社会・地域貢献

教養番組「知の回廊」48「自分探しをする若者たち『フリーター』って良くないことですか?」「フリーター的生き方」と高校生ー若者の街づくり再考ー

中央大学 文学部 古賀 正義

最近、高校卒業者の進路の一つとして大学進学、就職等に次ぐものとして無業者(いわゆるフリーター)が認知・定着してきており、東京の公立高校では、20.4%、つまり5人に1人がフリーターであり、進学24.5%に次ぐ重要な位置をしめている。そこで、このような若者の変容について仙台を中心に光を当ててみることにした。

「若者の街」といわれる仙台に来て10年。青少年の意識の変化を、特に高校生を中心として、インタヴューやアンケートから探ってきた。そこで最近気になるのは、「フリーター」に象徴されるような、安定し統制された職業生活や学校生活よりむしろ、自分の自由な時間を優先し情報消費社会をエンジョイしようとする新たな若者たちの出現である。

1.産出されるフリーター都市

高校卒業後一切就学せず定職にも就かなかった人を、総称して「無業者」と呼ぶが、そこには、自らの意志によってアルバイトなどで暮らす「フリーター」も多数含まれる。 
あまり知られていないことだが、平成12年度に全国で無業者となった高卒者は全体の10人に1人(10.0%)にものぼっており、なかでも宮城県は全国第3位の無業者高卒県(13.7%)であった。しかも女子だけに限っていえば、沖縄県に次いで第2位であり、ほぼ6人に1人(15.8%)が無業者であった。雇用市場の狭さや景気の悪化、教育機関の不足など、高卒者の受け入れ先の制約が背景にあることは間違いないのだが、類似した条件にある他県よりも高い割合であることを考えると、単に構造的な要因だけから説明しきれるものではないようだ。 
さらに全国の政令指定都市についてみると、無業者は一層増大していく(平均11.4%)。特に東京圏では高卒なのだが、ここでも仙台市は、札幌市や福岡市などの地方都市を上回り、13都市中の第4位(12.0%)という高い割合となっている。しかも女子だけについてみると、川崎市に次いで第2位である(14.2%)。その原因の一端には、コンビニやファーストフードなど都市的なアルバイトが拡大するなかで、高卒者の価値観や生活スタイルが変化してきていることも強くかかわりあっていると考えられる。

ここに一つの興味深い調査結果がある(耳塚編、2001)。東京都内の無業者を多数輩出している高校21校の2年生(2476名)を対象とした意識調査である。これによると、進学希望に「フリーター」をあげる生徒は、就職や専門学校などをあげる者が各々3分の1を占めるなかで、依然として4%程にとどまっている。だが彼らの意識を詳しく分析してみると、自らの将来展望に関して、「経済的な豊かさ」は望めなくとも、「自分らしく生きられる」、「自由な時間が持てる」など私的な生活について際立って肯定的な評価をしていることがわかる。しかも郊外生活についていえば、すでに多くのアルバイトを経験して高収入(4万円弱)を得ており、携帯やPHSで友人と頻繁に連絡を取り合って、その支出が月額ほぼ1万円にものぼっていることがわかる。
つまり、フリーター指向の生徒には、現在の学校や今後に予想される就職先・進学先での生活に期待しない態度がみられる反面で、「モバイル機器」に代表されるように、自身の情報・消費生活の充足に関して他にはない貧欲な姿勢がみられるのである。いうならば彼らは、良かれ悪しかれ、すでに学校という場を超えて、いま/ここの都市のなかを新たな価値観で生き抜きはじめており、それは友人関係を媒介としながら情報と消費の世界を横断していく「遊牧民」のごとくみえる。

2.ネットワークを構築する生徒たち

そのためここで考えておかねばならないことは、無業者率自体の増加より、こうした「フリーター的生き方」の水面下での拡大や浸透であるといえよう。フリーターになる生徒は依然少数でも、既存の学校や組織を忌避して、携帯とバイトを自在に操り、自分たちの楽しい生活を演出する生徒たちの広がりにこそ注目しておかなくてはなるまい。 
筆者は、仙台圏の高校で実施された調査データ(東北大学教育文化研究会、2001)をこうした関心から再分析してみた。図1は、進路実績の異なる学校種別ごとに、携帯・PHSの利用者がどのぐらいの割合になるのかを示したものである。これをみると、携帯を常用する者としない者が2極分化しており、女子はほぼ2人に1人が常用していて、男子を大幅に上回っている。また男女別にみてみると、就職や多様な進路を取る高校ほど、携帯常用者が多くなっており、女子の就職優位校では進学優位校の倍近いほぼ70%が常用者であることがわかる。男子でも、就職優位校の高い割合(39.9%)は同様である。 

さらに学校別に、パソコンなどの情報機器の利用と携帯利用との相関をとってみると、就職優位校や進路多様校では携帯を使う者はかえってパソコンを使わない傾向があり、他方進学優位校では反対の傾向がみられた。これは前者での携帯の手軽な利用が、情報収集の道具ではなく、友人とのネットワークの手段として位置づけられているためと思われる。 
そこで就職優位校の女子生徒に絞って、携帯常用者と非常用者で友人関係や生活スタイルにどのような違いがあるかを調べてみた(図2)。これをみると、携帯常用者は、「同性の親友がいる」という者が9割弱あり(非常用者は7割強)、また「友人をリードする」「他校の人とも友人になれる」などの項目でも割合が高く、広範な友人関係を積極的に構成していることがみとめられる。また、「学校の勉強を重視する」という者は6割にも満たないが、「学校外の活動を重視している」者や「アルバイトをしている」者が過半数を上回っており、さらに「みんなで一緒にやってみたいことがある」といった協働活動にも高い割合がみとめられた。こうした傾向の特徴は、他の就職優位校や進路多様校でも同様にみとめられる。 
すなわち一言でいえば、「フリーター的生き方」を重視するこうした生徒たちは、生徒という枠にはめられた役割を離れて、青年として生きるための友人ネットワークを構築し始めているとみられるのである。

3.若者を活かす都市の戦略

概してメル友犯罪やストリート・ミュージシャンなど「フリーター的生き方」にまつわるイメージはネガティブである。たしかにそこには過剰な情報や消費に振り回される危険が伴っている。だがその一方で、彼らが従来の学校や組織から脱却して個々人のあり方を生み出す新たな場を構築していく可能性も見過ごすことはできない。 
例えば、先日高松市の商店街が活性化の戦略として、「消えた女子高生を探す」という実在の街を使ったネットゲームへの参加を呼びかけたところ、多数の高校生が賛同して街じゅうを歩き回り、賑わいが戻ってきたという(河北新報7/16付記事)。フリーマケットなどもそうだが、何か目的が与えられれば、この生き方は大きな力になることがある。わが国では、イギリスの「ユースサービス」のような若者が主体となる地域活動の伝統が乏しく、組織も未整備である。しかしながら、こうしたエネルギーある戦力を地域社会から遠ざけてしまう手はないと思うし、彼らの生き方をよく知った上で、それにフィットした戦略を探していくことができれば、街づくりの重要な担い手にもなると思える。 
いま私たちは、若者の「フリーター的生き方」が都市に投げかけているメッセージを充分に理解しなくてはならない時期にさしかかっているといえるのではないか。