研究

理工学部教授 鈴木 宏明:中央大学と東京工業大学、均一かつ均質な人工細胞を作るマイクロ流路システムを開発

写真左から:鈴木 宏明 中央大学理工学部 教授(精密機械工学科)、松浦 友亮 東京工業大学 地球生命研究所(ELSI)教授 、​​​牛山 涼太 中央大学理工学研究科(修了) 学生、南條 哲至 中央大学理工学研究科 学生

 中央大学理工学部の鈴木宏明教授、大学院理工学研究科学生の牛山涼太(当時)と南條哲至、津金麻実子共同研究員、佐藤玲子技術補佐員および東京工業大学 地球生命研究所(ELSI)の松浦友亮教授の研究グループは、マイクロ流体工学を基に、大きさが均一かつ均質な人工細胞注1)を製造する技術を開発しました。
 タンパク質やDNAなどの生体高分子と、細胞膜を構成する脂質などの分子をボトムアップに組み合わせて、人工細胞(artificial cell)を創るという試みは、理学的な基礎研究としてだけではなく、次世代のバイオテクノロジーの創成に向けて注目されています。しかし、細胞膜となる脂質二重膜小胞(リポソーム)注2)を均一かつ均質に作ることが困難でした。
 本研究グループは、2021年に、製造と操作が非常に簡単な、人工細胞製造用マイクロ流路チップの開発を国際論文で報告しています注3)。この技術を応用し、本研究では、人工細胞としてのリポソーム中に市販の無細胞タンパク質合成系を封入して目的のタンパク質を合成するために、求められる成分や条件を特定しました。最終的には、直径10~50マイクロメートル程度のリポソーム中で、水溶性のモデルタンパク質としての緑色蛍光タンパク質(GFP)と膜タンパク質のモデルとしてのα-ヘモリシン(膜にナノポアを形成するペプチド)が合成できることを確認しました。
 この技術により、内部でタンパク質を合成する均一・均質な人工細胞製造の標準化が可能となり、バイオ医薬品や膜タンパク質バイオセンサーの産業利用につながることが期待されます。使用したタンパク質合成システム(PURE frex®1.0)は、日本の企業(ジーンフロンティア株式会社)により製造・販売されているものであり、オールジャパンの人工細胞製造プラットフォームとしての展開も期待されます。

注1)人工細胞: 既存の細胞に遺伝子組み換えなどの改変を加えるのではなく、タンパク質やDNA、エネルギー分子、膜を構成する分子、その他のさまざまな分子などを組み合わせて創られる、細胞の特徴を模擬した分子集合体。目的によってさまざまな分子の組み合わせのパターンがあるが、多くの場合、脂質二重膜小胞や油中液滴(ドロップレット)など、細胞に近いサイズの微小区画にDNAや細胞質成分となる分子を封入して作られる。

注2)脂質二重膜小胞(リポソーム): 細胞膜の主要構成成分である、リン脂質の二重膜でできた袋。細胞とその外界を分け隔て、かつ、選択的な物質の流入出を制御したり、信号を受容したりする膜タンパク質の足場となる。同種の細胞はサイズがおよそ均一だが、従来のリポソーム作製法では、基本的にサイズがばらばらのものしかできない。また、人工細胞を構築する上で、生体高分子を高密度で封入できることが重要。マイクロ流路を用いた製造法では、この2つの要件を満たすことができるが、これまでに汎用的な方法は普及していない。

注3)人工細胞製造用マイクロ流路チップ(既発表): R. Ushiyama, K. Koiwai, H. Suzuki, “Plug-and-Play Microfluidic Production of Monodisperse Giant Unilamellar Vesicles Using Droplet Transfer across Water-Oil Interface”, Sensors and Actuators B: Chemical, 355, 131281, 2021.
https://doi.org/10.1016/j.snb.2021.131281

 本研究成果は、2023年11月30日(米国東部時間)付で合成生物学に関連した国際学術誌 ACS Synthetic Biology』でオンライン掲載されました。

 詳細は、大学ホームページの「プレスリリース」をご覧ください。

 また、ご興味をお持ちの方は下記もご覧ください。