ドイツ語文学文化専攻

卒業生便り

本専攻の卒業生の方は、以下のメールアドレスにお便りをお寄せください。メールには氏名、卒業年度、所属ゼミ(もしくはクラス担任)教員氏名を明記してください。お送りいただいたメールは各教員に転送します。またご許可いただけるようでしたらこのホームページで公開させていただきます。
E-mail:dokubun-grp@g.chuo-u.ac.jp

今に続く1990年10月3日/戸村桂子さん

10月3日になると今でも思い出します。1990年のあの日とその前夜を。

2日の朝、私は滞在していた南部の小さな町シュベービッシュハルを友達と一緒に借りた車でベルリンへと出発しました。1989年11月9日、ベルリンの壁が崩壊し、1990年10月3日にドイツが再統一されることが決定すると、日本でも様々なメディアが、冷戦の象徴であった東西ドイツの分断が終結し、遂に国民が望むドイツ再統一が実現すると称賛の声とともに伝えていました。このため、私もこの記念すべき日を歓喜に沸くドイツ市民と共にベルリンで迎えようと考えたのです。

しかし、同じことを考える人たちは大勢いて、北東に向かうアウトバーン(高速道路)は大渋滞。皆、全く動かない車から降りて、道路脇の芝生でおしゃべりしたり、キャッチボールを始めたりして、日本の高速道路ではあり得ない光景に笑いつつ、私たちも3日0時のベルリンを諦め、ひとまず行けるところまで行こうということにしました。

そして夕刻たどり着いたのが旧東ドイツのライプツィヒ。まずは初めて来た街中をぐるっと探索して、深夜に市民が集まりそうな広場を確認。その後、どんな夜になるのか、市民の喜び度合いはどれだけすごいのかを想像しながら夕食をとり、いざ広場へ。最初はまばらだった人通りが、0時近くになるにつれ人が増え、互いにこの日を迎える喜びを語り合っていました。そして、遂に3日0時。一斉に花火が上がり、西ドイツの旗が振られ、車のクラクションが鳴り、想像通り、喚起の声で広場が満たされました。私たちも誰からともなく差し出されたゼクト(スパークリングワイン)で乾杯。グラスを高々と持ち上げて記念撮影をしました。

ところが、しばらくすると東ドイツの旗を掲げた人たちが何やら叫んでいます。何を言っているのか理解できず、近くにいたドイツ人に尋ねると「あの人たちはね、ドイツが再統一することに反対しているんだよ」と教えてくれました。「え?反対している人たちがいる?」それは、それまでメディアを鵜呑みにしてきた私にとって大きな衝撃。一般的な報道では伝わってこない別の側面に目が向いた瞬間でした。

そして、帰国後、私は再統一への道のりと人々の思いを卒業論文として調べることにしました。多角的に物事を見られるよう海外メディアの情報や本も参考にしましたが、第三者が伝える内容だけではなく、ドイツ市民当事者たちの声を直に聞きたいと思い、先生たちのお力を借りながら複数の旧東西ドイツ人に手紙を送り、再統一をどう思うかというアンケートを行いました。偶然にも、ライプツィヒはベルリンの壁崩壊の導線となる市民デモが発生した街。広場で知り合った人たちにも協力を仰ぎました。すると、最初は旅行(出国)の自由を求めてデモを行っていた東ドイツの人たちのスローガン「Wir sind das Volk. (私たちが市民だ)」が、徐々に「Wir sind ein Volk. (私たちは一つの国民だ)」という再統一を求めるものへと変化していく過程を新たな発見とともに辿ることができました。そして完成したのが「ドイツ統一とドイツ人のアイデンティティ」という論文です。とは言え、正直なところ、今それを読み返すと穴だらけで顔を覆いたくなります。しかし、NHKで英語で世界に向けてニュースを発信している現在の私がいるのは、あの夜の衝撃とこの論文で経験した“当事者に聞く”という素直な行動のおかげだと思っています。初心忘るべからず。私にとって10月3日はそんな日となっています。

ドイツ語文学文化専攻1992年度卒業生 戸村桂子さん(2023)

とある卒業生の独文活動(ゲルマニスティーク)/伊吹和真さん

たぶん、今もドイツ語に携わる仕事をしている(ドイツ語の辞書や教科書を作っている出版社にいます)ために原稿の依頼をいただきました。

学生時代は、最初は複数のサークルを掛け持ちしていたにも関わらず、3年になる頃はどちらもやめてしまって、残ったのが「独文研究室」通いでした。何をしていたかというと、「MD(みんなのドイツ語)」という冊子を作っていたのです(当時、「基礎ドイツ語Mein Deutsch(MD)」という学習雑誌があった)。

2年生の夏にテュービンゲンに短期留学したのが独文活動のきっかけでした。初めての海外経験はインパクト大で、翌年以降も夏休みにはドイツのゲーテインスティトゥートをはしごするほどドイツにハマっていきました(当時はPrien am ChiemseeとかStaufen im Breisgauとかのんびりした田舎町にもゲーテの学校があった)。

さらに、3年以降は美術史のゼミに通っていたのですが、何を勘違いしたか、卒論をドイツ語で書くことになりました(文献がドイツ語なので訳すのが大変そうというのもあった)。書くどころか資料を読むのに時間がかかり、当たり前のように留年して論文を仕上げました。

そんなふうに、目の前のことにそれと気づかず夢中になっていたらそうなりました。好奇心を伸ばしてくれる先生運に恵まれていたことも大きいと思います。春と夏の合宿では夜遅くまで付き合っていただいたり、語学研修旅行(ポーランドに行ったこともありました)の引率など、面倒見のいい先生がたくさんいらっしゃいました。ちなみに、初めてのクラスコンパ?は多摩動物公園でしたw。

独文活動は今も続いていて、ドイツ料理レストランがオープンすれば出かけるし、旅先にドイツ語っぽいパン屋があれば入り、日本語に訳されてないボードゲームに手を出し、アニメにドイツ語キャラを見つけては一人ニヤニヤし、手帳はRollbahnです。学生時代は授業以外では読もうとしなかったドイツ語の本も年に何冊か読んでいます。

私がいたのは20年以上前のことなので、社会も研究室の雰囲気も違うと思いますが、皆さんも大学の4年間(私は5年でしたが)で何か夢中になれるものを見つけられるといいですね。とはいえ、別に学生時代でしか特別な経験ができないわけではなくて、今もまあまあ楽しくやっています。

ドイツ語文学文化専攻1997年度卒業生 伊吹和真さん(2023)

未知の学問への挑戦を通して/小島真凜さん

在学中の4年間を振り返り、ドイツ語だけでなく文学、文化、時代背景を学ぶなかで、さまざまな角度から考えを深め広げていくことができたと実感しています。

友人と語り合い共に課題に取り組んだ何気ない日々や、ドイツを訪れた際にみた景色は今でも心に残っています。

卒業後は、国家公務員として行政職に就きました。これまでその時々で可能性を信じ抜き、心を砕いて支え励ましてくださった全ての方に感謝の気持ちでいっぱいです。

身に余る貴重な経験と、冥利に尽きる任を何度も積んでいただいたこと、ずっと忘れず糧にして、社会に恩返しできるよう使命を果たしていきたいと思います。

中央大学に入学して、本当によかったです。4年間での思い出を通して、そう心から実感できたこと、とても幸せなことと思います。

ドイツ語文学文化専攻2016年度卒業生 小島真凜さん(2023)

ドイツのメディアから/沢辺ゆりさん

はじめまして。私は中央大学独文専攻の卒業生で、フランクフルト在住の沢辺ゆりと申します。1989年、ベルリンの壁崩壊直前にドイツにやってきました。留学の2年間を終えそのままドイツで就職し、最初は日本語専任講師としてドイツの大学に勤めましたが、2002年にフランクフルトに引っ越してからは、ドイツ語担当のローカルスタッフとして日系企業で働いてきました。新聞を読むのが好きなこともあり、特にここ8年間は、ドイツの時事ニュースを日本語でまとめて日本の本社に送る仕事も引き受けてきました。

今春で会社勤務は辞めましたが、今年6月から、「なるべく平易な文章で」、「ドイツのことを知らない読者にも分かり易く」書くことをモットーに、ドイツで今話題になっているニュースを取り上げて私の視点からまとめ、日本の読者に発信していく試みを始めています。メディアの役割は、なるべく多くの事実を正確に伝えることと並んで、1つの事柄を様々な角度から捉えて、賛否両論なるべく多くの異なる見方を読者・視聴者に提供し、「さあ、貴方も自分の頭で考えて下さい」と呼びかける、その姿勢にあるのではないかと思います。そしてこの点で、ドイツのメディアのレベルはかなり高い、というのが私の印象です。

日本と異なり、ドイツのテレビの毎日のニュースでは、15分ぐらいの番組のうち半分ほどが自国外のニュースで埋まります。ドイツは欧州大陸の真ん中に位置するだけでなく、大国としてEUをけん引する立場にもあり、従ってEU内のどの国で起こることにも注意しなければならず、更にEUとして対ロシア、対中国、対米国、対中近東、対アフリカの姿勢を決めねばなりません。ですから国外で起こることにもドイツは常に目を向けているのです。ドイツにいると日本にいるよりはるかによく世界が見えてくるのは、そのためです。

現在ドイツという国について学んでいる皆さんが、「今、この時」にドイツで、あるいは欧州で何が起こっているのかを知りたいと思われるようでしたら、どうぞ私のブログ「アマガエルのドイツ便り」を覗いてみて下さい。今後も5、6日に1本、新しい記事を加えていくつもりです。https://doitsudayori.blogspot.com/

中央大学大学院独文専攻修士課程1984年度修了生 沢辺ゆりさん(2020)

四年という時間を過ごしての実り/平塚瑞穂さん

大学での四年間は、長いでしょうか、短いでしょうか。

私の大学生活は、とても短く、そしてとても濃かったと感じています。この専攻で、文化、文学、歴史を学ぶことで、語学以外の幅広い教養にも同時に触れられたのが、私にとって何よりの経験となりました。

とりわけ良い経験が短期留学でした。ドイツ語文学文化専攻には、通常の授業に加え、春休みにドイツに留学できる独自のプログラムがあります。私が居たバイエルン州のヴュルツブルグ大学では、ヨーロッパ諸国やアジア圏の学生が同じプログラムに参加しており、それぞれが異なる文化を持つ中で意見を出し合うという時間がありました。

異文化に触れると自己成長に繋がるとしばしば言われますが、日本という枠組みの中で安心していたのが、他国の文化の中で意思を主張するように求められるので、それまでの自分ではいられなくなります。私は主張する事は恥ずかしいと考えていました。否定されることが嫌だったからですが、意見がない者はその場に居ないも同然とみなされるのがドイツの当たり前で、拙くても自分の意見を言うように意識を変えました。

大学に入るまでは、語学だけを学べば社会に出ても潰しが効くだろうという考えていましたが、「~だけ」という単視眼的な考えのままでは、社会に出てもやっていけなかっただろうと、社会人になった今、強く思います。グローバル化が進み、SNSが普及している現在の社会を生きていく上で、多元的な見方と意見を持ち、伝えられるようになったことは大きなプラスとなりました。文化的な教養は身に着けても、社会に出てすぐにそれを活かし、お金を稼げるわけではありません。ですが、その経験は確実に自分の強みを増やしてくれるものです。

現在私は会社員として働く傍ら、趣味で文章を書いており、企業広告等に提供しています。特にエッセイなどでは、実際のエピソードを添えて書くと、リアリティがより深まるようで、好評を得ています。独文専攻で異文化に触れた体験が、私の見識を広め、良い方向に変えてくれたと感じています。

10代~20代での経験は、その後のキャリアに大きく関わります。一つの場所でそこから見えることだけを究めるのも素敵ですが、できる限り多くの経験を積むチャンスがあるか、その環境があるかを基準に、自分が身を置く場所を選び、自分の人生を掴み取ってください。

ドイツ語文学文化専攻2015年度卒業生 平塚瑞穂さん(2018)

ドイツ語文学文化専攻から司法の世界へ/望月沙織さん

私はドイツ語文学文化専攻(以下、「独文」)を卒業した後、法科大学院に進学し、司法試験に合格して現在にいたります。独文の世界と司法の世界はまったくの別世界ですが、独文での4年間は様々な分野に興味を持つきっかけを与えてくれました。

独文というと、難しいドイツ語の文章を読解する授業をイメージするかもしれませんが、実際には、歴史や政治、文化、芸術、言語学等の様々な分野に広く接し、学生が自分の頭で物事を多角的に考えられるようになるよう先生方が後押しして下さる場所でした。 私自身もドイツ語の授業だけでなく、「現代ドイツ事情」や「ドイツ語学」等の科目を幅広く履修することによって、一見すると無関係な分野であっても、ある部分では密接に関連し合っていて、相互の学習を通じてより深い理解を得られるのだと知りました。

この学習体験を通じて、現代の複雑な社会問題を深く分析するにあたっては、一つの分野だけではなく関係した他の分野の研究も行い、様々な角度から分析を加えることが不可欠なのだと知ることができました。 そして、多くの分野に触れる中で漠然としていた司法への興味が明確になり、思い切って法科大学院へ進学する決意をしました。その時も先生方が応援して下さったことを鮮明に覚えています。

在学中には、先生方だけではなく、独文、他学部を含め多くの友人に恵まれました。ドイツのあらゆる側面に興味を持った仲間から刺激を受け、今まで知らなかった世界を知ることができたことも私を大きく成長させてくれたと思います。

世の中には様々な出来事があり、また様々な人がいて、互いに関連し合いながら変化を遂げていきます。私は独文の4年間で、今まで知ることのなかった世界を知ることができて、それまでより何倍も視野を広げることができました。独文で様々な体験をすることで、自己の可能性は大いに広がることと思います。

ドイツ語文学文化専攻2010年度卒業生 望月沙織さん(2015)

今の私の原動力を生み出した四年間/高安加奈さん

ドイツ語文学文化専攻で学んだ四年間は、新たな発見の繰り返しで、自らの引き出しを増やすことのできた、とても充実した四年間でした。

私は、大学に入学するまでドイツ語を学んだことがありませんでした。そのため、入学当初は、授業についていくことができるかとても不安でした。しかし、先生方が親身に、基礎から丁寧に教えて下さったので、入学してから学び始めた私も、安心して授業を受け、着実に力をつけることができました。

この専攻には様々な科目があります。語学の授業では、様々な小説をドイツ語で読んだり、ドイツ語で劇をしたりなどして、楽しんでドイツ語を学習しました。また、語学だけでなく、ドイツの歴史や文学、文化について学ぶ科目があり、ドイツの過去や現代についての知識を深め、ゲーテやニーチェなどの様々な文学に出会うことができました。

さらに、ゼミ演習では、ドイツ語のチャットにおける会話分析を行いました。先行研究が少ない中で分析するため、方向性が定まらず、途中でくじけそうになったこともありましたが、先生方の温かいご指導のもとで分析を進めることができました。ゼミで得た、自らで問題を提起し分析する力、分析したことを相手に分かりやすいように発表する力は、現在、仕事をする上での大きな原動力となっています。

私は、この専攻で学んだことで、英語のみを学んでいた高校生のときよりも学問的な視野が広がりました。現在私は教職に就き、子どもたちに英語を教えています。英語や外国の文化を学ぶことの楽しさを伝えるために、日々試行錯誤しながら授業に励んでいます。今後は、大学で得た言語や歴史、文化についての知識、相手に分かりやすいように伝える力を生かし、英語をより広い視野で、子どもたちに教えることができるように努めていきます。また、自己研鑽を忘れず、自らを常にスキルアップしていきたいです。

ドイツ語文学文化専攻2010年度卒業生 高安加奈さん(2013)