社会・地域貢献

教養番組「知の回廊」22「企業再建-もし会社が倒産したら」

企業再建-日本企業の再出発

中央大学 法学部教授 丸山秀平
中央大学 法学部教授 福原紀彦
中央大学 法学部教授 野村修也
中央大学 法学部長 永井和之

あらすじ

「取締役会のドラマ」-「教授コメント」を通じて、脆弱な企業が再建されるプロセスを番組に(ドラマは「マイカル」や「ダイエー」や「日産」等の企業をもとに、架空のものを設定した)。

  • 代表取締役がクーデターによって解任(取締役会一回目)
  • 丸山秀平先生(法学部教授・会社法)のコメント
  • 企業の具体的状況の説明をしながら打開策を見いだすための討論会(取締役会二回目)
  • 福原紀彦先生(法学部教授・商法1)のコメント
  • 資金投入等により明るい兆しを見せる再建取締役会(取締役会三回目)
  • 野村修也先生(法学部教授・海商法、保険法)のコメント
  • 永井和之先生(法学部長・商法2)による日本企業の再出発コメント

内容

代表取締役がクーデターによって解任(取締役会一回目)

莫大な負債を抱えて民事再生の申立をする会社の、第一回臨時取締役会のシーン。クーデターのドラマ化。

丸山秀平先生(法学部教授・会社法)のコメント

この場面で、一番問題となるのは、当然のクーデターで社長および常務が解任されたことです。ここでは「社長」・「常務」といっていますが、法律上は、取締役であって会社の代表権を有する者、すなわち代表取締役のことをいっている訳です。株主総会で選ばれた取締役が集まって、取締役会を開き、そこで代表取締役が選ばれることから、代表取締役は取締役会で解任されることになります。つまり、ここで「社長・常務の解任」といっているのは、法律的にいえば、取締役会の決議によって代表取締役の代表権を奪うことに他ならないのです。「解任」というと取締役でもなくなってしまうように感じるかも知れませんが、取締役の地位は株主総会でなければ奪うことはできません。ただ、解任によって「代取」が「ヒラ取」になるのですから、当人にとって一大事であることは確かでしょう。
そこで、解任の問題ですが、解任への工作は極秘に進められていたのですから、当人にとってみれば、まさに寝耳に水だった訳です。この点で、気になるのは、臨時取締役会は、会社更生法の申請をはかるために開かれたのであって、社長や常務を解任をするために開かれたものではなかったこと、つまり当日の取締役会の議題として予定されていなかったことが突然出てきたことです。これが、まさしく「動議」ということであって、議題にないことを動議として提出することは、会議体のルールとして、認められることでしょう。そもそも、取締役会は、会社の経営に関する事項を決する機関ですから、会議の議題にないことであっても、経営に関することであれば、取締役会で適宜審議決定することができます。ですから、解任された者が、この動議の提出自体をおかしいということはできません。
それでは、解任された者が、この解任についてもう文句は言えないのでしょうか。そこで、もう一つ気になるのは、動議に際して「社長はご退席願います」といっていたことです。これはどのような意味があるのでしょうか。これは、商法の規定に基づいています。すなわち、商法には、取締役会の決議において特別の利害関係を有する取締役は、決議に参加することはできないいう規定があるのです(商260条2項)。この規定の趣旨は、一般に、取締役会における公正な決議を確保するために設けられたものであるとされていますが、より具体的にいえば、取締役は、取締役会のメンバーとして議決権を行使する場面においても、取締役は自らの利益を優先させることなく会社の利益をはかって適正に決議が成立するように行動すべきことが要請されていること、つまり、取締役会における議決権の行使ないしこれに至る過程にあって、会社の利益よりも個人的な利益を優先させるような状況におかれている者に議決権を行使させることは好ましいことではないので、そのような取締役は当該決議から排除されることを示したものと言えます。法律では、「特別利害関係」という抽象的な表現が使われていますが、最高裁判所は、代表取締役の解任が問題となっている場合に、解任されようとしている代表取締役が、今述べた規定の趣旨からして、特別の利害関係を有する取締役であるという判断を下しています。したがって、今回の場面でも、解任されようとしている代表取締役は、特別の利害関係を有する取締役として、商法の規定上、解任決議に参加できないことになります。
ただ、その点で、今回の場面で、「社長」だけに退席を求めたことは、おかしな感じがします。つまり、「常務」にも退席を求めるべきだったのではないでしょうか。
これについて、もう一つ考えなければならないことは、社長は普通、取締役会の議長にもなっていることです。そこで、動議に際して「社長はご退席願います」といっていたことは、実は、議長を交替するというを意味があったのかも知れません。
これについて皆さんもご存知のように従来の判例として取り上げられているものの一つとして、「三越の社長解任事件」があります。取締役会の議長であった代表取締役社長が定例の取締役会を開催しようとしたときに、社長以外の者が予め打ち合わせていて、社長解任の動議を提出して、議長もそこで交替して、交替後の議長の下で社長解任の決議を行ったものです。これに対して解任された社長の側で、そのような措置が取締役会決議の瑕疵にあたり、その決議は無効となるのではないかとして訴えを提起した事例です。裁判所は第一審で「取締役会の議事を主宰して、その進行、整理にあたる議長の権限行使は審議の過程全体に影響を及ぼしかねず、その態様いかんによっては、不公正な議事を導き出す可能性も否定できないのであるから、特別利害関係人として議決権を失い取締役会から排除される当該代表取締役は、当該決議に関し議長としての権限も当然に喪失するものと見るべきである」と判示し、第二審でも「議長としてのかかる権限行使の結果が審議の過程全体に影響を及ぼし、その態様いかんによっては、不公正な決議の結果を導き出すおそれがある」とされ、いずれも社長側の言い分が受け入れられず、それがそのまま最高裁まで行って確定されたものです。ですから、最高裁の見解に従えば、勧告に従って、議長を交代しても、法的には問題がなかったことになります。ただ、今回の事例では、議長が交代したかどうかは明らかではありません。
それどころか、解任されようとした両名がそのまま議決に参加しています(両者が反対票を投じています)。これは、法的にいえば、特別の利害関係を有する取締役として、本来参加すべきでない者が参加して決議がなされていることになり、そのような取締役会決議は瑕疵あるものとして無効になるのではないでしょうか。ただ、今回の事例では、多数派工作が成功した結果、両名がそのまま議決に参加しても解任決議は可決されています。この両人が参加したことで逆に決議が覆されたのであればともかく、この場合はそのまま可決されたのですから、参加すべきでない者が参加したことは、結局、決議の結果に影響を及ぼさなかったということになります。したがって、この決議はそのまま有効となると考えられます。

企業の具体的状況の説明をしながら打開策を見いだすための討論会(取締役会二回目)

不採算部門を切り離したら?…といった討論 
「我が社の場合、これらを切り離さないと本体が持たない。」 
「これは我が社のシンボル的な事業。それを切り離すと(例えばダイエーにおけるダイエー球場売却のような件)本体も駄目になる!」 
「スポーツ、家電部門を切ってはどうか―――?」

福原紀彦先生(法学部教授・商法1)コメント

1.はじめに

このドラマで設定された取締役会でのやりとりは、会社の再建・再生に向けた主要な各場面である。ここでは、第1回と第2回の取締役会でのやりとりが、それぞれ、どのような法制度を背景として行われているのか、コメントを加えておきたい。

2.会社の再建・再生に向けて取りうる手段

まず、会社更生法で幕引きを図ろうとしたメインバンク派遣の代表取締役社長が、民事再生法の申請を主張する旧経営陣の取締役達によって解任された。このこ とは、会社の生え抜きではないアウトサイダーが、最後まで経営の主導権を握れなかったことを意味している。その背景となっている法制度はどのようなもの か。
会社が経営の危機に見舞われ、債務超過に陥ったとしても、銀行借り入れができて資金繰りがつくなら、直ちに倒産ということにはならない。支払 い不能が現実に具体化してはじめて倒産ということになる。しかしまた、一口に倒産といっても、破産に代表される清算型の倒産と、会社を潰さないで一定の手 続きの下に存続させる再建型の倒産とがある。
そして、後者の会社再建の手段には、・会社更生、・民事再生、・商法上の会社整理、・任意整理の4つがある。会社更生は、会社更生法にもとづ き、窮地にあるが再建の見込みのある株式会社を裁判所の監督のもとに、旧経営者を排除して、管財人が主導して行う制度であり、多数決原理を導入することで 一部債権者を抑制しつつ会社の再建を図るものである。民事再生は、支払不能もしくは債務超過の生ずるおそれはあるが、再建の可能性のある個人または法人 を、裁判所の監督の下に、会社の場合には経営者を交替させないことも認めて、再建させる手続きである。この民事再生は、平成12年4月から施行された民事 再生法にもとづく比較的新しい制度であるが、再建型倒産処理手続きの基本型として、一部上場の大企業から街の中小企業まで、幅広く利用できる柔軟性と簡便 性を備えている。大企業の場合は、会社更生法と民事再生法のいずれも選択できるが、民事再生法を選択すると、東京地裁の場合には終結まで約6ヶ月の短期間 ですむと言われており、資産の劣化を避けることができ、また担保権者に対する拘束も一応規定されているので、大企業であっても民事再生法の方が利用される 場合が多いと思われる。なお、会社更生法の方も、大規模な会社の再建に使いやすいものとするために、法律改正の準備が進められている。

3.民事再生手続と取締役会での検討事項

次に、ドラマの取締役会では、民事再生法の適用の申請に向けて議論がなされている。会社更生が管理型の再建策であるのに対して、民事再生は、 DIP(Debtor in Possession)型、すなわち、再生債務者が倒産後も業務の遂行権および財産処分権を失わない自主性を尊重した再建手続きであり、オーナー経営者の 個性や信用、才覚に強く依存していた企業の再建に適しているといえるからである。
そして、民事再生の手続きにおいては、事業再生計画の作成が重要であり、その作成にあたって取締役会で検討されるべき事項は、倒産原因の解明、その除去、収益力確保の方策である。
収益力を確保するための経営改善策は、簡単に言えば、売り上げの増加と経費の削減ということである。具体的には、不採算部門の閉鎖、利益率の 低い製品の排除、効率の悪い仕入れ先との取引の打ち切り、仕入れ先の重点的な絞り込み、業界での競争において優位に立ちうる人的・物的資産の点検と活用な どが図られねばならない。そのためには、法制度上、商法上の営業譲渡、平成11年商法改正で導入された株式移転・株式交換による親子会社関係等の編成と活 用、平成12年商法改正で導入された会社分割制度の採用などが検討される必要がある。
他方で、弁済原資の確保が検討にための方策が検討されなければならない。再建型の倒産処理における弁済原資には、内部的資金調達方法として、 収益による返済資金作りや不要資産売却による資金化、外部からの資金調達方法として、スポンサーからの新規資金の供与、金融機関からの借り入れ(いわゆる DIPファイナンス)、さらには、債務の株式化(デッド・エクイティ・スワップ、既存の債務の一部または全部を再生債務者への株式に振り替える方法)があ る。

4.ダイエー経営再建問題のゆくえ

このドラマによく似た現実の例としては、ダイエーの債権問題がある。ダイエーは、本年3月19日に産業再生法の適用を申請し、4月26日に認定がなされ た。ここに産業再生法とは、過剰な設備や債務をもつ企業の再建を支援するため1999 年秋の施行された産業活力再生特別措置法のことである。同法の適用を望む企業は、3年以内の事業再構築計画を策定することになる。債権放棄を伴う場合、計 画最終年度に有利子負債を10年以内に返済できる水準まで経営改善することなどを示す必要がある。所管官庁が認定すれば、債務の株式化に伴う登録免許税の 軽減や分社手続きの簡素化などの優遇措置を受けられる。

《参考文献》 
永井和之『会社法』有斐閣 
丸山秀平『会社法概論』中央経済社 
林・高橋ほか編(福原・共著)『戦略経営ハンドブック』中央経済社(近刊) 
三山裕三『会社再生のノウハウ』東京布井出版 
西村総合法律事務所編『M&A法大全』商事法務研究会 
他。

資金投入等により明るい兆しを見せる再建取締役会(取締役会三回目)

会社の方で事業譲渡を提案、外資導入を提案する(日産のようにルノーの救済を受けるかどうか。債務の株式化、債権の棒引き等によって企業再建、経営再建を 具体化してゆく)。ゼネコンかスーパーの例がわかりやすい。多角経営した事業を譲渡していく。不良債権、資産・財政状況悪化を多く抱えている(バブル期の 多角経営の付けが回ってくる)会社が本業の黒字部分を残して不良部分をいかに売却して生産してゆくか。
自分たちの会社が生き残るための具体的手段……資金調達、持子会社を売ったりするという提案。
赤字の部分を分離、切り捨て、リストラする。不採算部門を集める。会社分割(会社の分離子会社化)、「もみの木は残った」ではないが、もともとの特化した本体を残す。そのメインの事業だけを残してゆく。
銀行出身の社長を首きって(マイカルの例だと)しまったから、銀行の軍門に下って債権者の意向を受けた新しい取締役社長を迎えることによって再建は着手される。
再建の方法としては、以下の四点が考えられる。
(ア)新たな資金投入(資本金を出資してもらう) 
(イ)債権者に債権の株式化をしてもらう 
(ウ)借金の棒引き(債権放棄)→拒否してつぶすよりも、今3%返してもらうよりも将来にわたって10%返してもらう方が良い。
(エ)リストラ

永井和之先生(法学部長・商法2)による日本企業の再出発-将来の展望コメントまとめ日本企業再建の姿。コーポレートガバナンスの考察。

コーポレートガバナンス(英語の原語を直訳すれば、企業統治。会社の方針をだれがどうやって決めるのか、経営が暴走しないようにどうやって監視するのかといった、会社をうまく運営するための仕組みのこと)の考え方。

  • 労働者が血を流す。当然、債権者にも泣いてもらわなくてはならない。そういう原因を作った経営者のもとで果たして再建が可能かどうか?
  • 業種によっては経営の内容を知っているようでなくては会社の再生は不可能。従来の仕事に精通している人が担当しなくてはならないのではないか?

将来の業績の伸び具合によってはどの部門に行くかで、ボーナスや給与が変わる。リストラ事業で給与水準が低くなるような部門にいかされてはな らない。どの部門に行くかで一生が左右される、労働者の右往左往シーン・事業分離。これは破綻企業の前段階で必ず見られるものである。法的には労働者を救 済するような労働契約承継法(会社分割法と同時にできた法律、一昨年できた)がある。今までは子会社に出向させる(転籍させていた)が、本来はそれも合意 の内でなくてはならない訳であるから、そこを法律上明記化するために労働契約承継法ができた。