2026年10月16日(金)、中川ゼミでは、前期に輪読した『会話を哲学する–コミュニケーションとマニュピレーション–』(光文社新書)の著者である、三木那由他先生(大阪大学大学院)をゲストにお招きしました。主に本書の内容を先生に講義していただくという貴重な機会を得たことで、この日、私たちは日常の何気ない「会話」のなかにもさまざまな意味や機能が含まれているのだということを、改めて意識することができました。
本書では、会話を「コミュニケーション」と「マニュピレーション」という二つの側面に分けて考えています。「コミュニケーション」とは話し手と聞き手のあいだに形成される文脈や共通理解のことであり、「マニュピレーション」とは話し手が聞き手の心理や行動を操ろうとする働きのことです。講義ではこれらを踏まえ、女性や性的マイノリティに置かれている人、外国人など、文脈によって社会的な立場が不安定になってしまう人との会話に発生する不公正(マイクロアグレッションなど)について取り上げられました。三木先生は、対等な立場の人同士が会話をしているときと、対等でない立場の人同士が会話をしているときでは何が起きているのだろうかという視点から本書を執筆されたそうです。
お話を通じて、私たちは、日々の会話のなかに、コミュニケーションのレベルでは問題がないように見えても、お互いの立場や社会的背景によって認識がすれ違い、不和が起きてしまうということを構造的に学びました。
意見交換の時間でも、三木先生は私たちの質問を丁寧に受け止め、また応じてくださり、言葉に対する感覚の鋭さと優しいお人柄を垣間見ることができました。私が最も印象に残ったことは、「知識」というものを2つに分けて説明して下さったことです。先生は、相手と接する際に自分自身の経験に当てはめて理解する「Know–That」ではなく、相手の振る舞いを見ながら考え方を広げる「Know-How」を意識することが大切であるとおっしゃっていました。頭による理解にはどうしても限界があります。理解できない異なる他者だからと断定、拒絶するのではなく、こちらから歩み寄り、行動することで、相手を理解することに近づき、それが共生社会の実現の萌芽になるということを、私は確信しました。
中川ゼミでは、文献購読と意見交換を進めていくとともに、海外実態調査を通じて論文を執筆します。この日の学びを、今後の活動にも活かしていきたいです。
(執筆:文学部人文社会学科 学びのパスポートプログラム3年 井出雄都)

三木那由他先生を囲んで