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教養番組「知の回廊」
54 「Mathematics Effect」

中央大学 理工学部 山本 慎

太古の時代より、数学は人間社会の営みに、なくてはならないものでした。
例えば、商取引のための、金銭の計算は言うまでもなく、河川の治水や測量技術。
船の航海に必要な、星座などを研究する天文学など・・・。
かつて、ガリレオ・ガリレイは、『自然は数学の言葉を使って書かれている』と言いましたが、現代においても数学は、すべての科学に共通する『言語』として、人間の活動に欠かすことはできません。
数学は科学を学ぶ、研究する利用する上での共通言語。共通の基盤なのです。
よく、数学は苦手だったとか、中学や高校でやったことはすべて忘れてしまったし、 そんなことをやらなくたって全く困っていない。という人がいますけれど、実際には、ものごころついてからずっと少しずつ学んできて、使っていることに気が つかないほど、数学が身についているのではないでしょうか。
数学を学ぶ意味はとても広く、そして深いのです。
今回は、数学の面白さ、楽しさの一面をご紹介しましょう。

1.数学と自然・芸術

数学には、代数学・幾何学・解析学という代表的な純粋数学の分野があります。
また、数学を記述するための論理を研究する数学基礎論・データの規則性・不規則性を研究する統計数学・数値解析・アルゴリズムの研究・計算量や計算可能性の研究をする計算機に関する数学というものがありますが、そもそも数学は、自然を解明するための学問であると言えます。
自然界には、様々な数字が散りばめられており、それらを研究することで、自然をある程度理解し、応用することができるようになります。
ここでひとつ、問題をお出ししましょう。
たとえばここに、ひと組の子ウサギがいるとします。
子ウサギは成長し、2ヶ月後にひと組の子ウサギを生むようになりますが、その子ウサギも2ヶ月後には成長し、毎月ひと組の子ウサギを生むようになります。
もし、どのウサギも死なないものとすれば、1年後には、何組に増えているでしょうか?。。
その答えは、233組です。
はじめは1組、翌月から2組・3組・5組・8組。。13・21・34・・・と、次第に増えてゆき、1年後には233組となります。

実はこの数字の増え方には、ある一定の規則があります。
はじめの1と、次の1を足して2。2と手前の1を足して3。
3と手前の2を足して5。5と3を足して8。8と5を足して13・・・といったように、隣り合う2つの数を加えると、次の値に等しくなるという一定の規則があることに気付かされるはずです。
この規則を持った数列のことを、『フィボナッチ数列』と呼びます。

  0ヶ月 1ヶ月 2ヶ月 3ヶ月 4ヶ月 5ヶ月 6ヶ月 7ヶ月 8ヶ月 9ヶ月 10ヶ月 11ヶ月 12ヶ月
ウサギの組数 1 1 2 3 5 8 13 21 34 55 89 144 233

フィボナッチ数列は、自然界にたいへん多くみることができ、たとえば、花弁の枚数が、3枚・5枚・8枚と増えていく花 や、葉の増え方にも、この数列が当てはまる植物が多く、また、木が成長するときの枝の増え方に対しても、このフィボナッチ数列の規則性をみることができる のです。

さらに、この数列の、隣り合う2つの数の比の値を計算してみると、たいへん興味深い結果が出てきます。
数が増えてゆくに従って、比の値は『約1.618』という数になります。
実はこの数こそ、建築や芸術において古来より最も美しいとされる比の値、いわゆる『黄金比』と呼ばれている数値なのです。

  1 1 2 3 5 8 13 21 34 55 89 144 233
隣り合う2数の比 1/1 1/1 2/1 3/2 5/3 8/5 13/8 21/13 34/21 55/34 89/55 144/89 233/144
2数の比の値 1 1 2 1.5 1.666 1.6 1.625 1.615 1.619 1.617 1.618 1.617 1.618

この比を元にしてつくられた長方形は、もっとも均斉のとれたバランスの良い形とされ、「黄金長方形」と呼ばれています。
芸術や建築などで、しばし取り上げられることの多い黄金比は、古くは、ギリシャのパルテノン神殿や、ミロのビーナスなどとの関係性が有名です が、身近なところでは、タバコのパッケージやクレジットカード、名刺なども、2辺の長さの比を求めると、ほぼ黄金比に近い数値が現れてきます。
さらに株式市場における、株価の目標値や調整率の目安として用いられることもありますし、最近ではパソコンのモニターの解像度や、携帯音楽プレーヤーなどにも、この黄金比を基準にデザインされているものもあります。
このように、数学によって導き出された、フィボナッチ数列と黄金比は、私達の身近な世界にも、たいへん深く融け込んでいるのです。

もともと数学は、計算すること、測量すること、自然現象を理解し説明しようとすること、それに関連して天文学に関連したこと、などのために使われてきました。
また、暦を理解し記述することにも使われています。
絵画に使われる数学の代表的なものには、黄金長方形と遠近法があります。
遠くにあるもの、近くにあるものが自然に見えるように様々な工夫がなされますが、そこに数学が必要になります。
音楽では、音階に数学が使われます。
音階の数学的な研究は, ピタゴラスにまでさかのぼることができます。ピタゴラス学派の人たちは、1弦の楽器で実験し研究していたといわれています。

最近の数学の応用で、最も注目を集めているのは「暗号技術」かもしれません。
internetの利用が誰にでもできるようになり、securityということが重要視されるようになりました。internet上で本人であることをどのように確認するかということが必要になります。
これは大きな整数を素因数分解することに、非常に時間がかかることを利用することができると考えた人たちがいて、その暗号法は開発者3人の頭文字をとって『RSA暗号』といわれます。
これ以外の暗号法も数学を使って活発に研究されています。

また最近、京都大学名誉教授の数学者、伊藤清先生が、Gauss賞というとても権威のある科学の賞を受賞されました。
これは伊藤先生が、確率微分方程式論・確率解析という理論を創始し、研究したことが評価されたものですが、この理論は、工学・物理学・生物学において、なくてはならない理論なのです。
それだけではなく、伊藤先生はウォール街で最も有名な日本人といわれているほど、この理論は経済学やファイナンスにおいても大変重要な理論なのです。

2.ケーニヒスベルグの橋の問題 ~グラフ理論への発展

今から270年ほど前、現在はロシアの領土であるリトアニアに、「ケーニヒスベルグ」という町がありました。
この町の中心部には、プレーゲル川という大きな川が流れており、川の中州には、7つの橋がかけられています。
ここで、町の人々の間で、ひとつのゲームが流行しました。
この7つの橋をそれぞれ1度ずつ通り、元の場所に帰ってくることができるかという問題です。
ただし、どこから出発しても構いませんが、同じ橋を2度以上通ってはいけません。
つまり、7つの橋を1度だけ通る、一筆書きが可能であるかという問題です。
皆さんも考えてみてください。

この問題は、『ケーニヒスベルグの橋の問題』として有名なものですが、実はこの問題の答えは、『一筆書きは不可能である』ということなのです。
これを証明してみせたのが、レオンハルト・オイラーという、スイスの数学者です。
オイラーは、一筆書きが可能であるかどうかを判定する方法を、考え出しました。
ケーニヒスベルグの橋を、簡単な図で表すと、このようになります。

いくつかの線が交わるポイントを『頂点』と呼び、この頂点から出ている線の数のことを『次数』と呼びます。
次数が奇数である頂点を『奇数点』と呼び、偶数である頂点を『偶数点』と呼びます。

オイラーの示した、一筆書きの判定方法は、各頂点の次数を調べ、ふたつの条件に、当てはめるだけでした。
ひとつは、『すべての頂点が、偶数点であること』。
ふたつめは『奇数点の数が2つであり、残りはすべて偶数点であること』。
たとえば、このような図の場合であれば、奇数点が2つあり、残りは偶数点であるので、一筆書きが可能である条件を満たしています。

ケーニヒスベルグの橋の場合は、すべての頂点の次数が奇数であるため、一筆書きで辿ることは、可能であるように見えながら、実はまったく不可能だったのです。
一筆書きが可能である図は『オイラーグラフ』と呼ばれ、ケーニヒスベルグの橋の問題は、現在でも研究されている、グラフ理論の先駆けとなりました。
レオンハルト・オイラーの業績は、グラフ理論だけでなく、位相幾何学や、微分幾何学、力学や天文学といった、物理学の分野にまで広がり、18世紀最大の数学者と呼ばれています。

3.グラフ理論

4.結び目理論・絡み目理論

結び目や絡み目は多様体の位置の問題といわれ、位相幾何学の一分野です。
結び目や絡み目を取り去った空間の研究、結び目や絡み目の分類の研究を行います。
結び目理論はDNAやタンパク質の分子構造の研究にも役立っています。
また結び目・絡み目理論は、グラフ理論とも密接な関係性を持っています。

5.おわりに

数学を研究するときは、それがどのように応用されていくかを、強く意識しているときと、全く意識していないときがあると思います。
意識しないほうが多いかもしれません。
頭ではわかっているけれど、言葉にするとうまく表現できない。というのは、実際にはわかっていないのだと思います。
明確に表現でき、厳密に証明できたときは、本当にうれしいものです。
数学で見出された真理は、物質的・感覚的世界を支えています。
数学は厳密で、普遍的です。

数学を英語でいうと、『mathematics(マセマティックス)』。
この言葉はギリシア語に起源を持ち、『知識を学び 考える技術を身につける』 という意味が込められているのです。
公式を暗記して問題を解くことだけが、数学ではありません。
そこには美しさや面白さ、考えて応用することの楽しみがあります。
数学とは、私たちに決して欠かすことは出来ない、創造的な学問なのです。