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沖縄・粟国島で巨大な環状ペプチド「テルクファゾリンA」を発見  化学的手法とゲノム情報を組み合わせて、難解な天然物の構造を解明-

2026年06月23日

※本プレスリリースは、慶應義塾大学、中央大学、名古屋大学、東京大学との共同発表です。

 名古屋大学大学院生命農学研究科博士課程3年の田口黎武(前所属:慶應義塾大学大学院理工学研究科修士課程2年)、中央大学理工学術院の岩崎有紘准教授(前所属:慶應義塾大学理工学部専任講師)、慶應義塾大学理工学部の末永聖武教授らの研究チームは、沖縄県粟国島で採集した海洋シアノバクテリア*1から、22個のアミノ酸で構成される巨大な環状ペプチド*2「テルクファゾリンA」を発見し、その構造を解明しました。
 研究チームは、南西諸島の海洋生物から未知の天然物を探索し、その独特な化学構造と機能を明らかにする研究を進めてきました。今回、沖縄県の粟国島で採集した海洋シアノバクテリアから巨大な環状ペプチドを発見し、「テルクファゾリンA」と名付けました。
 テルクファゾリンAの構造決定では、その規格外の大きさと独特のアミノ酸配列ゆえ、従来の手法だけでは解析が困難でした。そこで研究チームは、分光分析、質量分析、ゲノム情報、化学分解反応を組み合わせたアプローチを展開し、テルクファゾリンAがもつ極めて難解な構造を明らかにしました。さらに、化学合成を達成し、構造決定の正しさを証明しました。本成果は、化学的手法では構造決定が難しい天然物に対して、ゲノム情報を統合的に活用する構造決定戦略の有効性を示すものです。
 本研究は、名古屋大学大学院生命農学研究科の恒松雄太准教授、東京大学大学院医学系研究科の野崎智義教授、S&Eシミュレーションの鈴木良太博士との共同研究で実施されました。本研究成果は米国化学会が発行する 『Journal of the American Chemical Society 』に6月18日に掲載されました。
 

1.本研究のポイント

・沖縄県粟国島に生息する海洋シアノバクテリアから巨大な環状ペプチドを発見
・従来法では解析が困難な巨大環状ペプチドに対し、化学的手法とゲノム情報を統合的に活用する戦略により難解な構造決定に成功
・巨大環状ペプチドの収束的な化学合成に成功し、構造決定の正しさを実証

2.研究背景

 生物由来の化学物質(天然物)は、医薬品候補などの有用な資源として注目されており、その機能は化学構造と密接に関係しています。一般に、天然物の構造解析には核磁気共鳴法(NMR法)*3が用いられますが、分子が大きくなるとシグナルの重なりが激しくなり、解析の難度が急激に上がります。そのため、構造が未解明のまま残されている天然物も少なくありません。一方で、近年のゲノム解析技術の進歩により、天然物の生合成*4を担う遺伝子の特定や機能解明が急速に進んでいます。そこで研究チームは、従来の解析法だけでは構造決定が困難な巨大天然物に対し、いわば天然物の設計図にあたる生合成遺伝子情報を組み合わせて、構造決定に取り組みました。

3.研究内容・成果

 本研究では、沖縄県粟国島で採集した海洋シアノバクテリアから、分子量1,975におよぶ巨大環状ペプチドを発見し、「テルクファゾリンA」と名付けました。NMR法と質量分析による解析の結果、テルクファゾリンAを構成するアミノ酸の種類と個数は判明しましたが、それらの並び方(アミノ酸配列)を決定することは困難でした。
 そこで研究チームは、構成アミノ酸の特徴からテルクファゾリンAがRiPP*5経路により生合成されると推定し、生合成遺伝子配列がアミノ酸配列決定の重要な手がかりになると推測しました。実際に、海洋シアノバクテリアのメタゲノム解析*6を通じて、テルクファゾリン生合成遺伝子クラスターを同定し、その生合成遺伝子情報をNMR法および質量分析の結果と照合することで、テルクファゾリンAのアミノ酸配列を決定しました。さらに、テルクファゾリンAはチアゾリンやチアゾールといった特殊な化学修飾部位をもつため、複数の分解反応を行い、得られたアミノ酸などの分析を行いました。これによりテルクファゾリンAの立体化学を決定し、極めて難解な天然物の構造を解明しました。
 加えて、研究チームは市販のアミノ酸誘導体から複数のペプチド断片を合成し、それらを結合させる収束的合成法*7を用いて、テルクファゾリンAの化学合成に成功しました。合成品と天然物のNMRデータが一致したことから、構造決定の正しさを実証しました。

4.今後の展開

 研究チームが実証した化学-ゲノム情報統合型の構造決定アプローチは、従来の化学的手法のみでは構造決定が難しい他の天然物にも応用できると期待されます。特に、メタゲノム解析を活用することで、培養や単離が難しい生物由来の天然物へも対象を広げられます。これにより、構造が未解明のまま残されていた天然物の再解析や、未知の天然物の発見が加速すると考えられます。
 また、本研究で発見したテルクファゾリンAについても、今後のさらなる機能解析が期待されます。テルクファゾリンAは中程度の抗寄生虫活性を示しますが、海洋環境中での役割は未検証です。本研究によって、テルクファゾリン生合成遺伝子クラスターの全長配列が得られたことから、今後は合成生物学的手法による異種生産や人工類縁体創出への展開が見込まれます。こうした取り組みは、テルクファゾリンAの機能を解明・検証するための重要な基盤になると期待されます。

<原論文情報>
Journal of the American Chemical Society
Title: Discovery, Genome-Guided Structure Elucidation, and Total Synthesis of Terukufazoline A, a Macrocyclic Docosapeptide, from a Marine Cyanobacterium
DOI: https://doi.org/10.1021/jacs.6c06625

<用語説明>
※1 シアノバクテリア:光合成を行う原核生物の一群です。海洋にも広く生息し、多様な天然物を生産することが知られています。
※2 ペプチド:アミノ酸を基本単位として構成される分子の総称です。そのうち、分子内の一部が共有結合し、環状構造を形成した分子を環状ペプチドと呼びます。
※3 核磁気共鳴法(NMR法):水素や炭素など、ひとつひとつの原子核の状態を観測して分子構造を解析する手法です。同じような環境の水素や炭素が複数存在すると、原子核を区別するためのシグナルが重なりやすくなり、解析が困難になります。
※4生合成:生物が酵素反応を利用して化学物質を作り出す過程です。生合成に関わる遺伝子や酵素について、どのような基質から、どのような反応を経て、どのような構造の物質が作られるのかに関する知見が蓄積されています。
※5 RiPP:Ribosomally synthesized and post-translationally modified peptide の略であり、リボソームで作られたペプチドが、酵素による化学修飾を受けて生じる天然物の一群です。非リボソームペプチド(NRP)とは異なり、最終生成物(本研究ではテルクファゾリンA)のもとになるペプチドのアミノ酸配列が、遺伝子配列に直接コードされている点が特徴です。
※6 メタゲノム解析:環境中の微生物を単離・培養せずに、サンプルに含まれるDNAをまとめて解析する手法です。培養が難しい微生物に由来する遺伝子情報を得ることができます。
※7 収束的合成法:複数の部分構造を別々に合成し、それらを連結して目的分子を合成する方法です。本研究では、3+3+3+3+3+3+2+2 = 22 という形で、22個のアミノ酸からなるテルクファゾリンAを合成しました。目的分子を一つずつ伸長して合成する直線的合成法(1+1+ ··· +1 = 22)に比べ、大きな分子を効率よく合成することができます。
 

※ご取材の際には、事前に下記までご一報くださいますようお願い申し上げます。
※本リリースは文部科学記者会、科学記者会、各社科学部等に送信させていただいております。

・研究内容についてのお問い合わせ先
慶應義塾大学 理工学部 化学科 教授 末永 聖武(すえなが きよたけ)
TEL:045-566-1820 E-mail: suenaga[アット]keio.jp

中央大学 理工学術院 准教授 岩崎 有紘(いわさき ありひろ)
TEL:03-3817-1915 E-mail: aiwasaki686[アット]g.chuo-u.ac.jp

名古屋大学大学院生命農学研究科 准教授 恒松 雄太(つねまつ ゆうた)
TEL:052-789-4280 E-mail: tsune[アット]agr.nagoya-u.ac.jp

東京大学大学院医学系研究科 教授 野崎 智義(のざき ともよし)
TEL:03-5841- 3526 E-mail:nozaki[アット]m.u-tokyo.ac.jp


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