大学院

【究める vol.134】修了生の声 大橋 立紀さん(法学研究科 博士前期課程)

2024年03月28日

「究める」では、大学院にまつわる人や出来事をお伝えします。今回は「修了生の声」をお届けします。博士前期課程の1回目は、法学研究科 博士前期課程を修了した大橋 立紀さんです。大学院時代の研究テーマをはじめ、進学理由や大学院での過ごし方、印象に残っていることなど、様々な角度からのエピソードを掲載しています。

2023年度より茗荷谷キャンパスへ移転し、充実した環境で研究することができました

大橋 立紀(おおはし りき) さん

2024年3月に法学研究科 博士前期課程 政治学専攻を修了しました。

 

大学院時代の研究について

大学院では、イタリアとユーゴスラヴィアの間に存在していたトリエステをめぐる帰属問題(以下:トリエステ問題)に対して、アメリカのドワイト・アイゼンハワー政権がなぜ介入し、解決したのかという動機を明らかにすることを目的に研究を遂行しました。アメリカの視点からトリエステ問題を論じることにより、トリエステ問題は二国間関係のみに留まらない、アメリカの対欧州戦略というより大きな問題が背後に隠されていたということを示したことが私の研究のオリジナリティとなります。

研究方法としては、邦語・外国語の二次文献のみならず、米国政府の一次資料(大統領図書館所蔵文書・National Archives所蔵文書・Foreign Relations of Untied States)を駆使した外交史の手法で進めました。1年次には、主に二次資料を活用しながら、事実関係の確認・先行研究の整理を行い、春期休暇期間にアメリカへ資料調査に行きました。また、2年次には前期に中間発表会に向けた議論の整理を行い、後期は専ら修士論文を執筆していました。
また、自身の研究のみならず、政治学や政治思想史、政治史、地域政治論の授業を履修することで、政治学に関する様々な分野の教養を深めようと努力しました。

大学院へ進学した理由を教えてください

主な理由は二つです。
一つ目は、学部時代の研究をさらに深めたいと思ったからです。学部時代に執筆した卒業論文は、実証性・論理性・インプリケーション、すべてが十分な水準に達していませんでした。さらに研究を深め、自分の議論を発展させ、修士論文の水準として十分な論文を作成することを目的として進学を決めました。
二つ目は、専修免許状の取得です。大学院博士前期課程修了者は、専修免許状を取得することができます(研究科ごとに応じて、取得できる教科が異なります。大学院教職課程を設置していない研究科もあります)。私は、学部生の頃に一種免許状を取得しましたが、より専門性が高いとされる専修免許状の取得ももう一つの目的として進学しました。

中央大学大学院への進学を決めた理由を教えてください

玉置先生(左から2番目)と、共に研究に切磋琢磨したゼミ仲間らと。駿河台キャンパス19階のレストランにて。

中央大学法学部在籍時に玉置敦彦先生のゼミに入り、国際政治学、アメリカ外交史、同盟論に関するテーマの研究を進めました。大学院でも同様の題材でさらに研究を深めていきたいと考えていましたので、中央大学大学院法学研究科への進学を決めました。また、法学研究科は、国際政治学のみならず、行政学、政治史、政治過程論、政治思想史など政治学の様々な分野を専門とする先生方が充実されています。そのような恵まれた環境で2年間しっかりと研究したいという思いも進学の決め手となりました。
また、新しい環境で本当にスムーズに研究することができるのかという不安もありました。そのため、同じ中央大学で学びたいという思いが強かったこともあります。学部から大学院まで学ぶ環境が大きく変化しなかったため、大学の学びから大学院への研究へスムーズに移行することができました。

ご自身にとって大学院はどのような場でしたか

第一に、日々自分の未熟さを感じる場でした。このように記しますと、非常にネガティブな印象を受けるかもしれませんが、むしろ自分に何が足りていないか、どのような力を身に付けなければならないのかを客観的に知ることができるという点で、私はポジティブに捉えております。大学院時代、自分の研究や学びに満足したことなど一度もありません。また、大学院法学研究科の先生と接していく中で、「このような研究者になりたい」・「このような先生を目指したい」という思いを抱くようになりました。今は、先生方の足元にも及びません。ですが、大学院で実感したような、壁を一つ越えては、また新しい壁にぶつかるというスモールステップを繰り返し、いつかは先生方のような立派な研究者になることができればと思います。
また、先輩・後輩関係の重要性も身に染みる場でした。先生方の言葉に重みがあることは当たり前ですが、それ以上に先輩や後輩のコメント・指摘が自分の研究に大きな影響を与えてくださいました。先輩後輩関係は、大学院で最も大切な関係であるといっても過言ではないと思います

中央大学大学院へ進学してよかったことについて

毎週木曜日2限の時間帯に、大学院法学研究科講義科目(国際政治学特講)と法学部専門演習科目(専門演習A/B)の合併科目に参加していました。大学院科目と学部ゼミ科目の合併は、中央大学にて類例を見ません。合併科目において、大学院生は自身の研究を報告することのみならず、議論にて学部生をリードしなければなりません。玉置敦彦先生のゼミでは、「同盟の研究」と題し、学部生・院生が第二次世界大戦後のアメリカの同盟関係に関して研究しています。私は、アイゼンハワー政権期を専門としていますが、80年代や冷戦終結後を研究する学部生もいます。そのような学部生の発表に対しても院生として、適切なコメントを行うことが求められます。
合併科目の履修を通じて、自分の専門ではない報告に対してもコメントを行うという力を身に付けることができました。また、学部生との議論を通じて、自身の研究をさらにアップデートさせました。法学部玉置ゼミの学部生の皆さんに感謝申し上げます。

大学院時代の印象に残っている出来事について

1年次春期休暇並びに2年次夏期休暇中に実施したアメリカへの資料調査です。1年次には、カンザス州アビリーンに所在するドワイト・アイゼンハワー大統領図書館にて、2年次にはメリーランド州カレッジパークに所在する国立公文書館(National Archives)にて実施しました。

アメリカ外交史・国際政治学の分野で一定の水準の修士論文を執筆するための資料として、合計で約1ヶ月資料調査を実施しました。文書一枚一枚に目を通し、必要な資料は写真を撮りました。一次資料は、自分の研究の実証性を確保するために必要不可欠な存在です。一次資料を活用することで、自身の議論がより洗練されたと感じております。ですが、一次資料を十分に活用できたか、と問われればまだまだ不十分です。資料を批判的に読み込むという歴史家に必要不可欠な態度が体得できなかったことは、今後の研究の課題になるかと思います。
また、修士論文という形で博士前期課程での研究をまとめましたが、同時に課題も浮かび上がりました。議論のインプリケーションの射程、専門分野以外に必要となる知識の習得、歴史叙述の方法…いずれも自身の議論の根幹を揺るがしかねない重要な課題です。このような課題一つ一つをまたクリアーしていきたいと思います。

修了後の進路について

4月より都内の中高一貫校で勤務することとなりました。ですが、近い将来、法学研究科博士後期課程へ進学したいと考えております。また、講師として勤務していました中央大学附属中学校・高等学校では、素晴らしい先生方や生徒の皆さまに出会うことができました。まだまだ志半ばですので、再び「中附」で勤務することができればと思っています。

受験生のみなさんへ

大学院進学というのは、人生の中で大きな選択の一つになります。進学か、就職か。おそらくほとんどの方が悩みに悩んで、進学という決断を行うと思います。そのような方に対して、私から伝えることができることは、「人生何が起きるか本当にわからない。だからこそ、日頃から自分の研究への『愛』を大切にしてほしい」ということだけです。

私が大学院に在籍した2022年~2023年の間は、新型コロナ感染症の5類移行、多摩キャンパス(八王子市)から茗荷谷キャンパス(文京区)への移転など社会的に大きな変化がありました。また、個人的にも新たな出会いと別れなど大きなイベントに遭遇しました。これらの出来事が自分に対してどのような影響を与えるのか、など全く想像することができません。
そのような不安や困惑、苦衷に苛まれたとき、私を立ち直らせてくれたのは先生方や同期・後輩の存在でした。彼らとの議論、換言すれば研究への「愛」が私を救ってくれたのです。論文は一人で執筆するものですが、研究は一人ではできません。様々な人との議論を重ねることによって、自身の議論もアップデートしていくはずです。最後は、スキルや能力よりも、研究に対する

「愛」がものを言うではないでしょうか。だからこそ、大学院に入学する前から自分はどのような研究がしたいのか、何を明らかにしたいのか、という「愛」を大事にしてほしいと切に願っております。
そして、そのような熱い思いを抱いている方と近い未来、茗荷谷でお会いできることを楽しみにしております。私もそれまでに、研究への「愛」を失わないよう自己研鑽を積みたいと思います。

 

 

 

  

                                         ※本記事は、2024年3月時点の内容です。