ドイツ語文学文化専攻

西オーストラリア大学との国際交流セミナー「日・独・豪の過去との取り組み」が開催されました。

2019年07月22日

日 時        2019年7月2日(火)~6日(土)

場 所        中央大学多摩キャンパス

題 目         Vergangenheitsthematik in Japan, Deutschland und Australien(日・独・豪の過去との取り組み)

 

本学の協定校である西オーストラリア大学でドイツ語を学ぶ学生約15名がA・ルーデヴィヒ先生とともに来日するのに合わせて、2019年7月2日(火)から6日(土)にかけて、西オーストラリア大学の学生と中央大学文学部ドイツ語文学文化専攻の学生の交流をはかるための国際交流セミナーが開催されました。

西オーストラリア大学との交流セミナーが開催されるのは今年で2回目です。セミナーでは、「日・独・豪の過去との取り組み」をテーマに、日本・ドイツ・オーストラリアの各国の歴史のなかで、何が特別の「過去」だと考えられているのか、その過去とそれぞれの国がどう向き合っているのか、「過去」が今日的な問題そして未来に向けた選択とどう関連してくるのかを一緒に考えました。

 

Session 1&2

Zwei Vergangenheiten, Zwei Vergangenheitsbewältigungen –Deutschland und Japan–(異なる過去への異なる取り組み―日本とドイツ―)

講師:川喜田敦子教授(中央大学)

セミナーの開始にあたり、オーストラリア側の参加者に向けてセミナーの趣旨説明と導入のための講義を行いました。日独の過去との取り組みの歴史、日独にとって特別な「過去」として扱われている歴史的経験の共通点と相違点、「負の過去」をめぐる日独両国における言説形成の特徴について概観した後、日独の過去との取り組みをめぐって活発な議論が行われました。【使用言語:ドイツ語】

Session 3&4

Dealing with the past in Germany and Japan

講師:Stefan Säbel兼任講師(中央大学)

ドイツ語文学文化専攻の1年生の英語のクラスで交流の機会をもちました。日本とドイツの過去との取り組みについて論じた複数の英語のテクストを事前に講読し、それに基づいて45人のグループに分かれて議論し、出した結論をお互いに披露しあいました。【使用言語:英語】

Session 5

Raubkunst – Beutekunst – Restitution. Probleme der Rückführung kriegsbedingt verbrachter Kulturgüter – Chancen für die Lösung eines historischen Problems nach 1945(略奪された美術品とその返還)

講師:Hans-Joachim Dethlefs教授(中央大学)

「略奪美術品」をテーマに、ナチ時代にナチ・ドイツによってユダヤ人ほかの犠牲者から略奪された美術品、戦後にソ連によって占領下のドイツから持ち去られた美術品のふたつにとくに焦点をあてた授業が行われました。随所に組み込まれた日本側の学生の調査報告を、西オーストラリア大学の学生たちが面白そうに聞いていました。【使用言語:ドイツ語】

Session 6

Geschichtsstreit zwischen Japan und seinen Nachbarn: von inländischen zu internationalen Angelegenheiten(日本とその近隣諸国の歴史理解をめぐる対立-国内問題から国際問題へ-)

講師:近藤孝弘教授(早稲田大学)

東アジアにおける歴史問題の展開と現状に関する説明を聞いた後、昨今、日韓の間で問題となっている徴用工の問題について、「元徴用工」「韓国政府」「日本政府」「日本企業」の4つのグループに分かれて、それぞれの立場から解決に向けた提案を行うという設定で、ロールプレイが行われました。ロールプレイは、ドイツの歴史教育ではよく使われる手法です。「日本企業」を代表して提案を行った西オーストラリア大学の学生の広い視野に立った発言が印象的でした。【使用言語:ドイツ語】

Session 7

“Downwinders” and America’s Nuclear Past”

講師:川口悠子准教授(法政大学)

「核」に対する理解は時代や国ごとに様々です。安全保障上、核が不可欠だった冷戦下の米国では、核は人間が管理できる安全な技術と認識され、核がもたらす被害に目が向くことは少なかったとされます。セッション7では核関連施設の風下に暮らす「風下住民(downwinders)」を取り上げ、その被害が米国内でどのように注目され、また注目されずにきたのか、そこにはどのような社会的な力学が働いていたのかが検討されました。極めてアクチュアルなテーマに、終了時刻を過ぎても質問の挙手がとまらないほどの盛り上がりになりました。【使用言語:英語】

Session 8

Schweigendes Sprechen über die Vergangenheit. Zur Thematisierung der nationalsozialistischen Gewalt im Subtext literarischer Werke – am Beispiel von Ilse Aichinger und Elfriede Jelinek(過去をめぐる沈黙の語り:文学テクストにおけるナチの暴力のテーマ化)

講師:羽根礼華准教授(中央大学)

 

ドイツ語圏においてナチの過去はどのようにテーマ化されてきたのでしょうか。セッション8では、Ilse Aichinger(1921-2016)のWinterantwort (1963)、Elfriede Jelinek(1946-)のDas über Lager(1989)という2つの文学テクストが検討されました。この2つの作品は、ナチ体制下の暴力について直接言及することなく、しかし読者にそれを思い起こさせるという手法において共通しており、参加者はグループに分かれて作品分析を行い、成果を報告しあいました。作品についての学生たちの深い洞察をうかがわせる発言に、感心させられました。【使用言語:ドイツ語】

Session 9

中大生と一緒にドイツ語の授業を受けよう!

講師:Alexandra Schwarz兼任講師(中央大学)

西オーストラリア大学からの学生は、専門領域は文学から物理学・医学まで様々ですが、全員がドイツ語を履修しており、ドイツ語学習歴が半年ほどの学生が例外的に混ざっていたほかは、B1からC1程度の極めて高いドイツ語運用能力をもっていました。アインシュタインに関する難しいテクストを一緒に読んだ後、西オーストラリア大学の学生は、日本側の学生が前週に必死で折った素晴らしい折り紙の作品を前に、どれをお土産にもって帰るか真剣に選んでいました。【使用言語:ドイツ語】

Session 10

中央大学多摩キャンパス案内

学生企画

せっかく中央大学に来てもらったからには、多摩キャンパスを見てもらわなくては!ということで、1年生の学生有志がキャンパス案内を買って出てくれました。最初に教室に集まり、グループに分かれたところまでを見届けて、教員は別行動になりました。後は、学生は学生どうし。お茶室で茶の湯を体験したり、学食で一緒に昼食を食べたり、道中で意外に真面目な話をしたりと、すっかり仲良くなったようで何よりでした。【使用言語:英語・ドイツ語】

Session 11

Die Lehmanns in Japan, Deutschland & Australien(日本・ドイツ・オーストラリアにおけるレーマン家の人々の足跡)

講師:Alexandra Ludewig教授(西オーストラリア大学)

本セミナーの特色は、日本とオーストラリアでともにドイツ語を学ぶ学生たちが「ドイツ」を常に念頭に置きながら議論をする点にあります。日本とオーストラリアが「ドイツ」を介してつながるというセミナーの構造を象徴するかのように、西オーストラリア大学側の引率教員であるLudewig先生が、日独関係の幕開けの時期に日本との交易に携わった商人の一族で、さらに第一次世界大戦期にオーストラリアで捕虜となった者も出たレーマン家の足跡についてご講演くださいました。随所に、グループ作業による参加者相互の情報交換、理解の確認、議論の成果の全体での共有などが織り込まれており、参加者が相互に助け合い、無理なく学び合えるように工夫されていたのが印象的でした。Ludewig先生のご講演を受けて、続く第二次世界大戦期の日独豪関係史から、杉原千畝とオーストラリアにおけるユダヤ難民の受け入れに関する西オーストラリア大学の学生報告が行われました。【使用言語:ドイツ語】

Session 12

映画鑑賞 “Grüße aus Fukushima(フクシマ・モナムール)” 

司会:Alexandra Ludewig教授(西オーストラリア大学)

ドイツ語圏の文学に造詣が深く、近年は映画分析にも力を入れていらっしゃるLudewig先生が、ぜひ日本の学生と一緒に見たい、と言ってもってきてくださったのが、東日本大震災後の福島を扱ったドリス・デリエ監督の映画 “Grüße aus Fukushima(フクシマ・モナムール)” です。人間が「過去」とどう向き合うかという点でも、人間社会と原子力という問題関心においても、本セミナーの問題設定に深いところで通じるテーマの映画でした。【使用言語:ドイツ語】

Session 13

Amerasians in Okinawa: Part of ‘Champuru’?

講師:野入直美准教授(琉球大学)

過去に問題を抱える国家間の「和解」については、歴史問題とその解決という文脈でよく言及されますが、過去にまつわる問題は国内の地域間でも発生します。日本の国内で唯一、アジア太平洋戦争で戦場となった経験をもち、戦後も米軍による占領を経て、日本復帰後も基地問題を抱え続けてきた沖縄。過去の戦争に起因するひずみが様々なかたちで表出する沖縄の現在を、米軍基地の存在がもたらす「アメラジアン」(アメリカ人とアジア人の両親をもつ人々)を通じて考えました。【使用言語:英語】

Session 14

学生報告セッション

西オーストラリア大学の学生

西オーストラリア大学からの学生は、全員が、今回のセミナーに参加するにあたって選んだ研究課題をもっており、日本滞在中に2030分程度の発表をすることになっていました。多摩キャンパスでの最終セッションとなった本セッションでは、第二次世界大戦後の日独の占領体験、現在の日本における極右的な動きをそれぞれテーマとして取り上げる2本の報告が行われました。土曜日夕方のセッションで参加者は疲れ切っていたにもかかわらず、とくに現代日本政治に関する関心は高く、非常に活発な質疑応答とディスカッションになりました。【使用言語:ドイツ語】

 

西オーストラリア大学からの学生は、昨年に引き続き今年も、マレーシア系、ユダヤ系、日系、ドイツ出身者など、様々な地域出身の実に国際的で多彩な顔触れでした。ドイツ語文学文化専攻の学生は、各セッションの総括ディスカッションで全体の前で意見を披露するのは大変そうでしたが、グループディスカッションでは非常に積極的に討論に参加していました。いろいろな授業やキャンパスツアー、懇親会などを通して学生どうしがすぐに仲良くなっていく様子には今年も感心させられました。

 

高等教育機関で鍛えるべき国際コミュニケーションの力とは、道案内の能力でもなければ、当たり障りのない話題についてぺらぺらとしゃべる能力でもありません。政治や外交、歴史問題等にかかわる極めて扱いの難しい問題についても対等に議論できるだけの国際感覚と思考力、「英語プラス1」の言語運用能力を鍛えるための場をこれからも用意できればと考えています。

 

(川喜田敦子)