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教養番組「知の回廊」
24 「電子政府の未来、その可能性」

電子政府の未来とその可能性

中央大学大学院法学研究科 国際企業関係法専攻 博士後期課程 岩隈道洋

コメンテーター
  • 大内和臣前法学部教授
  • 堀部政男法学部教授
  • 辻井重雄理工学部教授

1,電子政府~日本の現況

a,電子政府推進政策

平成12年に「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法」(通称IT基本法)が制定され、その中の重点施策の1つとして、「電子政府、電子自治体の推進(行政の簡素化、効率化、透明性の向上)、公共分野の情報化」が掲げられている。 同法によって設置された政府のIT戦略本部の作成した『e-Japan重点計画』によると、「電子政府は、行政内部や行政と国民・事業者との間で書類ベース、対面ベースで行われている業務をオンライン化し、情報ネットワークを通じて省庁横断的、国・地方一体的に情報を瞬時に共有・活用する新たな行政を実現するものである。」と定義されている。

電子政府化により誰もが、行政機関の提供するすべてのサービスを、自宅や職場からインターネットを経由し、時間的・地理的な制約なく活用することが可能となる。実質的にすべての行政手続が24時間・距離的な制約なしに利用できるのである。2003年度には電子情報を紙情報と同等に扱う行政を実現」すると謳っている。
具体的な政策としては、・行政文書のぺーパーレス化(行政主体間における情報の収伝達・共有・処理の電子化が促進され、重要な行政情報のバックアップ体制の確立等、災害時の危機管理能力強化にもつながる)や、・都道府県、市町村のレベル毎に地方公共団体によるシステムの共有等の奨励(2003年度までに全地方公共団体の総合行政ネットワークへの接続の完成を目指す)・ワンストップサービスの実現(行政手続きをインターネット経由で可能とする。 類似業務の統廃合とシステム化を進め、1つの窓口で全ての手続が完了するようにし、お役所のいわゆるたらい回し体質をなくす。)・行政情報のインターネット公開、利用促進、・インターネットなどによる電子調達方式の導入、・印鑑や戸籍・住民票などに代わる行政ICカードシステムの開発促進などが示されている。
また、「インターネットを活用した行政手続、行政運営等が可能となるよう個々の手続に求められる書類の削減・標準化、書面の提出・保存を求める法令の見直し等を行う。」とされており、国や自治体の情報通信技術活用のさらなる高度化を、法制面で裏付けてゆくことが求められている。さらに、電子政府は、国民のプライヴァシーや法人の営業活動に関する情報や、治安・安全保障に関する情報の大量蓄積をも促すのであって、そういった情報の適正な利用を法的にどう位置づけるかも大きな課題と言うことができる。

*法律面・技術面において実効性あるコントロールが必要(大内)*
上記のような政策による制度設計が推進されたとしても、それを提供する官公庁側の積極的な活用姿勢が見られなければ、徒に巨額のシステム設置費用を浪費し、国民にとってもコンピュータ窓口が増えてかえって役所の手続きがわかりにくくなると言うことも考えられる。目標達成のアセスメントと、利用者本位のテクノロジー開発が要求される。

b,電子政府と情報公開・個人情報保護

上で紹介した『e-Japan重点計画』は、首相官邸のホームページで閲覧することができる。同様に、多くの国・地方の政府機関では、5年前と比べると驚くほど大量の情報がインターネットを経由して公表されている。このような、情報のアクセスを特別の制限なしに行えるような形で政府の情報を国民に示す活動を、情報提供と呼んでいる。政府機関の情報提供はインターネットホームページの利用によって飛躍的に増加したわけだが、提供される情報の内容は個々の政府機関が決定するわけで、国民が全ての政府情報をインターネットから得ることができるわけではないことは言うまでもない。そのような、ホームページに載らない行政情報を入手したい場合にはどのようにすればよいのだろうか?

平成11年に成立した「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」(通称情報公開法)
では、国が持つ行政文書が国民の請求に応じて公開される。対象となるのは、ファイル形式で2750万件の行政文書である。請求に対する開示、不開示決定は原則30日以内(最長60日以内)に行わなければならない。この法律によって、明治以来はじめて、行政機関が一般市民の求めに対して情報を公開するか、公開できないときはその理由を説明する義務を負うとともに、自らが保有する文書名を原則としてすべて公開しなければならなくなった。また、いくつかの地方自治体では国よりも早くから条例で情報公開制度を持つようになっており、電子化された情報提供制度では手に入れることのできない部分の情報についても、国・地方ともにアクセス可能性が高まっている。

一方で、外交や国防、犯罪捜査などの情報や、公開することで公正な取引が阻害されるような情報など、いくつかの類型の情報は同法の下でも公開されない。特に、行政機関が保有している個人に関する情報は、プライヴァシーとの関係もあって、特別な配慮が必要とされる。特に、現在国会で審議されている個人情報保護法案や、今年8月から導入される住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)、の動向が注目される。
住基ネットは、住民基本台帳に記載される氏名・住所・生年月日・性別・住民票コード・記載内容変更の6種類の情報をコンピュータで一元管理する。国民全員に11ケタの住民票コードが割り当てられる一方、情報の利用範囲は、10省庁93件の事務に限定されている。

d,電子政府と認証制度・暗号政策

官公庁(お役所)に対する申請や届出といった行政手続が電子化され、ワンストップサービスなど国民にとって行政サービスの利用が飛躍的に便利になることが予想される反面、紙に記された書面や印鑑、対面での手渡しといった、その書面と本人が間違いなくホンモノであることを確認することが、かえって難しくなるという見方もある。このような、申請者本人の特定や、書面の真実性・原本性を確保するために、技術的・法的な手当が必要とされる。

「電子署名及び認証業務に関する法律」が2001年4月から施行されている。電子署名は公開鍵暗号技術(PKI)を利用して、電子文書の内容を保護する技術である。この技術では一対の公開鍵と秘密鍵とが組み合わせて利用される。一対の鍵の一方で暗号化されたメッセージはその鍵自体でも解読できず、もう一方の鍵を使わなければ解読できない。電子文書を送ろうとする者は、送り先の人物が公開している公開鍵でその文書を暗号化して送信する。受け取った側は自分だけが保管する秘密鍵で解読する。途中で何者かに文書を盗み見られても、文書自体は暗号化されているので内容が他人に渡ることはない。また、逆に先ほどの送り側が先ほどの受け側名義の電子文書を受け側の公開鍵で解読できれば、それは受け側の秘密鍵で暗号化されたのだということがわかる。上述の通り、受け側の秘密鍵は受け側だけが保管しているため、受け側本人が送ったメッセージだいうことが確認できる。つまりこの場合、電子署名は印鑑や手書きのサインと同等の機能をもつことになる。

2,国境を越える電子メディアと電子政府

インターネットに接続した状態で何が行為と見なしうると考えられるかいうと、何らかの信号をネットワークを介して他のコンピュータに対して送信するということに還元される。その際に利用者の持っている端末の性能や規模はあまり問題にならない。つまり、個人であれ企業であれ国家機関であれ、利用者が回線に接続する権利と端末機さえ持っていればインターネット上での利用者としての地位は事実上対等になるのである。一方で、インターネット上で利用者が通信や取引などの相互作用を繰り広げてゆくことからそこに「社会」が形成され、主権国家唯一の物理的な形である国境を完全に度外視して様々な行為が行われ得る。さらに、この「社会」や「行為」は構成員がサーバ(ネットワーク同士の結節点となり、また文書や画像、プログラムなどのデータ蓄積と、ユーザーの認証やネットワークの管理を行うコンピュータ)を通して発信する電子情報という形でしか存在しない。インターネット「社会」の秩序維持・管理・統治といった営みを困難にするアナーキーの原因は、利用者の匿名性と越境性、サーバの物理的存在場所にインターネットの機能や効果が依存しないという点にある。このことは、匿名性を隠れ蓑にした違法な行為を誘発するともいえる。数年来、ネットワーク上の犯罪や不法行為に対する議論は国内法の世界でも多く採りあげられ、各国で新立法や新判例が登場し、問題の法的解決に向けた努力が進んでいる。また、兵器としてコンピュータネットワークを利用するための研究や、社会全体に甚大な被害を与えるコンピュータネットワークを応用したテロリズム(サイバーテロと呼ばれる)への対策もサミットや国際機関で議論がはじまっている。

インターネットの利便性は地理的距離も国境も関係なく、端末機の存在場所からほんの数秒から数分の間に意見のやりとりや取引の申込などの情報伝達を行うことが出来るという点にある。WWW商店での商品購入や、電子メールのやりとりなどの日常的なインターネット利用の際には意識されることが少ないが、商品購入ボタンをクリックしたり、クレジットカード番号を打ち込んだり、電子メールの送信ボタンを押したりすることは、どこか離れた場所にあるコンピュータに対して命令を発して、それを(限られた作用であるにせよ)操作していることになる。インフラ(特に電力供給や水道・交通など)・そのものを制御するのにコンピュータが利用されていることは、今日あまりに当たり前すぎることともいえる。このようなインフラ制御のコンピュータがインターネットに接続されていれば、技術的手順さえ間違いなく踏めば、その制御コンピュータを外部から操作することができるはずである。

また、利用者が何者であっても対等な地位を占めるとともに、利用者の匿名性とその活動の越境性が特徴となっているインターネットでは、国家が活動できるにもかかわらず、その活動を国家のものとして捉えにくい(匿名性)という点を利用し、国家が内政不干渉の原則がありながらそれを無視して隠れた形で他国内にあるインフラとしてのコンピュータを、内政干渉や紛争解決の手段としても遠隔操作することが理論的には可能になるはずである。つまり、ネットワークを介して国家であれ個人であれ、外国に存在しているコンピュータを操作することができ、その「操作」という活動が、インターネットの世界では結果的に国際的な活動なることがある。

電子政府の観点から見ても、官庁ホームページの改竄等の不正アクセスや、他人になりすました者の違法な電子申請、個人情報を盗み取るためのセキュリティを破りなどの違法行為が国境を越えて行われる可能性は低くない。つまり、電子政府の法的な対策として、国際的な枠組みも視野に入れなければ意味がないということである。

OECDはセキュリティシステムガイドラインの改正作業をこの夏に向けて行っている。このガイドラインは、参加国に対して共同での同水準のセキュリティポリシー(インターネット上の個々のコンピュータの安全対策を文書にまとめたもの)策定を促すものである。条約の様な強力な法的拘束力があるわけではないが、電子政府をはじめとする社会のIT化の進んだ国の間では、このガイドラインに基づいた法整備が進んでいる。日本でも1987年に刑法を改正し、それまで保護の対象となっていなかった電子データを「電磁的記録」という概念で取り扱うことにして、電子文書の偽造や、クラッキングと呼ばれるオンライン経由のコンピュータ破壊行為を処罰するようになった。また、1999年には「不正アクセス行為の禁止等に関する法律」(通称不正アクセス禁止法)を制定し、正当な権利がない者が他人の管理するコンピュータに進入することや、ID/パスワードの不正な取得を禁止するようになった。 電子政府も、インターネットという民間と同じ開放的なネットワークを活用して行政活動を行う以上、これらの法律で保護されなければならないのである。

また、1996年から、欧州委員会が中心となって「サイバー犯罪条約」の制定作業が進んでおり、2002年内に発効が期待されている。内容的には上記の不正アクセス禁止法と同様の規定や、データの偽造やコンピュータを使った詐欺の禁止、チャイルドポルノの禁止、著作権侵害の禁止、捜査機関のネット上の情報収集、インターネット通信の傍受、締約国同士の捜査協力など、多岐に渡っている。日本が締約国になった場合、インターネット上での警察の捜査活動の範囲がこれまでよりも広く解される可能性を指摘・批判する声もある。どのような捜査等の枠組みが妥当であるかはこれから議論されなければならない問題であるが、広い意味で、これらの犯罪捜査活動も電子政府の活動の中に含まれるのではないかと考えられる。

*インターネットを通して、外国の行政や法律が日本に入り込んでくる可能性がある。条約をベースに各国の国内法を一貫した内容のものにしなければならない。留保されたら意味がない。捜査協力の国際枠組みは尊重される。しかし執行(逮捕・裁判・刑の執行)は各国別にならざるを得ない(大内)

3,終わりに

以上、電子政府の概況にはじまり、日本国内の政策展開と法整備状況、そして電子政府の仕組みを国際的に保護するための動きについて述べてきた。しかし、今まさに動いている制度である電子政府は、おそらくここ10年くらいの間に現状からさらに変貌した形で私たちの前に登場するであろう。利便性と安全性のバランスのとれた制度を作っていくことが重要である。

また、これまでは外交や国防、通商など、限られた分野の行政を除けば、官公庁の活動は日本国内のことを専ら考えておけばよかったのだが、電子政府化によって、インターネットを経由して急速に世界とのつながりを強めてゆくことになるであろう。今回は対策の進んでいるネット犯罪の国際的対策を述べるにとどまったが、将来的には行政サービスの質が、国境を超えて利用され、便利さの評価の対象となり、世界中でその質を競うような状況が生まれることも予想しうる。私たちも、政府の電子政府施策を傍観するだけではなく、利用者として前向きだが厳しい評価をできるようになることが求められているのではないだろうか?

*行政機関だけでは今まで述べてきたような諸問題を処理し切れない(制度の実効性を担保できない)ので、政府と民間(企業も一般市民も)との協働が必要である。この分野では、政府よりも民間の方が高い技術力を持つ可能性が高いからである。そのような民間側の者が、政府と対立するような関係になってしまったら、法規制は負けてしまう。(大内)

*理想的には、インターネットを管理しルールを作って維持し執行する力(主権)を、既存の国家と切り離して創造できれば多くの問題が解決される。ただ、現在の国家中心の国際関係とは異質な世界的な協力体制がそのためには必要になる。そのような、サイバースペースに限定された、地球的な合意形成が可能であろうか?(大内)

参考文献

<<電子政府推進政策について>>
白井均 他『電子政府最前線』東洋経済新報社(2002)
白井均 他『電子政府』東洋経済新報社(2000)
井熊均  『図解eガバメント』東洋経済新報社(2000)
河合輝欣他『電子行政の法務知識』ぎょうせい(2001)
首相官邸ホームページ http://www.kantei.go.jp

<<情報公開・プライヴァシー・個人情報保護について>>
石村・堀部編『情報法入門』法律文化社(1999)
松井茂記『情報公開法入門』岩波新書(2000)
藤田康幸『個人情報保護法Q&A』(2001)
堀部政男編『情報公開・個人情報保護』有斐閣(1994)
堀部政男『プライヴァシーと高度情報化社会』岩波新書(1998)

<<インターネットと電子政府について>>
高橋・松井編『インターネットと法』第2版,有斐閣(2001)
IEC 他『インターネットの光と影』北大路書房(2000)
園田寿 他『ハッカー vs. 不正アクセス禁止法』日本評論社(2000)
レッシグ著・山形他訳『CODE インターネットの違法・合法・プライバシー』翔泳社(2001)
辻井重男『暗号と情報社会』文春新書(1999)
雑誌『Computer Today』連載「新・インターネットと法」(2001~2002)