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教養番組「知の回廊」
58 「Ecological Economics 2.0 - 実践編 -」

中央大学 経済学部 緒方 俊雄

21世紀、地球環境問題が最重要課題とされています。また近年では、世界銀行が「東アジアの奇跡」と呼ぶほど、急激な経済発展を遂げています。そして「21世紀はアジアの世紀」と見なされています。
しかし、かつて先進国が経験したような高度成長と公害による環境破壊の悪循環を繰り返すことは、人類にとって愚かなことだと思います。それは、地球規模での環境破壊や砂漠化、生物種多様性の喪失に繋がり、地球環境や生態系に破壊的な悪影響を与えてしまうからです。
もはや、経済活動(エコノミー)と地球環境(エコロジー)とを切り離して考えることはできません。
先進国は、国際環境協力の体制を率先して組織し、「持続可能な開発」に向けて各国が経済的に共生してゆくためには、どうしたら良いかを考える時代(とき)です。今回は、生態経済学の実践編として、この課題に取り組む人びとの様々な活動を紹介します。

前回は、生態経済学の理論的・思想的な、基礎的考え方をご紹介しました。今回は、そのような考え方に基づいて、実際の活動をご紹介したいと思います。
『生態経済学は、まだ新しい学問です。既存の経済学や生態学のビルディング・ブロック(理論材料)を再検討し、21世紀の行動指針となれるように、新しい学問として再構築しているところです。そのための出発点は、「生産」概念の再検討でした。光合成による「生産」から始まり、消費過程、分解過程を経て、土壌を形成している、というのが生物界の循環型システム(エコ・システム)でした。
伝統的な経済学では、「生産」は、生態系の加工=消費過程を意味しています。加工過程に有限の天然資源を消費し、大量消費社会を享受するシステムにのみに焦点をあててきました。この経済システムは、天然資源の枯渇と同時に、廃棄物の廃棄場所の枯渇、大量の産業廃棄物や一般廃棄物のもならず、二酸化炭素(CO2)という温室効果ガスを空中に排出するという非循環型システムに依拠しています。
その結果、地球温暖化という生態システムの異常事態を引き起こし、それが経済システムに反作用を引き起こしています。
生態経済学にもとづく行動指針としては、「循環型経済システムの形成」があります。代表的な活動は、「3R」の運動です。 最近では、一般に広く知られるようになったReduce (節約)、ReUse(再利用)、ReCycle(リサイクル)です。しかし今回は、2008年から第一約束期間に入る「京都議定書」が提起している論点を生態経済額的に分析し、その実践活動をご紹介したいと思います。

生態経済学の立場からみたCDMのあり方 

最近、マスコミに登場する話題に「地球温暖化」や「異常気象」があります。地球の至るところで「異常現象」が起こっています。今年、タイ(バンコク)で開催された「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、これらの原因が人為的活動に由来するものだと報告されました。私たちの経済活動(加工・消費過程)に原因があるということです。また米国の元副大統領アル・ゴア氏の「不都合な真実」も映画化され話題に上りました。 IPCCとゴア氏は、2007年度のノーベル平和賞を受賞したことは、皆さんもご存知と思います。
彼等が、この地球温暖化問題の解決のカギと考えているのが「京都議定書」です。先進国が「温室効果ガス(GHG)」の排出を抑制するというものです。
しかし、先進国のなかでも日本のように「温室効果ガス」、つまり「二酸化炭素(CO2)」を6%も削減することは容易ではありません。そこで、削減の制約条件をクリアできない場合には、「京都メカニズム」という市場原理を活用せざるを得ません。それは、「排出権取引」、「共同実施」、「クリーン開発メカニズム(CDM)」を通じて、他国の「削減量(クレジット)」を購入するというものです。
すでに世界には、排出権市場が形成され、競って「温室効果ガス(GHG)」を抑制し、排出権の取引が始まっています。しかし、そこには色々な問題点があります。
第1は、温室効果ガス(GHG)の世界最大の排出国である米国(ブッシュ政権)などが「京都議定書」から離脱しているということです。この問題は、世界的な政治問題に関係するもので、国際環境「外交」の問題です。
第2は、過去の歴史を考慮して、途上国には削減義務を負わされていないということです。しかし、中国、インド、ブラジルなどの、途上国の排出量も無視はできません。
そこで、私は、先進国と途上国を結ぶ環境協力機構「クリーン開発メカニズム(CDM)」に注目しています。途上国も排出削減を行えば、先進国に削減量を売却し、途上国の持続可能な社会開発を実現することができるからです。 ここで、生態経済学的視点から、この問題の性格を明らかにしたいと思います。
実は、CDMには、さらに二つのタイプに分類できます。
第一は、現在、途上国に広く普及し始めている「排出源CDM」です。途上国の工場やゴミ焼却場で実践されているもので、先進国の技術と資金を活用して劣悪な施設を改良して、「温室効果ガス(GHG)」を削減するというものです。これらは主に途上国の都市あるいはその周辺に限られています。
第二は、途上国の荒地や裸地を植林等によって緑化し、二酸化炭素(CO2)を吸収するもので、「吸収源CDM」あるいは「森林CDM」と呼ばれるものです。途上国のこれらの地域は、経済的な貧困に悩み「貧困と環境破壊の悪循環」に陥っている地域です。「京都メカニズム」の現状は、前者の「排出源CDM」については、国連ですでに1000件を超える承認が得られていますが、「森林CDM」はまだ一桁(数件)でしか過ぎません。
世界の森林被覆率は減少傾向にありますので、この趨勢に歯止めをかけ、「二酸化炭素の吸収」のみならず、「地球の心臓」、「生物種多様性のゆりかご」、「緑のダム」として多くの機能を持つ森林を守り、都市と地域の経済格差を改善する「森林CDM」にもっと光を当てたいと思います。
以下では、それらの活動に努力されている方々をご紹介したいと思います。

  1. 5月8日:「インドシナ地域の越境問題と環境」(JICA 山下 晃氏)
    インドシナ地域は、50を上回る民族から構成される地域で、英国やフランス等の先進国の植民地化、民族独立運動など、局地戦争や民族紛争が絶えない地域でしたが、最近ではようやく平和が戻り、市場経済化が促進されています 
    先進国は、経済開発援助として社会インフラの整備に協力しています。今年、日本のODAによってメコン川に橋が架けられ、ベトナムのダナンからメコン河を越え、タイのバンコクに通じるハイウェイ「東西経済回廊」が建設されました。また中国(昆明)からインド洋を結ぶ「南北経済回廊」も建設されています。
    JICAの専門家である山下氏は、現在カンボジアに拠点を置いて、インドシナ諸国間の越境問題の解決に奔走しておられる方です。
  2. 5月29日「マダガスカルにおけるCDM事業と地域開発」(JOPP 原口 直人氏)
    アフリカ大陸の南東、インド洋に浮かぶ秘境の島マダガスカル。この島は大陸移動によってアフリカ大陸から離れ、動植物が独自の進化を遂げている得意な生態システムを持つ島国です。この島国で、いま日本人が「森林CDM」に取り組んでいます。日本の大手製紙会社 王子製紙に勤務し、現在は海外産業植林センター(JOPP)に所属している原口直人氏です。原口氏は、産業植林を通じて、地域の森林再生と地域開発を両立させる「森林CDM」の方法論を新たに確立し、今年の国連で認証されました。
  3. 6月12日「生物多様性とエクアドルAR/CDMプロジェクト」(リコー 日比 保史氏)
    丸い地球の真ん中に水平線を引くとそれが赤道ですが、その赤道直下にある国がエクアドルです。「イコール」という言葉が国名の由来ですが、中央をアンデス山脈が縦断しており、海岸線は亜熱帯、東はアマゾン川の上流熱帯雨林。太平洋上にガラパゴス諸島を領有する国ですが、一人当たり年平均所得は約30万円(月収2万5千円)ほどの経済水準ですが、日本にも輸出しているバナナなどの農産物を増産するために森林破壊が進み、豊富な生物多様性が危機に瀕している国です。この国で、森林再生、生物種多様性の回復を通じた持続可能な社会開発という三つの利益(トリプル・ベネフィット)を追求するのが、日比氏の取り組みです。日比氏は、森林を再生し、生物種多様性を保護し、地域開発を両立させる「森林CDM」の方法論を確立し、今年の国連で認証されました。
  4. 6月26日「ベトナム地方都市の持続可能な経済発展戦略」(大学院 新美 達也氏) 
    ベトナムは、社会主義国ですが、「ドイモイ(刷新)」改革によって市場経済化、経済開発を達成し、最近では「アジア太平洋経済協力会議(APEC)」の開催国、また「世界貿易機関(WTO)」に加盟することによって世界の自由貿易市場の仲間入りを果たしている。先進国企業の海外直接投資も増大し、多くの「工業団地」が建設されている。
    しかし、すべてがうまく行っている訳ではない。ベトナム人の人間性や歴史を理解しないと誤解や摩擦を招きかねない。中央大学院生の新美達也君は、ベトナムに留学して、現地に住み、ベトナム語を学習しながら、現地調査を重ねてきました。今日は、その貴重な研究成果を紹介していただきます。

緒方研究室の取り組み:未来の経済的発展と共生のために

  1. 森林CDMを実践する地域を求めて、緒方研究室ではアジアの現地調査を行ってきている。とりわけ、インドシナ地域は、局地戦争と民族紛争で疲弊している。今年3月にベトナム政府の「50万ヘクタール森林再生計画」の地域をベトナムの大学研究者と共同で訪問し、地域経済を調査した。かつてベトナム戦争当時は、軍事的な戦略道路であった「ホーチミンルート」が、現在は社会インフラとしての経済開発道路として再建されている。このホーチミンルート周辺地域の貧困削減と環境保全の様子を映像化しました。
  2. 日本の「エコ・ビレッジ」紹介:岩手県葛巻町(中倉さんのビデオから)
    緒方研究室では、途上国の地域開発とクリーン開発メカニズム(CDM)を結びつける概念に「エコ・ビレッジ」を提案しています。その概念を具体化するために、ゼミ生が日本の事例研究のために現地調査を行いました。
  3. 8月2日?4日 「早稲田塾スーパー中央ワークショップ」 
    「早稲田塾スーパー中央ワークショップ」は、中央大学と早稲田塾が共同実施する、人材育成のための研修プログラムです。
    最近の大学紹介でも、話題にもぼる活動です。大学受験生向けのモデル授業として、緒方研究室、CDM班の取り組みを紹介しました。
  4. 8月28日?9月8日「アジア・インターンシップ2007」
    「アジア・インターンシップ」は、春学期の大学での学習、夏季休暇期間中の海外研修、そして秋学期の総括(アジア・インターンシップ報告会)をセットとして指導するプログラムです。夏季休暇期間中の海外研修では、現地の大学との合同ゼミ、そして「緑の学習」としての海外植林支援活動です。今回は、ベトナム・ゲアン省で行った現地大学生、現地住民、そしてゼミ生たちの植林活動を映像化しました。
  5. 10月16日「アジア地球環境フォーラム2007」
    今年のアジア地球環境フォーラムは「「エコビレッジ」と共生社会」と題して、ベトナムで開始した地域社会調査とCDM植林活動の研究成果を報告しました。ベトナムの大学との共同研究を基礎に、現地の政府関係者や地域住民の協力を得て、ベトナムに「エコビレッジ」を組識するという問題です。伝統的な地域村落の生態系を活かしつつ、地域の共生社会を形成するという課題です。また、これまで中央大学が、ベトナムのフエ大学と協力して「日越友好の森」植林活動を実施してきた成果、樹木の生育状況も報告されました。こうした「緑のネットワーク」を広げ、研究者、地域住民、政府役人、学生たちが参加してそれぞれが自然から学ぶことが、生態経済学を通じた人材育成です。今年のフォーラムを見ながら、バーチャルな植林活動、共生社会に参加してください。

番組をご覧いただきましたように、生態経済学の実践活動は、多くの方々の汗と情熱の産物です。環境保全活動は<言うは安く、行うは難たし>といわれますが、実は皆さんの身の回りにも多くの実践の可能性があります。
いま使っている割り箸は、日本の間伐材なのか、海外からの輸入品なのか、特に中国からの輸入品ですと中国の森林はさらに減少します。したがって、それによって地球環境に与える影響は異なることがわかります。
皆さんが普段使用している「ちり紙」、皆さんの家の建設に使っている木材は? そのような疑問を持って問いかけることも大切です。  
それは、いま世界で問題になっている「トレーサビリティ」(原産地を認証する制度)を作り、世界の生態系を守る活動です。 こうした分野にも、皆さんの関心が集まることは、問題解決の糸口なるということです。