研究

理工学部教授 鈴木 宏明:中央大学と株式会社エターナス、「一滴たらすだけ」でシングルセルアレイ作製を実現

写真左:鈴木 宏明 中央大学理工学部 教授(精密機械工学科)
写真中央:村上 友樹 中央大学理工学研究科(修了) 学生
写真右:寺谷 浩登 中央大学理工学研究科 学生

 中央大学理工学部の鈴木宏明教授、大学院理工学研究科学生の村上友樹(当時)と寺谷浩登、津金麻実子共同研究員、株式会社エターナス、株式会社キャラベルの研究グループは、マイクロ流体工学をベースとした、シングルセルトラップ用オープン型マイクロ流路注1)を開発しました。開発した流路は従来のクローズ型マイクロ流路と異なり、トラップ(捕捉)した細胞がチップ上面に露出しているため、汎用的なロボットピッキング装置などを用いて簡便に選択・吸引できます。
近年、細胞の性質をひとつずつ調べたり、機能の高い細胞を選別したりするシングルセル解析・操作技術注2)が加速度的に発展しています。数ある多様な技術のうち、顕微鏡等で細胞を観察して選別する技術は、オーソドックスでありながら強力かつ汎用性の高い方法です。しかし、簡便に短時間で多数の細胞に対して処理を行うことが困難でした。
 本研究グループは、オープン型マイクロ流路をシングルセルトラップ・アレイ化に適用することで、上記の課題を解決しました。チップの上面に設けた溝の中に、毛管力によって水が流れる現象を利用した微量流体制御手法を採用し、チップ上の特定の位置に細胞を短時間で配列させ、さらに特定の細胞を選んで採取するシステムを構築しました。この技術は、細胞と同程度のサイズのマイクロ溝の中だけを精密に親水化する方法を開発することで実現しました。
 今後、この技術をもとに、機能が高い細胞を選んで取得するスクリーニング技術注3)が汎用的に使えるようになり、SDGsの実現に向けたバイオものづくりに貢献できると期待されます。
 

注1)オープン型マイクロ流路: 通常のマイクロ流路では、流路を設けたチップと別の基板を貼り合わせて閉じた流路(クローズ型流路)を作製し、その中に圧力等を加えて送液を行う方式が一般的です。一方、オープン型マイクロ流路では、流路溝の片面または両面が大気に開放されており、外部から流路にアクセスすることが可能であることから、閉じられていないため圧力送液ができず、濡れ性の制御による流体制御が採用されることが多い。

注2)シングルセル解析・操作: 従来の、細胞を集団として扱うのではなく、細胞をひとつひとつ分離して解析を行ったり、操作を行う技術。マイクロ流体工学は、細胞と同程度のサイズの流れを扱うことができ、シングルセル技術との親和性が高い。個別の細胞の特性を調べることで、生物学や医学の新たな展開が広く期待されています。

注3)スクリーニング技術: 細胞の集団の中から、特定の細胞を選んで選別する技術。たとえば、有用な目的物質を高生産する細胞を取得することで、バイオ創薬やバイオ化成品原料の生産の効率化への貢献が期待されます。

 本研究成果は、2023年10月24日(米国東部時間)付で国際学術誌『iScience』でオンライン掲載されました。

 詳細は、大学ホームページの「プレスリリース」をご覧ください。

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