• 中央大学で学びたい方
  • 在学生の方
  • 保護者の方
  • 卒業生の方
  • 一般・地域の方
  • 企業・研究者の方

教養番組「知の回廊」
73 「裁判員制度 - 市民参加が司法を変える -」

中央大学 法学部教授 柳川 重規

(はじめに)

2009年5月から、裁判員制度がスタートしました。
この制度は、特定の刑事裁判で、私たち一般市民が裁判に参加し、裁判官とともに被告人の有罪・無罪を決め、有罪の場合には、どのような刑にするかを判断する制度です。
その目的は、市民が裁判に参加することによって、市民の健全な感覚を判決に反映させ、さらに司法に対する理解と信頼を深めてもらい、刑事裁判に対する市民の支持を、より強固なものにすることにあります。
この新しい制度により、戦後50年以上続いた日本の刑事裁判のあり方は、これから大きく変わろうとしています。

私たちは裁判員裁判で、実際に何を行い、どのような役割を果たすことが、求められているのでしょうか?
そして刑事裁判はどのように変わってゆくのでしょう?
今回は、私たち市民が主人公となり、司法と社会を変えてゆく可能性を持つ、裁判員制度を考えてみましょう。

(裁判員制度との目的と主旨)

裁判員制度導入の趣旨を一言でいいますと、刑事裁判に対する国民の信頼を高める、ということになります。
従来の刑事裁判は、法律の専門家だけが関わり、効率的に手続が進み、事実の認定も緻密に行われ反面、法廷では専門用語が飛び交い、書面による審理も多く、素人の国民から見て内容がよくわからない、という面もありました。また、数は多くないながらも、国民の感覚とはズレていると批判されるような裁判もありました。他方で、国民の方も、刑事裁判を他人事のようにとらえ、必ずしも、これを積極的に理解しようという姿勢にはなかったように思われます。
こうした状況がさらに進み、裁判に対する信頼が失われることになれば、裁判の正当性自体も揺らいでしまうのではないかということが懸念されました。そこで、一般の国民にとってもわかりやすい裁判を実現し、国民の健全な意識を裁判に反映させるとともに、刑事裁判に対する国民の理解を向上させるとの趣旨から、裁判員制度が導入されました。

裁判員制度の対象となる事件は、主なものでは、次のようなケースがあります。
人に怪我を負わせようとして死亡させてしまった場合や、放火・誘拐・虐待など、比較的重大な刑事事件において、裁判員裁判が適用されます。

【裁判員制度の対象となる主な事件】

  • 殺人:人を殺した場合
  • 傷害致死:人に怪我を負わせようとしてその結果死亡させてしまった場合
  • 危険運転致死:泥酔して自動車を運転し人をひいて死亡させてしまった場合
  • 現住建造物等放火:人の住む家に放火した場合
  • 身代金目的誘拐:身代金を取る目的で人を誘拐した場合
  • 保護責任者遺棄致死:子供に食事を与えず放置したため死亡してしまった場合
  • その他

裁判員の選び方には手順があり、また、裁判員になれる人と、なれない人も決められています。
基本的には、選挙権を持つ20歳以上の人であれば、原則として、誰でも裁判員になることができますが、国会議員や司法関係者、その事件の当事者などは、裁判員になることはできません。
また、70歳以上の人、学生・生徒は、裁判員になることを辞退できます。さらに、介護が必要な人が家族にいる場合や、仕事を休むと著しい損害が生じる場合は、辞退が認められることがあります。

【裁判員になれる人】

  • 衆議院議員の選挙権を有する20歳以上の人であれば原則として誰でもなることができる。(裁判員法13条)

※70歳以上・学生・生徒は、裁判員を辞退することができる。
介護が必要な人が家族にいる場合や、仕事を休むと著しい損害が生じる場合は辞退が認められることがある。

【裁判員になれない人】

  • 禁錮以上の刑に処せられた人
  • 心身の故障のため職務の遂行に著しい支障のある人
  • 国会議員、国務大臣、国の行政機関の幹部職員
  • 司法関係者(裁判官、検察官、弁護士など)
  • 審理する事件の当事者、親族・証人など

裁判員は、次のような手順で選ばれます。
まず、毎年10月から11月頃、各地方裁判所ごとに、市町村の選挙管理委員会が、無作為にクジで選んで作成した名簿に基づき、翌年1年分の「裁判員候補者名簿」が作成されます。

次に、この名簿に記載された方々に、11月末から12月にかけて、裁判員の候補者となったことが通知されます。
同時に、裁判員になることができるかどうかを尋ねる、調査票も同封されます。
この調査票に返答した内容から、裁判員になれる人、なれない人が判断されます。

残った裁判員候補者名簿の中から、事件ごとに再びクジで無作為に候補者が選ばれ、裁判の6週間前までに、さらに質問票を同封した呼出状(選任手続期日のお知らせ)が送られます。
このときに返送する質問票の返答により、裁判員の辞退が認められる場合があります。

そして、辞退を希望しなかったり,辞退が認められなかった人は,選任手続の当日に、裁判所へ行くことになります。
ここで検察官と弁護人の立ち会いのもと、裁判長が候補者に対し,裁判員になれない事情や辞退の理由などについて、いくつか質問をします。
この手続は、候補者のプライバシーを保護するために、非公開とされています。

こうして最終的に、事件ごとに6人の裁判員と、補充裁判員が選ばれます。
通常は午前中に選任手続が終了し,午後から審理が始まります。
この日から裁判にかかる日数は、おおむね3日間から5日間とされています。

(裁判員の選任について)

70歳以上の人、学生・生徒、重い疾病や傷害を負っている人等は裁判員を辞退できますが、裁判員となるのは国民の義務なので、仕事が忙しいというだけでは辞退することはできません。もっとも、一人でお店を経営しているなど、その人自身が処理しなければ著しい損害が生じる仕事があるなどの場合は、辞退が認められます。裁判員候補者として呼び出しを受けたにもかかわらず、裁判所に行かないと、10万円以下の過料に処せられることがあります。どの程度の確率で裁判員に選任されるかは、各地方裁判所の管轄地域内における裁判員裁判対象事件の発生件数と裁判員資格者の人口によって決まります。人口の割に、重大犯罪の発生件数の多い地域では、裁判員になる確率は高まります。

(裁判の流れ)

裁判員の役割には、法廷での審理に参加し、評議において意見を述べて評決し、判決の宣告に立ち会うといった、大きく分けて3つの流れがあります。

(1.公判)

6人の裁判員は、3人の裁判官とともに、刑事事件の審理に参加し、判決まで関与することになります。
公判は連続して開かれます。その内容としては、証拠物の取り調べ、証人尋問、被告人に対する質問が行われます。また、裁判員から証人らに質問することもできます。

(2.評議と評決)

証拠を全て調べ終わると,次に事実を認定し、被告人の有罪・無罪を決め、有罪の場合には、どのような刑にすべきかを、3人の裁判官とともに評議し、評決することになります。
もし評議を尽くしても、意見の一致が得られなかったときは、多数決で評決します。その際、過半数の中には、裁判員と裁判官それぞれが少なくとも1名は含まれていないと、評決が有効に成立したことにはなりません。

(3.判決宣告・裁判員の任務終了)

評議の結果に基づいて、裁判官が判決文の原稿を作成し、法廷で判決が宣告されます。そして閉廷となり、裁判員としての職務は、これで終了となります。

(裁判員の役割とは)

裁判員の役割は、事実を認定し、それを法律に当てはめて、有罪・無罪を決定すること。有罪とした場合には、どれくらいの刑が適切かを判断することです。
裁判員には法律の知識は必要ありません。法律上の判断が必要な点については、裁判官が判断します。
裁判員のプライヴァシーは保護され、名前は公表されません。
裁判員になったことにより特別に知ることができた事実と、評議の内容については守秘義務が課されます。評議で、どのような過程を経て結論に到達したか、誰がどのような意見を述べたか、その意見に誰が賛成し、誰が反対したか、評決は何対何で決まったか、等について、話すことはできません。ただ、裁判員を務めてどのような感想を持ったか等については話すことができます。
審理に要する日数は、7割の事件が3日以内で終わると予想されています。
報酬は、日当1万円以内で支払われます。

(おわりに)

裁判員制度導入により、わかりやすい刑事裁判実現のため、様々な工夫が施され、加えて、裁判が拙速なものとならないよう、公判前整理手続など、刑事裁判を充実させるための制度も併せて実施されました。単に一般国民が裁判に加わったということにとどまらず、刑事手続全体が、従来のものから大きく変わろうとしています。
2009年5月から実施されている実際の裁判員裁判では、これまで大きな混乱もなく、また、実際に裁判員を務めた方のほとんどが、アンケートで、裁判員をやって良かったと回答しています。滑り出しは上々というところでしょうか。ただ、被告人が事実を争う事件や、事実関係や法律問題が複雑な事件は、これからますます多くなってきますし、死刑の適用が争われるような事件も、今後審理されることになると思われます。裁判員の負担がこれまで以上に増える事件が、予想されます。
裁判員制度については、今後も、実際の運用の過程で明らかになっていく問題点を改善していく必要があるでしょうし、場合によっては、国民の負担が重すぎる、判決の安定性が保たれないなどを理由に、制度の廃止を検討するということになるかもしれません。ただ、そのような場合でも、裁判員制度の趣旨や具体的な内容を正確に理解した上で、冷静に議論を行う必要があろうかと思います。