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英語文学文化専攻
在外研究便り

2009年度在外研究報告/中尾秀博

豪映画『マッドマックス』でも使われたメルボルン大学地下駐車場
豪映画『マッドマックス』でも使われた
メルボルン大学地下駐車場

豪州のメルボルン大学オーストラリア・センターを拠点に一年間の在外研究をしてきました。今回の研究テーマは「先住民の映像表象」?受入機関のメルボルン大学に提出した英語版では "Visual Representation of the Indigenous People" です。「オーストラリア先住民がどのように写真や映画に写されてきたか」について文献や資料を集めたり、研究者や関係者に会ったりすることが狙いです。図書館だけではなく、博物館や美術館そして映像ライブラリーにも通いました。

「先住民の映像表象」というと通常は被写体としての先住民が対象になりますが、私のもう一つの関心は撮影者としての先住民についても同様のリサーチをすることです。研究内容の詳細については別の機会にゆずることにして、それぞれの研究対象の調査過程で起きた幸運な巡り合わせについてお話ししましょうか。

最初は被写体としての先住民写真について。このタイプの写真は文化人類学者が「学術調査」の資料として撮影し、現在は博物館などに所蔵されているパターンが一般的で、被写体に向けられた眼差しは人種的差別意識に染められています。被写体の表情からは屈辱感をも消去した諦めが伺われることも珍しくありません。

英国系スェーデン人、アクセル・ポイニャントの撮影した"The Swimmers" (1952)はこのような典型から脱却した実に見事な写真で、被写体への敬意に満ちあふれています。ポイニャントも学術調査に同行して、いわゆる「奥地」の先住民の姿をカメラに収めていたのですが、彼の写真には被写体だけではなく、撮影者の敬意も写っているのです。

そのポイニャントに姪がいて、その姪が養子のようにポイニャント夫妻に愛育され、やがてその姪がメルボルンで医者と結婚して、一男一女に恵まれて・・・という身内しか知り得ない事実を私が知っているのは、その姪の息子のガスと偶然、話をするチャンスに恵まれたからなのです。

ガス・バーガーはメルボルンのオーストラリア映像センターで毎月開催されるミュージック・ビデオと短編映画の夕べ「レッド・ホット・ショーツ」の主催者で、私も毎回、楽しみに顔を出していました。国籍や年齢が一人だけ浮いている私(観客は地元の若者たち)はどうしても目立ってしまったのでしょうか、二回目の会にガスから声をかけてくれて、その後メールで連絡を取り、ガスの仕事(上映会の企画・編集)に興味を抱いた私は彼とインタビューを行うことになりました。

そのインタビューが済んで、雑談に移ったときに、ふとガスが「大伯父の写真がここの美術館に収蔵されているんだ」と漏らしました。「大伯父さんって?」「アクセル・ポイニャントっていうんだけど・・・」(知らないよねえ)と続けようとしていたガスを遮って「アクセル・ポイニャント!!!」と色めき立った私に、ガスも色めき立ち「えっ、知っとるのかい?!」ここから当然、インタビューは延長戦に突入しました。

アクセル・ポイニャントという写真家の存在はおろか「ポイニャント」という発音とスペリングは現在のメルボルンではほとんど知られていないようで、ガスもまさか外国人の私が知っているとは全く予想していなかったそうです。

ガス「なんで知っとるの?」
私「知らいでかっ!」

ここからインタビューは主客転倒状態になり、私が研究テーマの詳細を説明することになりました(ガスは私がオーストラリア映画研究で来ていると思っていたそうです)。ガスの母はポイニャントの日常も知ってるし、写真や美術に詳しい人だし、確かポイニャントの生写真も残ってたし、「ボクの実家に連絡しようか?」とガスが夢のような提案をしてくれました。間髪入れず「是非!!」とお願いしたところでインタビュー延長戦は終了しました。お互いに興奮の余韻を味わいながら。

アクセル・ポイニャント姪のリビング
アクセル・ポイニャント姪のリビング

数日後、ガスの仲立ちでガスの母であり、ポイニャントの姪であるキャロリンと連絡がとれ、ガスの実家を訪ねることになりました。メルボルン郊外の瀟洒な邸宅街の中でもひと際シックなガスの実家。アクセル・ポイニャント"The Swimmers"はもちろん、私が眼をつけていた撮影者としての先住民写真の傑作のオリジナル・プリントもディスプレーされたモデルルームのような応接室の壁面。ダイニングテーブルに無造作に置かれたアクセル・ポイニャントのオリジナル・プリント入りの紙箱。キャロリンの語る往年のアクセル・ポイニャントの写真と人生・・・まちがいなく在外研究期間中の至福の時間でした。

(おっとっとっ・・・予定の紙幅を超過してしまいましたので、この続きおよびもう一つの幸運な巡り合わせの連鎖については、またの機会に)