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教養番組「知の回廊」
49 「銀河系の中心へ」

中央大学 理工学部 坪井 陽子

夜空に輝く星々は、いつの時代も、私たちを魅了し続けます。ヒトは何故、星空を見上げ、宇宙に想いを馳せるのでしょうか・・・?。それは、ヒトが宇宙から生まれてきた存在であり、星空への好奇心は、人々の根源的な欲求なのかもしれません。しかし、宇宙の謎は、まだまだ尽きることがなく、ヒトの好奇心も満たされることはないのです。星々はどのようにして生まれるのでしょう?、銀河系の中心は、どうなっているのでしょうか?それに答えてくれるのが、現代の科学技術であり、X線天文学なのです。今回は、最先端のX線天文学によって明らかにされた、宇宙の姿に迫ります。

1.天文学の歴史

(1)古代の天文学

天文学は、古代から存在する全ての科学の起源であると言えます。 
ストーンヘンジは、紀元前約2800年の石器時代から紀元前約1100年の青銅器時代までの実に17世紀もの期間を使って作られたイギリスの古代遺跡です。巨石群は円をなしており、重い石は50トンにものぼります。これらは遠い場所からこの平野までどうして運ばれてくる必要があったのでしょうか? 円の中心に立ってサークルを眺めると、巨石と巨石との間にヒールストーンと呼ばれる高い石が見える方向があります。夏至にはここから日が昇ります。つまりこの遺跡はカレンダーの役割りを果たしていたのです。いろいろ詳しい研究によって、この遺跡は太陽や月の運行を観測するための天文台であり、かつ、日食や月食の予測をする、コンピュータの役割を果たしていたことがわかっています。 
このほかにも、アメリカのビッグホーン・メディスンホイールや、メキシコのカラコル遺跡などが、巨大なカレンダーとして設計されていたことがわかっています。 

エジプトでも季節の移り変わりを正確に知ることはとても重要でした。紀元前4200年頃、エジプトでは毎年6月頃にナイル川が氾濫し、肥沃な土砂が運ばれ ました。これが人々に豊かな農作物をもたらしました。このとき、日の出前の東の地平線に、恒星シリウスが現れることから、古代エジプト人たちは、シリウス の観測をもとにして、ほぼ現在と近い太陽暦を作成し、農耕の計画を進めたのです。
また、ピラミッドも、王家の墓であると同時に、天文台でもあります。
ピラミッドの4つの面は、ほぼ正確に東西南北を指しています。北側の面にはトンネルがあり、約30度の角度で、棺へと続いています。この角度で、棺からトンネルを通して空を見上げると、そこには、常に北極星が位置するように作られていました。
古代のエジプト人は、高度な天文学の知識を持っていたと考えられています。

(2)近代の天文学

16世紀以降の天文学は、質的な飛躍を遂げました。
それまでは、地球が宇宙の中心であり、すべての天体がその周囲を回っているという、天動説が強く信仰されてきましたが、ニコラウス・コペルニクスによって、それが覆されました。
彼は、地球が太陽の周囲を回っているという、地動説を初めて唱えたのです。
『コペルニクス的転回』という、パラダイムの転換の言葉はここから来ています。しかし、聖書の記述こそ真実とされていた当時、地動説は否定されてしまいました。

これに対し、ガリレオ・ガリレイは、科学的に、コペルニクスの地動説を実証しました。
彼は望遠鏡を用いて、木星の周りを回る4つの衛星を発見しました。これは全てのものが地球を回るということに矛盾しています。また金星の満ち欠けを観測しましたが、その満ち欠けの仕方は地動説でしか説明できないものでした。
このようにガリレオが望遠鏡で見た宇宙の姿は、まさにコペルニクスの地動説を裏づけるものだったのです。それでもなお、ローマの教会の力は依然として強く、ガリレオは宗教裁判で自説を曲げざるをえませんでした。

一方、ガリレオより約20年前に生まれたティコ・ブラーエは、彼独自の観測装置を建設し、沢山の星を観測しました。この装置は肉眼を使うものでしたが、驚くべくことに、1分角、つまり1度角の60分の1の精度で、天体の位置が決定されています。
ティコが残した精密で膨大な記録は、彼の弟子であるヨハネス・ケプラーによって引き継がれました。ケプラーはガリレオが活躍していたときとほぼ同じころ、ティコが観測した惑星の記録から、『ケプラーの法則』として、惑星の運動に関する3つの法則を打ち立てたのです。
これら天空上での運動が、地上での運動ともとをたどれば同じ法則で成り立っているということを導いたのが、アイザック・ニュートンでした。

ニュートンは、物体に働いている力と物体の質量が分かればその後物体がどう進むかが決まるという運動法則を導きました。
また物体と物体との間には必ず引き合う力が存在するという万有引力の法則を導きました。
これら二つの法則を合わせれば、ケプラーの導いた惑星の運動だけでなく、すい星の運動も、地球上の落下や投げ上げ運動も全て予測できるのです。
このようにニュートンは天空上と地上での運動を統一し、物体の運動の根本を掘り下げる学問、物理学の礎を築いた偉人でした。
しかしその原動力となったのは、古来から人々を魅了してきた天体の動き、つまりは天文学だったのです。

(3)現代の天文学

そして現在の天文学では、観測技術の発達によって、目には見えない波長の光までも使って観測が行われています。
X線もその見えない光の一種です。
X線を使った天文学は1962年に、ブルーノ・ロッシと、リカルド・ジャコーニが、太陽以外にX線を放射する天体、さそり座X-1を初めて発見したことで、始まりました。
1999年には、アメリカがX線観測衛星チャンドラを、2000年にはヨーロッパがニュートン衛星を打ち上げ、天文学は、いま、新たな世紀を迎えているのです。

3.X線とは

X線は、1895年にドイツの物理学者、ヴィルヘルム・レントゲンによって発見されました。
現在も医療分野でレントゲンという名で使われています。
X線は非常に透過力が強いため、人の体も通過してきます。
X線の出る装置を人体の前に置けば、X線は、肉や皮などの密度の低い部分では、すかすかに透過し、骨や内蔵など、密度の高い部分では、少し透過力が落ちて、その形が影として写真に写ります。これがレントゲン写真です。
これに対して目に見える光は、人体を全く透過できません。
X線による天体観測も、この原理を応用したものです。宇宙ではX線の出る装置は天体自身で、人体は塵のかたまりである暗黒星雲に対応します。 X線を使えば、塵に埋もれた天体までX線写真としてとらえることができるのです。

それではX線と目に見える光との違いは何でしょうか?
X線も目に見える光も同じ光です。光は別名、電磁波とも呼ばれ、波として伝わっていきます。その波の長さを波長といいます。

私たちが目で見ることのできる光は、可視光線と呼ばれています。
可視光線をプリズムに通すと虹ができ、赤から紫へと色が分かれます。これはもともとの可視光線にいろいろな色の光の成分が混じっていたことを意味しています。この中では赤が最も波長が長く、紫が最も波長が短い光です。
では赤色の可視光線より波長が長い電磁波は何でしょうか? それは赤よりも外側にあるという意味で、赤外線と呼ばれ、もはや目には見えません。さらに波長が長くなると、電波と呼ばれます。
では紫色の可視光線よりも波長が短くなると、何と呼ばれるのでしょうか?それは、紫の外側という意味で、紫外線と呼ばれます。そしてさらに波 長が短くなるとX線になります。X線の波長は原子程度のサイズです。最も波長の短い電磁波は、ガンマ線で、その波長は原子核の大きさと同じくらいです。

このような電磁波は、一体どのように発せられるのでしょうか?
例えば、宇宙に存在するすべての物質は、その温度に応じた電磁波を発しています。鉄を熱すると赤くなりますが、さらに熱すると黄色く色が変化 していきます。赤色の可視光線と黄色の可視光線では黄色のほうが波長が短いので、この現象は、温度が高い物体ほど波長の短い光を発することを意味していま す。

私たち人間の身体も、実は目には見えない光を放っています。私たちの体温は36度程度なので、可視光線よりも波長の長い、赤外線を発しているのです。赤外 線カメラが夜に動物などを撮影するときに使われるのも、動物が赤外線を発する程度の体温を持っているからです。では鉄をさらに熱していくとどうなるので しょう?。熱されてどろどろに溶けた鉄は次第に蒸発してガスになり、さらにそのガスの中でも次第にプラスイオンと電子が分かれてプラズマという状態になり ます。温度が100万度から1億度の超高温プラズマ状態の鉄からは、波長が極度に短いX線が発せられるようになるのです。
このように、波長の短いX線で宇宙を見ると、たいへん温度の高い天体だけが、抽出されて見えてくるのです。X線で見る宇宙は、超高温の宇宙なのです。

電磁波はそれぞれ、自分の波長と同じくらいのサイズの物体と反応する性質があります。
X線は、その波長が原子と同じくらいであるために、原子中の電子とぶつかって、電子を外に弾き出してしまい、このとき、X線は消滅します。

地球の大気には非常にたくさんの原子が含まれているので、塵や人体には強いX線も、大気圏は透過することができません。そのため、ロケットや人工衛星を 使って地球の外から観測する必要があります。地球の大気圏が通すことができるのは、可視光線と、一部の紫外線と赤外線、そして電波に限られています。この おかげで、生物に有害な、ガンマ線などの放射線が、大気によってさえぎられ、私たち人間も、生きてゆけるのだと言えます。

4.X線で見た激動の宇宙

(1)太陽

X線で太陽を観測すると、このように見えます。左から右へ、ガスのような渦が吹き出しているのがわかりますが、これは、フレアと呼ばれる爆発現象です。太 陽を貫く磁力線が急激に形を変え、ガスが超高温まで熱っせられてX線で見えているのです。このときたくさんのイオンがばらまかれます。このイオンが、地球 の磁力線に捕らえられると、地球の北極と南極に、オーロラが発生します。太陽のフレア活動は、11年の周期で活発になるので、オーロラも11年ごとに明る くなります。

(2)木星に見えるオーロラ

オーロラは、木星でも観測されています。
しかし、木星では、太陽の活動周期に関係なく、常にオーロラが発生しているようです。
これは、イオという名前の、木星の衛星が、活発な火山活動を起こしており、そこから発生するイオンが、木星の磁力線に捉えられ、オーロラを生み出しているからではないかと考えられています。

(3)イータカリーナ

銀河系のなかで最も重い星は、りゅうこつ座にある、イータカリーナという恒星です。
この星は、150年前に大爆発を起こし、大量のガスや塵を放出しました。
そのため、可視光線では、ばらまかれたガスや塵だけが見え、星そのものは、見ることができません。
しかしX線で観測すると、その透過力の強さから、中心部に潜む、イータカリーナの本体を暴くことができるのです。

(4)超新星爆発

夜空に輝く星々にも寿命があり、恒星が、その一生を終えるときには、その最期にふさわしい、大規模な爆発を引き起こす場合があります。この現象を超新星爆 発と呼び、これによって恒星の表層は完全に飛び散ってしまいますが、ときには、その星の質量によって中心核が潰れて、中性子星やブラックホールとなる場合 があります。

(5)中性子星

中性子星とは、太陽のおよそ10倍の質量を持つ恒星が、超新星爆発したときに残された、中性子だけでできた、高密度な天体のことを言います。
この星は、直径が10Km程であるにも関わらず、太陽とおなじくらいの重さがあり、その表面の重力は、地球の1兆倍にもあたる、たいへん重い天体です。
1秒間に1000回転もの速さで回転しているものもあり、X線で見ると、明るい部分が、まるで灯台のように明滅しているのが捉えられています。

(6)ブラックホール

太陽の約30倍以上の質量を持つ恒星が爆発すると、その中心部が、自らの重さで収縮し、中性子星の段階にとどまることなく、途方もない重力によって、内側に崩壊を続けます。
そうなると、もはや星の収縮を押しとどめるものが何もないために、重力による崩壊は、限りなく、どこまでも進んでゆくことになります。
こうしてできた小さな天体が、ブラックホールです。
ブラックホールの周りには、おそろしく強い重力場が作られるために、これに捉えられると、あらゆる物質はおろか、電波や光までもが、吸い込まれてしまいます。
ブラックホール自体は、全ての電磁波を吸い込んでしまうため、目には見えず、また、X線も放射してはいませんが、そこに引き込まれる、周囲の物質の摩擦熱によってX線が発生するため、それが探知できるようになるのです。

(7)はくちょう座X-1

1972年、太陽系から約8000光年はなれた白鳥座の方向に、目には見えず、強いX線を発生している、謎の天体が発見されました。
その天体のすぐ近くには、巨大な青い星があり、その星の発生するガスが、謎の天体に吸い込まれていることがわかりました。
この天体こそ、X線観測によって、その実在が初めて確認された、ブラックホールだったのです。
このブラックホールは、はくちょう座X-1と呼ばれています。

5-1.銀河系の中心部

私たちの住む、地球・太陽系を含む銀河系は、天の川銀河とも呼ばれ、およそ2000億個の星々から構成されています。
その形は円盤状で、直径約10万光年。バルジと呼ばれる中心部には、約1万5000光年の膨らみがあります。私たちの太陽系は、天の川銀河の 中心から、約 2万8000光年離れた円盤部分にあります。そのため銀河系の中心は、たくさんの塵に隠されて、可視光線では見ることができません。

この映像は、銀河系の中心付近を、X線観測衛星チャンドラで撮影したものです。
透過力の高いX線の威力で、中心付近には1億度にものぼる、高温なガスで満たされていることがわかってきました。そして銀河系のさらに中心部 では、突発的にX線が明るくなっていることが判明しています。これは、太陽の約300万倍という、途方もない重さのブラックホールが周囲の物質を飲み込ん だ証拠なのです。
銀河系の中心には、巨大なブラックホールが存在しているのです。

中心部にブラックホールが存在する銀河は、私たちの銀河系だけではありません。
アンドロメダ銀河など、バルジを持つほとんどの銀河が、その中心に巨大なブラックホールを持つだろうといわれています。

特に、M106という渦巻銀河は、中心部に太陽の3600万倍という大質量のブラックホールが存在することが確認されており、X線で明るく光っています。

5-2.宇宙の大規模構造

私たちの存在する銀河系は、40個ほどの他の銀河とともに、ひとつの集団を形作っています。
これを、銀河群と呼びますが、この銀河群は、さらに大きな集団である銀河団に属しており、この銀河団も、他の銀河団とともに、より大きな、超銀河団という集団の中に存在しています。
そして、これをさらに拡大すれば、超銀河団も、より大きな宇宙の一部であると考えられ、現在観測可能な、半径約150億光年の宇宙空間には、バブル状に広がった壁と空洞でできた、大規模な構造が連なっているのです。

こうして見ると、宇宙に存在するすべての物質や生物、私たち人間までもが、多数からできたひとつであり、ひとつからできた多数であることが、より実感できるかもしれません。
最近のX線観測では、この大規模構造には、高温なガスが、大量に付随しているらしいことが発見されています。
可視光線では見ることのできない、大量の物質が、宇宙にはまだまだあるようです。

6.宇宙のサイクル

(1)星の誕生

宇宙には、暗黒星雲という、塵やガスでできた領域が存在します。
その近くで超新星爆発が起きたり、星が通過したりすると、衝撃波によって暗黒星雲が攪拌され、分子雲コアと呼ばれる、密度の濃い固まりに分裂します。

分子雲コアの内部では、重力が強まるにつれて、円盤状の形が形成され、周りの物質が、回転しながら中心部へと落ち込んでゆきます。
この中心部では、物質の一部がジェットとして吹き飛ばされ、残りの一部がさらに中心へと集まっているのです。

ジェットのきっかけとなるのは、巨大な太陽フレアのような磁力線のつなぎかえではないかと考えられています。
こうして、その中心に核ができたとき、それが原始星という新たな星が誕生した瞬間なのです。

(2)恒星の最期

恒星は、水素原子を燃やす核融合反応によって、エネルギーを発生しています。
核融合反応が進んでゆくと、水素の燃えカスであるヘリウムが、星の中心に溜まってゆきます。
その後、外層が大きく膨張しはじめ、赤色巨星と呼ばれる、非常に巨大な、赤い天体となります。

太陽と同じ程度か、それ以下の質量を持つ恒星の場合は、このような過程を経て、ガスや塵を放出しながら、ゆっくりと冷えてゆき、惑星状星雲と呼ばれる星の残骸となって、宇宙空間に拡散してゆきます。
より質量のある恒星の場合は、超新星爆発を起こしてガスや塵を撒き散らし、中性子星やブラックホールを生み出してゆくのです。

こうして、宇宙にまかれたガスや塵などは、再び、新たな星を生み出す原料となり、宇宙の中では、星々が生まれ、寿命が尽きると、新たな星の誕生を促すという、まるで生命のような、そのサイクルが繰り返されているのです。

(3)超新星爆発と生命

宇宙が誕生したとき、そこに存在する元素は、水素とヘリウムしかありませんでした。
炭素や窒素、鉄などの様々な元素は、恒星の核融合反応や、超新星爆発のプロセスによって作り出され、宇宙にばらまかれたのです。
私たち人間に必要な、鉄やカルシウムをはじめとする様々な元素も、星が誕生し、超新星爆発が起こらない限り、存在しえなかったのです。
つまり、私たち人間も、星の一生の中から生み出されてきた、宇宙の一部なのです。
超新星爆発は、星の死を意味しますが、その代償に、様々な命を生み出してきたと言えるでしょう。

2005年7月、日本のX線天文衛星「すざく」が打ち上げられました。

高性能な観測装置を搭載し、これにより、塵に埋もれた天体やブラックホールの研究、また宇宙の構造と進化の解明に、大きな役割を果たし、今後の天文学の新たな可能性に繋がるものと期待されています。
現在主に使用されているX線観測衛星は、アメリカのチャンドラ、ヨーロッパのXMMニュートン、そして日本の「すざく」があります。
これら3つの衛星は、それぞれX線観測性能に特徴があり、チャンドラは高い解像度、ニュートンは大きな集光力、そして「すざく」には広いエネルギー帯域での観測が可能です。
これら3つの衛星の特徴を活かしてゆくことで、今後の天文学はますます発展してゆくことでしょう。