ドイツ語文学文化専攻

西オーストラリア大学との国際交流セミナー「日・独・豪の過去との取り組み」が開催されました。

2018年07月17日

日 時        2018年7月3日(火)~9日(月)

場 所        中央大学多摩キャンパスほか

題 目        Vergangenheitsthematik in Japan, Deutschland und Australien(日・独・豪の過去との取り組み)

 

 本学の協定校である西オーストラリア大学でドイツ語を学ぶ学生約20名がA・ルーデヴィヒ先生とともに来日するのに合わせて、2018年7月3日(火)から9日(月)にかけて、西オーストラリア大学の学生と中央大学文学部ドイツ語文学文化専攻の学生の交流をはかるための国際交流セミナーが開催されました。

 セミナーでは、「日・独・豪の過去との取り組み」をテーマに、日本・ドイツ・オーストラリアの各国の歴史のなかで、何が特別の「過去」だと考えられているのか、その過去とそれぞれの国がどう向き合っているのかを一緒に考えました。

 

Session 1&2

Dealing with the past in Germany and Japan

講師:Stefan Säbel兼任講師(中央大学)

国際交流セミナーの開始にあたり、ドイツ語文学文化専攻の1年生の英語のクラスで交流の機会をもちました。日本とドイツの過去との取り組みについて論じた複数の英語のテクストを事前に講読し、それに基づいて、「ドイツは過去としっかりと取り組んでいる」、「ドイツと比較すると日本の過去との取り組みは不十分である」という二つの命題を正しいと考えるかどうかについて、4~5人のグループに分かれて議論し、出した結論をお互いに披露しあいました。【使用言語:英語】

Session 3

Hiroshima und Friedensbewegung in Japan und Deutschland(日独の平和運動とヒロシマ)

講師:竹本真希子准教授(広島市立大学広島平和研究所)

講演では、20世紀の日独の平和運動の展開を振り返りながら、広島の被爆とそれに関する議論が、日独の戦後の反核運動にどのような影響を与えたかが論じられました。日本とドイツの平和運動の特色を比較のなかで考え、「平和」をめぐる議論の多様性と普遍性について考えるよい機会になりました。日独両言語を自在に切り替えながら、ご講演と質疑応答のすべてに対応してくださった竹本先生の語学力にも、オーストラリア側の参加者は感心しきりといった様子でした。【使用言語:ドイツ語・日本語】

Session 4

Zwei Vergangenheiten, Zwei Vergangenheitsbewältigungen –Deutschland und Japan–(異なる過去への異なる取り組み―日本とドイツ―)

講師:川喜田敦子教授(中央大学)、竹本真希子准教授(広島市立大学広島平和研究所)

セミナー初日のまとめとして、オーストラリア側の参加者に向けてセミナーの趣旨説明と導入のための講義を行いました。日独の過去との取り組みの歴史、日独にとって特別な「過去」として扱われている歴史的経験の共通点と相違点、「負の過去」をめぐる日独両国における言説形成の特徴について概観した後は、竹本先生にもご参加いただき、日独の過去との取り組みをめぐって活発な議論が行われました。【使用言語:ドイツ語】

Session 5

Historical Issues in East Asia from the Perspective of International Relations

講師:浅野豊美教授(早稲田大学)

日本とドイツは、第二次世界大戦の敗戦国どうしですが、両国を比較したときの日本の特徴は、敗戦と脱植民地化の重なりにあります。講演では、第二次世界大戦後の東アジアにおいて、脱植民地化、賠償、引揚げがどのように重なりあいながら進行したかが論じられました。脱植民地化の過程における日韓関係の複雑さと、それをめぐって浅野先生が次々に提示なさる情報の豊富さと精密さに圧倒されながら、すべての参加者にとって多くを学ぶ時間になりました。【使用言語:英語】

Session 6

中大生と一緒にドイツ語の授業を受けよう!

講師:Alexandra Schwarz兼任講師(中央大学)

西オーストラリア大学からの学生は、専門領域は様々ですが、全員がドイツ語を履修しており、一部にA2の学生がいたほかは、B1からC1程度の極めて高いドイツ語運用能力をもっていました。日本のドイツ語教育への関心も高かったため、セミナーのテーマに沿った学習は小休止して、Schwarz先生のドイツ語の授業に参加させてもらいました。最初に中大生によるドイツ語の寸劇を見せてもらった後は、ドイツで作られた教材を日豪の学生が一緒に覗き込みながら授業を受けました。テーマはGesundheit(健康)。リスニング教材(電話健康相談)の設定に真剣に考えたり笑ったりしながら、和気藹々とした雰囲気の授業になりました。【使用言語:ドイツ語】

Session 7

中央大学多摩キャンパス案内

学生企画

せっかく中央大学に来てもらったからには、多摩キャンパスを見てもらわなくては!ということで、ゼミの学生有志がキャンパス案内を買って出てくれました。最初に図書館(館内が静かなことに驚いたとのこと)を見学した後、厩舎に馬術部の馬を見に行くという話になったところで教員は別行動になりました。後は、学生は学生どうし。二時間ほど後に戻ってきたときにはすっかり仲良くなっていたようで何よりでした。入館をお許しくださった中央図書館、はぐれかけた学生のために情報提供してくださった文学部事務室の関係者の皆様に御礼を申し上げます。【使用言語:英語・ドイツ語】

Session 8

Bombenkriegsdiskurs in Australien, Japan & Deutschland: Dresden, Tokio & Darwin(日独豪における空爆をめぐる言説:ドレスデン、東京、ダーウィン)

講師:Alexandra Ludewig教授(西オーストラリア大学)

西オーストラリア大学側の引率教員であるLudewig先生に、オーストラリア、日本、ドイツにおける第二次世界大戦中の空爆体験と、それをめぐる戦後の記憶の文化についてご講演いただきました。国際交流セミナーの枠内でのご講演であったことから、随所に、グループ作業による参加者相互の情報交換、理解の確認、議論の成果の全体での共有などが織り込まれており、母語の違い、外国語運用能力の違いを超えて、参加者が自然に助け合い、学び合えるように工夫されていたのが印象的でした。【使用言語:ドイツ語】

Session 9

映画鑑賞「火垂るの墓」

司会:川喜田敦子教授(中央大学)

映画「火垂るの墓」を鑑賞し、グループに分かれて、印象に残ったシーン、映画のメッセージなどについて意見交換をしました。映画のワンシーンについて、さすがは文学部生と思わせるような解釈が披露されたり、日本における戦争の描き方の特徴について鋭い指摘があったりと、総括ディスカッションも有意義なものになりました。【使用言語:ドイツ語】

Session 10

映画鑑賞 “Grüße aus Fukushima(フクシマ・モナムール)”

司会:Alexandra Ludewig教授(西オーストラリア大学)

ドイツ語圏の文学に造詣が深く、近年は映画分析にも力を入れていらっしゃるLudewig先生が、ぜひ日本の学生と一緒に見たい、と言ってもってきてくださったのが、東日本大震災後の福島を扱ったドリス・デリエ監督の映画 “Grüße aus Fukushima(フクシマ・モナムール)” です。人間が「過去」とどう向き合うかという点でも、人間社会と原子力という問題関心においても、本セミナーの問題設定に深いところで通じるテーマの映画でした。【使用言語:ドイツ語】

Session 11

Amerasians in Okinawa: Part of ‘Champuru’?

講師:野入直美准教授(琉球大学)

過去に問題を抱える国家間の「和解」については、歴史問題とその解決という文脈でよく言及されますが、過去にまつわる問題は国内の地域間でも発生します。日本の国内で唯一、アジア太平洋戦争で戦場となった経験をもち、戦後も米軍による占領を経て、日本復帰後も基地問題を抱え続けてきた沖縄。過去の戦争に起因するひずみが様々なかたちで表出する沖縄の現在を、米軍基地の存在がもたらす「アメラジアン」(アメリカ人とアジア人の両親をもつ人々)を通じて考えました。沖縄はただの被害者ではない、もっと多様でダイナミックだ、という野入先生のご指摘も印象的でした。【使用言語:英語】

Session 12

学生報告セッション

西オーストラリア大学の学生

西オーストラリア大学からの学生は、全員が、今回のセミナーに参加するにあたって選んだ研究課題をもっており、日本滞在中に20~30分程度の発表をすることになっていました。映画鑑賞の際にもそれぞれ1名が映画分析のプレゼンテーションをしてくれましたが、多摩キャンパスでの最終セッションとなった本セッションでは、極めて質の高い研究報告が2本揃いました。それぞれ、独・日・豪の戦時性暴力、沖縄の歴史がテーマとして取り上げられ、様々な研究文献をしっかりと読み込んだうえでの聞きごたえのある報告に感心させられました。【使用言語:ドイツ語】

Session 13

Geschichtsstreit zwischen Japan und seinen Nachbarn: von inländischen zu internationalen Angelegenheiten(日本とその近隣諸国の歴史理解をめぐる対立-国内問題から国際問題へ-)

講師:近藤孝弘教授(早稲田大学)

本セミナー最後のセッションは、多摩キャンパスを離れて別会場で行われました。東アジアにおける歴史問題の展開と現状に関する説明を聞いた後、「歴史問題について記者会見を開いた日本の報道官と諸外国のジャーナリスト」という設定で、ロールプレイによる理解の確認が行われました。ロールプレイは、ドイツの歴史教育ではよく知られる手法です。日豪の学生には馴染みがなかったようで、最初は当惑している様子も見受けられましたが、「首席報道官」を演じた西オーストラリア大学の学生の熱演もあって、最終的には大変な盛り上がりを見せました。【使用言語:ドイツ語】

 

 西オーストラリア大学からの学生は、オーストラリア、中国、南アフリカ、ドイツなど、様々な地域出身の実に国際的で多彩な顔触れでした。ドイツ語文学文化専攻の学生は、各セッションの総括ディスカッションで全体の前で意見を披露するときこそ緊張が見られたものの、グループに分かれて一緒に討論したり、キャンパスを一緒に歩いたりするなかで、西オーストラリア大学の学生とすぐに仲良くなって楽しそうに話をしている様子は、企画してよかったとつくづく思えるとても嬉しい光景でした。

 教員にとっても、学術的な国際コミュニケーションに対応できる学生を育てるために、どのような外国語教育、専門教育を普段から行う必要があるかについて改めて考えるよい機会になりました。国際コミュニケーションの場で、扱いの難しい問題についても対等に議論できるだけの国際感覚と思考力、「英語プラス1」の言語運用能力を鍛えるための場をこれからも用意できればと考えています。

 

(川喜田敦子)