理工学研究科

理工学研究所附属センター

理工学研究所では、複数の研究員が研究テーマのもとに集結し、「理工学研究所附属センター」として、研究拠点構築や競争的資金獲得、産学官連携活動による社会貢献をめざし研究を進めています。

センターの設置については、「理工学研究所附属センターの取扱基準」に従い、研究所の運営委員会及び研究員会の議を経ています。

感性ロボティクス環境共生社会基盤技術センター

理工学研究所
センターの名称 理工学研究所付属 感性ロボティクス環境共生社会基盤技術センター
センター長 加藤 俊一 (中央大学理工学部教授・経営システム工学科) 理工学研究所・研究員
設立年 2016年
センターの概要

■全体構想
本研究では、我々がこれまでに展開してきた感性ロボティクス環境の研究を発展させて、モノ(物)に対する知覚過程の感性のみならず、コト(事象・状況)に対する行動、行動の文脈、知識に対する興味・関心、さらには、カンケイ(人・社会に対する親近感・信頼感)のように抽象度の高い対象に対する感性とその多様性までを、人間に心理的・身体的な負担をかけずに、計測・理解・モデル化できるようにする。
このモデルに基づき、押しつけ感を与えずに、相互理解の支援(他人の感性を理解しやすくする感性の可視化)、気づきの支援(自分にとって価値を感じられる視点の提示)、意思決定の支援(相互に価値のある適切な行動の選択肢の提示)を行うための技術の開発を目標とする。
また、多様な特性を持つ人々が空間を共有する例として、歩行する群衆が性別・年齢・文化的背景・身体的な状態により多様性を持っていることに注目し、安全安心な歩行環境を実現するための設計・運用の諸課題の解決に取り組む。高齢者は若年者に比べて歩行速度が遅く、障害者は健常者に比して移動の速度や方法が異なる。文化的な背景の違いは、歩行速度や歩行態度の違いにも表れる。このような状況では、それぞれの歩行がお互いの安全安心な歩行の妨げとなりうる。このような問題・課題を整理するとともに、すべての歩行者に安全安心な歩行環境を提供するための方法論の開発に取り組む。
このような感性的支援技術により、実空間・情報空間で多数の人々が共生できる基盤技術を実現する。

①研究の学術的な背景
1.国内外の研究動向と位置づけ
生活空間の中で、情報機器・サービスを利用者の身体的特性の多様性に適合させるため、主にインタフェースの多様化・ユニバーサル化の観点からの研究が行われてきた。
例えば、海外では、CMUのQoLT Centerのプロジェクトは、身体機能に制約のある人が、健常者と同等に社会生活を行えるようにするための技術開発や、実空間・情報空間へのバリアフリー・ユニバーサルアクセス化で、ロボット技術なども融合させつつ先進的な成果を上げている。国内では、産業技術総合研究所デジタルヒューマン工学研究センターによる生活・社会機能デザイン、身体機能中心デザイン、スマートアシストの研究はロボット技術とユビキタスセンシング技術を融合した取組である。同所サービス工学研究センターでは、サービス行為の提供の観点から、顧客と従業員(人と人)の行動の観測・分析・モデル化・シミュレーションなどにより、効率的なサービスを生み出すための研究を展開している。さらに、同所人工知能研究センターでは、これらの技術をビッグデータの解析・Deep Learning 技術の研究開発と併せて進めつつある。
一方、急速に進む社会のグローバル化の下では、主観・経験・価値観などの個人の感性的特性の違いに互いに気づき、相互に理解しつつ、多数の人々が実空間・情報空間を共有して共生する仕組みが必要となる。近年、感性的特性のモデル化研究は活発になりつつあるが、個人や特定の消費者群の感性のモデル化が主眼で、異なる視点からの価値への気づきや相互理解まで支援する技術や、それらの社会実装の道筋は未だ十分ではない。
群衆の中での個人の歩容計測、不審者の検出、群衆としてのマクロな動きの検出などの延久開発は行われているが、メンタル(安心感)な側面から個人の歩容やミクロ・メゾ・マクロな人々の動きを総合的に分析する研究は行われていない。

2.我々のこれまでの研究成果と着想の経緯
我々は2008年度より感性ロボティクス環境の研究を進め、実空間の中で人間が主観的に行う対象知覚(視覚・聴覚など)、状況認識、知識の解釈、行動・表出などの過程を対象に、一人一人の感性的特徴をモデル化する手法を開発してきた。その結果、一人一人の利用者から、主観的な判断の含まれた教示データや行動履歴からその人の感性的な特徴をモデル化し(図1)、これを情報サービスなどに応用することを可能にしてきた。
ヒューマンコミュニケーションの目的は、人と人の間で、理解(意味・内容をのみこむこと)、納得(他人の考えを理解して心から受け入れること)、共感(他人の意見や感情などにその通りだと感じること)を進めることとされる。しかし実際は、価値観などの感性的特性の違いに気づかないことによるギャップのために、納得・共感の段階に進むことは非常に難しい。
そこで我々は、感性の異なる人々の間でのコミュニケーションや情報空間の共有、さらに実空間の共有を、互いにストレスを感じさせることなく実現するためには、嗜好や興味・関心の違いや、世代・ライフスタイル・文化的背景の違いなどに基づく価値観の違いを容易に相互に気づかせると共に、異なる視点からの価値を相互に理解させるための支援技術の研究開発を着想した。

3.我々のこれまでの研究成果の発展
我々が開発してきたマルチモーダルな知覚過程の感性のモデル化技術や、多様な生活空間を複合情報通信環境(ウェアラブル・モバイル・ユビキタス・インターネットが統合された情報通信環境)で強化する技術を発展させる。それにより、生活空間を通して、個々人の行動の文脈、知識に対する興味・関心や、ライフスタイル、人に対する親近感・信頼感のような高次の感性とその多様性まで、個々人に心理的・身体的な負担をかけずに、計測・理解・モデル化し、また、このモデルに基づいて、個々人に押しつけ感を感じさせずに、気づきを与え、また、適切な行動支援を行えるようにするための技術を実現する。

②研究期間内の到達目標
本研究では、我々のこれまでの取り組みを発展させて、モノ(物)に対する知覚過程の感性のみならず、コト(事象)に対する行動の文脈、知識に対する興味・関心、さらには、カンケイ(人・社会に対する親近感・信頼感)のように抽象度の高い対象に対する感性とその多様性までを、人間に心理的・身体的な負担をかけずに、計測・理解・モデル化できるようにする。さらに、このモデルに基づいて、押しつけ感を与えずに、相互理解の支援(他人の感性を理解しやすくする感性の可視化)、気づきの支援(自分にとって価値を感じられる視点の提示)、意思決定の支援(相互に価値のある適切な行動の選択肢の提示)を行なうための技術の開発を目標とする。このような感性的支援技術により、実空間・情報空間で多数の人々が共生できる仕組みを実現する。
また、感性的な共生を実現するために、他者の価値・安心感に対する感性モデルとそれらの間の違いを客観的に可視化・可感化するだけでなく、価値を評価する別の視点・要因を、それぞれの利用者が理解しやすい表現の形で提示して気づかせて調停する、メタなアルゴリズムを開発する。
グローバル企業内のグループなど少人数の間での感性的共生、コミュニティなど多人数の間での感性的共生を実証的に示すプロトタイピングを行い、当該技術の有効性を明らかにする。

③学術的な特色と意義
1.学術的な特色・独創的な点
本研究は、社会のグローバル化が反映された実空間や情報空間(サイバー空間)で、人と人との感性的な共生を実現する機構を、主観的な多感覚知覚・状況知覚・知識評価・行動選択・意思決定過程のモデル化による感性情報学的アプローチ、脳活動・生理計測を含む人間工学的アプローチ、多様な価値観の提示による最適化アプローチを統合して解明し、開発する点に特色・独創性がある。

2.期待される結果と意義
従来の感性の分析・モデル化は、主としてモノ(物、コンテンツなど)に対する知覚過程や、嗜好・興味を対象としていたのに対し、本研究では、モノに対する多感覚知覚過程のみならず、コト(事象)やカンケイ(人・社会)までの抽象度の高い対象に対する感性までを統合してモデル化する試みで、感性工学・感性情報学の適用範囲を一気に拡大することが可能となる。
また、情報量の概念を導入した感性情報学的な分析法と、脳の活動・心拍などの生理的な状態の計測・分析法を統合することにより、感性モデルに客観性・裏付けを与られるようになる。
人と人の間での感性的な特性や価値観の違いを、多様な気付きの提供により調停可能になり、グローバル化する社会・企業でのコミュニティ運営・活動を円滑化することに応用できる。

3.産業的・社会的な波及効果
高齢化や国境を越えた人の流動化が進み、21世紀を迎えた我が国の社会状況は急速に変化し、世代や文化の違いを超えた相互理解や、一人一人がその個性や能力に応じて個として精神的にも経済的にも自立して活動し生活することが求められるようになった。本研究が取り組む科学技術課題は、このような重要な社会的なニーズに応える情報基盤・社会基盤を確立するもので、特に我が国自身で研究開発を進める必要があると共に、産業的にもその応用範囲は広い。
特に近年は、SNSが急速に普及し、様々な感性的特性(価値観、リテラシーなど)を持つ人々が、常に世界とつながった状態でコミュニケーションを行うために、感性の違いによる様々な摩擦を引き起こすようになってきている。本研究により、情報ネットワークやサイバー空間の側が、感性的な多様性の違いを吸収し、調和性の高いヒューマンコミュニケーションを実現しうる。
ビジネス面では、複合商業施設・店舗内の商品陳列や店内の案内の方法が高齢者向けにも適切であったかどうかを、顧客の視点から顧客の声としてモニタリングする上でも有用である。この技術は、従来のマーケティングや安全安心な店舗設計のコストを大幅に削減しながら、より高品質なサービスを提供できるため、将来、広範な複合商業施設・大規模小売店舗・チェーンストアなどに導入される可能性が高いと考えられる。

(参考図)

図1 感性の構造のロボティクス的なモデル

図1 感性の構造のロボティクス的なモデル

図2 ロボティクス的手法による感性の計測とモデル化

図2 ロボティクス的手法による感性の計測とモデル化

図3 複数の実空間連携による高品質な行動支援サービスの実現法

図3 複数の実空間連携による高品質な行動支援サービスの実現法

■研究計画
1.研究計画の概要
本研究開発では、実空間や情報空間内で空間を共有する人と人との共生を、感性的な観点から実現するために、以下の研究課題とアプローチを互いに関連付けながら推進する。

A.感性情報学的なアプローチによる感性の統合的なモデル化
人間の主観的な解釈・判断などに個人的な特性が現れる多感覚知覚・状況知覚・知識評価・行動選択の過程、また、情報に対する多様な気付きや価値観による意思決定の過程(図1)の感性情報学的なモデル化を行う。 具体的には、我々が開発してきた、感覚神経系の特徴抽出や中継機構に普遍的にみられるコントラスト評価の数理的なモデルを一般化し、ある情報とその他の情報とのコントラストに基づく情報量(他の情報との違いの比)を定義する。このコントラスト情報量の概念に基づいて、多感覚知覚過程のみならず、状況知覚・知識評価・行動選択・意思決定の過程までを同様の枠組みでモデル化できるようにする。

B.人間工学的なアプローチによる感性モデルの検証
本研究では (a)の情報学的な感性のモデル化の枠組みの妥当性を人間工学的な面からも実証するために、実空間内での物理的な刺激・脳活動を含む生理的な指標・主観評価の計測とこれらの測定値の間の関連性の解明も並行して進める。具体的には、コントラスト情報量の大小と、多感覚知覚・状況知覚・知識評価・行動選択・意思決定の各過程において優先される情報とその評価・解釈の間の関連性を、脳血流・脳波・筋電・視線などの生理的な指標の面から裏付ける。

C.最適化アプローチによる感性的な特性や価値観の違いの調停と解の発見
感性的な共生を実現するためには、実空間・情報空間を共有している一人一人が主観的に感じる価値の度合いを低減させないこと、また、全体としての度合いを最大化することが求められる。そのような技術を、最適化の考え方を応用して実現する技術を開発する。

D.実証的な評価実験
人間を対象とした科学技術は、学術としての深化だけでなく、現実の社会で必要とされる応用分野への適用・評価を通じて、構築する必要がある。本研究では、現実の社会で解決が必要とされる「モノ、コト、人・社会」に関する例題を複数設定し(例:グローバル企業での製品の共同デザイン支援、グループ学習支援、グループホームでの実空間・情報空間制御など)、それらのプロトタイピングを通じて、各要素技術とシステム化技術を研究開発・評価検証する。

2.研究の方法
A.感性情報学的なアプローチによる感性の統合的なモデル化
本研究では、知覚感性に関する我々の方法論・成果を一般化させて、抽象度の高い「コト」や「カンケイ」に対する状況知覚・知識評価・行動選択の過程も定常的・平均的な情報に対するコントラスト(違いの比)に着目して、定量的なモデル化を試みる。
モノ・コトに関する五感から得られる信号的な情報の柔軟な処理と共に、個々人がモノ・コト・関係について記憶・蓄積する知識・経験等の抽象度の高い情報の構造化、関係性の発見・抽出、記号的な処理との統合を図る

B.人間工学的なアプローチによる感性モデルの検証
「モノ」に対する多感覚知覚過程では、個別には異なったイメージを与えるマルチメディア刺激を同時に被験者に与えて、各感覚内および感覚間で刺激の物理量から定義されるコントラスト情報量、被験者の脳活動の部位(視覚野・聴覚野・言語野など)と活動パターン、被験者による総合的な主観評価の比較を行うことで、特徴抽出や感覚優位性の推定結果の妥当性を検証する。
同様に「コト」に対する状況知覚・知識評価・行動選択・意思決定の過程での、意外性を感じる情報への気付きとその主観評価や、さらには、「カンケイ」に対する主観評価に関しても、上記で得られる知見に基づき、被験者の生理的な指標と、被験者による総合的な主観評価の比較を行うことで、感性モデルの妥当性を評価できるようにする。
感性価値の評価が反映された生理指標を発見し、情報の客観性と一般性のある分析方法を開発する。

C.最適化アプローチによる感性的な特性や価値観の違いの調停と解の発見
本研究では、調停と解の発見の第一段階として、互いの感性モデルの構造を可視化するとともに、他人の感性モデルを試行錯誤的にシミュレーションに利用して、他人の主観的な解釈やその要因を各自が直感的に把握できるようにする。また、自分の感性に合った表現に変換・翻訳して理解できるようにする。第二段階では、従来からの組合せ最適化問題の手法を応用して、感性の共通点や補完しうる点を、自動的に検出できるようにする。

D.実証的な評価実験
人間を対象とした科学技術は、学術としての深化だけではなく、現実の社会で必要とされる場面(応用分野)への適用・評価を通じて、構築する必要がある。
本研究では、現実の社会で解決が必要とされる課題を模した実問題を複数設定し、その中で各要素技術とシステム化技術を研究開発・評価検証する。ロボティクス環境としての空間の性質(屋内外)・空間の広さ・支援の中身などにより、次の生活空間と生活シーンを例題として考える(例:日常の生活空間内での安全安心サービス支援、大学キャンパス内での新入生・留学生を対象とした学習支援、家族内や地域コミュニティ内でのコミュニケーション支援、等)。
また、特定の消費者(群)のライフスタイルを推定し、製品やサービスの適正品質・価格の意思決定支援サービスを試作し評価する。

現在の研究テーマ 感性ロボティクス環境による共生社会基盤技術の研究
共同研究者 鎌倉 稔成 経営システム工学科・教授 理工学研究所・研究員
渡邉 則生 経営システム工学科・教授 理工学研究所・研究員
庄司 裕子 経営システム工学科・教授 理工学研究所・研究員
磯村 和人 経営システム工学科・教授 理工学研究所・研究員
國井 康晴 電気電子情報通信工学科・教授 理工学研究所・研究員
橋本 秀紀 電気電子情報通信工学科・教授 理工学研究所・研究員
諸麥 俊司 電気電子情報通信工学科・准教授 理工学研究所・研究員
大隅 久 精密機械工学科・教授 理工学研究所・研究員
梅田 和昇 精密機械工学科・教授 理工学研究所・研究員
中村 太郎 精密機械工学科・教授 理工学研究所・研究員
新妻 実保子 精密機械工学科・准教授 理工学研究所・研究員
姫野 賢治 都市環境学科・教授 理工学研究所・研究員
樫山 和男 都市環境学科・教授 理工学研究所・研究員
檀 一平太 人間総合理工学科・教授 理工学研究所・研究員
工藤 裕子 法学部政治学科・教授 理工学研究所・研究員
緑川 晶 文学部心理学専攻・教授 理工学研究所・研究員
山口 真美 文学部心理学専攻・教授 理工学研究所・研究員
若林 茂則 文学部英語文学文化専攻・教授 理工学研究所・研究員
森島 昭男 中京大学情報理工学部・教授 理工学研究所・客員研究員
柴田 滝也 東京電機大学情報環境学部・教授 理工学研究所・客員研究員
三井 実 ものつくり大学技能工芸学部・講師 理工学研究所・客員研究員
高岡 明 玉川大学芸術学部・教授 理工学研究所・客員研究員
荻野 晃大 京都産業大学コンピュータ理工学部・准教授 理工学研究所・客員研究員
多田 昌裕 近畿大学理工学部情報学科・講師 理工学研究所・客員研究員
石川 智治 宇都宮大学工学部・准教授 理工学研究所・客員研究員
坂本 隆 産業技術総合研究所人間情報研究部門・主任研究員 理工学研究所・客員研究員
中田 亨 産業技術総合研究所人工知能研究センター・研究チーム長 理工学研究所・客員研究員
久野 節二 筑波大学・名誉教授 理工学研究所・客員研究員
他 準研究員