ドイツ語文学文化専攻
Dorothée de Nève教授講演会「ベルリンの壁崩壊から30年―ドイツ政治の課題」が開催されました。
2019年10月07日
日 時 2019年9月27日(金)13:20~15:00
場 所 多摩キャンパス3454教室(文学部3号館低層棟3 F)
講演者 Dorothée de Nève教授(ギーセン大学)
題 目 30 Jahre nach dem Mauerfall - Herausforderungen deutscher Politik
(ベルリンの壁崩壊から30年―ドイツ政治の課題)
使用言語 ドイツ語(日本語逐次通訳つき)
2019年9月27日に開催された講演会「ベルリンの壁崩壊から30年―ドイツ政治の課題」では、「現代ドイツ事情」および「ドイツ史演習」の授業の一環として、ギーセン大学のDorothée de Nève教授(政治学)に、1989年のベルリンの壁崩壊から30年が経過した今日、ドイツが政治的課題としてどのような問題を抱えているのかについてお話をうかがいました。
講演では、ベルリンの壁崩壊直前の東ドイツの情勢について簡単に振り返った後、現在のドイツ政治からいくつかのポイントを取り上げて説明がありました。ポイントのひとつは、Volkという概念の使用についてでした。Volkという概念は、ナチ時代に極めて問題のある使われ方をしたために、戦後は、使用を忌避されるようになっていました。ところが、ベルリンの壁崩壊前後のドイツでは、„Wir sind das Volk“(われわれが人民だ)という言葉が東ドイツの体制変革に向けたスローガンとなり、さらにそれは、„Wir sind ein Volk“(われわれはひとつの国民だ)という東西ドイツ統一に向けたスローガンへと変わっていきました。興味深かったのは、こうした歴史をもつVolkという語が、今日のドイツにおいて、„Damals wie heute: Wir sind das Volk“(今も昔も、われわれこそが国民だ)といった形で、外国人排斥のニュアンスを含みつつ「ドイツのための選択肢」(AfD)によって使用されているという指摘です。AfDが州議会でこの数年間に大きく議席を伸ばしているのは憂慮すべき事態です。
AfDが勢力を伸ばした背景には、いまだに解決していない東西ドイツ間の格差があります。講演では、旧西ドイツの各州と旧東ドイツの各州で、一人当たりの収入や生活満足度に大きな違いがあることが示されました。AfD の勢力伸長の背景としては、2015年以降の「難民危機」も挙げられます。中東やアフリカからの難民がヨーロッパに大量に流入し、大きな社会的政治的問題となったことは、われわれもよく知るところです。ただ、講演で紹介されたドイツのある意識調査によると、2015年には調査対象者の86%が難民問題を重要課題とみなしていましたが、現在は27%になっているそうです。難民問題に対する反応が、この間に、速いテンポで落ち着きを見せてきていることが分かります。
今日のドイツは様々な解決すべき問題を抱えています。しかし、危機をチャンスに変え、より民主的で望ましい未来に向かっていけるという希望もある、と先生は話されました。講演で紹介されたのは、旧東ドイツ地域のケムニッツで開催された極右に対抗するキャンペーン(„Wir sind mehr“)や、ドイツでも大きな広がりを見せるFridays for Futureの活動です。講演後には、こうした運動の展開に関する日独の差異まで含めて、大変活発な質疑応答が行われました。
(川喜田敦子)