大学院

【究める vol.137】修了生の声 鈴木 将平さん(文学研究科 博士後期課程)

2024年04月16日

「究める」では、大学院にまつわる人や出来事をお伝えします。ひきつづき「修了生の声」をお届けします。博士後期課程の2回目は、文学研究科 博士後期課程を修了した鈴木 将平さんです。大学院時代の研究テーマをはじめ、進学理由や大学院での過ごし方、印象に残っていることなど、様々な角度からのエピソードを掲載しています。

鈴木 将平(すずき しょうへい) さん

2024年3月に文学研究科 博士後期課程 社会学専攻を修了し、
博士(社会学)を授与されました。

 

<博士論文タイトル>
献体運動における〈篤志〉の歴史社会学的研究―台湾・長崎・東京・愛知・石川での組織的な遺体提供と法制化をめぐって―

大学院時代の研究について

【研究テーマ・対象】

大学院では、個人的な研究と、ゼミでの共同研究として以下を行いました。

①篤志献体(医学教育や研究のための自発的な遺体提供)の運動と制度化の歴史

②東京都昭島市の八清住宅をめぐる移住(陸軍航空工廠の名古屋からの移転、小河内ダム建設による集落の水没)の歴史 
 

その他、研究機関での調査として、以下を行いました。

③保因者検査(子どもが重篤な遺伝性疾患を発症する確率を予測するための両親を対象とした遺伝学的検査)の歴史と国際的な動向、倫理的・法的・社会的課題(Ethical, Legal and Social Issues: ELSI)の検討

④胎児を対象とした実験的治療のELSI研究(胎児と妊婦の葛藤に関する概念分析など)


 【方法】

①②は主に文献資料を用いた歴史研究ですが、非参与型のフィールドワークも行いました。また、②は文学部の新原道信ゼミで2011年から行っている、立川市の都営住宅での関与型フィールドワークから展開しました。③④も文献資料を中心としていますが、哲学、倫理学、法学、公衆衛生、医学などのさまざまなバックグラウンドの研究者との共同研究です。

中央大学大学院への進学を決めた理由を教えてください

高校の時の担任の先生にすすめていただいたのが最初のきっかけですが、指導教授の新原先生に出会ったことが一番大きなきっかけです。新原ゼミでの学びは、まずは学生一人一人が自身の問いに取り組んで、仲間同士で気づきを交換し、そして必要な時を見計らった先生の助言によって、さらに理解を深めるという、非常に得難い経験でした。自分で考えること、自分で在ることを尊重してくれる先生に巡り合えたことが大きかったです。

ご自身にとって大学院はどのような場でしたか

社会がいまこのようにして在るのはなぜか、という素朴ではありますが切実な疑問を真剣に考えることができ、自分の物の見方や考え方を豊かにすることができる場所でした。もちろんうまくいかないことや失敗の方が多くありますが、それも含めて自分のものだといえる経験ができました。

中央大学大学院へ進学してよかったことについて

学生共同研究室の様子

社会生活をうまくこなしていく上では、難しいことは考えずに鈍感でいることや、成功しやすい型に合わせることがしばしば求められますが、大学院や研究の世界では、そういった「普通さ」への違和感や疑問を持っている人たちが多くいるということに大変励まされました。

大学院時代の印象に残っている出来事について

博士論文の執筆です。学部生時代に篤志家の方にお話をきかせていただく機会があり、あくまでも純粋に医学に貢献したいという篤志献体の運動が、どのような歴史的な背景から起こってきたのかを研究のテーマとしてきました。歴史的な資料を収集し、事例に没入していくことで、台湾、長崎、東京、愛知、石川の地域的な特性や、篤志献体と近世以来の日本社会に通底する「報恩」という宗教的な価値観、世界観との関連にたどりつき、篤志献体が「心の探究」であったという、ひとまずの答えを出すことができました。

一方で、コロナ禍であらためて顕在化した貧困や格差の集中、世界各地の紛争、気候変動、人間に制御できるかわからない新たな技術など、取り組まなければならない問いがまだまだあります。

修了後の進路について

医療機関の研究所で研究をすすめつつ、大学での教育にも携わっていく予定です。

受験生のみなさんへ

大学院に進学するかどうかに関わらず言えることですが、抱えている疑問や違和感を共有できる人がそれまでの人生で身近にいなかったとしても、時代や場所を越えて、似たような問題を考えてきた人が必ずいます。逆に、表面的に共感しているように見えて、単に互いの承認欲求を満たしているだけの関係もあります。しかし、大学院では、先生方や仲間、そして同じく格闘した先達、研究環境を支えてくれている事務室のみなさんの力を借りて、自分自身の核となる問いや経験に対して、本格的に取り組むことができます。答えが出ないとしても考えたいことがあるという人、何か納得できないことがあるという人には、大学院が一つの選択肢になるかもしれません。多少、ほかの人とは違うあゆみになるかもしれませんが、大学院を修了してから活躍できる場が少しずつ増えてきていますし、専門性の高い領域でも、さまざまな考え方があることを知り、さまざまなやり方を試して突き詰めていけば、人間や社会の普遍的な理解に近づくと思います。

 

 

 

※本記事は、2024年3月時点の内容です。