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教養番組「知の回廊」
21 「東西役人気質 -日本とヨーロッパの違い-」

対談:東西役人気質 -日本とヨーロッパの違い-

中央大学 総合政策学部教授 黒川 剛
人事院・国家公務員倫理審査会事務局長 吉藤 正道

対談中心テーマ:日本とヨーロッパの違い

吉藤も黒川も外務公務員のはしくれとして、国連の仕事をのぞき見たりしながら、時期こそ違え同じウィーンに在勤して、ヨーロッパの社会を体験した。こうした経験を出発点として、日欧の違いを語り合ってみたい。どちらが良いとか悪いとかではなく、日本の独自性を知らなければ国際社会の中で生き延びていけないからである。

(1)ヨーロッパで暮らしてみて、以前にもっていた欧州のイメージと最も異なっていたのは何か。

参考:明治以降わが国はヨーロッパを模範として近代化を成し遂げた(米国は当時、二流国)。そのため日本人はヨーロッパを知っていると思い込んでいる。し かし日本人は異文化の「つまみ食い」に長けている(漢字は導入したがやがて「かな」を作った。唐の税制は導入したが科挙、宦官、纏足の類は受け入れなかっ た)。
ヨーロッパについても同様で、「和魂洋才」がモットーとなった。近代ヨーロッパ社会の基本概念である「個」もその例。社会の中での「個」は 他の「個」があってはじめて成立するルールが不可欠であり、ルールを守ることは個人の権利であり義務である(コインの両面)。「ルールに背いて糾弾され る」欧州人と「世間をお騒がせして」謝る日本人の違い。

(2)ヨーロッパ人にとって「政府」とは何か。

参考:ヨーロッパには革命があった(日本人は自由民権思想を受け入れたものの、その理論的帰結である革命は理解せず、万世一系で良しとした)。政府(役 人)は、自分たちが作った社会のルールが守られ、税金が全員の利益のために使われるのを確保するための必要悪である。いわゆる「お上」意識は少ない。
ドイツ語圏には「官僚の政治的中立」という伝統がある。定年(65歳)まで勤めて恩給生活に入る。年下の上司を持つことを気にしない。「官」から「政」に転身する例はほとんどない(政官の分離)。

(3)連邦制度の特質・中央と地方の関係

参考:ドイツもオーストリアも(特に前者)国を構成しているのは州(Land)であって、その点米国に似ており、英国やフランスのような権力と富の首都への集中はない。自分の住んでいる地域・町に誇りを持っており、自治体の権限も大きい。
橋だの道路だのといった利権は地方の問題であり、中央の議会には政策論議が期待されるので、それにふさわしい政治家が選出される。地方の政治家の地位は高く、戦後ドイツの連邦首相の大半は州議会の出身である(アデナウアーからシュレーダーまで。オーストリアのハイダー)。

(4)国民は外交に関心をもっているか。

参考:ヨーロッパの大半の国は幾つかの隣国と国境を接しており、国境付近では隣国に生活必需品を買いに行くこともまれではない。常に隣人(隣国)を意識し ており、また他国による侵略の記憶も失っていない(子供が言うことを聞かないと、「蒙古人が来るよ」と脅かす)。言語も風習も、時には宗教も異なる他民族 に囲まれているので、目はクチほどに物を言わない世界があり、自己主張は美徳である(「初めてに言葉ありき」ヨハネ福音書)。
その意味で外交は「どこか遠くの話」ではなく、日常生活に密着している。日本は150年前に近代外交を知ったが、ヨーロッパには350年の歴史がある。そこでは現実主義的な妥協とバランスの技術が尊重され、その点が理念先行型の米国と異なる。

(5)日本にとってヨーロッパとは何か。

参考:今日の日本人は、米国とアジア(中国、韓国そして東南アジア)にしか興味をもたない。中央大学の学生も例外ではない。
ヨーロッパは19世紀末までは世界の中心であったが、第一次大戦でその地位を失い、第二次大戦で止めを刺されてしまった。再生への試みが欧州連合EUであるが、米国を追い越すことは出来ないだろう。
そのことはしかし、ヨーロッパと日本が「準大国」として多くの共通点を持っていることを意味する。政治的にも経済的にもあるいは文化的にも、 ヨーロッパは日本と多くの点で相違しながら(まさに相違しているが故に)国際社会でのパートナーであり得る。 日本人がヨーロッパを単なる観光と買い物の 対象としてみるのでなく、もっと広い観点からヨーロッパへの関心を強めてもらいたいと思う。