● 中心視野ではなく、周辺視野での視覚認知を測る、新たなニューロマーケティング手法「潜在的視線解析法(CovET:コヴェット)」を開発
● 視野の中心で見なくても認識できる視覚認知性の高いブランドロゴの評価を可能に
● サイゼリヤの日本語ロゴは、英語ロゴよりも周辺視野での視覚認知性が高いことを発見
中央大学理工学部教授 檀 一平太らの研究チームは、中心視野ではなく周辺視野での視覚認知を測る新手法「潜在的視線解析法(Covert EyeTracking: CovET)」を開発しました。この手法を用いたシステムから、視野の中心で見なくても認識できる視覚認知性の高いブランドロゴの存在や、その特徴の一部を明らかにしました。
従来の視線解析法は、視線の中心がどこを向いているかを検出する技術です。視線の解析結果から、視線の中心が位置する場所に注意が向いているという解釈がなされることが一般的ですが、本当にそうなのでしょうか?
視線解析法の典型的な計測では、実験参加者に画像や動画による刺激を提示し、商品などの対象物の固視に関する指標を分析します。この場合、実験参加者側は受動的に対象を見る場合がほとんどです。これに対して本研究チームは、CovET法を用いて、実験参加者が能動的に対象を認知処理する、認知心理学的な実験課題を提示しながら、実験参加者の能動的な視線の振る舞いを解析する新システムを開発しました。
今回、この新システムをブランドロゴの評価に適用し、行動実験を行いました。24名の実験参加者に、「ブランドロゴ1以外のロゴが表示されたときはキーを押し、ブランドロゴ1が表示されたときは押さない」という課題を与えて視覚認知を測りました。その結果、「ブランドロゴ1の視覚認知性が高ければ、素早く固視し、視覚認知性が低ければ、固視に時間が掛かる」という当初の予想を覆す現象が起きました。視線は明らかにブランドロゴ1に向けられていないのにキーを押さない、視線の周辺(周辺視)だけでブランドロゴ1だと判断していた例が多くみられたのです。研究チームは、中心指視数(iDC)*¹)を測ることで、今回起きた視覚認知の結果が統計的にも有意であると示しました。視線の中心にあるものが注意の対象であることが視線解析法の基本概念ですが、すでに記憶に定着している刺激には周辺視野での処理が容易に行われることを示す、新たな発見と言えます。
特にサイゼリヤの日本語ロゴではその傾向が顕著で、サイゼリヤの英語ロゴと比べて、有意に周辺視による処理がなされていました。つまり、サイゼリヤの日本語ロゴは、周辺視野で見ただけで、視覚認知ができているのです。サイゼリヤのメインロゴは英語ですが、今回の実験から英語ロゴの視覚認知性は高くないことが分かっています。この状況を視覚認知性の高い日本語ロゴが補うことで、ブランドの認知に貢献していると考えられます。
今後は、このCovET法を発展させ、周辺視野での視覚認知を指標としたブランディング戦略を支援する新たなニューロマーケティング研究を展開していく予定です。
■用語解説
*1)中心視指数(iDC: index for dominance in processing in central visual field):
iDCは、中心視野での処理を反映する指標です。iDCが高ければ、より中心視野での処理がなされていることを意味します。一方で、iDCが低ければ、より周辺視野での処理がなされていることを意味します。iDCの算出では、まず、視線の中心領域が対象となるロゴと重なった場合を中心視野での処理と考え、その場合での正答率を計算します。次に、視線の中心領域が対象となるロゴと重ならない場合を周辺視野での処理と考え、その場合での正答率を計算します。中心視野での正答率から周辺視野での正答率を差し引いた値をiDCとします。
図:Go/No-go課題を組み合わせたCovET法による視線解析
薄い水色の円は中心視野。視線がどの地点にある時にロゴを認知するかを調べました。サイゼリヤのロゴで潜在的視覚認知性を評価したところ、日本語ロゴでは視線を動かすことなく(青色の円の位置辺りで)視覚認知する場合が多くありました。一方、英語ロゴは視線を動かさないと視覚認知がしにくいことが分かりました。
本研究の成果は、神経科学系の国際学術雑誌「International Journal of Affective Engineering」に2024年10月17日(日本時間)付で公開されました。詳細は、大学ホームページの「プレスリリース」をご覧ください。
また、ご興味をお持ちの方は、理工学部人間総合理工学科教授 檀 一平太の研究に関する、下記の情報もご覧ください。