社会・地域貢献

教養番組「知の回廊」38「海岸の波 -波のメカニズムと海岸侵食-」

中央大学 理工学部 水口 優

1) 土木工学とは

大学における工学系の学科は、手段や道具を名前にしているところが多い。土木と言う名前も材料として土と木を用いることが多かった時代の名残です。時代の変遷の中で手段ではなく目的を学科名称にするところも増えてきています。その方が部外者にはわかりやすい。
土木と言われるものが対象とする範囲は広い。広く言えば(市民としての)社会活動の基盤となる工学的なもの全てとなるが、それでは余りに広く てほとんどの工学を含んでしまう。その中で特に自然に働きかけて人間社会に都合の良いようにすると言った形の事業でかつ公共事業とよばれるものの工学的な 基礎と応用をさす分野である。災害対策のように負を減らすだけでかつ大がかりでしかも長期的な視点を必要とするもの、交通やエネルギー、上下水道のように 社会の基本的な設備であるものなどが公共的なものとして整備されているのが現在である。
土木工学系の学科では、数学、物理、化学と言った工学系の基礎科目の上に、構造力学、土質力学、水理学、コンクリート工学といったような伝統 的な土木として基礎科目を置いている。その上で、計画学、都市工学、道路工学、橋梁工学、衛生工学、河川工学、そして海岸工学といった対象をさらにしぼっ た専門的な分野の勉強をする。地球という自然を相手に人間にとって住みやすい環境を求めて手を加えていく上で、広い意味での自然科学、環境学にも親しむと 共に、技術者に求められる社会性の獲得を願って人文系や社会学系の科目も配置されている。
社会の要請に応えることが使命とも言える土木工学は社会の変化に応じて変わる。今も戦後の発展期から成熟の一時を迎えているのが日本の社会だ とすると、土木工学の分野も従来の延長線上を走るだけでは使命を果たせない時期に来ている。現在の土木をめぐる混迷がその現れですが、災害からの安全、よ り良い生活レベルのための基盤的な事業の実施などといった使命を非営利的に果たすという点はは大事にしたい。

2) 海岸工学とは

工学というのは何を対象とする場合も多少理論的にあやしくても経験的な知識を積み重ねることにより現場の問題を解いていこうというものです。とはいえ全く 理論が無いようでは経験的な知識の体系化も出来ません。また関係する現象の理屈(理論)がわかっていればそれを用いることによりいろいろと有用な事も出来 ます。海岸工学とは文字通り海岸に関する学問です。海岸と言うところは海と陸と空気の接するところです。古来人間は海の幸と共に生きるために海岸 近くで生活してきました。日本のように山がちなところで海岸沿いに広がる平野は重要な生活空間です。そんな海岸ですが海は恵みだけをもたらすわけではな く、津波、高潮、台風による高波浪などにより大きな被害も受けます。なお、空気は密度が小さいので飛砂以外の話では無視されることが多い。そんな海岸域を 有効に使いつつ、安全に暮らすためにはどうすれば良いかという話です。特に上に挙げたような海からの脅威の性質の理解と制御、場合によっては利用・共存に ついて研究します。

3) 海岸の課題

海岸の利用と言う点では何と言っても港の存在です。横浜や神戸など流通港湾と呼ばれる大きな港は明治の開国と共に整備され日本の発展のために大きな役割を 果たしたのは良く知られています。最近では茨城県の鹿島港や常陸那珂港のように港としての立地条件の悪いところでも大規模な土木工事を行うことにより港と して整備されて経済的な発展に寄与しようとしています。また、全国津々浦々には小規模な漁港が整備され、その数は数千にものぼります。港の建設にあたって は、目的とする作業(船による荷役)が円滑に行われるように静穏な泊地を確保するために防波堤等を作ります。その防波堤が高波を遮蔽するにはどんなもので あれば良いのか、また防波堤自身が高波によって壊れないようにするにはどうあれば良いのかといった問題に答えるのも海岸工学の役割の1つです。
しかし港の建設、整備は場合によっては社会生活にマイナスの効果ももたらしました。砂浜海岸に建設された港とその防波堤は、自然のプロセスの 中で(波の作用により)沿岸方向に移動していた砂の動きを止めます。その結果、上手側に堆積すなわち汀線(ていせん)の前進、下手側に侵食すなわち汀線の 後退がしょうじます。汀線が後退すると背後の生活域が脅かされることになります。土木構造物一般に言えますがそれが大規模であればあるほど、地球という星 に一種の整形外科手術を施していることになり、副作用が全くないというのは難しくなります。
利用という積極的な利益はないものの海岸の防災というのも大事な事業です。特に日本のように地震に伴う津波、台風や低気圧に伴う高潮・高波浪 といった自然の脅威にさらされている上に、海岸近くに多くの人が住みかつ重要な施設が存在する所では、災害を無くす努力の必要性は明らかです。東京湾や伊 勢湾、大阪湾といった所で海岸に出てみるとまるで城壁のように海岸堤防が聳えています。その堤防の高さをどう決めるのかというのも海岸工学です。この防災 という観点での研究や事業は戦後の復興期より始まり、今はかなりの成果をあげており、特に台風等による被害は大幅に減少しています。
一方で全国的に見ても砂浜の喪失が進み、至る所の海岸が堤防、護岸、コンクリートブロックで覆われるようになりました。環境問題が関心を集め る中、海岸における砂浜や干潟といった自然の消失も大きな問題です。内湾のような閉鎖水域においては、人間の活動が引き起こしていると見られる水質や生態 系の変化といったことも課題です。
砂浜が狭くなったり、無くなったりするというのはそこの砂が無くなることである。砂がなくなるというのはいわば貯金の減少と同じで、供給と損 失(収入と支出)のバランスの問題です。海岸線全般で見たときの収入源は河川からの流出、海崖の侵食であり、支出は波による沖合への流出である。ある海岸 で見ればこれに波と流れによって生じる隣合う海岸とのやり取りが加わる。このバランスがマイナスであれば侵食すなわち汀線の後退が、プラスであれば堆積に よる汀線の前進が起こる。砂防、治水、ダム建設、河川砂利の採取といったことにより河川からの流出土砂量は減少する。収入が減って支出が変わらなければ貯 金は減る。それではと支出を減らす工夫を凝らすべく海浜変形の研究もされてはいるのだが、うまい手が無いのが今までであった。海岸域が国有地であることも あって国が中心になって対策を考えてきたのだが、侵食対策ばかりは何かを作って放っておいても十分いかないことがようやく認識されるようになってきたのが 日本の現状である。もちろん砂防、治水等により得られた利益に比べれば海岸の侵食という副作用は我慢すべしという立場もある。いずれにしても、海岸地形の 変化のプロセスを十分に理解し、放置すればどうなっていくのか、対策をたてるとすればどんな手があってその効果(と費用)はどれくらいになるのかを説得力 のある正確さで予測できるようになることが求められている。

4) 海岸工学と波と数学

4.1 大学における研究

大学は研究という面では基礎的な部分を背負うものだと思う。また私立大学は少数の教員で多数の学生を抱え、講義の負担が多いという制約もある。その結果ど うしても研究テーマとしては面白みが第1となり、それをあまり誰もやらないような仕方で取り組むということになる。僕の場合は大学院生時代から教員になる 時代に波が砕けている場(砕波帯と呼ぶ)での海水の運動(波動)がどうなっているのかということについての現地観測に参加したしたことを契機として、現地 の海岸付近の波に興味を持つようになった。一方で砂浜海岸の消失という問題もなかなか解決されず、その原因の一つがどうも現地の現象の把握が十分でないこ とによるのではと思い始めたのが数年前である。ということでここ5年ばかりは現地において汀線近くではあるが高波浪時の波とそれによる地形変化を測定し、その解析をすることをメーンの研究テーマとしている。

4.2 水の波と数学

海岸における課題をあげる中で、海岸工学にとって海の波の特性とその影響を理解することが最初の一歩であることは明らかになったと思う。ところがこの水の 波という現象は知識としてはもう150年以上も前から知られている割には一般の人のなじみが薄い。そもそも水という非常に身近なものであってもその運動と いうことになると高校までの物理で習うことが無いのである。大学に入って土木工学を専攻しようとする学生にとってもこの水関係の力学である流体力学、水理 学といった科目は難関科目の1つである。 
何が水の運動なかでも波の話を難しくしているかと言えば、時間と空間の両方を同時に考えなくてはならない現象だからである。工学一般において 数学が現象を定量的に表現する言語のように用いられているのは承知のとおりである。その際、速度の時間変化率である加速度という概念が力と比例関係にある (ニュートンの運動則F=ma)ために、瞬間的な変化率を表す微分という概念(記号d/dt)が登場する。変化の方向が一つであればまだしも波のように現 象として最低でも時間と一つの方向が必要なものは微分に方向が存在する。偏微分という概念(記号∂/∂t)の登場である。これがとても便利な道具なのだが 使いこなすのがやや難しい? 
もうひとつ事を難しくしているのは専門用語というか日本語という言語のような気もする。日本語はどうも科学的な現象を表現するに向かないとい う気がする。例えば微分(する)という言葉は英語ではdifferentiationというが日常的によく使われるdifference(違い、差)とい う言葉の派生語であるのに対し、微分という言葉は日常生活とは全く縁がない。科学や技術が言葉の上で近寄りがたい存在になっているような気がする。西洋流 の科学技術が入って来て100年では仕方がないのかも。

4.3 水の波の力学

水の波は振動の一種である。振動というのは元に戻そうとする力(復元力)がある場合に何らかの外的要因例えば力や変位(ずれ)が作用したときに発生する。
水面が水平であるの重力のためである。もちろん地球スケールで見ると水面は球面である。外的要因によって水面に凹凸が生じると元の水平面の戻 ろうとするがついつい行きすぎて振動を開始する。水の波の発生である。その振動が隣りあう水に伝わって行くのが水の波の伝播である。外的要因が地震による 海底面の変動の場合を津波と呼び、風による攪乱の場合を風波とよぶ。水たまりに石を投げたり、お風呂で水をかき混ぜても波が起きる。どれも発生の際の外的 要因が異なるだけで、伝播状態にある波は同じ性質を持つ。ここではその伝播状態にある波の性質を理解するための道具とその使い方、得られる成果について 水槽内で波を作る場合を例に見てみたい。

4.4 水の波の造波理論

現地の問題を解決するのが最終目的とはいえ、現地は波を止めることも選ぶことも出来ないし、潮汐その他の現象もあって複雑きわまりない。そこで条件を限定 できる実験によって関係する要因の個々の働きと寄与の程度を見るということが有用となる。海岸の問題を扱うにあたって波の実験をおこなう際は、鉛直板を前 後に動かすことによって波を作ることが多い。ここではそれを例にあげて、力学と数学が水の波のからくりの理解と計算にどう役立っているかを見てみたい。
研究室にある実験装置の一つがこの20m造波装置つき長水路である。論より証拠まずは波を作ってみる。水路の一端で板を動かすと波が出来て伝わってくる。
問題は日本語で表現すると、「水槽内で板をある周期で周期的に動かしたときにどんな波が出来るか」、「出来た波はどんな性質をもっているか」 である。長い水路をその方向に伝わっていく波を想定するので、水路の水深だけが必要な情報となる。その水深をhとする。板の動きはもっともポピュラーな周 期関数は三角関数であり、その振幅sと周期Tを与えることになる。残念ながら日本語で表現しただけではこれ以上前に進まない。そこで数学語の世界の登場で ある。

4.4.1 解くべき問題とその方程式表現

水路内の流体の運動は質量の保存と運動方程式に従う。水の粘性を無視し、運動は静止状態から起きるとすると水の運動はいわゆる非回転運動となる。水の粒子 そのものは回転せず、その場合は水の流速場は速度ポテンシャルΦを持つことになる。そのΦを用いると質量保存則はラプラスの偏微分方程式 (∂2Φ/∂x2+∂2Φ/∂y2=0)となり運動方程式は圧力方程式と呼ばれるものになる。このあたりは流体力学とよばれる学問のこれまた150年以上 前の成果である。ちなみにラプラスはフランスの19世紀前半(?)の数学者兼政治家である。
ラプラス型の偏微分方程式は解が定まるためには全ての境界上で条件が与えられることが必要である。そこで水底面では水は漏れないし湧き出して も来ない(すなわち鉛直流速w=0)、水面では水が飛び出さない、水の側の圧力は表面では大気の圧力である1気圧ちょうどであるという条件に、造波版の側 では板で押される分だけ水が動き、反対側からは波は来ないという条件を使うと解くべき方程式が出来上がる。これが水槽内で板を動かしたらどんな波が出来る かという応用問題を数学語で表したものです。いったん数式で表せれば後は解くだけ。このあたりの話は中学時代に習うに鶴亀算に対する連立方程式の道具が高 級になったものです。

4.4.2 方程式の解法

一連の式は偏微分方程式の境界値問題と呼ばれるものです。この形だと連立方程式を解くと鶴や亀の匹数が出てくるように、速度ポテンシャルや水面の形がどう なるかというのが出てくるのです。微分の方向が時間t、波の進行方向x、深さ方向zの三つもあるので一つずつ解きます。まず時間については周期Tの正弦運 動(三角関数)であらわされるのは明らかです。ついでz方向の関数を求めます。この時、水面と底面の境界条件を満たす主要な解は指数関数の組み合わせであ る双曲線関数と呼ばれるものになりますが、その関数に含まれる定数がある条件(分散関係式)を満たす時だけ解が存在するといういわゆる固有値と固有関数と いうのが登場します。この固有値が発生する波の波長を決めます。最後にx方向の解がやはり三角関数で現されることがわかって最終的に方程式の答えが出てくる。

4.4.3 結果の解釈

数学語の世界で得られた結果を日本語に直すと、「作られる波の水面形は、振幅がaの三角関数の(正弦波が繰り返す)形をしており、それがそのまま速さ c(=σ/k)で進む」ということになる。速度や圧力についても解けている。それを用いて水の粒子の動きを計算すると楕円軌道を描いているだけで、波とし て伝わっているものは波の形とエネルギーだけであることもわかります。波形の伝わるスピードを波速というが、その波速をCと書くと波長Lと周期Tとの間に C=L/Tの関係があり、これも先に出てきた固有値を用いて計算できる。さらにエネルギーの伝わる速度はうんと浅いか(津波のように)周期の長い場合を除 き波形の伝わる速度より遅いこともわかる。

4.4.4 実験との比較

前に見た実験用水路の波と今求めた結果を比べてみます。まずは式で出てきた結果から具体的な数値を求めて見ます。残念ながら分散関係式とよばれる固有値を求める式が双曲線関数を含むため計算機の助けを借りないと解けません。
実験水路の波の波速は距離がわかっている2点間(例えば2.00m)に波高計と呼ばれる計器をセットしておくと波(の峰)が通過する時間の差 が測れて、波速は距離割る時間で求まります。この数字は先の計算で求めた数字とほとんど同じです。もう少し厳密にいうと相対誤差にし1%以下です。水深に 距離や時間といった量をはかる際の誤差を考慮すれば、この値は理論通りといえます。
エネルギーの伝播速度が波形の伝わる速度と異なるというのは最初に出来た波の伝わり方を見ているとわかります。最初の波の峰に注目すると徐々 に小さくなっていつの間にか消えていきます。これは人間の行進で例えれば人の歩くスピードと食料を積んだ牛車の関係に似ています。食料の運ばれるスピード より速く行くものはエネルギー切れを起こします。
次に水の粒子の動きを見てみましょう。水の中に比重が1の小さな物体を入れてその動きを見てみます。波の峰が通過するときには前方へ進む、通 過後は下向きにそして谷が来たときは後方へ、ついで上向きにという形で回転運動をしています。このように実験結果は、流体力学という物理の法則と数学と いう道具を使うことにより得られる知識と良く一致します。となると流体力学と数学の組み合わせにより得られる結果は信頼できるものと結論できます。そのお かげで海の波を見たとき、その周期と波高がわかれば、海の中での流速や圧力、海の中に置かれた構造物に働く波による力などが予想できます。その結果を用い て防波堤や海岸堤防の設計が行われます。
実は海の波だけでなく、最近はよくあたるようになった天気予報もこの流体力学と数学(と電子計算機)の恩恵をとても受けています。

5) 研究テーマ「高波浪時の汀線付近の地形変化」の紹介

水の波の話は基礎的すぎて難しいという面もある。研究テーマの方はもっと現実的で人間生活に関係したものであり、問題としては理解しやすいものである。

5.1 研究開始の背景

既に述べたように日本の海岸が抱える課題の1つは砂浜海岸の消失である。研究室ではそれに関連して波によって砂が沖に流失するという状況の1つである高波 による侵食問題に取り組んでいる。台風などによる高波が来たときに砂浜海岸では汀線が大きく後退することがあるのはよく知られている。ただし、どんな場合 (海岸の地形や潮位)にどのような波(風波成分の波高と周期、長周期波の大きさ)が来たときに、どんな風になる(どれくらいの時間にどれだけの距離汀線が 後退する)のかを量的に推定するというのは未解決の問題です。というより高波浪時の汀線の大幅な後退については高波の来る前の地形と侵食された後の地形の データはあっても、侵食が進行時の状況は未だ計測されたことは無かったのです。もちろん高波浪前後のデータを用いて何とかからくりを理解しようという試み や実験・理論・数値計算などの手段を用いた研究が無かったわけでは無いもののやはり実際に起きているプロセスを知ること無くしては得られる結果は推測の域 を出ないことになる。
必要性があるからといってはい観測開始とは行かない。今回の現地観測は、ある建設会社の好意により使用済みの超音波式の波高計という計器が大 量に手に入ったこと、旧運輸省の港湾技術研究所付属の観測用桟橋のかなり自由な利用が可能であったこと、それに加えて研究室出入りの電気屋さんと院生を中 心とする学生の働きがあって始めて観測を試みることが可能になったものである。アイデアは超音波を発射して帰ってくるまでの時間で水面の位置が検出できる のなら砂の面も検出できるに違いなく、波高計を汀線付近に並べておけば無人で連続的に汀線付近の波と地形変化のデータが得られるというものである。

5.2 観測の経緯と得られたデータ

譲り受けた波高計の感度を調節し、複数の波高計間の電気的な干渉を発信回路の同期を取ることで回避し、さらに音速の温度補正を考慮することにより何とか データが取れるようになるのに2年近くかかった。この間に20数台の計器から毎秒5個のデータをデジタルサンプリングしてパソコン内のハードディスクに取 り込む装置も卒業生の助けを借りながら開発した。
取得されるデータの例がこの図である。常に水のある部分は砕けた後の不規則な波の特徴である大きさの異なる切り立った波が続いている。砂面が 露出する部分では、露出時は出力がほぼ一定で砂面までの距離を測っていることがわかるし、波が来たときは水面が上がってまた下がっており水面を検出してい る。場所が異なると沖から波が伝わってきている状況もわかる。

5.3 現在の解析状況

今までの所、高波浪時の汀線の侵食のからくりを理解するという点に絞ってデータを解析している。その流れは

  1. 1.観測期間内から大規模侵食時の時間帯のデータを捜し取りだす。
  2. 2.大規模侵食時前後のデータから砂面が露出している時の砂面高を読みとり、各地点の地形変化データを作成する。
  3. 3.地形変化データを並び替えることにより、断面地形の変化図を作成し、それより砂の移動量を計算する。
  4. 4.同時に潮位変化、及び波浪状況についても特性を取り出す。
  5. 5.その結果、高波浪時に汀線の後退については 
    a) それまでの比較的静穏な波浪条件のもとで堆積が進み、バームと呼ばれる地形が発達して前浜が急勾配になっている所へ、長周期成分も発達した反射性の高い高波が、満潮に向かう中で、そのバーム部分に到達する事で始まること 
    b) 激しい侵食は数波の大きな波により生じるものが支配的で、時間的には数時間のオーダで終わること 
    c) 終了条件としては、侵食により前浜が緩くなって入射波浪の反射性が失われることにより終了する。
    という仮説が成立しそうな事がわかった。
5.4 今後の展開(の予想)

今後は、この仮説が妥当かどうかを他の侵食(および非侵食)ケースと対比しながらチェックすることになる。その際、侵食開始条件、侵食プロセス、終了条件 等を数式で表すことになる。そしてその数式化においては、波の理論、砂の運動の考え方の知識が不可欠なものとなる。最終的には得られた数式表現をコン ピューターを用いた数値計算においてモデルとして表現し、現象の再現および予測ができるかに挑戦することになる。
それが出来るようになるとどんな良いことがあるのかと聞かれると、まず、自然のプロセスを理解し納得する楽しさは何事にも代え難いという個人的な感想と共に、例えばどこの海岸ではどの程度の砂浜幅があればまず安心かという話が出来るための道具の一部にはなりそうです。

6) 終わりに

最後は駆け足になったが、土木といわれる分野で海岸をあいてにより良い人間社会を実現するための縁の下の力持ちの一環を紹介してきました。残念ながら技 術の進歩だけではより良い社会を実現するのは難しい。と同様に、海岸においても技術だけではなく、そこに関係する人々のあり方(システムと個人)が大事な ことは明石大蔵海岸での痛ましい事故も教えてくれている。