耗の度合は左右で大きく異なることが示され、彼らに高度な知性を示唆する「利き手」という個性があったことが明らかになりました。以上の発見は、最初期のタコが、過去約4億年間の海洋において、頂点捕食者へと進化した唯一の無脊椎動物であることを示します。
 脊椎動物とタコは遠い関係にあるグループですが、その進化史には多くの共通点があります(図2)。脊椎動物とタコの祖先は、約4億年前に効率的な捕食を可能する顎を獲得しました。脊椎動物はこれにより最初の巨大な頂点捕食者となりました。彼らはその後、ウロコなどの体表を覆う硬組織を徐々に失うことで運動能力を高め、頂点捕食者であり続けました。一方で本研究は、タコの系統が脊椎動物に遅れて約1億年前に体表の殻を喪失し、白亜紀海洋最大級の頂点捕食者となったことを明らかにしました。この発見は、強靭な顎と硬組織で覆われていない柔軟な体を併せ持つことが、海洋の頂点捕食者への進化を可能にする必要条件であることを示しています(図2)。

今後への期待

 本研究の手法は、これまで手段がほとんどなかった、過去の無脊椎動物の食性推定、及び個性や知性の進化過程の解明を加速させることが期待されます。また、無脊椎動物の頂点捕食者の発見は、長らく脊椎動物を中心に考えられてきた海洋生態系復元に見直しを迫り、生命進化史のより高解像度な理解につながると考えられます。

謝辞

 本研究では、宇津城遥平氏(北海道大学大学院理学院)に復元画を作成していただきました。研究遂行にあたっては、小清水亜美⽒(株式会社EndlessGloryオフィスリスタート)、小杉恵美氏(株式会社UNITEX)、池田 譲教授(琉球大学理学部海洋自然科学科)をはじめ、多くの方々に多大なるご協力をいただきました。また、本研究ではJSPS科研費(JP22J13936、JP23K17274、JP19H02010、JP22H02937、JP23H02544、JP25K22459)、JAXA宇宙探査イノベーションハブ(JX-PSPC-540452)、キヤノン財団第10回研究助成プログラムの助成を受けました。

関連するプレスリリース

北海道大学・高輝度光科学研究センター共同プレスリリース
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  URL:https://www.hokudai.ac.jp/news/2026/01/ai7000.html
 

論文情報

論文名 Earliest octopuses were giant top predators in Cretaceous oceans(最古のタコは白亜紀の海洋における巨大な頂点捕食者だった)
著者名 池上 森1、Jörg Mutterlose2、杉浦寛大1、竹田裕介3、Mehmet Oguz Derin4、久保田彩5、田井中一貴6、原田隆宏4、西田治文7、伊庭靖弘11北海道大学大学院理学研究院、2ルール大学、3高輝度光科学研究センター、4モルゲンロット株式会社、5大阪公立大学大学院理学研究科、6新潟大学脳研究所、7中央大学)
雑誌名 Science
DOI 10.1126/science.aea6285
公表日 日本時間2026年4月24日(金)午前3時(米国東部標準時夏時間2026年4月23日(木)午後2時)(オンライン公開)

お問い合わせ先 
北海道大学大学院理学研究院 准教授 伊庭靖弘(いばやすひろ)
TEL 011-706-3538  メール iba[アット]sci.hokudai.ac.jp

配信元
北海道大学社会共創部広報課(〒060-0808 札幌市北区北8条西5丁目)
TEL 011-706-2610  FAX 011-706-2092  メール jp-press[アット]general.hokudai.ac.jp
モルゲンロット株式会社 広報室(〒102-0083 千代⽥区麹町 4-4-3)
TEL 03-6811-6644  メール contact[アット]morgenrot.net
⼤阪公⽴⼤学 広報課(〒536-0025 ⼤阪市城東区森之宮⼀丁⽬ 6 番 85 号 3 階)
TEL 06-6967-1834  メール koho-list[アット]ml.omu.ac.jp
中央⼤学研究⽀援室(〒112-8551 ⽂京区春⽇ 1-13-27)
TEL 03-3817-7423  FAX 03-3817-1677 メール kkouhou-grp[アット]g.chuo-u.ac.jp
新潟⼤学広報事務室(〒950-2181 新潟市⻄区五⼗嵐 2 の町 8050 番地)
TEL 025-262-7000  FAX 025-262-6539  メール pr-office[アット]adm.niigata-u.ac.jp

※[アット]を「@」に変換して送信してください。

参考図

図1.本研究の白亜紀タコの顎化石(A, より古い種; B, より新しい種)と現生ダイオウイカの顎(C)。顎化石には、彼らが非常に強い噛む力を持った捕食者であったことを示す、大きな欠けや傷がある。

図2.復元された体サイズ。より新しい種は、下に示した地球史上最大の無脊椎動物である現生ダイオウイカ、及びこれまで白亜紀の頂点捕食者とされてきた脊椎動物より大きい可能性がある。

図3.脊椎動物とタコの進化の共通性。このモデルは、顎の獲得と体表の硬組織の喪失が、海洋の頂点捕食者への進化のカギであったことを示す。灰色の線は脊椎動物の頂点捕食者、及び頭足類の代表的なグループを示している。頭足類においては、青の背景で示したように段階的に殻が縮小する。

用語解説

⋆1 食性 … 動物の、食物の種類や捕食行動に関係した習性。
⋆2デジタル化石マイニング手法…破壊型トモグラフィ装置により岩石を大規模データに変換し、ゼロショット学習AIを⽤いて内部のあらゆる化⽯を⾃動かつデジタルに発掘する⼿法。
⋆3 ヒゲダコ亜目 … 現生タコ類を構成する2グループのうちの一つで、ヒレを持つことが特徴。