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教養番組「知の回廊」
14 「少子化という病 -その処方箋とは-」

「少子高齢化による日本経済および地域経済社会への影響」

中央大学 経済学部 和田 光平

1. 少子化とは? また、その人口的要因と帰結

少子化とは:出産率が、人口置換水準(長期的に人口の増減をなくし静止人口へと導く出生率の水準)を下回る状態

少子化の人工的要因:

  1. 結婚する年齢が高くなっていること(晩婚化)
  2. 結婚する人の割合が減っていること(非婚化)
  3. 結婚しても子どもを出産する年齢が遅れていること(晩産化)
  4. 出産する子どもの数が減っていること(夫婦出生力の低下)。

特に(1)と(2)が強く効いている。

少子化の背景:
女性の高学歴化→女性の職場進出→結婚の魅力の低下
男女性別役割分業意識→仕事と家事の両立困難→やっぱり、結婚の魅力の低下→晩婚化・非婚化→ 少子化
女性の職場進出→出産・育児の機会費用の上昇→直接的・間接的な子どものコスト感の上昇→晩産化・夫婦出生力の低下→少子化

少子化の人工的帰結:

  1. 高齢化の加速:ピークの2040年代には、3人に1人が高齢者となる。
  2. 人口減少:わが国の総人口は、2100年には、現在の半分程度(6,736万人)になり、その後も減りつづける。

2. 少子化のマクロ経済的影響

マクロ経済の供給面への影響:少子化は、すべてマイナス効果となる。

  1. 労働供給:総人口の減少とほぼ同じ傾向で、労働力人口も減少する。
    女性労働者、高齢労働者、あるいは外国人労働者など、能力に応じた多様な労働力確保が急務となる。
  2. 資本ストック:貯蓄が投資の源泉となり、そのストックが資本となって供給面を支えるのだが、その貯蓄は、高齢化に伴って取り崩しが増大するため、資本ストックも減少する。
    経済成長のボトルネックとなる恐れがある。
  3. 技術進歩:労働生産性を高めたり、新興産業を生み出すのは、新しい技術である。
    しかしそのような技術は、歴史的に若く柔軟な思考から生まれてきた。
    高齢化により、そのような技術開発、また開発された技術の応用は鈍化せざるを得ない。

マクロ経済の需要面への影響:少子化は、基本的にマイナス効果となる。

  1. 消費:高齢化によって需要が伸びる産業がある一方、少子化によって需要が減る産業もあり、それらの効果は相殺されるが、人口減少により、マーケット全体は縮小する。
  2. 投資:人口減少、世帯数の減少、貯蓄の取り崩しは、民間の住宅投資を減少させる。
    また、技術進歩の鈍化、需要の全体的な減少は、企業の投資マインドを減退させる。

社会保障への影響:絶体絶命!
少子高齢化は、保険料の負担者を減らし、給付対象者を増やすということから、年金・医療・福祉といった社会保障財政を急速に悪化させる。
修正積立方式(事実上の賦課方式)から完全な積立方式への移行の可能性もある。
また、介護保険が導入されたものの、高齢化によって要介護者が増加する一方で、労働力人口の減少が、介護者を減少させる。

3. 少子化の社会的影響

教育への影響

  1. 初等教育への影響:教育産業冬の時代
    現在、私立の幼稚園は絶対的な需要減となり、すでに閉鎖へと追い込まれたり、無認可保育への業態変更を余儀なくされているところもある。
  2. 高等教育への影響:受験戦争に変わりはない。
    文部省の試算によると、2009年には大学(短大含む)への全入時代に突入するが、上位大学への入学が易しくなることよりも、下位大学の淘汰がすすむことの影響のほうが大きい。
    特色のない短大および地方大の破綻は必至であろう。
    国立大学も統合、再編が進む。
  3. 子どもの「こころ」への影響:三間(さんま)の欠如
    異年齢の子ども同士で交流する機会が少なくなり、社会性が育ちにくくなっている危機的状況である。
    少子化だけに原因を求められないが、学校では、いじめや学級崩壊が、家庭では育児ノイローゼや児童虐待が増加している。

社会的インフラへの影響

  1. 道路への影響:有料道路の料金値上げも。
    過疎地域におけるモータライゼーションが進み、自動車台数の増加の可能性もあるので一概には論じられない。
    若年人口の減少により、一部の道路の混雑は緩和されるであろうが、すでに敷設した道路の維持費用のために、有料道路の利用料金の引き下げや一般道の有料化もありうる。
  2. 鉄道への影響:ラッシュアワーはなくなるか。
    人口減少によって利用者が減れば、鉄道を維持するために、運賃の引き上げや運行本数の減少もやむを得ないであろう。
    過疎地域における第3セクター方式の鉄道を見れば明らかである。
  3. 住宅への影響:土地神話の崩壊
    人口が減少することで、住宅件数は減少し、地価も下落する。
    大きな一戸建てが少なくなり、マンションの占める割合が増える。
    都市部、農村部いずれも人口が減少して、環境や資源に対する負荷は軽減される。

地域社会への影響:平成の大合併が進む
人口減少は全国的に広がり、極端に過疎化の進む地域では、医療、防災、教育といった基礎的な住民サービスの提供が困難になるため、所属都道府県への業務移管、あるいは近隣市町村へ吸収合併される。また、その地域固有の伝統や文化の継承も難しくなる。

4. 少子化への処方箋

政府や自治体、企業のすべきこと:制度の問題

(1) 税制について

  • 扶養控除を引き上げること
  • 育児費用を課税所得から控除させること
  • 二分二乗課税(夫婦合算課税)の導入
  • 親元で同居していること(パラサイト・シングル)への課税(贈与税の課税対象化)

(2) 育児休業制度について

  • 育児休業期間の延長
  • 育児休業期間の所得保証の拡充
  • 父親向け育児休業制度の促進

(3) 保育について

  • 保育料の公的負担増加
  • 公的保育期間の増設
  • 乳児(特に0歳児)保育、病児保育の拡充
  • 延長保育・休日保育・夜間保育の拡充
  • 駅前保育所の設置促進
  • 保育ママ・ベビーシッターの増員
  • 地域のおける育児サークル支援、育児相談所・児童相談サービスセンターの増設
  • 就学児童の児童施設の設置促進

(4) 各種手当について

  • 出産一時金の法廷限度額の引き上げ
  • 児童手当の増額・対象年齢の引き上げ
  • 児童手当・乳児医療費免除の所得制限額の引き上げ
  • 本人償還の奨学制度の充実

(5) 働き方について

  • 育児休業後に円滑、円満に再就職できるようにすること
  • フレックスタイム制、SOHOシステムの促進
  • 中途採用の拡充

個々人のすべきこと:意識の問題

(1) 職場において

  • 仕事優先から家族優先へと考え方を変える。滅私奉公をやめる
  • 上司、同僚による理解、サポート

(2) 家庭において

  • 男性による家事・育児参加
  • 姑・小姑の理解、協力

(3) 地域社会において

  • 子ども連れに対する理解、協力
  • 子ども連れの余暇活動の促進
  • 社会全体で子どもをしつける雰囲気づくり

(4) 学校において

  • 少子化、高齢化に関する正しい人口教育、家庭科教育
  • 性別役割分担を根付かせない。

少子高齢化をくいとめるために講ずるべき対策としてはどのようなことが考えられるでしょうか。
これまでの説明から明らかであるように、その要因としての晩婚化・非婚化・晩産化・夫婦出生力の低下を抑制するような対策を立てる必要がある。
この点に関して政府や自治体、企業、個々人、社会といったそれぞれの立場でどのようなことができるのか、それぞれの立場で考えてみましょう。
まず政府や自治体としては、税制・補助金(諸手当)制度に関する側面ならびに育児休業制度に関する側面で考えらます。
税制面について言えば、子どもの扶養控除を引き上げたり、現在の医療費控除のように、出産費 用や育児費用も課税所得から控除させるなど出産や育児に関して税制面で優遇する措置が考えられますが、また、あまり現実的ではないかもしれませんが、親元 で同居している独身者、いわゆるパラサイト・シングルに対して、親からの現物贈与(例えば三度三度の食事や、家賃の肩代わりという居住サービス提供など) を贈与税の課税対象として徴収したり、極端な言い方をすれば、いわば「独身税」を創設するという方策もあります。
また育児休業制度の範囲内でいえば、現行制度によって定められている育児休業期間をさらに延長したり、育児休業期間中の所得保証を一層拡充するということなどが考えられます。
さらに、現行制度は、事実上、女性つまり母親が育児休業するという前提に立っていますが、これを男性、つまり父親も実際的に取りやすいような育児休業制度とすることも、これからは必要でしょう。
また出産一時金や児童手当といった出産や育児に関わる諸手当も各種あり、それらも増額できる に越したことはないのですが、最近の財政逼迫の折、あまり期待できそうにありませんし、現在の所得水準は国際的にも高水準ですので、各種の手当てを多少増 額したところで、出産行動につながるとは考えにくいでしょう。
そのような中で、子どもをもとうとする人たちが金銭的に最も負担と感じるのは教育費であると 言われていますが、例えば、教育費を負担するのは親であるという考え方を改めて、一部の国で実施されているように、大学を含め高等教育をすべて国など自治 体が負担したり、あるいは本人自身で将来償還するような奨学金制度を一般的といえるくらいに普及させれば、親の金銭的な負担感はかなり軽減できるのではな いでしょうか。
保育環境についてはどうでしょうか。
地方ではともかく、都市部ではまだまだ待機児童数は多いですし、乳児(特に0歳児)保育や病 児保育、あるいは、休日や夜間など通常の時間外の保育など、なにより柔軟な対応をしてもらえるような保育施設、ならびに保育ママ、ベビーシッターといった 人的なスタッフの増員が望まれます。
これに保育料を公的に負担してもらえるならばさらに効果的です。
企業においては職場の上司や同僚の理解ならびに実際のサポートが必要です。
出産前には、円滑、円満に育児休業をとることができるように、休業後にもスムーズに再就職できるようにしなければなりません。
また仮に、同じ企業に再就職しなくとも、他ですぐに再就職できるように中途採用が拡充されればよいでしょう。
また、出産や育児期間中も継続して就業する人たちのためにはフレックスタイム制やSOHOシステムをうまく利用できるような雇用環境はありがたいものです。
確かにこのような対応を企業に求めようとするのは、企業にとって必要のない出費となるかもしれません。
しかし、このような考え方は、企業が社会貢献として環境問題に取り組むことと似ています。
企業にとっては一時的なコストになるかもしれませんが、長い目で見れば、それが企業の果たすべき社会的責任としては当然のこととみられ、いわば企業イメージとしては良い方向に思われるはずです。
個々人としては、やはり男性による家事や育児への参加が最も重要です。
地域社会においては、自主的、自発的に組織された育児サークルをソフトとハードの両面で支援する体制が必要です。
そのためにも、情報交換や余暇活動を促進するような育児相談所や児童相談サービスセンターの存在は大きいものがあります。
これらを効果的に活用すべきです。またこれまでの対策は、ある意味、細かいものであって、出産、子育ての「社会化」、つまり社会全体で子どもを育て、しつける雰囲気づくりが、最も大切であるとも思われます。
妊婦をいたわり、子ども連れの家族に対して理解、協力をする社会的な雰囲気が大事です。
核家族が進んだこんにち、出産、子育ての物理的、金銭的負担は家族、すなわちまだ若い夫婦二人きりに押し付けられてきました。
しかし、その子どもが育って、大人になれば、その労働力としての、あるいは社会保障の担い手としての影響力は社会全体にわたるのですから、やはり、出産、子育て地域社会全体、あるいは国全体で負担をシェアすべきでしょう。
ここに「社会化」の根拠があります。
いまこそ、社会全体の「育児力」を高める喫緊の時期に来ていることに気づかなければなりません。