研究

令和4年度 中央大学学術研究奨励賞受賞者一覧

(順不同・敬称略)

氏名
(ふりがな)
所属身分
研究業績等の内容(要旨) 他機関からの受賞
○受賞名
○授賞機関
○受賞日
奨励賞推薦理由(要旨)
山口 朋泰
(やまぐち ともやす)
商学部 教授
候補者の著書『日本企業の利益マネジメント-実体的裁量行動の実証分析』は、経営者の実体的裁量行動(事業活動を通じた利益の調整)の実態を解明したものである。具体的には、日本企業の経営者が目標利益達成のために実体的裁量行動を実施していること、当該行動を実施した場合に将来の業績や株価が悪化すること、経営者交代や証券発行などの影響を受けること、等を明らかにしている。

〇第65回日経・経済図書文化賞
〇日本経済新聞社・日本経済研究センター
〇2022年11月3日

〇日本会計研究学会第81回太田・黒澤賞
〇日本会計研究学会
〇2022年8月26日

〇日本管理会計学会2022年度文献賞
〇日本管理会計学会
〇2022年8月30日

 前述の著書は、事業活動を通じた利益の調整行動である「実体的裁量行動」に焦点を当てたものである。以前から、当該行動は企業価値に深刻な影響を及ぼすと言われていた。また、近年の会計規制の厳格化によって会計上の操作を通じた利益の調整が困難になったため、経営者は実体的裁量行動に依存する傾向が強くなったとも指摘されており、その解明が急務となっていた。候補者の著書では、当該行動が多面的に解明されており、学術の発展に大きく寄与している。また、3つの賞を受賞するなど社会的にも高く評価されている。
 第1に、日経・経済図書文化賞は、日本経済新聞社と日本経済研究センターが1958年に設立した賞である。本賞は、経済および経営・会計分野の学問、知識の向上に貢献すると共に、その一般普及・応用に寄与することを目的としており、経済・経営に関する図書の中から優れた作品を表彰するものである。
 第2に、日本会計研究学会太田・黒澤賞は、日本会計研究学会(日本学術会議協力学術研究団体)が設定したものであり、会計学の向上発展に貢献する優秀な書籍に対して授与される。
 第3に、日本管理会計学会文献賞は、日本管理会計学会(日本学術会議協力学術研究団体)が、管理会計学およびその隣接諸学に関する理論または応用の分野の発展に貢献するところが顕著であると認めた著書の著者に授与するものである。
 候補者は学術の発展に寄与する優れた学術研究成果を挙げており、著書は日本学術会議協力学術研究団体である学会等から賞を受け、日経・経済図書文化賞を受賞するなど社会的にも高く評価されている。以上から、山口朋泰氏を中央大学学術研究奨励賞候補者として推薦申し上げる次第である。
潮 清孝
(うしお すみたか)
商学部 教授
商業科高校において実施されているビジネスゲームにおいて、クラウド会計の導入を行い、その学習効果および教育実践上の留意点などについて、実施教員7名に対するインタビューをもとに、調査・分析を行っている。具体的には、計算プロセスが自動化されることによって、授業目的が、財務諸表の作成能力の育成から、財務諸表の活用能力の育成へと変化する様子が、ケースをもとに描かれている。その結果、受講生のみならず、教員側にも戸惑いが起きることなどに加え、デジタル技術の導入によって、今後の会計教育の在り方が根本的に変わりうる可能性などについて指摘している。 〇日本会計教育学会・令和4年度学会賞
〇日本会計教育学会
〇2022年10月15日
 日本会計教育学会の年次総会において、毎年1論文および1冊程度に対して授与される学会賞である。当論文は、潮氏と加納氏の2名による共著論文で、潮氏は筆頭著者である。インタビュー調査については共同で実施し、論文執筆に際しては、インタビュー実施要領や事例校の概要については加納氏が、先行研究の整理やインタビュー内容およびその分析など、主要な部分については、主に潮氏が執筆している。

後藤 順哉 
(ごとう じゅんや)
理工学部 教授

藤田 岳彦
(ふじた たかひこ)
理工学部 教授

学術論文:東出 卓朗,浅井 謙輔,後藤 順哉,藤田 岳彦.初到達時間を用いたペアポートフォリオ最適化問題の新定式化.日本応用学会論文誌30巻3号(2020),pp. 194-225が日本応用数理学会論文賞応用部門を受賞した。
本論文は、古くから金融市場における投資戦略手法の一つと知られるペアトレーディング戦略について、新しい視点による定式化とその理論的な検討をふまえ、シミュレーション実験を通じて実際のトレーディング戦略策定での実用可能性を示したものである。応用面への貢献の期待度は高いことはもちろん、数理ファイナンスや金融工学における学術面にも一石を投じる内容であると見なすこともでき、論文賞(応用部門)に相応しいとする論文賞選考委員会での評価を得た。
〇日本応用数理学会論文賞応用部門
〇一般財団法人日本応用数理学会
〇2022年9月9日
 一般社団法人日本応用数理学会は、応用数理を研究、産業、教育に結び付けるため、数学、物理、化学、電気・電子、機械、材料、建築、情報処理、通信、計測・制御、システム工学、人間工学、経営等、学際的に異分野の研究者や技術者などから構成される1990年発足の学会である。本業績は当学会が毎年選定する5部門の論文賞(2022年度は各部門1件ずつ)のうちの応用部門での受賞に基づく。
 共著者4名のうち最初の2名(東出氏、浅井氏)は本学経営システム工学専攻でそれぞれ博士号、修士号を取得した卒業生であり、いずれも藤田研究室出身者である。両名が本論文の基本的な発想や基本的な作業を行い、後藤の役割はポートフォリオ最適化の専門家として、当課題の学術的文脈における貢献や意義を整理し、論文執筆を指導した。また、藤田は、確率論の専門家として、論文で重要な役割を担う「ペア銘柄回帰時間」という確率変数の定式化や分析を行った。
印南 洋
(いんなみ よう)
理工学部 教授
外国語学習における到達目標を示すため、EUの一部門が作成した「ヨーロッパ言語共通参照枠」(CEFR)が2001年に作成された。ただし、この枠組みは、全体的な方向性や概念的な記述にとどまる点が多く、教育場面への適用は限られていた。これらの点を解決するため、日本において枠組みを精緻化し、日本の英語教育学習状況を踏まえた、CEFR-Jが作成された。そして、CEFR-Jに基づくテスト設問を作成・実施することで、学習者がどのレベルに位置づけられるかを示すシステムの開発が進行中である。このシステムを使うことで、外国語学習の到達目標を明示化することができる。本書『教材・テスト作成のためのCEFR-Jリソースブック』(2020年、大修館書店)では、これらテスト設問の作成・実施過程について詳細に報告している。なお、本書は印南氏も関わった、基盤研究(A)(2016-2019年度)「英語到達度指標CEFR-J準拠のCAN-DO指導タスクおよびテスト開発と公開」(研究代表者は根岸雅史氏・東京外国語大学・大学院総合国際学研究院教授)に基づいている。 〇2022年度日本言語テスト学会著作賞
〇日本言語テスト学会
〇2022年11月6日
 「日本言語テスト学会著作賞」は、「日本言語テスト学会(JLTA)会員による優れた著作を表彰することにより、会員の著作物の出版を奨励し、外国語教育における測定と評価(テスト理論・テストの開発・妥当性の検証など広く言語テスティングに関わるもの)に関連する研究や実践を広く一般に普及することを目的とする。」ために設立された。受賞作は投野由紀夫氏・根岸雅史氏(共に東京外国語大学・大学院総合国際学研究院教授)が編著者であり、両氏を除いた18名が共著者である。なお、共著者が多いのは、本プロジェクトは学際的であり、外国語教育・コーパス・自然言語処理を中心とした研究者が関わったためである。本書では英語での「読む、聞く、話す、書く」技能を扱い、そのうち「聞く」技能について印南氏が担当した。253ページからなる書籍のうち6ページ(156-161ページ目)を執筆し、英語での聞き取り力を測るためのテスト設問作成における注意点を具体例を用いCEFR-Jと関連させて述べ、受験者に実施した結果を分析し報告した。また、Google Cloud Text-to-Speechを使い、英文テキストを音声化しテストに用いる可能性についても扱った。これらの内容を含む本書は、著作賞の規定を満たし、当該分野に多大なる貢献をしている。以上から、印南氏の業績は「中央大学学術研究奨励賞」にふさわしく、候補者として推薦する次第である。
小島 朋久
(こじま ともひさ)
理工学部 助教
爆発に伴う流体構造連成や異種材料接合界面への衝撃負荷の予測・回避は社会安全のため非常に重要である。候補者らは固液連成界面および金属/樹脂接着接合界面における波動伝播応答と界面破壊を評価し、界面における波動伝播を制御して応力波・圧力波の持つエネルギを減少させる技術を創出できる可能性を示した。波動伝播に伴い固液連成界面に生じる界面圧力を予測する力学モデルを提案すると共に、界面の濡れ性を変化させることや固体表面を加工して凹凸形状を付与することにより、界面を起点とするキャビテーション(界面破壊)発生量が変化し、応力波・圧力波の持つエネルギを減少させることを明らかにした。また超高速度カメラの撮影画像にデジタル画像相関法を適用して、応力波により高速せん断負荷を受ける金属/樹脂接合界面の破壊じん性を測定する方法を提案した。 〇日本機械学会奨励賞(研究)
〇一般社団法人日本機械学会
〇2022年4月21日
候補者が受賞した賞は日本機械学会が日本の機械工学・工業の発展を奨励することを目的として1958年に創設したものである。近年、脱炭素社会の実現を目標とした研究・技術開発が加速しており、水素サプライチェーンの構築が重要視されていることや、自動車産業においてマルチマテリアル化のために異種材料界面の特性評価の重要性が増している社会的背景の下で、候補者らの研究成果は学術的・工業的に非常に重要であり、本学の学術研究奨励賞としても相応しい優れたものであると考え、ここに推薦する。
中條 武志
(なかじょう たけし)
理工学部 教授
候補者が執筆した書籍「日常管理の基本」(日科技連出版社、2021年12月発行、156ページ)は、品質管理実践への入門書として、トラブル・事故・不祥事の防止と日常管理に論点をしぼり、非常に分かりやすく解説している書籍である。人に起因するトラブル・事故・不祥事が発生するメカニズムが様々な視点から考察され、体系的に整理されている。本書の最大の特徴は、取り上げている項目について、徹底的に分かりやすく説明している点である。すべきこと、すべきでないこと、その理由について、適切な例を用いて効果的に説明されている。複数の例が挙げられている場合も多く、また業種も製造業だけでなく、サービス業などの他の業種の例も用いられており、理解の向上に役立っている。 〇日経品質管理文献賞
〇日本経済新聞社
〇2022年11月14日
 日経品質管理文献賞は、「TQM(総合的品質管理)」またはそれに利用される統計的手法等の研究に関する文献で、品質管理の進歩、発展に貢献すると認められる優秀なものを表彰するため、1954年に日本経済新聞社により創設された。この賞の審査はデミング賞委員会において行われ、デミング賞行事の一環として毎年賞の授与が行われている。
平野 廣和
(ひらの ひろかず)
総合政策学部 教授
本論文は、空気調和・衛生工学会誌第93巻1月号“特集 設備の耐震とリスク予測・機能対策”に掲載された『最近の貯水槽地震被害の特徴とスロッシング・バルジングの影響-巨大自然災害に備えた貯水槽の耐震設計のあり方-』である。筆者は既存の貯水槽の交換までの間の耐震対性の向上を図る必要性から、産学連携により施工が簡単で安価かつ衛生的な制振装置の開発も行い、避難場所や医療施設のライフラインの確保に一助となっている。巨大自然災害に備えた今後の貯水槽の耐震設計の見直しの提言が他学会との連携にも今後の貢献をなすものと思われる。 〇第60回学会賞論文賞『論説・報文部門』
〇公益社団法人 空気調和・衛生工学会
〇2022年5月13日
 東北地方太平洋沖地震や熊本地震では短周期地震動によりタンク構造体の振動が主体となるバルジング現象により、最新の耐震基準で設計・施工された貯水槽でも下部を中心とした側壁や隅角部に損傷が発生する事例が散見され、新たな耐震対策を講じる必要性が求められてきた。その原因究明のため、筆者らは熊本地震の発災直後に現地入りし、貯水槽の被害調査を行い、その後3種類の貯水槽の振動実験から現状の耐震設計基準の問題点を指摘し、これをもとに貯水槽の耐震性向上を目的とした耐震設計の見直しを示唆している。本論文は、共著論文であるが、候補者が主たる研究者であると判断される。
林 正
(はやし ただし)
総合政策学部 准教授
本論文は、企業が海外子会社の立地選択においてグローバルシティを選択する要因を、企業の投資目的と国の制度環境の視点から分析している。日本企業の海外子会社を対象とした分析により、企業は水平型直接投資の事業目的をもつ海外子会社の立地選択ではグローバルシティを選択する傾向を持ち、その傾向はホスト国の経済的自由が低いほど強まることを明らかにした。また、垂直型直接投資の事業目的をもつ海外子会社の立地選択では、グローバルシティ以外の場所を選択する傾向にあり、その傾向はホスト国の社会的開放性が低いほど弱まることを明らかにした。 〇国際ビジネス研究学会 学会賞(論文の部)
〇国際ビジネス研究学会
〇2022年11月19日
 国際ビジネス研究学会は、前々年12月1日から当該年5月31日までに発刊された国際ビジネスの諸問題に関する研究領域の文献のうち、原則として最優秀の単行本および論文それぞれ1点に学会賞を授与している。2022年度の受賞論文が林正「グローバルシティと海外子会社の立地選択 -企業の投資目的と国の制度環境の影響-」『国際ビジネス研究』第13巻第2号である。本論文がホスト国の制度環境と海外子会社の事業目的を組み合わせた視点から分析を行うことでグローバルシティへの立地要因を明らかにしたことは、国際ビジネス研究分野において理論的および実務的な貢献が大きいものと高く評価されており、学術研究奨励賞にふさわしいものと考える。