社会・地域貢献

受賞論文【佳作】コンビニエンスストアの食品ロス問題から私たちができることを考える

お茶の水女子大学附属高等学校 1年 髙橋 風香

アフリカ人女性初のノーベル平和賞を受賞したワンガリ・マータイ氏。私の通う附属高校の母体である、お茶の水女子大学の名誉博士でもあった彼女の著書に『モッタイナイで地球は緑になる』1)がある。この「モッタイナイ」は当然、日本の言葉であり、日本人の精神だ。
私は幼少の頃、食事の度に「ごはん粒を残さずに食べなさい」と両親から言われ続けた。そしてその昔からの説法により「もったいない」という心を学んだ。
しかし、昔の「もったいない」と現在の「もったいない」は少し趣が変わりつつある。「もったいないから残さない、使い切る」だった「もったいない」は、新たな価値のあるものを創造しないのは「もったいない」という意味が加わった。この新しい「もったいない」が持続可能な循環型社会実現へのキーワードである1)。
私が今までに一番「もったいない」と感じたのは職業体験で訪れたコンビニエンスストアで売れ残りの食品が山の様に捨てられているのを見た時だ。食料がゴミ箱に無造作に詰め込まれている光景は衝撃であった。世界ではおよそ7億9500万人、9人に1人が飢餓に苦しんでいると言われている中で、日本では私たちの生活にとても身近なコンビニエンスストアで食品廃棄が当たり前の光景となっている。2050年には世界の人口は90億人を突破し2)、今の1.7倍の食料が必要になるという予測もある。私たちは食品ロスの問題に取り組まなくてはならないとその時、深く考えさせられた。
そこで、私は近隣のコンビニエンスストア(セブンイレブン)の経営者を訪ね、聞き取りを行った。
①なぜ、食品ロス(コンビニエンスストアでは廃棄という)は発生するのか?
・商品毎に需要予測を立て必要数を発注するが、天候や人の動きなどの変化で予測した発注数と販売数のズレが生じる事がある。
・消費期限を見て商品を選ぶ人が多く新しいものから買われていく為、廃棄につながる。
②廃棄となった食品をどう処理しているのか?
・エコ物流という仕組みに加入しており、廃棄になった商品や廃食油は業者が回収してリサイクルする。
このコンビニエンスストアでは、買い物袋削減の取組みや太陽光パネルを設置し消費電力の軽減を図ったり、「みどりの基金」という募金箱を置いて環境保護団体への寄付をしたりしている3)。環境問題に関心を持ち、積極的に取り組んでいる印象を受けた。
しかし、今回の聞き取りで私が感じた一番の問題点は「消費期限を見て新しい商品から買われていく」という事である。確かに奥の方まで手を入れて後ろにある商品を引ずり出し買い物かごに入れている光景をよく見かける。売り場に並んでいる商品である為、どの商品を選び購入しようが客の自由なのであろう。だが、考えてみると「後から来た人が古いものを買わざるを得ない状況」になり「食品廃棄のリスク」も高まる。買い物に来た全ての人が、ほんの少しだけ我慢をし、ゆずり合えば、先に買う人、後から来る人、売る側、三者でWINWINの関係が築ける。衝撃を受けたコンビニエンスストアの食品ロスは、「少しの我慢」や「ゆずり合い」の気持ちで軽減できるはずである。
次にコンビニストアチェーン本部の食品ロスへの取組みを調べてみる。日本には52,707店(2016年3月末上位7チェーン合計)のコンビニエンスストアがある。農林水産省の報告によるとコンビニエンスストアからの食品廃棄物等の発生量は年間226千tにもなる4)。日本全体の食品廃棄物の量632万tの中では約3.5%程であるがそれでも莫大な量である。業界最大手、全国に18,860店をかまえるセブンイレブンジャパンの食品ロスへの取組み状況を見てみる。販売期限切れ商品の発生量は1日あたり約9㎏。年間で3t以上の食品ロスが発生している計算になる。同社では、販売期限切れ商品や廃食油を適正に回収・処理する「エコ物流」を1994年から運用しており、この仕組みを利用して飼料、堆肥などへのリサイクルを促進し、2015年度の食品リサイクル率は52.4%(2000年比165.2%)に達している5)。しかし、裏を返せば残りの47.6%は活用されておらず、未だに「もったいない」状況が続いており、対応は不十分と言わざるを得ない。
食品ロスの対応策は大きく分けると二通りだ。「発生抑制」と「リサイクル」である。
コンビニエンスストアの食品ロスはその多くが即食性の高い食品で、弁当やサンドイッチ、惣菜など加工調理されたものである。食品ロス発生を抑制する為に、POSシステムの導入・活用や指導の強化による発注精度の向上、また商品の生産工程やチルド管理など流通工程の見直しをする事で消費期限を延長させる等の対応が行われている。店舗では、先入れ先出し(先に納品された商品を前に陳列し、後から入荷した商品を後ろに陳列する)という陳列方法をとり、なるべく消費期限切れが近い商品から購入してもらう為の工夫を行っている。それでもコンビニエンスストアでの廃棄(=食品ロス)は発生する。過去に行われたアンケートでは72%の人が食品を購入する際「製造年月日が新しいものを選ぶ」と回答している6)。特に消費期限までが短い食品ではその傾向は顕著である。過剰なまでの「新しいもの信仰」が食品ロスを引き起こす一因となっているのだ。
次に「リサイクル」について考察する。冒頭で述べた「現在のもったいない」の精神、「新たな価値のあるものを創造しないのはもったいない」は、まさにリサイクルの事である。再生利用の手法としては「肥料化」「飼料化」「メタン化」「油脂・油脂製品化」の4種類が法で定められている。しかし、量の確保やコストの問題、保存料や調味料・異物の混入などから品質の高い物へのリサイクルは困難となっている。「捨てればゴミ活かせば資源」という言葉があるが、発生した食品ロスを完全には活かし切れてはいない状況であり、リサイクルできない部分は、軽量化して投棄したり、技術的・コスト的に見合わない廃棄物に対して行われるサーマルリサイクル(焼却する際に発生する熱のエネルギーを回収・利用する)にまわされる事になる7)。
他にも、まだ食べられる廃棄食品を回収し、福祉施設等へ無料で提供する「フードバンク」や、「ドギーバッグ」という持ち帰り容器で食品ロスを減らそうという取組み、コペンハーゲンには食産業から出された廃棄物を調理して提供するレストランまである。しかし、食の「安心・安全」を重んじる日本人の気質にはなかなか合致せず、普及には至っていない。
この様に、量的・コスト的・技術的に様々な問題を抱えた食品リサイクルだが、私は「食品リサイクル・ループ」という考え方に注目する。これは食品廃棄物を資源として再利用する為に、再生利用業者や農林漁業者と連携をして、廃棄物を資源として循環させるループをイメージした体制の事である8)。例えば、小売業ではコンビニエンスストア・スーパーマーケットから排出された食品廃棄物を肥料・飼料に作り替え、農林漁業者に提供。そこで飼育された農畜産物を仕入れ加工し販売するという環境に配慮した無駄の少ない循環型モデルの構築に着手している企業も多い。
私はこの食品リサイクル・ループに「人道支援」を組み込む事を提案する。先にも述べたが、世界では9人に1人が飢餓に苦しんでいる。国内にも生活に困窮する人や路上生活を強いられている人たちがいる。その中で、日々、食品ロスが発生し、まだ食べられる商品が捨てられているのだ。この食品リサイクル・ループに「人道支援」の概念を組み込む事で支援金や雇用の創出につながり、貧困等、様々な事情を抱える多くの人を救う事が出来るはずだ。
具体的には、食品廃棄を加工した肥料・飼料で高品質の農畜産物を育て、ブランド化する。その商品若しくは、その食材を使用した商品を販売した収益の一部を飢餓救済や難民救済の活動をしている慈善団体に寄付する。企業は商品ブランドと企業イメージの向上を手に入れ、消費者は商品価値に見合った対価を支払う事で寄付となり、社会貢献の一翼を担った満足感を得られる。当然食品リサイクルにも意識が向くはずだ。
しかし、これだけではありきたりだ。だからこそ、ここで私たちの出番である。次世代を担う私たち、コンビニエンスストアを当たり前の様に利用している私たちにできる事がある。食品リサイクル・ループに取組む企業とコラボレーションし、この活動を啓蒙するのである。「食品リサイクル・ループで人道支援」を私たち高校生の手で積極的に告知していく。そして食品ロスの現状と、これから起こるであろう食料問題を多くの人に知ってしてもらうのだ。その為には、とても身近で告知力の高いSNSを利用した拡散が効果的であると考える。個人で、クラスで、部活で、学校単位で、そして地域で。この運動に共感する人たちがSNS上でこの運動をシェアする事で多くの認知を得られるはずだ。さらに各校の文化祭や地域のイベントでも発信していくのだ。地球環境・食品ロス問題はこの先、避けては通れない道だ。私たち世代が現状を理解し、この食品リサイクル・ループの取組みを牽引する事で、循環型の持続可能な社会を築けるはずだ。食品ロスと飢餓に苦しむ人々を少しでも減らせる様、みんなが教えあいながら学びあう食育の場になればいい。
私は、コンビニエンスストアの食品ロス問題から私たちが出来る事を考えた。「もったいない」を世界に発信したワンガリ・マータイ氏は、木の苗木1本1本を地道に配り、3,000万本もの木々をアフリカの大地に繁らせた。一人一人のたった一回のSNSのシェアや地道な活動がアフリカに繁った木々の様に世界に広がり、大きな森に育つ事を切に願う。

【参考文献】

1)ワンガリ・マータイ著『モッタイナイで地球は緑になる』福岡伸一訳、木楽舎、2005年6月5日、P268

2)『新編 地理A』二宮書店、2016年1月20日、P135

3)一般財団法人 セブンイレブン記念財団
活動報告書2015年度版、P2-P3

4)農林水産省-食品廃棄物等多量発生事業者の定期報告における報告方法等
http://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syokuhin/s_houkoku/ 平成27年度報告PDF
(2016年8月15日アクセス)

5)セブンイレブンジャパンHP食品リサイクルの促進
http://www.sej.co.jp/social/eco/sales/food.html
(2016年8月15日アクセス)

6)東京商工会議所編著『ECO検定公式テキスト 』5改訂版、2015年2月10日、P233

7)食品リサイクル技術 環境技術解説環境展望台 国立環境研究所 環境情報メディア
http://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=63
(2016年8月16日アクセス)

8)学校給食で食品リサイクル 環境省がえらぶ食育×循環型社会のモデル事業2件 ニュース 環境ビジネスオンライン
https://www.kankyo-business.jp/news/012960.php
(2016年8月16日アクセス)