文学部

【新刊紹介】社会学専攻教授 新原 道信 編著『人間と社会のうごきをとらえる フィールドワーク入門』

2022年04月25日

 新原道信先生 編著『人間と社会のうごきをとらえる フィールドワーク入門』が刊行されました。

著書はこちら。

新原 道信 編著『人間と社会のうごきをとらえる フィールドワーク入門』

以下は、新原先生からのメッセージです。

桜の季節がやってまいりましたが、2月下旬からいまにいたるまで、いてもたってもいられない気持ちで日々をお過ごしのことと拝察いたします。ウクライナ(とりわけ黒海沿岸地域)は、私が慣れ親しんだ地中海からの海つづき、広い意味での地中海の民の土地です。国境線の移動のなかでなんとか生き抜いてきたウクライナの人たちのこれからを思い、胸がしめつけられます。

 本書の“基点/起点”となったのは、東日本大震災の後、祈るような気持ちで行った企画である「歩く学問/フィールドワークから学ぶ」でした(この経緯は、「あとがき」にも書かせていただきました)。日頃から尊敬するフィールドワーカーのみなさんに助力を仰ぎ、これまでの旅/フィールドワークをふりかえり、若いみなさんにタスキをつないでいくことになればと思い、本をつくらせていただきました。準備を終えたのは、ロシアのウクライナ侵攻の直前でした。

 ふりかえれば、1986年のチェルノブイリ以降、“うごきの場に居合わせ”、“声をかけられたら、なんとかありあわせの道具で応答する”ため、フィールドワークをしてきたつもりでした。うまくいかないことばかりで、1989年のベルリンの壁の崩壊、1995年の阪神・淡路大震災と地下鉄サリン事件、1999年のコソボ空爆と父親の死、2003年のイラク空爆、2011年の東日本大震災は、イタリア滞在中に体験しました。ベルリンやコソボを肌身で感じた一方で、地理的に遠く離れた日本で生起した喪失に、ただおろおろして、かけめぐるしかありませんでした。2001年は、危篤のメルッチのもとに行くこともできず、「9.11」の翌日に死別し、その後のアフガニスタン侵攻を日本で茫然と見続けました。2018年から2019年、アフリカ・中東から難民が押し寄せるランペドゥーザ、メリリャ、セウタに行き、その後は、新型コロナウイルスへの対応と大学内の行政的仕事に、ほとんどの時間を費やすこととなりました。そしていままた、チェルノブイリ以降に幾度となく感じてきたような焦燥感のなかで過ごしています。

 新型コロナウイルス、大学での仕事など、様々な事情によって、自分からうごいて会うべき人に会うこともなかなか出来なくなったいま、どのような“フィールドワーク(うごきの場に居合わせ、人間と社会の根本問題に応答しようとし続ける営み)”をすることが出来るのか。その場に行くことはできず、遠く離れた場所から、それでもなんとか少しでも、近くに居る/在るような“臨場・臨床の智”を、いかに体現し得るのか。ことに臨み、社会が生み出す痛苦の“受難者/受難民”に寄り添うような生き方/在り方、学問をどのように日々営んでいくのか。 現実のフィールドで、人間と社会のうごきに“居合わせ/応答する”ことの意味と在り方が問われていると強く感じています。

 様々なかたちの受難のなかで、学生や卒業生の人たちの人間と社会への“問いかけ”が、より真摯なものになってきてもいます。そうした若い人たちが、困難な現実世界を生きることをあきらめないように、人間と社会のうごきを自前でとらえていくことに、著者たちの言葉が少しだけでもお役に立てばと思います。本書をご笑覧いただき、もしよろしければ、若い人たちにおすすめいただけましたら幸いです。

 これからの若い人たちが、ふつうに暮らし、生きること、地には平和を、そう願っています。

 今後とも何卒ご教導のほどよろしくお願い申しあげます。

2022年4月15日 著者を代表して 新原道信拝

追伸 本書にて索引等での誤りがありました。正誤表につきましては、ミネルヴァ書房のHPに掲載します。

   何卒御寛恕賜りますよう、お願い申し上げます。

著者(執筆順):

木村哲也、友澤悠季、阪口毅、石岡丈昇、首藤明和、鈴木鉄忠、中村寛、大谷晃、栗原美紀、鈴木将平、新原道信

連絡先(代表):〒192-0393 東京都八王子市東中野742-1 中央大学文学部 新原道信

 E-mail: niihara@tamacc.chuo-u.ac.jp