ドイツ語文学文化専攻

ヴォルフガング・イモ教授(ハンブルク大学)の講演会が開催されました。

2018年04月09日

日程:2018年3月20日(火)13時20分~14時50分
場所:中央大学 多摩キャンパス 文学部3号館3102教室
講演者:Prof. Dr. Wolfgang Imo (Universität Hamburg)
題目:Diskursmarker: eine (neue?) grammatisch-pragmatische Kategorie
講演言語:Deutsch(ドイツ語)

 2018年3月20日(火)ハンブルク大学からProf. Dr. Wolfgang Imo (ヴォルフガング・イモ教授) をお迎えし、多摩キャンパスで講演会を開催しました。テーマは、Diskursmarker im Deutschen: eine (neue?) grammatisch-pragmatische Kategorie(ドイツ語のディスコース・マーカー:(新しい?)文法的・語用論的カテゴリー)でした。ディスコース・マーカーは談話標識とも呼ばれ、話者の発話態度を表す機能を持ちます。イモ先生は、まず、ディスコース・マーカーの定義について、研究史を紹介しながら、ご自身の立場を明らかにされました。その後、ドイツ語の話しことばコーパスに収められた実際の会話を聴きながら、統語構造と韻律的特徴の両面から分析例を示してくださいました。
 たとえば、weil (なぜなら)、obwohl(にもかかわらず)などという従属接続詞は副文で用いられ、定形動詞は副文末に置かれます(と、私たちは文法の授業で習いますし、それはドイツ語母語話者の規範意識にも当てはまります)。ところが、日常会話の中ではweilobwohl を用いながら、主文と同じ語順で発話が続けられることが、しばしばあります。これまで誤用あるいは「言葉の乱れ」と見なされることが多かった(あるいは、今なお多い)現象です。しかしながら、前件と後件の関係をみると、従属接続詞として用いられた場合と、ディスコース・マーカーとして用いられた場合(例1、2参照)では発話の意味が異なり、接続詞とは別の機能を持つ存在であることがわかります。その違いが、語順(定型後置か定型第2位か)にも影響を与えています。また、実際の会話では、ストレスアクセントの位置や無音ポーズによっても、談話標識であることが示されます。以下は、講演告知のポスターにも掲載したイモ先生の例文です。

例1: „Wir müssen da vorne rechts abbiegen. Weil: Ich habe letzte Woche im Radio gehört, dass diese Woche die Straße gesperrt ist.“

例2: „Ich möchte keinen Kuchen. Obwohl: Gib mir mal ein kleines Stück.“
(Imo 2018, Abstrakt für das Thema des Vortrags an der Chuo Universität)

 講演では、現代の話し言葉に加えて、SNSのメッセージのような話しことば性の高い書きことばに観察されるディスコース・マーカーについても取り上げられました。さらには、ディスコース・マーカーは、必ずしも最近に限ったものではなく、すでにバロック時代の文学作品にも見られること、しかも、作品中の登場人物によって用いられ方が異なっていたことなどが紹介されました。
 しめくくりに、残された疑問や課題、可能性のリストが示されました。今後の研究の広がりや発展が期待される新しい研究領域に、各自がどう携わることができるか、フロアを含めて意見交換をしました。
 専門性の高いテーマで少人数の講演会となりましたが、当日は大学の内外から、当該分野を専門とする研究者を中心に、大学院生、学部生が参集し、密度の濃い充実した90分間となりました。ご講演は、論理的・体系的な展開で、適宜、具体例も示されるため、専門分野を異にする聞き手にもわかりやすい内容でした。講演後も、イモ先生を囲んで、和やかな雰囲気の「談話会」がしばし続きました。(林明子)