研究

理工学部教授 小松 晃之:イヌ用人工血液(人工血漿)を開発

 理工学部 教授 小松晃之の研究グループは、イヌ用人工血液(人工血漿)の開発に成功しました。血液は赤血球、白血球などの細胞成分(血球)とタンパク質、ビタミンなどが溶けた液体成分(血漿)からなります。血漿中にはタンパク質「アルブミン」#1 が豊富に存在し、血液の浸透圧や循環血液量を維持する役割を担っています。人間の場合、献血液から分離したアルブミンは製剤化され、臨床で広く使われています。しかし、イヌの場合、原料となる血液を確保することができないため、これまでイヌ用のアルブミン製剤はありませんでした。
 今回、小松らはブタの血漿から取り出したブタアルブミンに合成高分子ポリオキサゾリンを結合することにより、「ポリオキサゾリン結合ブタアルブミン(POx-PSA)」を合成し、それがイヌに投与可能な人工血漿(血漿代替物)になることを明らかにしました。さらに、慶應義塾大学、東海大学、埼玉医科大学、東京大学と共同でPOx-PSA溶液の安全性と有効性も確認しました。これはペットの輸血治療における画期的な発明であり、動物医療に大きく貢献するものと期待されます。

 

<研究成果のポイント>
 

・ポリオキサゾリン(分子量:5000)をブタアルブミンに共有結合したポリオキサゾリン結合ブタアルブミン(POx-PSA)を合成し、その構造を明らかにしました。製造工程はわずか2段階で、収率は高く、特殊な装置は一切必要ありません。
 

・POx-PSA溶液は凍結乾燥することで粉末となり、得られた白色粉末は1年以上安定に保存できます。水に溶解し再生したPOx-PSA溶液は、凍結乾燥前とまったく同じ性質を示します。
 

・POx-PSA溶液はPSA溶液よりも高いコロイド浸透圧#2 を示します。これは体内に投与した際、組織から水分を引き込み、循環血液量を回復させる効果に優れることを意味します。
 

・POx-PSAの血中半減期[15時間(ラット)]は、POxを結合していないPSAの2.1倍に延長し、長い血中滞留性を有することがわかりました。(東海大学、埼玉医科大学共同)
 

・POx-PSA溶液をラットに投与してもPSAやPOxに対する抗体は産生されないことがわかりました。一方、同じ条件で、PEG結合PSA(PEG-PSA)溶液を投与すると、抗PSA抗体や抗PEG抗体が産生されました。(慶應義塾大学共同)
 

・循環血液量の50%を脱血したラット(出血性ショックモデル)にPOx-PSA溶液を投与すると、脱血により低下した血圧、心拍数、pHなどは脱血前の値に回復し、臓器にも影響を及ぼさないことが明らかとなりました。この結果は、POx-PSA溶液が出血性ショック状態の蘇生液として有効であることを示しています。(東海大学、埼玉医科大学共同)
 

・POx-PSA溶液をイヌに投与し、その安全性を確認しました。(東京大学共同)
 

・POx-PSA溶液は、その副作用を引き起こさない原理から、イヌのみならずネコにも投与可能な人工血漿になるものと考えられます。

【用語解説】
#1 アルブミン:動物血漿中に最も多く存在する単純タンパク質。ブタ血清アルブミンの分子量は66,800。血漿中にあるタンパク質の約60%を占める。血液の浸透圧維持や各種内因性・外因性物質(代謝産物や薬物など)の貯蔵運搬の役割を担っている。
#2 コロイド浸透圧:浸透圧の一種で、動物の循環系において主としてアルブミンの濃度によって生じる血漿の浸透圧。

本成果は『Scientific Reports』の電子版 (2023年6月14日付)に掲載されました。
詳細は、大学ホームページの「プレスリリース」をご覧ください。

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中央大学産学官連携プラットフォーム「+C」(プラスシー):Researcher
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〈研究概要図〉
図1. 血液の成分

図2. ポリオキサゾリン結合ブタアルブミン(POx-PSA)の合成と特徴

図3. ポリオキサゾリン結合ブタアルブミン(POx-PSA)溶液