大学院

【究める vol.136】修了生の声 征矢 和樹さん(文学研究科 博士前期課程)

2024年04月09日

「究める」では、大学院にまつわる人や出来事をお伝えします。今回は前回に引き続き、「修了生の声」をお届けします。博士前期課程の2回目は、文学研究科 博士前期課程を修了した征矢 和樹さんです。大学院時代の研究テーマをはじめ、進学理由や大学院での過ごし方、印象に残っていることなど、様々な角度からのエピソードを掲載しています。

征矢 和樹(そや かずき) さん

2024年3月に文学研究科 博士前期課程 英文学専攻を修了しました。

大学院時代の研究について

心理言語学の一分野である「文処理」を研究領域として、日本人英語学習者を対象とした英語における文処理研究を行ってきました。人がある文を理解しようとする際には、単語や文法の言語知識の他にも、文脈や一般常識といった様々な情報にアクセスしています。文処理研究では、人がそうした情報にどのようにアクセスして文の解釈を決定しているのか、リアルタイムでの言語理解のメカニズムを探究しています。皆さんも英語を学ぶ際、単語・文法知識に自信があっても実際に英文を読んでいるとなぜか理解が進まないといった経験をしたことがありませんか?こうした問題に対しても、知識の有無ではなくその引き出し方に焦点を当て、言語知識の運用メカニズムを研究しています。
では、実際どのようにリアルタイムな言語処理を観察することができるのか、この点が最もこの文処理研究の面白い点だと感じています。私の修士論文では、英語の再帰代名詞(himself/herselfなど)の解釈に関する視線計測実験を実施しました。実験参加者が再帰代名詞を含む英文を解釈する間、特殊なカメラで眼球運動を測定し、リアルタイムに変化する視線の位置をデータとして収集しました。分析の結果、視線の停留時間に条件間での統計的有意差を確認することができ、これは日本語の再帰代名詞「自分」を解釈する処理メカニズムが、英語の再帰代名詞を解釈する際にも駆動している可能性を示唆しているものと考えています。従来も母語の知識の転移は考慮されてきましたが、処理メカニズムの転移を考慮した処理モデルを確立していく研究も今後興味深い領域だと考えています。

大学院への進学を決めた理由を教えてください

「英語教員として言語獲得・運用に関わる専門的知識を身につけたい」という想いから大学院進学を決めました。学部生の頃より英語教員を志していましたが、卒業後すぐに教員となるには正直自信がありませんでした。特に英語教育については、様々な教授法や学習メソッドが世間一般に流布しています。それに対し、生徒一人一人にあった教授法を自ら根拠を持って選択していく眼が養われていないと感じていたことが大きかったです。大学院に進学することで、英語学習者の言語知識やその運用方法を科学的なアプローチで評価する実践的なトレーニングを積むことができ、将来科学的な根拠を持って教授法を取捨選択できる英語教員になれると考えました。

中央大学大学院への進学を決めた理由を教えてください

「学べる学問領域の広さ」が一番の大きな理由でした。博士前期課程修了後に教職に就くことを目指していたため、短い2年間という期間でいかに広く学ぶことができるかが進学先のポイントでした。中央大学大学院の英文科では、様々な専門領域で活躍されている先生方の強みを活かした授業を自由に選択することができます。実際、私の研究分野である文処理研究も大学院に入って初めて出会うことができた研究領域でした。新たな研究領域の面白さに気づけたことも、大学院での学びの選択肢の広さのおかげだと感じています。

ご自身にとって大学院はどのような場でしたか

自分次第でいくらでも「トライ&エラー」ができる場こそ大学院だと思います。心理言語学では1つの研究を行うにあたって、先行研究のレビューから新たな仮説立案、それを証明する実験の発案・実施、科学的な統計的分析と既存理論に対する考察など、様々なフェーズが存在します。こうした一連の研究活動を通じて、チャレンジしては失敗・反省を繰り返していくことで、自分の強みや弱みが浮き彫りになっていったと肌で感じています。私自身は、先行研究を批判的に検討することや統計的な分析を自分の強みにしていこうと考えた半面、理論への貢献の部分には常に難しさを感じてきました。しかし、自分の苦手な側面を自覚できるようになると、より具体的な指導をしていただくことも増え、より有意義なやり取りを先生方とできるようになったことは嬉しかったです。

中央大学大学院へ進学してよかったことについて

    学会で知り合ったPHDの学生と仲良くなり、学会後に一緒に観光しました

1年目に“GASLA”という第二言語習得研究の国際学会に参加するためノルウェーに行く機会がありました。私の指導教授である平川先生が基調講演をされるというご縁があっての参加で、著名な先生方と直接やり取りをしたのは一番の思い出です。今後どういった研究テーマがホットなのかについてなど、最先端の研究を見聞きできたことは、自分が修士論文を書く際にも客観的に論文内容を自己評価することに繋がりました。また、海外の研究者のキャリア形成やライフスタイルを知ることもでき、研究者という存在の国際的な評価の高さを感じました。言語教育に携わる先生方も多い中、「研究者としての素養を磨くことは教育者としても大切だ」と背中を押してもらえたことは、教員志望として大学院進学をしてよかったと思えた瞬間でした。

大学院時代の印象に残っている出来事について

1年目の後期から中央大学付属横浜中学校・高等学校の非常勤講師として勤務する機会を頂けたことは非常に有意義だったと思います。具体的には、週の半分を大学院の授業・研究、もう半分を高校2・3年生の授業を担当するスケジュールで過ごしていました。大学院で学び考えたことを教員として実践するできた時間は、教職を志す者としてこれ以上ない貴重な経験でした。こうして院生と非常勤講師の両立が実現できたのは、中央大学という繋がりと、大学院と学校の双方に理解と配慮があったからこそです。大学院生でありながらも、担当していた生徒たちの卒業式で門出を祝うことができたことは、この先の教員人生でも忘れられない瞬間だと思います。

修了後の進路について

修了後は、都内の私立中高一貫校で英語科の専任教諭としてのキャリアをスタートします。これまで6年間も過ごしてきた中央大学という場所を離れる寂しさはありますが、大学院で鍛えた科学的な思考・分析を強みとした英語教員になりたいと思います。

受験生のみなさんへ

「大学院で過ごす時間に自分は何を求めているのか」、大学院進学を考える皆さんには今一度ぜひ自分自身に問い直してみてもらえたらと思います。大学院で過ごす時間は、目的意識がなければあっという間に過ぎ去っていってします。自由度の高い日々の中で、振り返ったときにその時間が充実していたと思えるためには、必ず自分で決めた目標が大切です。大学院進学を考えている方には、ぜひ在学中に自分がどのような成長をしたいのかイメージすることをお勧めします。逆に言えば、社会に出る前に何かしらまだ成長したいと感じて大学院進学を考えている最中の方には、目的意識次第であらゆる経験を積むことができる環境があることを強くお伝えしたいと思います。研究活動で求められる多岐に及ぶスキルは、教育やビジネスの世界に進んだとしても必須です。大学院での学びや研究が、自分のキャリアにどのように活きるのか日々考えることができたのなら、大学院で学ぶ価値を見出せるはずです。皆さんがそれぞれに大学院での時間を有意義に過ごして、自分に更なる自信をつけて成長できるよう心から祈っています。

 

※本記事は、2024年3月時点の内容です。