研究開発機構
中央大学・四川大学合同チームが「世界遺産都市・都江堰・林盤保全設計最優秀賞」を受賞~中国四川省・都江堰市・公園都市構想ワークショップ(2019年9月2-7日)報告(研究開発機構グリーンインフラ研究室機構教授 石川幹子)
2019年09月27日

中国四川省は中国西南部に位置し、北は青海省、甘粛省、東は重慶、南は雲南省、西はチベット高原へ続き、人口8000万人を擁し、古くから様ざまの民族が交流する文化の拠点として栄えてきました。2008年5月12日、龍門山脈を震源とする「四川汶川(ぶんせん)大地震」が発生し、6万5千人の方々がなくなられ、世界遺産都市都江堰市(とこうえんし)を始め、多くの都市が壊滅しました。中央大学理工学部では、被災直後より、復興グランドデザインの提案を行い、継続的な支援活動を展開してきました。
9月2-7日、双方の学生、大学院生が都江堰市で、都江堰市との協力のもとに、現地調査を踏まえた、「悠久の歴史に学ぶ、水・人間環境と都市農村ヴィジョン」に関する調査を行い、発表を行いました。提案は高く評価され、都江堰市より、優秀賞を贈呈していただきました。国際的視野で、深く学ぶ機会となりました。
この成果は提案書としてまとめ、都江堰市に提出の予定です。草の根・日中友好を継続していきます。
<日時> | 2019年9月2日-9月7日 |
<場所> | 中国四川省都江堰市 |
<主催> | 中央大学研究開発機構:機構教授 石川幹子 四川大学防災・復興研究所 小出 治 教授、カビリジャン・ウメル教授 |
<協力> | 都江堰市 |
<国際計画設計演習の内容>
1. 四川大学表敬訪問(9月3日)
四川大学を表敬訪問。中央大学からは学部生(1-4年生25名)、教員1名、四川大学からは、大学院生(15名)教員2名、助手2名が参加。合同チームを編成。

国際計画設計演習キックオフ:四川大学(2019年9月3日)
2. 世界遺産都市調査(9月3日)
都江堰市:三つの世界遺産を有する。
・古代水利工
・自然遺産(パンダ生息地)
・道教発祥の地(青城山)
2-1. 古代水利工:沃野千里 天府の地
古代水利工は、紀元前230年、急峻な龍門山脈に発する岷江(みんこう)が、成都平原に没する扇状地の要に、李氷父子により構築された。「魚嘴(ぎょし)」という堰により、洪水、氾濫を繰り返していた岷江を、外江(がいこう)と灌漑用水(内江(ないこう))に分離させた。「飛砂堆(ひしゃたい)」により砂・小石を沈澱させ、岩盤を切り拓いて構築した「宝瓶口(ほうへいこう)」より導水し、網の目のような水路網を創りだし、成都平原を豊かな穀倉地帯へと変容させた。
諸葛孔明は、この地を「沃野千里、天府の地」と讃えた。
成都平原が「天府の地」と称されるに至ったのは、古代水利工の恩恵を享受する農村全体に、自然環境を活かしたインフラが創出されたからに他ならない。これが、「林盤(りんぱん)」と呼ばれるシステムである。林盤は、数千という農村コミュニティとして、現在なお、維持されている。中国新農村の展開にあたって、このシステムを如何なる戦略的方法論の創出により、持続可能なものとしていくかが、今回の設計演習の課題である。

都江堰灌漑区域図

1.魚嘴(岷江を外江と内江に分離)

2.飛砂堆(小石、砂を沈澱させる)

3.宝瓶口(岩盤を切り拓き、導水路を開削)

4.都江堰灌漑水路網の起点

5.滔々たる流れ
2-2. 歴史的街区と震災復興
2008年5月12日の四川汶川地震により、歴史的市街地は壊滅。10年間の復興の経緯、現状を指揮にあたった都江堰市聚源鎮(じゅげんちん)、陳書記長より、現地にて説明を受けた。

震災直後の旧市街地(2008年6月)


同じ場所の復興後(2019年9月3日)

壊滅した寺院

城壁の復元(説明をしている方が聚源鎮陳書記長、四川大学カビリジャン・ウメル教授。熱心にメモをとる学生)

被災直後の歴史的街区(2008年6月)



チベット高原へと繋がる交易路の起点
「古代 茶の道」の復元。
3. 農村調査の実施:農耕社会の中で継承されてきた「林盤システム」の現地調査(9月4日)
都江堰の林盤のうち、聚源鎮の林盤の学習(中央大学にて調査前に実施)を踏まえて、3ヵ所の対象地、湧水地、合計4ヵ所について、四川大学・中央大学の合同調査チームを編成し、聚源鎮農村コミュニティのリーダー、行政と共に、一軒、一軒、農家を訪問し、営農、居住環境、水路、林盤の実態と利用、湧水地の現状を調査した。
詳細な報告書を作成中。

聚源鎮 林盤分布図(林盤30,32,34を調査)

林盤の風景

周到に張り巡らされた水路網/支渠(しきょ/地域幹線水路)、斗渠(ときょ/地区幹線水路)、農渠(のうきょ/集落水路)、網渠(もうきょ/各戸水路)の階層的システム

湧水調査グループ

農家へのヒアリングと調査。クルミによる ‟おもてなし”
4. 調査のまとめと提案の作成(9月5日)
4つのグループが、(1)現況分析、(2)課題、(3)計画・提案、(4)提案の模型製作を行った。
調査が1日、まとめが、1日、そして次の日がプレゼンテーションという、‟超強行スケジュール”。
人間総合理工学科では、演習でこのプロセスを、しっかりと教育しているため、徹夜の作業ではあったが、模型製作までのプロセスを、四川大学の学生をリードしながら、協力して遂行することができた。



5. プレゼンテーション(9月6日)
都江堰灌漑区林盤研究所にてシンポジウムを行い、最後に学生が発表を行った。都江堰市行政幹部、都江堰灌漑局、四川大学研究所所長、学生他多数が参加。
四川大学・中央大学合同チーム(熱依沙・陳玉婷、宮本・長塚・韓煜明・大久保・山平・萩原、前田)が最優秀賞を受賞。(成果は秋学期が始まる前に、とりまとめ発表の予定。)


「木と水と人と。―林盤ベースの新型農家楽―」

