【要 点】
〇 これまでに本研究グループが開発した液体インク状のカーボンナノチューブ(CNT)を塗布するセンサ製造では、手作業によるヒューマンエラーや「複数装置間での煩雑な繰り返し作業」が課題だった。
〇 今回、卓上機械ロボット(エアジェットディスペンサ)一台のみで、CNT、電極配線、キャリアドーピングといった多種のインクを塗布する、簡便・高速・高精度な”印刷”による素子作製工程を新たに確立。
〇 成功のポイントは、センサ印刷プロセスにおいて作製精度(微細かつ均一な線描画)に最も影響するCNTインクの適正な濃度・粘度の把握と自動制御。このことは、センサの高感度動作に寄与。
〇 ディスペンサ自体が、異なる種類のインク材料間の相対的な空間認識という機能を持つことで、センサの動作不良につながる断線(材料間の位置ズレ)を機械的に根絶。これにより、極めて高い歩留まりで微細CNT型センサの多数・大規模集積を簡便に実現。
〇 高精度なCNTセンサ印刷は、ウェラブルな基板などにも展開。基板毎の機能性発揮も期待される。

図1 本研究での「あらゆる基板材料へのセンサ印刷により個々の独自機能を具現化」というコンセプト
中央大学 理工学部 電気電子情報通信工学科の李 恒 助教、山本 みな美 技術員、河野 行雄 教授、酒井 大揮 大学院生(理工学研究科 電気電子情報通信工学専攻・博士前期課程2年(※ 研究当時))、松﨑 勇斗 大学院生(理工学研究科 電気電子情報通信工学専攻・博士前期課程2年(※ 研究当時))らを中心とする研究チームは、光・電気・熱といった物理情報を高い感度で操るCNT型センサに対して、卓上機械ロボットタイプのエアジェットディスペンサ一台により、「印刷」という概念での簡便・高速・高精度な作製および集積手法を新たに確立しました(図1)。CNT型センサに対する従来の作製工程においては、「ヒューマンエラーが付き纏う手作業」や「複数装置間での煩雑な繰り返し作業」が不可欠となっており、歩留まり(「作製した素子数」に対する「正常に動作する素子数」の割り合い)の低さが致命的な課題として問題視されておりました。よって、本成果はこの様なボトルネックを一網打尽に解決する位置付けと言えます。特にCNT型センサは豊かに優れた計測性能から非破壊検査素子への応用が期待されており、本成果での技術的な進展は、当グループが独自に培ってきたCNT型センサの社会実装を大きく後押しするブレークスルーと言えます。
本研究において、鍵は印刷における「空間的な位置合わせ:アライメント」と「インクの濃度」です。CNT型センサの作製において、従来はセンサ自身を成すCNTや信号読み出しに不可欠の電極配線、そしてセンサの高感度化に有用なキャリアドーピング等,各構成材料や部位の相互的な空間位置関係を作製者自身が把握せざるを得ない状況となっておりました。これらにおける人為的誤差は、センサの致命的な動作不良(材料間での位置ズレ)を生んでいました。一方で、本成果は液体インクシリンジを交換することで同一ディスペンサによる異種材料の印刷を可能とし、ディスペンサ自身がインク間のアライメントを機械制御することで高歩留まりなCNT型センサ集積へ展開しました(図2)。上記において、当グループはCNTインクの濃度が「センサ印刷の精度」と「センサの感度」に対する支配的な定義要因となる点を、科学的に解明しました。

図2 同一装置による高精度な多種インク印刷集積という本研究での独自アプローチの概念
本研究成果は、2025年5月8日付で『npj Flexible Electronics』にオンライン公開されました。
詳細は、大学ホームページの「プレスリリース」をご覧ください。
また、ご興味をお持ちの方は下記もご覧ください。

写真左:李 恒 中央大学理工学部 助教(電気電子情報通信工学科)
写真右:河野 行雄 中央大学理工学部 教授(電気電子情報通信工学科)