東北メディカル・メガバンク(TMM)計画*1) 岩手医科大学 いわて東北メディカル・メガバンク機構(IMM)では、地域住民コホート参加者・約100名の血液細胞からゲノム・エピゲノム・トランスクリプトームの3層オミックスデータを網羅的に収集し、共同研究のリファレンスとして、あるいは分譲データとして利用促進することで、疾患関連研究に役立ててきました。
しかし、このコホート参加者の3層オミックスデータは症例対照研究で行われるように何れかの疾患患者と非患者である対照群の2群で収集しているわけではないため、3層オミックスデータのみでは、どのような異常が潜在しているかを特定することが難しいという課題がありました。
この課題に対して中央大学 教授の田口 善弘とIMMの研究チームは、田口が開発した「データ駆動型」*2)の解析方法によって、患者群と非患者群に分類されていない対象者群の3層オミックスデータ(遺伝子発現プロファイル、DNAメチル化プロファイル、一塩基多型(SNP)プロファイル)から類似した特徴を抽出することに成功しました。さらに、これらのパターンに同期して変動している遺伝子群を特定したところ、さまざまな疾患関連遺伝子を抽出できることを明らかにしました。この研究成果は、今後、追跡調査のデータを利用し、抽出した遺伝子群について発症者のデータとの比較を行うことによって、疾患発症を予測することにもつながるものと期待されます。
*1)東北メディカル・メガバンク(TMM)計画:東日本大震災からの復興事業として2011(平成23)年度から始められ、被災地の健康復興と、個別化予防・医療の実現を目指す計画です。TMM計画は、東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)といわて東北メディカル・メガバンク機構(IMM)を実施機関として、東日本大震災被災地の医療の創造的復興および被災者の健康増進に役立てるために、合計15万人規模の地域住民コホート調査および三世代コホート調査を2013(平成25)年より実施し、収集した試料・情報をもとにバイオバンクを整備しています。なお、TMM計画は、2015(平成27)年度より、日本医療研究開発機構(AMED)が本計画の研究支援担当機関の役割を果たしています。
IMMウェブサイト:http://iwate-megabank.org/
*2)データ駆動型:通常の機械学習やデータサイエンスでは教師あり学習や強化学習を用いてある目的に従ってモデルをトレーニング(学習)させるが、データ駆動型の研究では最初になんらかの目的を置くのではなく、まず初めにデータを解析し、その結果を見てデータの中で何が起きているかを観察することで結果を出していく。このような研究方法をデータ駆動型の研究という。