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認知した家族関係が子どもの精神的健康に及ぼす影響に関する質問紙調査結果報告書

文学部人文社会学科 心理学専攻 4年
高橋 りや

Ⅰ.活動概要


東京都青梅市にある母校の青梅市立第二小学校にて,小学4~6年生の児童を対象に児童の認知した家族関係が児童自身の精神的健康に及ぼす影響に関するアンケート調査を実施した。

Ⅱ.活動意義・目的


児童期は発達の中で社会的に最も決定的な段階であり,学校教育などを通して集団の中で勤勉性を学んでいく時期である(Erikson,1963 仁科訳1977)。この時期の子どもたちにとって,集団の中で仲間や教師と関わりながら様々なことを学んでいくことは重要なことである。杉本・庄司(2006)は,児童期には「家族のいる場所」を持てることが心理的安定の基礎となることを示した。すなわち児童期の子どもにとって,精神的に安定する家族の存在は,学校などでのストレスフルな経験から受けるネガティブな影響を低下させると考えられる。
子どもの精神的健康に家族の要因が影響を与えるプロセスについては,夫婦間葛藤の原因や実態が子どもに影響を与えるのではなく,葛藤に対する子どもの認知的評価や感情的な反応が影響を与えるということが言われている。実際に,家族関係が直接,あるいは間接的に子どもの精神的健康に影響を与えることを明らかにしている研究もある(e.g. 前島・小口,2001など)。また,宮坂(2014)は家族成員の違いに関わらず,子どもを養育する環境として家族を把握することが現代家族の多様性に即していると述べ,親子関係のみでなく家族全体を捉えることの必要性を指摘した。そして,宮坂(2014)は子どもの認知を考慮することと家族全体を捉えることというこの2点を考慮した家族関係を測定する尺度を作成した。作成を通して、子どもが家族関係を肯定的と認知している場合,抑うつ傾向が抑制されることを明らかにした。以上より,子どもの認知した家族関係と子どもの精神的健康との関連について検討を行うこととする。
本研究では,子どもの精神的健康の指標として,不安と孤独感を用いる。近年の日本の児童期の不安障害有病率は2~4%とされ,うつ病の有病率よりも大幅に高いことが言われている(厚生省,2001)。子どもの家族関係の認知と不安の関連を扱った研究では,子どもの表現した家族関係における理想と現実のズレが大きい場合に子どもの抑うつと不安感が高いこと(内田・藤森,2007)や,不安障害の子どもはそうでない子どもより,親を受容的でないと評価すること(Siqueland, Kendall & Steinberg,1996)などが示されている。しかし,子どもの精神病理全体と比較して,子どもの不安に特化した家族要因は未だ同定されていないことが指摘されている。したがって,不安と家族要因との関係について研究を重ねることは重要だと言える。
次に,孤独感について, UNICEF(2007)の子どものwell-beingに関する調査にて,日本の子どものうち29.8%が孤独を感じていることが明らかにされた。孤独感の生起に関しては,家族との関係が大きい要因であること(工藤,1986)が明らかにされている。児童期の孤独感と家族との関連について検討した研究として,Perlman & Peplau (1984)は,社会的関係や相互作用の数,頻度だけではなく,社会的関係の質も孤独感に影響するとして,質の重要性を指摘した。児童期の子どもにおいて,身近に築く対人関係である家族との関わりがネガティブで質の低いものだと認知していれば,それだけ孤独感の高さに影響する可能性が推察される。集団の中で過ごす児童にとって対人関係における問題に直結する孤独感を検討することは重要な課題だと言えるだろう。
一般的な家族関係の研究では,ネガティブな影響についての研究が多いことが挙げられる。有光(2010)は,肯定的感情である感謝は直接的にも間接的にも精神的健康が高まると考えられると述べた。また,小学生では感謝の生起に他者の存在が必要であることが明らかにされている(藤原他,2013)。したがって,家族関係の認知が与える正の影響の指標として,対人的感謝を使用する。さらに,本研究では,対人的感謝を媒介して家族関係認知が精神的健康に影響を与えるというモデルについて検討する。先行研究では,男子において,感謝と家族からのサポートとの間に正の関連があることが示されている(Froh et al.,2009)。また,感謝の対象について筆記課題をさせた研究では,小学生と大学生の両方において最も挙げられたテーマの中に両親や友達に関する感謝が含まれていた(Gordon, Musher-Eizenman, Holub, & Dalrymple,2004;Emmons & McCullough ,2003)。このように家族に対する感謝が青年期まで続くことを考慮すると,児童期に家族へ抱く感謝が基盤となって,家族からのソーシャルサポートが受けやすくなるなどの発達や精神的健康における重要な役割を感謝が担っていると考えられる。したがって,家族関係が精神的健康に及ぼす影響(初期モデル;Figure1)について検討し,明らかにすることは重要であるといえる。以上を踏まえ,本研究では以下の2つの仮説を検討する。

 仮説(1)家族関係認知は対人的感謝,孤独感,特性不安にそれぞれ影響する。
 仮説(2)家族関係認知は対人的感謝を媒介して孤独感,特性不安の精神的健康に影響する。

Figure1 本研究で想定された初期モデル

Figure1 本研究で想定された初期モデル

Ⅲ.活動報告

1. 調査実施準備

  • 事前訪問と手続き
    まず,2016年12月に調査校よりアンケート調査実施の承諾をもらい,調査の詳細について調整を行なうため,その後,三度の訪問をした。
    5月29日の一度目の訪問では,調査校にて学校長と保護者への依頼状及びアンケートの内容の最終確認を行なった。次に,6月26日の二度目の訪問では,依頼状・承諾をもらったアンケート・切手付き郵送用封筒・調査協力のお礼である消しゴムを余裕のある数用意し,小学校へ持参した。28日には,児童全員に質問紙の入った封筒が配布されたことが調査校からの連絡で確認できた。7月4日に小学5・6年生,11日に4年生の保護者を対象とした保護者会にて調査協力の案内を小学校の教師より行なってもらった。そして,18日の三度目の訪問で,余分な質問紙や配布に使った紙袋などの回収を行なった。
    質問紙は封筒に入れ,調査協力の依頼状・謝礼の消しゴム・切手付き返信用封筒の3つも共に同封した。質問紙の入った封筒は,学級ごとに担任教師から児童に配布してもらった。そして,児童には封筒を自宅に持ち帰ってもらい,調査協力の依頼状について保護者の方と読んでもらい,保護者の承諾の得られた児童のみ回答するよう求めた。また,回答の際には児童は保護者の目の届くところで回答することと,回答後は返信用封筒に入れて7月31日までに郵送することを依頼状に記載した。
  • 質問紙の内容
    表紙のフェイスシ-トにて性別,年齢,クラスの記入を求めた。本来の尺度の項目の表現は変えず,小学3年生までに習ったもの以外の漢字については全てふりがなをふって対応した。また,質問内容の順番については調査校からの提案を受け,ポジティブな内容である対人的感謝尺度から尋ねる構成にした。

    質問1:「小学生における対人的感謝尺度」は藤原ら(2014)が作成した小学生の,特に人に抱く特性感謝感情を測定する尺度である(1因子8項目4件法)。

    質問2:「子どもの認知した家族関係尺度短縮版」は宮坂(2014)が作成した子どもがどのように自分の家族を捉えているのかを測定する尺度24項目について,菊地・富田(2016)が作成した「いじめ」「虐待」に関する一部項目の削除,表現の変更が成された16項目の短縮版である(ポジティブ認知因子9項目とネガティブ認知因子7項目の2因子5件法)。

    質問3:「子ども用孤独感尺度(Five-LSC)」は,西村・村上・櫻井(2015)が作成した,子どもの抱く孤独感を測定する尺度である(1因子5項目4件法)。

    質問4:「特性不安尺度短縮版」は,曽我(1983)によって作られた日本版State-Trait Anxiety Inventory for Children(STAI-C)の内の特性不安を測定する尺度20項目について,谷ら(2011)が1因子7項目の短縮版を作成したものである(1因子7項目3件法)。

  • 倫理的配慮
    事前に保護者会にて教員から口頭説明すると同時に、保護者用の調査協力の依頼状にて,質問紙への回答は任意であり,依頼状を親子で読んで理解し協力してもらえる場合のみ回答する質問紙に記載した。
    さらに,無記名のため個人が特定されることはないこと,回収した質問紙は調査終了後に破棄することを記した。質問紙の表紙においては,答えたデータは誰が書いたものかわからないようにして処理されること,良い答えや悪い答えというものはなく成績にも関係ないことを記した。質問項目に不快感を覚えたり回答への抵抗感を覚えたりした場合は回答を中止していい旨も加えて記載した。また,学校側へ封筒を渡して以降,研究実施者からの児童や保護者への回答の催促は行わなかった。調査協力の依頼状に研究実施者の住所・電話番号・メールアドレスを記載し,問い合わせがあった場合に備えた。
    また,質問内容について事前に学校側と打ち合わせを重ね,子どもの認知した家族関係尺度(宮坂,2014)において侵襲性の高いネガティブな項目の削除や表現の変更を行った菊地・富田(2016)の短縮版を用いたり,日本版STAI-C(曽我,1983)に関して作成された特性不安短縮版(谷・並川・脇田・中根・野口,2011)を用いることで全36項目と少ない項目数で構成したりすることにより,回答する児童の負担の軽減を図った。さらに,本研究は中央大学人文科学研究所倫理審査委員会による事前の研究倫理審査を受け,承認を受けた(研究代表者:富田拓郎)。

2. 調査結果・考察

  • 回収率・対象者の属性

    調査校に通う4年生から6年生の計335名を対象として質問紙を配布した。回収できた118名分(回収率35%)のデータのうち,欠損値のあるデータを抜き,最終的に115名のデータを分析対象とした。対象者の内訳は,男子53名(4年生16名,5年生22名,6年生15名),女子62名(4年生20名,5年生20名,6年生21名,不明1名)であった。平均年齢は10.7歳,標準偏差は3.9であった。
  • 尺度の因子構造と信頼性係数

    最初に,使用した各尺度の因子構造を検討した。全ての尺度において男女合わせて因子分析を行なった。

    小学生における対人的感謝尺度8項目については,天井効果の見られた2項目を除いた6項目で確認的因子分析を行なった。その結果,当初の1因子構造でやや高い適合度が認められた。6項目のα係数は.877と高い値であった。
    子どもの認知した家族関係尺度の16項目については,8項目において天井効果,床効果と思われる偏りが見られた。しかし,原尺度の宮坂(2014)では効果の見られた項目を重要であるとして残していることから, 本研究でも削除せず,全16項目で事前の想定通りの2因子構造になることを確かめるために,Amosを用いた確認的因子分析を行なった。その結果,当初の因子構造では十分に高い適合度が得られなかったため,改めて最尤法による探索的因子分析を行なった。固有値の変化は,5.362,1.731,1.271,1.059・・・・であり,数値落差より2因子構造と考えられた。そこで再度2因子を指定して最尤法プロマックス回転による探索的因子分析を行なった結果,全項目が0.30以上の負荷量を示した。

    第1因子は7項目で構成されており,「わたしはわたしの家族が好きだ」「家族みんなでいっしょにいると楽しい」「わたしの家族は家族のみんなを大切にしている」など家族に対するポジティブな感情の認知が示された内容の項目が高い負荷量を示していた。そこで,「ポジティブな感情認知」因子と命名した。α係数は.78とやや高い値であった。第2因子は9項目で構成されており,「わたしの家族はしかる時もわたしのいいぶんをしっかり聞いてくれる」「わたしの家族はわたしの言ったことをわかってくれないときがある」「わたしの家族はわたしがきずつくようなことをよくいう」など家族の受容的な態度や行動に対する認知が示された内容の項目が高い負荷量を示していた。そこで,「受容とサポート」因子と命名した。マイナスの負荷を示した5項目に逆転処理を行い,算出したα係数は.77とやや高い値であった。2因子の因子間相関はr=.67であった。「ポジティブな感情認知」因子である7項目の合計得点を算出し,「ポジティブな感情認知」下位尺度得点とした。また,「受容とサポート」因子である9項目の合計得点を算出し,「受容とサポート」下位尺度得点とした。

    子ども用孤独感尺度(Five-LSC)全5項目で行なった確認的因子分析の結果,当初の1因子構造で十分に高い適合度が得られた。5項目のα係数は.87と十分に高い値であった。
    特性不安尺度全7項目で行なった確認的因子分析の結果,当初の1因子構造では十分に高い適合度が得られなかった。しかし,特性不安尺度はメンタルヘルスの指標として広く使用されている尺度であるので,本研究ではこのまま全項目で分析に使用することにした。7項目のα係数は.76とやや高い値であった。
  • 各変数の性差・学年差

    各変数の平均値における性差と学年差を検討するために2×3の被験者間分散分析を行なった(Table1参照)。その結果,対人的感謝,家族関係認知の「ポジティブな感情認知」と「受容とサポート」の2因子,特性不安,孤独感の各5変数のうち,3変数において差が見られた。

    まず,性差は,対人的感謝,「ポジティブな感情認知」,「受容とサポート」において見られ(順にF(1,108)=18.54,p<.05;F(1,108)=6.13, p<.05;F(1,108)=5.17,p<.05),各々で女子の方が男子よりも有意に得点が高かった。次に,学年差は,「ポジティブな感情認知」においてのみ見られ (F(2,108)=5.07,p<.01),6年生が有意に4年生,5年生よりも得点が高かった。孤独感と特性不安ではいずれにおいても有意な差が見られなかった。

    対人的感謝と家族関係認知の両因子は対人関係に関係する変数なので,この3変数における性差は,共感性や向社会性の高いという女子の対人関係の特徴が反映されたものと考えられる。対人的感謝における性差は,先行研究においてこの女子の対人関係の特徴が反映されたものと考えられると述べられている(藤原ら,2014)。さらに,家族関係のポジティブな認知は女子の方が有意に高いことが報告されている(菊地・富田,2016)。このように,対人関係に関わる変数においては男子よりも女子の方が高い傾向にあることは一致した知見が得られており,本研究においても同様の結果になったと考えられる。

    「ポジティブな感情認知」においては学年に有意な差が見られたことについては,発達段階が関係していると考えられる。小学生と中学生の間のこの時期は,児童期と青年期前期との過渡期にあたる(Erikson,1959 西平・中島訳2011)。青年期前期は思春期に入り,親に対して反抗期を迎え,親子関係より友人関係に意味を見出し始める時期である。このような発達的特徴から,6年において家族に対するポジティブな認知が低くなったと考えられる。

    Table1

    学年ごと男女別の各尺度得点の平均値・標準偏差,および男女差・学年差の分散分析結果



    table1
  • 対人的感謝を媒介して家族関係認知が精神的健康に影響を及ぼす仮説モデルの検討

    性差や学年差が見られた変数もあったが,今回はデータ数が115と少ないため,以後の分析は男女・学年をまとめて全体で行なった。

    家族関係認知から対人的感謝を媒介した精神的健康への影響モデルを検討するために,共分散構造分析を行なった。初期モデルの検討を行なった結果,モデルに対してやや高い当てはまりの良さを示した(χ2 =1.589,df=1,p>0.5,GFI=.994,AGFI=.917,CFI=.995,RMSEA=.072)。したがって,初期モデルはおよそ支持されたと言える(最終モデル;Figure2)。まず,「ポジティブな感情認知」から対人的感謝(.26)と孤独感(—.13)への正と負の有意な直接的影響が見られた。また,「受容とサポート」から対人的感謝(.31)と特性不安(—.44)へのやや高い正と負の有意な直接的影響が見られた。それ以外の変数においては有意な影響は見られなかった。今回は,家族認知が対人的感謝を媒介して孤独感と特性不安に影響を与えるモデルの検証であったが,対人的感謝から孤独感(.04)と特性不安(.04)への直接的影響,「ポジティブな感情認知」,「受容とサポート」からの孤独感,特性不安への間接的影響が見られなかった。

    家族関係認知のうち「ポジティブな感情認知」から対人的感謝へ,そして,「受容とサポート」から対人的感謝,孤独感,特性不安への有意な影響が認められた。したがって,仮説(1)の一部については支持されたと考えられる。対人的感謝は,先ほども述べたとおり,そもそも対人関係と関わる概念であるため,家族関係と関連があることが予測される。そして,最も身近な対人関係である家族関係に対してポジティブな感情が抱けているのならば,対人関係に関わるポジティブな感情である感謝が家族に対してそのまま引き起こされるだろうということが考えられる。

    一方で,対人的感謝から孤独感,特性不安への有意な影響は認められず,仮説(2)は支持されなかった。精神的健康の指標への効果が見られなかったという結果は,未だ知見の得られていない先行研究と重なるものであった。実際,家族関係認知では,孤独感や特性不安を低減させるのは家族や家族から受けるサポートや受容だと考えられ,ポジティブな感情を抱いているか否かは影響を与えていなかった。家族に対するポジティブな感情認知と同様に,ポジティブな感情である対人的感謝は精神的健康に影響を与えないということが考えられるだろう。


    Figure2 家族関係認知が対人的感謝を媒介して精神的健康に及ぼす影響

    Figure2 家族関係認知が対人的感謝を媒介して精神的健康に及ぼす影響

  • 本研究の限界と今後の課題

    本研究の結果から,家庭におけるサポートが不安や孤独感を抱える子どもにおける介入として効果的である可能性が示唆された。子どもにおけるメンタルヘルスは大きな問題となっているが,学校でSSTなどの訓練を行うだけではなく,より身近な存在である家族が家庭の中で行うサポートが大きな影響力を持つ可能性があると考えられる。藤枝(2011)は,身に着けたソーシャルスキルを長期休暇中に低下させることを防ぐと同時に般化させることを目的として,長期休暇中に家庭で行うSSTであるSSTH(Social Skills Training at Home)の実践研究を行なった。その中で,子どものとのSSTHを通して保護者が子どもの「モデル」としての自分の行動を意識するようになったり,親子間での会話などのやりとり自体が増えたりしたことが述べられており,今後家庭で行う介入の効果についてより深い研究が成されることに期待したい。また,本研究においては対人的感謝と精神的健康との間で関連は見られなかったが,今後も詳細な研究がなされる必要がある。また,対人的感謝と家族関係の「サポートと受容」において性別と学年の交互作用が有意傾向であり,5年生においてのみ男女差が縮まり,「サポートと受容」では男子が女子を上回っていた結果について言及する。調査をとった周辺の時期に学校や地域などにおいて,家族や周りの人との交流を深めるような向社会的な活動が何か行われた可能性が考えられる。対人的感謝や「サポートと受容」はどちらも対人的な変数であり,全学年の結果においては性差が確認されており,女子のほうが男子よりも得点が高い。これは,対人的感謝の部分で考察した通り,性差の出やすいことで知られている共感性や向社会的行動を高めるような活動が行われたことにより,元々低かった男子の得点に特に顕著に影響を与えたことから対人的な変数であったこの2つにおいて交互作用が有意傾向になった可能性がある。さらに,Froh et al.(2009)は家族からのサポートが感謝に影響を与えると考えるのであれば,性質的により感謝を抱きやすい女子は家族サポートが高い水準であろうがあまり変化しないが,男子は高レベルの家族サポートがあればより感謝を抱く劇的な変化が起こると考えられると述べている。したがって,家族からのサポートを直接受けるような体験をすることで,男子の感謝得点は飛躍的に上がる可能性を示している。調査実施直前の時期に調査校で5年生のみに対してそのような活動があった記録は残念ながら見つからなかったが,今後,調査校のインタビューを通して要因を検討する必要があるといえる。

    次に,本研究における限界と課題について述べる。第1に,本研究では,質問紙の回収率が35%と低かったことが挙げられる。小学校における任意の調査では,元のサンプル数の少なさや保護者からの同意が得られないことにより回収率が低いことは容易に想像できる。加えて今回は特に内容の中に,外部に知られることに保護者がより高い懸念を示すことが予測される家族関係の変数が含まれていたことも大きな要因の一つと考えられる。また,今回は回答した質問紙の郵送を求めたが,この作業を手間に感じ,回収率が伸びなかった可能性も考えられる。この郵送するという手法に関しては,調査に学校側が関与していないことを示すために実施した理由もあり,一概に反省点とみなす必要はないと考えるが,同時に回収率の増加を狙うものであったが,思うような十分な効果は得られなかった。今後,回収率を上げるための更なる研究における配慮や工夫が検討される必要があると言えよう。第2に,尺度の質問項目の表現に対して「分かりづらい」や「内容が重複している」という回答者・保護者からの意見が多く見受けられた。調査校側の要望により,児童の負担を考えて原尺度ではなく短縮版を用いた尺度もあり,尺度の性質上類似した質問が並ぶことはある程度避けられないことではあるが,尺度作成においてより学校現場での利用しやすさに着目した観点で行なわれる必要性が挙げられる。第3に,本研究での調査は児童が自宅で保護者の目の届くところで回答するよう求めたことにより,特に家族関係を始めとした項目の回答に実際とは異なる偏りが出た可能性が挙げられる。これは回答が保護者の前ではなかった場合のデータと異なる可能性が考えられ,本研究の結果について解釈する場合にはこの点に留意する必要がある。

3. 調査校への結果のフィードバック

2018年3月に調査校校長へのフィードバックを行なった。資料を読んで頂いた後,ご質問があるか尋ねたところ,わかりやすい資料で疑問点はないとの評価を頂けた。また,自分の大学院へ進学するという進路について興味を持って頂き,「研究者が出ることは母校としても喜ばしい。頑張ってください」と応援のお言葉を頂くことができた。

Ⅳ.活動を終えて

小学生を対象に調査を行いたいという希望から始まった調査だったが,実際に行うにあたっては予想以上に様々な準備が必要だった。しかし今回,外部のフィールドである小学校で実際に調査を実現させるというとても良い経験をさせていただいた。
今後大学院に進んで子どものメンタルヘルスについて研究する予定だが,今回の調査結果をもとにさらに発展させた研究を行いたいと考えている。感謝が精神的健康に及ぼす因果関係を示すことや家族関係と精神的健康との関係を明らかにしていきたい。
最後に本調査を行うにあたってお世話になった方々への感謝を述べさせて頂きます。本調査に快くご協力いただきました,児童の皆様,保護者の皆様,青梅市立第二小学校の八木慎一校長先生はじめ諸先生方には心より厚く御礼申し上げます。誠にありがとうございました。
また,指導教官の富田拓郎先生には計画書や報告書の添削,調査の実施について助言をいただき,本調査を通して大変お世話になりました。感謝申し上げます。そして大学院生である菊地 創さんには,エントリー資料の作成や調査の実施において多くの助言を頂きました。心よりお礼申し上げます。最後に,本調査を実現するうえで多大な助けとなった文学部事務室,また,謝礼の梱包を手伝ってくださった同期ゼミの皆さんに感謝申し上げます。