西洋史学専攻

古代メソポタミア研究 ワークショップについて(報告)

2017年11月21日

研究会メンバーによる記念写真

古代メソポタミア研究についての国際ワークショップ、およびニコール・ブリシュ教授による公開講演会が開催されましたので概要を報告します。

 

教育・研究交流成果の概要

 日本、アメリカ、デンマークから、古代オリエント学の研究者(合計15名)が、2日間にわたる硏究会 “Women’s Religious and Economic Roles in Antiquity”(『古代における女性の宗教的・経済的役割』) に参加した。

 また、本学の西洋史学専攻で博士論文を執筆中の学生、修士課程の学生、および他大学で古代オリエント学を専攻している学生たち(合計9名)がセミナーと硏究会に参加した。

 まず、硏究会のテーマに沿う問題提起がジェンダー硏究の専門家によってなされ、その後、中国、地中海世界、エジプト、バビロニア、ヒッタイト、アッシリア関係の研究発表がなされ、活発で実りある議論が交わされた。これら合計11の発表とディスカッションは全て英語で行われた。この研究会は、使用言語が英語ということもあって、これから国際学会に参加していく若手研究者の養成にも一役買ったのではないかと思う。

 また、学生たちは、研究発表を聞いて学ぶだけでなく、いろいろな研究者と実際に話をする機会にも恵まれ、モティベーションの向上に繋がったと思われる。

 なお、硏究会の発表論文は1年後に出版する方針である。

ニコール・ブリシュ教授 公開講演会概要(報告)

テーマ: “Cult and Kingship”

日時:11月9日(木)14:00ー15:30

場所:3号館7階 西洋史演習室(3721)

報告者:ニコール・ブリシュ Nicole Brisch

    コペンハーゲン大学 University of Copenhagen 准教授

司会:唐橋文(本学文学部教授)

備考:参加自由。使用言語は英語。

概要:セミナーでは、古代メソポタミア研究において、古バビロニア時代(紀元前2千年紀前半)の王は神と見なされていたかどうかという議論が盛んになされていることを考慮にいれながら、宗教と神格化された王権がどのように関係し合うのかを考察した。

 王が神と見なされるための必要条件:①王名に「神」を意味する限定詞がつけられているか、②神殿で宗教的に崇拝されているか、③その王のみの祭司や女性祭司を有しているか、④神話に言及されているか、⑤自らの讃歌を有しているか、に照らし合わせてみると、古バビロニア時代以前、すなわち、古アッカド王朝のナラムシン王やウル第3王朝のシュルギ王などは、文書やレリーフの中に自分を神として描かせていて、必要条件を満たしているが、古バビロニア時代の王たちはそれ程明確に自分が神であることを主張していない。イシン王朝(古バビロニア時代前期)の王たちやその後のハムラビ王が宗教的に崇拝された痕跡はない。確かに「ハムラビは私の神」という人名が残されてはいるが、その他に神格化されたことを示すものはなく、古バビロニア時代の王が神であったと言えるかどうか疑問であるという結論に至った。

 なお、このセミナーをとおして「生きている人間が神になりえる可能性」について、様々な事例を比較しながら考えていくことが、特に我々日本人にとって大切であると気付かされた。
 

研究会および講演会概要(報告)

 11月10ー11日に国際研究会「古代における女性の宗教的・経済的役割」("Women's Religious and Economic Roles in Antiquity" )が多摩キャンパス2号館4階会議室1にて開催されました。

 

テーマ:古代における女性の宗教的・経済的役割("Women's Religious and Economic Roles in Antiquity" )

日時:11月10、11日(木・金)

場所:2号館4階 会議室1

概要:ニコール・ブリシュ氏は、二日間とも研究会に参加し、3つの発表を含む第一セッション、およびジェネラル・ディスカッションの司会を務め(第1日目)、“High Priestesses in Old Babylonian Nippur”と題する講演を行った(第2日目)。

 その内容は、ニップル出土の古バビロニア時代の文書に言及される高位の女性祭司エレシュ・ディンギルとルクル(=ナディートゥム)に焦点をおき、彼女達の経済的・宗教的活動を考察するというものであった。ニップルでニヌルタ神に仕えるエレシュ・ディンギルは、ニップルの行政文書に言及されるのみで、その具体的な活動の詳細は不明であるが、ルクル(=ナディートゥム)は経済文書に頻繁に言及されることが判明した。そこから、①前者が神殿の祭儀・儀式を担当したのに対し、②後者は、神殿経営を担当し、食料或いは供物の購入や入手に直接携わったのではないかという結論に至った。

 

プログラム:

“Women’s Religious and Economic Roles in Antiquity”

The 2nd Copenhagen-Chuo Workshop

Chuo University, Tama Campus, Building 2, Floor 4, Meeting room 1


Friday, November 10

14:50–15:00 Welcome

Session 1–Chair: Nicole Brisch

15:00–15:30 Yuko MATSUMOTO “Women’s History and Gender History from Ancient Times to Modern Times”

15:30–16:00 HUANG Haijing, “A New Study of the Buddhism Policy of Wu Zetian”

16:30–17:00 Carolina LOPEZ-RUIZ, “Traveling Goddesses: Ashtarte-Aphrodite and the Archaic Mediterranean Koiné”

17:00– General Discussion

18:00– Welcome Party


Saturday, November 11

Session 2–Chair: Ada Cohen

10:00–10:30 Nozomu KAWAI, “The statues of Lioness Goddess at the Rock-Cut Chambers at Northwest Saqqara and Their Funerary Cult in the Middle Kingdom Egypt”

10:30–11:00 Keiko TAZAWA, “Beginning and End: Reconsideration of a role of God's Wife of Amun in ancient Egypt”

11:00–11:30 Coffee Break

Session 3–Chair: Keiko Tazawa

11:30–12:00 Nicole BRISCH “High Priestesses in Old Babylonian Nippur”

12:00–12:30 Ada TAGGAR-COHEN, “The Uniqueness of the Priestess Titled NIN.DINGIR in Hittite Texts in Light of Hittite Royal Ideology”

12:30–14:00 Lunch

Session 4–Chair: Nozomu Kawai

14:00–14:30 Fumi KARAHASHI, “Female Mašdarea-gift-Givers in Presargonic Lagaš”

14:30–15:00 Akiko TSUJITA, “Nisaba as a Grain Goddess”

15:00–15:30 Coffee Break

Session 5–Chair: Carolina López-Ruiz

15:30–16:00 Katsuji SANO, “The Roles of Foreign Royal and Noble Women with Dowries Presented to the Assyrian kings”

16:00–16:30 Yoko WATAI, “tba”

16:30– General Discussion

19:00– Dinner