「究める」では、大学院に携わる人々や行事についてご紹介しています。今回は「大学院の授業をのぞいてみよう!」の8回目として、文学研究科・社会学専攻の「社会学プロジェクト演習(クリニカル)VB」(新原 道信(にいはら みちのぶ)教授/野宮 大志郎(のみや だいしろう)教授)の授業の様子をお届けします。
授業概要
社会学プロジェクト演習(クリニカル)VBについて
社会学専攻のプロジェクト演習は、グローバル、クリニカル、ヴィジョナリーの三つの観点から、6名の社会学専攻の教員が2名ごとにペアを組んで、2コマつづきで、前期と後期の学生双方が出席するかたちで演習をすすめています。本演習は、野宮教授と新原教授のペアでクリニカルの視点を中心として、議論を深めていきます。院生のみなさんは、このかたちで演習に参加することによって、複数の教員、異なる領域で研究をすすめる院生諸氏との間で、自分の研究を見直し、ともに創ることに着手しています。
履修者からみた本授業について
この授業では、各自の研究関心に基づき、自身の研究内容や読んできた先行研究、研究の進展について発表します。そして、他の参加者は発表者と自由に意見交換し、「対話」を通じて議論を行います。最後に、先生が議論を踏まえ、発表者に助言をくださいます。「社会プロジェクト演習(クリニカル)VB」を通じて、研究関心や内容が異なる皆様の発表を聞き、議論する中で多様な発想が生まれました。他の発表から得たアイデアも、自分の研究に新たな視点を提供してくれます。この授業での議論(自分と他人、または他人同士の対話)は、ある種の「特異な体験」と言えるかもしれません。なぜなら、普段の研究分野を離れ、異なる分野や課題に触れることで、新しい視点や気づきが生まれるからです。異なる分野や研究テーマ、問題意識を持ちながらも、先生方の指導のもと、社会学という大きな枠組みで共通の思考法があることに気づくことができます。この授業を通じて「理解」から「活用」へと研究の共通点を見出せた瞬間こそ、「特異な体験」と呼ぶにふさわしいものだったと言えるかもしれません。
(博士後期課程 常 馨月さん)
履修者の声
本日の授業はいかがでしたか
本日の授業では、発表担当者は在日中国人のアイデンティティについての課題を発表しました。インタビュー調査協力者の事例を通じて、在日中国人のアイデンティティの変化を理解しました。ディスカッションの中で興味深かった点は、日本社会の適応・人間関係などの要因が彼らのアイデンティティにどのような影響を与えたのかを深掘りできたことです。また、個々の在日中国人が経験する文化的な摩擦や、帰属意識の複雑さについても考えさせられました。
(博士前期課程 チョ 鳳寧さん)
今日の授業では、日本で生活する中国人が日本文化の影響を受けてアイデンティティにどのような変化が生じるかについて話し合われました。発表者は最近のインタビュー調査を共有し、 具体的な事例を通じてテーマを深く理解したことが印象に残りました。 例えば、来日後に言葉遣いや口調が変わったケースや、外見を気にするようになったケース、また和風料理への興味が高まったケースなどを紹介して議論しました。ディスカッションでは参加者全員が活発に意見を交換し、多様な視点からコメントが寄せられ、非常に充実した時間となりました。授業の終盤で先生方からいただいたフィードバックも、自分の研究を見直す良いきっかけとなり、今後の研究により偏りのない視点を取り入れることが勉強になりました。
(博士前期課程 徐 英哲さん)
この授業(社会学プロジェクト演習(クリニカル)VB)を通じてどのような学びや発見が得られますか
この授業では、毎週発表者は自分の論文の進捗や関連する研究内容を報告し、次回の発表者は司会を担当します。参加している他の学生が自分の研究に基づき、意見と疑問点を表します。履修者の研究内容をカテゴリーにして、比較を通じて、共通点と相違点を確認します。自分の研究は新しい視点を提供することができます。
(博士前期課程 チョ 鳳寧さん)
社会学プロジェクト演習(クリニカル)ⅤBの授業を通じて、単に知識を習得するだけではなく、問題に対するクリティカルな視点の重要性を学んでいます。特に、授業内のディスカッションでは、他の学生が異なる視点から意見を述べ、それに基づいて新たな解釈や理解が生まれることが多くあります。例えば、同じ社会問題であっても、文化的背景が違う人々にとって、問題の捉え方が異なります。先生方の指導を通じて、自分の研究の組み立て方や調査方法を 、適切な理論に基づき、 より説得力あるものにするための工夫についても学びました。これにより、自分の研究テーマに対しても、これまで見過ごしていた視点を新たに取り入れることができ、質の高い研究ができると感じています。
(博士前期課程 徐 英哲さん)
この授業を通じて得られる学びや発見とご自身の研究や将来とのつながりを教えてください
私の研究内容は在日中国人留学生の就職活動ですが、本日の発表内容は自分の研究と直結しているため、授業の内容、先生やゼミのみなさまの意見や感想からヒントを得ることができます。日本での就職活動を通じて、日本の企業文化や社会的規範に適応する一方で、自国の文化やアイデンティティも保持し続けることが求められます。この過程で、二重の文化背景を持つ「ダブルアイデンティティ」を形成することになります。
(博士前期課程 チョ 鳳寧さん)
私の研究テーマは「独居高齢者とインターネット使用の影響」で、研究対象者は主に高齢者です。授業を通じて、研究対象者を単純なデータとして分析するだけでは捉えられない、高齢者一人ひとりの生活をより深く洞察する必要性を痛感するということが 大きな勉強となります 。特に、新原先生に教わった「惑星社会」の視角を活用して、単に結果を求めるのではなく、社会現象の背後にある人々の意識や関連性を探る重要性を学びました。将来的には、こうした研究姿勢を実践に活かし、人々の生活に隠れた考え方や人と社会との繋がりをより重視していきたいと考えています。また、授業で培った批判性思考は、社会学研究を深める上で欠かせないお宝となり、今後の研究ひいては自分の人生においても羅針盤のように深くつながります。
(博士前期課程 徐 英哲さん)
学部と比べた際の大学院での授業の特徴を教えてください
大学院の授業にはいくつか学部とは異なる特徴があります。一つ目は授業内容については、 大学院の授業は、より専門的で高度な内容に焦点を当てています。学部で学んだ基礎知識を基に、特定の分野について深く掘り下げることが求められます。
二つ目は、自主的な学習ことです。大学院では、自ら問題を発見し、解決する能力が求められます。授業だけでなく、独自の文献調査や研究を進めることが重要となります。そのため、学部よりも自主性が重視されます。
最後には、少人数制の授業のことです。大学院の授業は少人数制で行われることが多く、教授や講師との対話が重視されます。これにより、個々の学生に対する指導やサポートが手厚くなります。
(博士前期課程 チョ 鳳寧さん)
学部と比べて、大学院の授業はより一層の専門性が求められ、学生同士が積極的に関与することが特徴です。具体的に言えば、単に一方的に知識を得るだけではなく、 自ら問題を発見し、それに対して仮説を立て、検証していくのが一般的で、他人の発表であっても 自分の研究にどう応用するかを常に考えながら、実践的な理解を深めていくこととなっています。また、大学院の授業は少人数制のため、他の学生や先生との距離が近く、深い議論ができる環境が整っています。個々の意見が尊重され、それに対するフィードバックも充実しており、独自の研究能力が磨かれ、学部では味わえない学びが得られると感じています。このような大学院の環境は、研究者としての自立性を育み、将来的に自分の専門分野で何らかの貢献ができる礎が築けるのではないかと実感しています。
(博士前期課程 徐 英哲さん)
担当教員からのコメント
この演習を通じて、「異なる種類に分類されたものどうしのあいだに,相互作用があること」(鶴見和子『南方熊楠――地球志向の比較学』講談社,1981年,182頁)を発見してもらえればと思います。そのため、各氏の報告に入る前に、(1)研究テーマ、(2)検討した先行研究、(3)すでにおこなった調査/これから行う予定の調査の計画を紹介してもらいます。次に、参加者各氏の研究が、自分の調査研究と、いかなる意味で対話可能性や比較可能性を持っているのかについて報告してもらいます。こうすることで、〈ひとり前人未踏の地へと歩み出す〉と同時に、本演習を〈ともに創る〉ことを追求していきます。
(新原 道信教授)