研究

「世界水の日」学術ウェビナーレポート

2022年06月22日

3月22日の『世界水の日』は、1992年に国連総会で定められた国際デーの一つです。限られた水資源について全世界で共に考えるこの日に、中央大学ではタイと共同で学術ウェビナーを開催しました。

【日 時】 2022年3月22日(火)
【場 所】 オンライン開催(日英同時通訳)
【主 催】 中央大学 理工学研究所/研究推進支援本部(中央大学 学術シンポジウム)
【共 催】 タイ タマサート大学 工学部/タイ 天然資源環境省 水資源局
【テーマ】 「河川をめぐる環境の地域多様性」
【プログラム】
開会挨拶: 鎌倉稔成 教授 (中央大学 理工学研究所長)
1.スパパープ・パシンハサネー 局長(タイ 天然資源環境省 水資源局 水オペレーションセンター)
「天水農業における水資源管理-タイの水危機の背景」
2.ウルヤ・ウィーサクン 教授(タマサート大学 工学部)
「タイ天水農業地域における干ばつ指標の解釈と干ばつ予測モデルの開発」
3.手計太一 教授(中央大学 理工学部)
「日本における治水政策の大転換」
ディスカッションと質疑応答
モデレーター:工藤裕子 教授(中央大学 法学部) 指名コメンテーター:山田正 機構教授(中央大学 研究開発機構)
閉会挨拶: 加藤俊一 教授 (中央大学 副学長・研究推進支援本部長)

【内容】
 タイの天然資源環境省は、雨季と乾季という明確な季節により引き起こされる水害や天水を利用した農業などについて様々な課題に取り組んでいます。水資源局、水オペレーションセンターの局長であるスパパープ・パシンハサネー氏は北海道大学で学んだこともある、日本とタイ両国の水問題の知見を有する方です。タイでは農業面積の78%は天水農業となっており、季節的な降水を主な水源としているため、気候の不確実性に左右されています。環境省では水危機管理のために警報・予報システムが導入や水文環境観測とデータに基づいた対策を強化しています。システムが行き届かない農村地域では、モバイルアプリケーションを開発するなど現地で即時対応できるような手法で対応しています。また、タイは水害や干ばつによる被害が多発していますが、そうした災害の予防と軽減のための早期警告システム・予報システムをはじめとする各省の連携状況が紹介されました。

 タイのタマサート大学は中央大学と協定を締結しており、特に強固な連携関係があります。今回はウルヤ・ウィーサクン教授に登壇をお願いしました。「タイ天水農業地域における干ばつ指標の解釈と干ばつ予測モデルの開発」と題し、SPI(Standardized Precipitation Index; 標準化降水指数)のデジタル値と現地観測による干ばつ状況の解釈、リモートセンシングデータによる農業的干ばつの理解、そして人工知能を用いたSPIを干ばつ指標とする干ばつ予測モデルの開発について、ご自身の研究結果を披露いただきました。

 中央大学からは手計太一教授が、「日本における治水政策の大転換」と題した報告において、国土交通省で「気候変動を踏まえた水災害対策のあり方~あらゆる関係者が流域全体で行う持続可能な「流域治水」への転換~」とする答申がとりまとめられたことを紹介しました。近年の社会の変化を踏まえ、国、都道府県、市町村、民間企業、住民など多様な関係者による全員参加の対策、河川や、氾濫原だけでなく集水域も含む流域のあらゆる場所での対策への変換が求められています。持続可能な未来に向けて、都市管理政策と洪水管理政策の統合とともに、要素技術の明確化と高精度化、降雨予測の精度向上、水田の貯留効果や貯水池の運用の最適化の重要性が指摘されました。

 続いて、モデレーターに工藤裕子教授、コメンテーターに山田正機構教授を迎え、ウェビナー参加者からの質疑を交えた活発なディスカッションが展開されました。報告された研究結果を社会実装するにあたり、どのような取り組みが求められるか。その問いに対し、各登壇者から示されたのは、多様性、持続可能性、そして包摂性という重要なコンセプトです。タイの多様性に富む農村地域の水資源管理にあたっては、地域住民がスマホで貯水池を撮影し、当局に送信するというシンプルかつ低コストの手法を用いることで、持続可能性が確保されています。また、高齢化や人口減少の進む農村において、新たなシステムを適用するには、既存システムとの同期化が必要であり、安全かつシンプルで使いやすいことが求められます。農作物の多様化を促すことで水利用を最適化し、資源を最大活用すべきという視点、さらに水資源管理におけるIoTの活用や農村の女性等への教育や技術によるエンパワーメントの重要性も指摘されました。

 世界の多様性の中にあって、それぞれの地域の特性を踏まえ、その地域に暮らす人々のために技術を考えていくことの重要性を改めて考えさせられる内容となりました。
 この国際ウェビナーは中央大学 学術シンポジウム「コグニティブダイバーシティの総合的研究」の一環として開催されました。

(以上)

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