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イギリスにおける博物館、大学の見学及び卒業論文作成のための資料収集

文学部人文社会学科 西洋史学専攻 4年
饗庭 直希

1.活動テーマ

「イギリスにおける博物館、大学の見学及び卒業論文作成のための資料収集」

2.概要

 2016年10月6日から10月13日の8日間、イギリスにおいて博物館、大学の見学及び卒業論文作成のための資料収集を行った。卒業論文のテーマを「古代オリエント世界における王権と動物の関わり」とし、王の飼育また収集した動物、王の狩猟、王や王権を象徴する動物という3つの視点から、メソポタミアとエジプト地域における王の表象と動物がどのように用いられたのか、なにを示そうとしたのかを考察することを目的とする。主に図像学的アプローチから考えてゆくなかで使用する資料は、写真や図などで見ることは可能であるが、不鮮明であったり、一部しか写っていなかったりすることもある。そのため、博物館を実際に訪れ、実物を観察し、考察を行い、卒業論文の資料として活用するために自ら写真を撮影しようと計画を行った次第である。また歴史を学ぶ上での見識を広げ、深めることも目的としており、専門にしようとしているアッシリアをはじめ古代ローマ、エジプトまたそのほかの時代、地域を幅広く学び、様々な角度からものごとをとらえる土台を築くよい機会となった。

3.日程

10/6(木)
  東京(羽田空港)発
  ロンドン(ヒースロー空港)着
10/7(金)
  大英博物館(西アジア、エジプト)見学
10/8(土)
  ロンドン散策
  大英博物館(西アジア、ギリシア、ローマ)見学
10/9(日)
  大英博物館(ギリシア、ローマ、その他)、大英図書館見学
10/10(月)
  オックスフォード(クライスト・チャーチ、聖メアリ教会、ボドリアン図書館)見学
10/11(火)
  アシュモレアン博物館見学
10/12(水)
  大英博物館(西アジア、エジプト)見学
  ロンドン(ヒースロー空港)発
10/13(木)
  東京(羽田空港)着

4.大英博物館

 大英博物館には10月7日から10月9日、10月12日の計4日間足を運んだが、それでも時間が足りなくなるほど所蔵量が大変多く、その規模に圧倒された。利用者も各国から訪れ、様々な言語が飛び交っていた。アジアから訪れる観光客も多く、館内で歩いている際に、中国人と間違われたようで、勢いよく中国語で話しかけられたのは、今となっては良い思い出である。館内は主に時代、地域ごとに展示されており、古代エジプト、古代ギリシアとローマ、アジア、中東、ヨーロッパ、アメリカ、アフリカというように大きく7つにエリア分けされている。また時計や貨幣などテーマによる展示や特別展示もある。一番人気は、古代エジプトエリアに入り正面に見えるロゼッタ・ストーンで、人だかりができている様子は印象的であった。写真を撮影した際は、毎週開館時間が延長している金曜の夜であり、通常の時間帯よりは混雑していなかったため、写真を撮り、観察するのにはちょうど良く、幸運なタイミングであった。ロゼッタ・ストーンに関しては、中央大学の図書館に展示されているものなどレプリカでは何度も目にすることはあったが、本物を見た際には、新鮮な気持ちはあせることなく、本物がもつ雰囲気、歴史的な重みが感じられたように思う。

 大英博物館において、かつ今回の活動において、最も時間を割いたのは、中東エリアのアッシリアのレリーフ群、特にアッシュル・バニパルの獅子狩りのレリーフである。このアッシュル・バニパルの獅子狩りのレリーフは、新アッシリア時代の都のひとつであるニネヴェの王宮レリーフの一部であり、その名の通りアッシリア王アッシュル・バニパルが主にライオンを狩る様子が描かれている。このレリーフは卒業論文で扱う資料のなかで肝となるものである。なぜならば、ライオンは王に狩られる動物というだけではなく、王を象徴する動物ということもあって、王と密接な関係をもつライオンが大きく扱われるアッシュル・バニパルの獅子狩りのレリーフは、王と動物の関係性を明らかにする多くの情報を含んでいると考えるためである。また上記のようにライオン自体も王と密接な関係を持つことから、王と動物の関係性を示すよい例として卒業論文にて大きく取り扱うこととなった。

アッシュル・バニパルの獅子狩り

 こうした獅子狩りのレリーフを観察するなかでまず驚いたことは、緻密さと写実性であった。のちのギリシアやローマといったヨーロッパ世界のレリーフのような陰影の度合いによる立体的な写実性とは異なるが、アッシリアのレリーフは細部まで丁寧に描かれていることからその写実性、躍動感が生まれているように感じられた。特にアッシュル・バニパルの服装は緻密に描かれており、服だけではなくヘッドバンドにも文様が彫られている。彼の腰には文字を掘るための筆記具が刺さっていることがわかり、筆記具はアッシュル・バニパルが教養のある王であったことを示すシンボルにもなりえたであろう。

 次に王がライオンを殺害する描写が多様であることに気が付いた。レリーフのなかで王がライオンを殺害する描写は繰り返し登場するが、その際に王は徒歩であったり、馬に乗っていたり、戦車に乗っていたりとまちまちである。使用する武器に関しても、短剣、槍、弓矢と様々であり、こうした多様な状況やものに対応し、巧みに操れる王の力や資質を、さらにはある種の「万能性」をあらわすことにもなったであろう。また大英博物館で購入した図版『Assyrian Palace Sculptures』を見て、後から気づいたことではあるが、アッシュル・バニパルの獅子狩りのレリーフでは、アッシュル・バニパルが先端部にライオンの頭が装飾された弓を用いている描写があることがわかった。ライオンを殺害するために、ライオンの力にあやかるような武器を用いており、ライオンにとっては何とも皮肉なものである。またライオンを殺害し、ライオンのもつ力を王が得たからこそ武器にライオンの装飾としてあらわれているという解釈もできるであろう。

 獅子狩りを祭儀的なものとしてとらえる3つの論拠を再確認することもできた。この3つの論拠とは、「アッシリアの帝王獅子狩りと王権―祭儀的側面と社会的機能―」という論文において、アッシリア学を研究する渡辺千香子氏が述べたことで、1つ目では獅子狩りに用いられるライオンが狩りのために特別にとっておかれた点が挙げられるという。狩りのレリーフには、自らも檻に入った子どもがライオンの入った檻を開け、その檻からライオンが出てくる描写を見ることができた。このライオンは、野生で生きているライオンを捕獲したもの、もしくは庭園で飼われていたものであって、狩りのためにあらかじめ用意されていたことがわかる。

 次に2つ目は、王の獅子狩りを市民が見物していた点が挙げられる。狩猟場面の直前にはニネヴェ市民が王の獅子狩りを見物するために丘に登る姿が描かれている。こうした描写から市民たちが獅子狩りを見ることが可能だったことがわかる。渡辺氏の言及にはないが、王の獅子狩りは多くのアッシリア兵の目にもさらされていたことがレリーフからわかる。レリーフには、ライオンが逃げないようにバリケードを作るなど王の狩りの支援をしたアッシリア兵も多く描かれている。兵士が王の狩りを目撃することで、王は兵に対しても自らの力を示し、アッシリア軍の士気を高めることができたであろう。このように、ライオンの殺される場面を集団で目撃することにより、集団心理としての興奮と緊張を引き起こすことで、渡辺氏が述べるように「単純な反応を祭儀に変える」ことになったのである。

 最後に3つ目は、獅子狩りの最後に潅奠(かんてん)の儀式がおこなわれた点が挙げられる。潅奠とは、儀礼に際して液体を注ぐ行為であり、潅奠は香をたいたあとや動物を供犠したあとにおこなわれた。潅奠に用いられた液体としては、水をはじめ、ビール、ワインといったアルコール飲料、ミルク、蜂蜜、油など幅広く様々なものがそれぞれの状況に応じて使い分けられた。獅子狩りのレリーフでは、ライオンが横たえられ、王により潅奠が施されている。ここでは、潅奠にワインが用いられた。「狩りによる流血と殺害の後に行われる潅奠の行為は、浄めの儀式であり、それはまた象徴的な「あがない」ないしは「再生」の儀式であったと考えられる」と渡辺氏は述べている。 また潅奠ともに香がたかれ、楽士による演奏もおこなわれたことにより、より色濃く祭儀的側面があらわれていることがわかる。

獅子狩りを見物するため丘に登るニネヴェ市民

潅奠(かんてん)の儀式

 ここまで獅子狩りの祭儀的な側面について、渡辺氏の考えをもと検討していたが、さらに王とライオンの表情からアプローチすることも検討してみたいと思う。ライオンの表情は闘志や痛みなど感情あらわに描かれるのに対し、王は表情を変えず淡々と狩りを行っている。もし娯楽的な意味合いが強ければ王の表情に高揚感や和やかな雰囲気があってもよいのではないかと感じる。王の表情が変わらない様子はむしろ厳正に粛々と狩りを行っており、ある種の緊張感が感じられ、儀礼の雰囲気の中に存在する緊張感、荘厳さにつながるものがあると考えることができないだろうか。この点については今後の研究でさらに検討していきたい。

 またライオンが象徴するものに関しては、このレリーフではライオンは戦意を失うことなく王に立ち向かっており、こうした姿勢は優れた戦士としての理想的な資質を体現したという渡辺氏の考えに対し、確か雄々しく立ち向かうライオンもいるものの、仰向けになっているライオンやうずくまっているライオンがいることから疑問をもっていた。今回レリーフ全体を見ることを通し、顔をそむけるライオンを新たに見つけたこと、アッシリア兵によりライオンが王へと追いやられていること、前述したようにイヌやアッシリア兵により包囲網が敷かれライオンが逃げてしまわないように対策を講じたことが描かれていることからやはりすべてのライオンに対して、戦意を失うことなく王に立ち向かっていろとはいうことができないのではないかと確認することができた。ここでは私はライオンが「魔」を象徴するではないかと思う。

「魔」とは混沌や人々にとって良くないものであり、自らが暮らす世界の外に存在する「自然」や「野生」をも含んでいると考えており、こうしたことから、獅子狩りにおけるライオンは王を象徴するものとしてではなく、「野生」を象徴するものとしてとらえる方が適切ではないだろうか。ライオンが王の象徴と「野生」の象徴という二面性を持っており、必要に応じて使い分けられていた、つまりは獅子狩りおいては、特に後者である「野生」の象徴に重点が置かれていたと私は考える。獅子狩りは「野生」を象徴するライオンを狩ることで、王が「野生」または自然をコントロールする力をもつこともあらわしているのだろう。また王は、ライオンを殺害することでライオンのもっていた力強さや獰猛性などの「野生」としての性質をも自らの特質として取り込んだのではないだろうか。このように実際にアッシュル・バニパルの獅子狩りのレリーフを見ることを通して、渡辺氏の考えを自らの考えと合わせて再確認すると同時に新たな観点を得ることができた。

 こうした王による獅子狩りは、のちの時代にも受け継がれているが、大英博物館にはこのことをあらわすよい資料を見つけることができた。それはササン朝の銀製皿である。この銀製皿にはササン朝の王であるバフラム5世とされる人物が馬に乗り、ライオンを狩る様子が描かれており、この時代にも王による獅子狩りが行われていたことがわかる。またライオンをモチーフとした展示物は多くあり、あちこちでうかがえ、大英博物館のエントランスの扉の装飾にも描かれていた。

 アッシリアの獅子狩りのレリーフ以外に卒業論文で使用する資料としては、まずシャルマネセル3世のブラック・オベリスクが挙げられる。このブラック・オベリスクとは、アッシリアの王であるシャルマネセル3世の功績を描いた記念碑である。その記念碑は4つの面にそれぞれ5枚のレリーフが描かれ、計20場面で構成されており、段ごとにテーマをもっている。1段目は西イランのギルザヌからの朝貢、2段目はオムリの王家からの朝貢、3段目はエジプトからの朝貢、4段目はユーフラテス河に面するスーヒからの朝貢、最後の5段目は南トルコのパティナからの朝貢がそれぞれテーマとなっている。今回扱うのは3段目のエジプトからの朝貢であり、ここではサルやラクダ、象、他にも角をもつ動物や人に似た四足の動物がアッシリアへの貢ぎ物としてあらわされ、特に多くの動物を見ることができる。ブラック・オベリスクに付属する碑文においても、シャルマネセル3世が朝貢として、フタコブラクダや水牛、サイ、アンテロープ、雌象、雌ザル、サルをエジプトから得たことを主張している。このブラック・オベリスクは、アッシリア国外から動物が貢ぎ物として連れてこられたよい例である。古代における王の朝貢などによる動物を集める動物コレクションの意義においては、現代と同じように自国には生息していない動物たちなどを鑑賞するなどといった娯楽的意味も十分あったであろうが、王が動物、珍しい動物を飼っていること自体にも象徴的な意味があった。 珍しい動物は自らの住む地域には数が少ない、もしくはそもそも生息していないからこそ珍しいのであり、そうした自国にいない動物は、異国の存在、王と諸外国のつながりを人々に感じさせうる。そのため、王がこうした異国から連れてこられた珍しい動物たちを飼うことは、王が異国と交易を行ったことや、異国との戦いに勝利したことを示すものであり、一国の長として業績を成し遂げ、対外的にも強い力をもつ王という存在を人々に知らしめる役割を果たしていたと考えられる。

 次にナルメル王のパレットであるが、大英博物館にあったものはレプリカではあったものの、これは卒業論文で使用する予定ではあったが、ここで展示されているとは知らず、見てまわっている間に偶然見つけることができたものである。ナルメル王とはエジプト第1王朝の初代の王として考えられている人物であり、このパレットはヒエラコンポリスで発見された奉納用大型の化粧板である。ナルメル王のパレットは、上エジプトの王であったナルメル王が下エジプトに勝利し、下エジプトの王権獲得を描いたもので、動物たちも描かれている。今回見ることできたレプリカの面では、ハヤブサの姿をしたホルス神や棍棒を手にした王が描かれる。この王は大変興味深いことに、付け髭をし、腰には牛の尻尾を下げているのである。ここでは象徴として王の代わりに牡牛が描かれるのではなく、実際に王が牡牛に扮した姿で描かれている。またパレットの上部にも牡牛が描かれた。見ることができなかった面の中段には首交差する2頭の動物が描かれ、これは上下エジプト王権の統合を象徴するとされている。その下の牡牛は王の象徴であり、敵の砦を破壊し追い詰める姿が描かれている。牡牛は力強く、生殖力がたくましく、こうした牡牛を象徴することで王自身も同じように力強く、生殖力がたくましい存在であることをアピールし、エジプトにおいて、牡牛は最も重要な王の象徴のひとつであることがわかる。

 また卒業論文用の新たな資料の発見としては、エジプトの先王朝時代の戦闘図のパレットと獅子狩りのパレットがあった。どちらのパレットにおいても、ライオンが人を襲う描写が描かれている。獅子狩りのパレットでは、その名の通り、兵士が獅子狩りを行い、ライオンを襲うはずが、逆にライオンに兵士が襲われており、興味深い内容となっている。これらは古くから獅子狩りが行われていたことだけではなく、人々とってライオンが人を襲う恐ろしい猛獣であったことを改めて示すよい資料となった。

 大英博物館では、アッシュル・バニパルの獅子狩りのレリーフなど卒業論文で使用する予定であったものをはじめ、新たに見つけることのできた資料となるものを撮影、また日本ではあまり見られないカラー写真のアッシリアのレリーフの図版などの書籍が購入でき、私が思っていたよりも大きな収穫があり、とてもよかった。

5.大英図書館

 10月9日に大英図書館を訪れた。大英図書館は大英博物館から移転したもので、1200万冊を超える蔵書があり、今回はそのギャラリーを見学した。決して大きなギャラリーではないが、多くの世界的に貴重な品々を見ることができた。ベートーヴェン、バッハ、ヘンデル、エルガーなどの楽譜からエリザベス1世やネルソンの手紙、ビートルズ自筆の歌詞まで様々な展示があり、なかでもマグナ・カルタの原本は歴史的な重みが格別であり、改めて議会政治について考えさせられるものであった。

6.オックスフォード

 当初予定では1日だけであったが、10月10日と11日の2日間に渡って訪れた。ロンドンからはバスで移動し片道2時間ほどで、移動中には羊を飼う牧場をはじめ牧歌的な風景が見られた。オックスフォードは、ロンドンと比べ、都市的な派手さはないものの、オックスフォード大学のカレッジなどを中心に歴史ある建物が並び、落ち着いた雰囲気で個人的に居心地の良い場所であった。14時以降など昼を過ぎてから開館するものも多く、オックスフォードでの1日目では、ゆっくりと街並みを歩いて見てまわることができある意味良かったのではないかと思う。

・聖メアリ―教会

 英名ではUniversity Churchとあるようにオックスフォード大学の公式な教会であるよう。ステンドグラスは大変美しかった。塔があり、4ポンド支払うと登ることができる。127段の人がひとり通ることがやっとの階段があり、登る人と降りる人で声を掛け合い登れず、一苦労。しかし塔からの景色は大変良く、ボドリアン図書館の一部であるラドクリフカメラやオックスフォードの街並みを眺めることができた。127段の狭い階段を頑張ってのぼった甲斐はあった。

・ベリオール・カレッジ

オックスフォードで人気のあるカレッジのひとつで、卒業生には経済学者のアダム・スミスなどがいる。残念ながら、ホールは見学することはできなかった。建物が美しくて緑もおおく、落ち着いたカレッジであり、学生が勉学に励むにはとても良い環境のように感じられた。

・クライスト・チャーチ

オックスフォードについてから、最初に訪れた場所であるが、前述のように昼過ぎまではグレイト・ホールなどが閉まっていたため、後からもう一度訪れた。オックスフォードで一番大きなカレッジであり、オックスフォード教区の大聖堂をもつ。『不思議の国のアリス』などの著者として有名な作家のロイス・キャロルが愛したグレイト・ホールは、日本ではあまり感じられないような荘厳さだった。またこのグレイト・ホールは、映画『ハリーポッター』での食堂のモデルになったようで、所々に既視感を覚えたのはそのためであろう。

・ボドリアン図書館

10月10日に最後に訪れた。ここでは、オーディオツアーやスタンダードツアー、ミニツアーといったいくつかのツアーがあり、今回はミニツアーに参加した。ミニツアーはガイドの方がついて、30分ほどボドリアン図書館の中を案内してもらえるというものであった。ガイドの方の話では、本棚と鎖でつながっていて、持ち出せないようなっている本がある、またほかの建物から本の依頼が受けられるようになっている仕組みがあるなど興味深い内容を聞くことができた。ミニツアーでは日本人の大学図書館の職員の方が参加しており、ボドリアン図書館に研修にきたとのことで、この図書館が世界的に見ても貴重で学ぶべきことが多いということがより実感できた。

・アシュモレアン博物館

10月11日に訪れ、当初は半日の予定だったが、展示品も多く夕方まで留まることとなった。ここでは、卒業論文で使用するサソリ王のメイス・ヘッドをはじめ多くの展示品を観察、撮影を行った。アシュモレアン博物館は考古学的な展示が多く、古代史を学ぶことへの大きな刺激となった。ミケーネ文明の黄金のマスクなどシュリーマンの発掘品も展示されており、見つけるまでアシュモレアン博物館に所蔵されていることを知らなかったこともあり、驚きとともに感銘を受けた。またインドや中国などアジアの展示品も多様で、大英帝国時代の面影を感じた。

多様な人への配慮があることも印象的だった。ゲーム形式で学べるようになっていたり、コインの大きなレプリカがあったりと子どもたちにも学びやすいように工夫がなされていた。また彫像やそのレプリカが多いこともあってか、大英博物館にも同様であったが、ところどころに折りたたみのイスが置かれ、自由に持ち運んでデッサンなどをする人も見受けられた。

さて、ここで卒業論文にて取り上げた古代エジプトのサソリ王のメイス・ヘッドに話を戻したいと思う。卒業論文では王を象徴する動物を取り上げる章でこのメイス・ヘッドを扱う。まず注目すべき点は、王の姿についてである。ここでは王は耕地に水を引くため水路の開通式を行っているが、その姿は牛の尻尾をつけ動物に扮したものである。ウシは力強く、生殖力がたくましく、こうしたウシに扮することで王自身も同じように力強く、生殖力がたくましい存在であることをアピールしようとしたのかもしれない。もう一つの注目すべき点は、このメイス・ヘッドで描かれる王の姿と都市のパレットに描かれる動物たちの姿が似ている点である。この都市のパレットとは、ナカダⅢ期と呼ばれる先王朝時代にヒエラコンポリスの神殿に奉納されたもので、王を象徴する動物たちが都市と考えられている四角いものを攻撃する姿が描かれている。破損によりわからない部分もあるが、上段にはハヤブサ、下段には左から順にハヤブサ、サソリ、ライオンが描かれた。それぞれ手には鍬があり、これにより都市を攻撃する場面が見られる。動物たちが都市を攻撃する都市のパレットとは描かれている内容の状況や行為は異なるものの、サソリ王のメイス・ヘッドでは、王は動物たちと同じように鍬を手に持って描かれた。これら2つの姿が図像学的にパラレルになっており、王の姿として定型的な表現となっていたことがわかる。こうした図像、象徴表現は王朝時代を通じ、さらに繰り返し用いられることで、伝統を形成したのではないかと考える。

7.食事

 昼食は博物館内にあるカフェでとることが多く、特に大英博物館においては、その広さもあってか、いくつか食事をとれる場所あり、長時間館内を見てまわることに適していて、非常に居心地のよい空間であった。イギリスでの食事において最も印象深かったのは、最終日前日の夜に食べたフィッシュアンドチップスである。正直なところ、イギリスを訪れるまではイギリス料理にはあまり良い印象がなかったが、せっかく訪れたのだから、フィッシュアンドチップスは食べようと心に決めていた。実際食べてみると、少々量が多かったものの、臭みなども特になく、美味しくいただくことができた。何事においても、固定観念で考えるのではなく、実際に自分の目で見て、体験して考えを形成してゆかねばならないと改めて感じさせられた。

フィッシュアンドチップス

8.最後に

 今回実際に写真におさめて卒業論文に活用できるだけではなく、実物がもつ力強さを感じ、論文執筆のよい刺激を得ることにつながった。活動を通し、何百年また何千年も前に使用されていたもの、もしくは現在も使用されているものを見ていくなかで、それぞれにもつ歴史の重みを感じ、感銘を受けるとともに、改めて歴史というものを考え直すよい機会となった。また今回イギリスが私にとって初めての海外ということもあり、不安や活動途中で体調を崩してしまうなどハプニングもあったが、無事に活動を終えることができ、一安心とともに自分にとってひとつの自信となったように感じる。

 最後になりますが、文学部事務室の方々、唐橋文先生をはじめとします今回ご協力いただいた皆様に感謝を述べて、終わりたいと思います。どうもありがとうございました。

参考文献

(書籍)

  • 大貫良夫/尾形禎亮/前川和也/渡辺和子『世界の歴史1-人類の起源と古代オリエント』中央公論新社,2009年.
  • 小川英雄『《ビジュアル版》世界の歴史2 古代オリエント』講談社,1984年.
  • ケイギル,マージョリー編著『大英博物館のAからZまで』大英博物館ミュージアム図書,2000年初版,2009年第3版.
  • 小林登志子『シュメル―人類最古の文明』中央公論新社,2005年初版,2005年第3版.
  • ストロウハル,エヴジェン『図説 古代エジプト生活誌 上』内田杉彦訳,原書房,1996年.
  • 前川和也編『図説 メソポタミア文明』河出書房新社,2011年.
  • 『世界の歩き方 A03 ロンドン 2016~2017年版』ダイアモンド社,1989年初版,2016年第26版.
  • Atac, Mahmat-Ali,The Mythology of Kingship in Neo-Assyrian Art,Cambridge University Press,2010.
  • Collins, paul,Assyrian Palace Sculptures,The British Museum Press,2008.

(論文)

  • 近藤二郎「図像資料に見るエジプト王権の起源と展開」『古代王権の誕生 Ⅲ 中央ユーラシア・西アジア・北アフリカ編』,2003年,角川書店,216-227頁.
  • 渡辺千香子「アッシリアの帝王獅子狩りと王権―祭儀的側面と社会的機能―」『オリエント』第40巻第1号,1997年,40-57頁.