「究める」では、大学院に携わる人々や行事についてご紹介します。
今回は、一部執筆を担当した書籍『首の怪——生首・抜け首・ろくろ首』が発売されたばかりの、文学研究科博士課程後期課程4年の阿部菜々香さんの研究活動についてご紹介します。
ご自身の研究内容について教えてください。
私は現在、稲垣足穂という作家について、1920年代から30年代(末期から昭和初頭)の活動を中心に研究しています。
稲垣足穂というと現代では馴染みのない名前かもしれませんが、日本文学の転換期に当たる1920年代から30年代において、新しい文学表現を追求した作家として重要な存在です。私の研究では、稲垣足穂が受容した海外の前衛芸術がどのように作品に反映されているのかを明らかにしながら、彼が日本の文学に与えた影響について論じています。
今回出版した書籍の概要とご担当について教えてください。
今回出版された『首の怪——生首・抜け首・ろくろ首』(白澤社、2026年3月)は、〈江戸怪談を読む〉というシリーズのうちの一冊です。主に江戸時代に書かれた怪談や首にまつわる各地の伝説を集めた本で、民俗学に興味がある方にもおすすめの一冊です。
私が担当したのは、明治から昭和にかけて活躍した作家・岡本綺堂の小説「稲木家の怪事」の解説です。「稲木家の怪事」は、西瓜と生首が入れ代わる奇妙な事件を描いた怪談です。岡本綺堂と江戸怪談の関係や、江戸時代の伝承を交えながら、この小説の“怖いポイント”について解説しています。
書籍の執筆と研究活動の関連を教えてください。
今回の解説は、2025年に発表した「岡本綺堂の怪談——「西瓜」と「文学時代」を通して」(怪異会談研究会、於:早稲田文学 早稲田キャンパス)がきっかけで執筆することになりました。この発表は〈岡本綺堂旧蔵資料に関する基礎的研究〉というプロジェクトの一環で行い、そこでは1930年代の綺堂の怪談とその掲載雑誌との関係を検討しました。
じつは「稲木家の怪事」は、三度の改作を経て「西瓜」という小説に書き換えられます。この改作の過程を見てみると、綺堂は雑誌の特性を強く意識して小説を書き換えていることがわかります。いうならば、岡本綺堂は読者層に合わせたアプローチが非常に得意な作家だったのです。「稲木家の怪事」から「西瓜」への改作をとおして、綺堂の小説にあらわれる“恐怖”がどのように演出されているのかを雑誌の特性に合わせて検証したのが、上記の発表の趣旨です。
稲垣足穂を直接的に扱った研究ではありませんが、改作された作品同士を検討することや、1930年代という時代背景の検討については、普段の研究方法を適用したものになっています。そうというのも、稲垣足穂は同じ作品を繰り返し書き直す癖を持った作家だからです。足穂は、すでに発表した作品のほとんどを書き直して再度発表し、タイトルを変え、時にはほかの作品と合体させて別の作品にしてしまうこともあります。このような作家性を加味して、普段の研究では対象となる作品と書かれた年代、何度目の改稿か、といったことを吟味しています。上記の発表では、日ごろの研究方法を活かした作品の検討ができました。